抄録
非鉛圧電材料の候補として期待されているビスマス系圧電セラミックスは、Biイオンの蒸気圧の高さから焼成中にBiイオンが揮発する可能性がある。Biイオンの揮発は同時に酸素欠陥の生成を促進し、形成された欠陥はドメイン反転を阻害するため、その圧電性低下の引き金になることが懸念される。本研究では、ビスマス系圧電セラミックスにおける欠陥生成と圧電的諸特性との相関を調査する一環として、典型的なビスマス系ペロブスカイト型強誘電体である(Bi1/2Na1/2)TiO3 (BNT)セラミックスとビスマス層状構造強誘電体(BLSF)であるBi4Ti3O12 (BIT)セラミックスに着目し、その電気的諸特性と酸素同位体拡散について検討した。酸素同位体拡散は、2次イオン質量分析計(SIMS)を用いて調査した。Biイオンの揮発を考慮してBi2O3を添加したBNT系セラミックス(BNT+Bi2O3 0.3 mass%, BNT-0.3)やV添加したBIT系セラミックス(Bi4Ti3-xVxO12, BITV-x)において、酸素同位体18Oの体積拡散係数Dvは無添加セラミックスに較べて大幅に低下した。この結果は、酸素欠陥濃度の減少を示唆していると考えられる。一方、これらの電気機械結合係数k33は、それぞれk33=0.47, k33=0.25を示し、各系において最も大きな値を得た。これらの結果より、欠陥濃度の減少は分極反転を容易にし、大きな圧電性を引き出すことを可能にするものと考えられる。