2001 年 10 巻 1 号 p. 26-38
マニラ首都圏は地方部からの急激な流入人口による都市膨張,都市失業・貧困層の増大,生活基盤整備の不足による顕在的な環境悪化などの問題を抱えている典型的な東南アジア開発途上国の大都市である。したがって当該地域の産業構造を鳥瞰し,雇用・環境政策が地域経済ヘ及ぼす影響を定量的に把握することのできるデータベースである産業連関表は開発途上国の地域研究,および都市政策を検討する際に有用な情報を提供する。しかし,開発途上国を対象とした作表についてはデータおよび専門家に制約があり,整備事例が限られていた。 そこで本稿は,東南アジアの代表的な開発途上国大都市であるマニラ首都圏をとりあげ,著者らが進めてきたマニラ首都圏産業連関表作成の試みについて述べるとともに,首都圏内の生産誘発および雇用誘発などの経済構造を分析した。結果としては,生産誘発効果の小さい小規模サービス業および製造業での雇用吸収力か大きいことが明らかになった。この結果よりマニラ首都圏産業連関表は,増加する都市貧困層や地方部からの移住者は雇用条件の不安定な都市インフォーマル部門に雇用吸収される傾向にあるといわれる開発途上国大都市の経済構造を反映した鳥瞰表であることが示された。