2025 年 32 巻 1 号 p. 011-024
虚血となった臓器に血液が再灌流することで発生する活性酸素(ROS)は,marginal graftにおいて強い虚血再灌流障害を引き起し,グラフト機能不全を引き起こす.また,慢性期においても,グラフト廃絶のリスクを増加させるため,再灌流時に発生する「悪玉」ROSを除去することはグラフト長期生着の鍵となる.過去に様々な抗酸化剤を用いて「悪玉」ROSを除去する試みが行われてきたが,正常細胞内のレドックス反応をも破壊し,全細胞死をもたらすために実用化されてこなかった.我々が開発した安全性の高い自己組織化抗酸化ナノ粒子製剤(redox nanoparticles,RNP)は虚血再灌流時に産生される「悪玉」ROSを“選択的”に除去し,虚血再灌流障害を抑制することが可能である.脳梗塞再灌流をはじめとする虚血再灌流障害モデルだけでなく,ROSによる酸化ストレスが本態となる,潰瘍性大腸炎,痴呆,放射線障害などのモデルにおいてもRNPの有用性が示された.今回,我々は新たに肝虚血再灌流障害モデルにおいて,RNPが虚血再灌流障害を低減する可能性を示すことができた.今後,RNPの臓器移植分野での成果が期待される.