抄録
本稿の目的は,自治体の乳幼児医療費助成制度に伴う医療費増加効果と,その助成金による財政の垂直的外部性の存在を指摘することである.自治体が乳幼児医療費助成制度を設けると,患者負担が減少することにより,医療需要が増加すると考えられ,これにより,医療保険の給付費も増加して,国及び保険者の財政負担が増加する.自治体は保険者への財政負担を考慮せずに意思決定することから,助成金による財政的外部性が発生する.
論文では,まず理論的考察として,この医療費助成制度が持つ財政の垂直的外部性を図で表現した.実証分析では,都道府県別かつ年度別のデータを用いて,制度の内容の違いが医療費に与える影響を検証した.分析の結果,現物給付にて乳幼児医療費助成を行う場合,試論的な推定から,医療費が増加し,財政的外部性をともなう可能性が示された.最後に結果をふまえ,補助金(助成金)のもつ外部効果を内部化するため,助成金の給付の方法をコントロールするということが,有効な政策の1つである可能性を提示した.