Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Clinical parameters and bacteriological evaluation of Acess® as a periodontal therapeutic toothpaste: a non-blinded randomized clinical trial
Satoshi ShirakawaYuji MatsushimaYuuki HayataYouko NakanoMomoko NakataTomohito NakagawaYuri NagashimaMasahiko NikaidouKazuhiro Gomi
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2018 Volume 60 Issue 4 Pages 173-182

Details
要旨

歯周病治療薬アセスは配合成分(ラタニア,カミツレ,ミルラ)に抗炎症・歯肉収斂作用があり歯周病を改善するとの報告がある。これらの成分には抗菌性があることが示されているが,アセス使用に伴う口腔内細菌に与える影響についての検討は行われていない。本試験ではブラッシング時にアセスを併用し臨床パラメーターならびに口腔内細菌に与える影響を調べることを目的とした。

試験はランダム化非盲検並行群間比較試験として行った。ブラッシングを朝夕2回,各5分間アセスあるいは対照製剤を用い行わせ,開始日,2週および4週後にGI,PD,BOP,PCR測定,および唾液サンプル法による細菌検査をPCR- Invader法にて行った。

アセス群ではGI,BOPおよびPDは開始日と比べ2週ならびに4週後で有意な改善を認めた。一方で対照製剤群はどの臨床パラメーターにおいても改善を認めなかった。細菌検査では,アセス群は対照製剤群に比べ総菌数の有意な減少を認めた。アセス群の群内比較ではT.forsythiaT.denticolaP.intermediaにおいて有意な減少を認めた。さらに歯周病原細菌の減少率を検討したところ,総菌数,Red complexおよび5菌種においてアセス群で有意に高かった。

アセスは,歯周病原細菌を含む口腔内細菌の減少を引き起こすとともに,臨床パラメーターの改善を促すことが示された。

緒言

歯周病はプラークによって引き起こされる炎症性疾患である。歯周病の予防や治療を行う上でプラークの除去や再付着を防止するプラークコントロールは重要であり,患者自身が行うブラッシングに代表される口腔清掃が継続的に行われることが重要である。

物理的な方法であるブラッシングはプラークコントロールだけでなく,歯肉への適度な刺激やマッサージ効果もあり,歯周病による歯肉の発赤,腫脹,出血といった徴候は適切なブラッシングによって改善される。また化学的な方法として,抗炎症作用や殺菌作用のある薬剤を含有した歯磨剤などが併用され,その薬用成分による効能や効果が期待されている1)

現在,多くの歯磨剤が販売されているが,アセスは天然生薬が配合された歯科口腔用薬剤で,40年以上の歴史のある数少ない歯周病治療用医薬品(第3類医薬品)である(図1)。天然生薬としてカミツレチンキ,ラタニアチンキ,ミルラチンキを含有している。カミツレの有効成分であるカマズレンは抗炎症作用,抗アレルギー作用,抗菌作用を有し,歯肉の腫脹や発赤などの炎症症状を抑制し,治癒を促進させる働きがある2-4)。ラタニアは,タンニン,ラタニンを有効成分として含有し,歯肉への収斂作用,抗菌作用,止血効果がある5-7)。ミルラはフェノール性樹脂や樹脂酸が主成分で,収斂作用,抗菌作用,止血効果,防腐作用がある8-10)。これまでに過去のアセスに関する研究では,アセスを口腔に適用することによって,炎症症状の改善が報告されている11,12)。また,アセスと同等の主成分を配合した歯磨剤アセスAを蒸留水にて溶解し,含嗽させた場合,歯肉炎症状の改善を認めた13)。同様に我々はアセスの使用により歯周病の症状が有意に改善することを報告してきた14)。その効果は抗炎症作用と抗菌作用によると考えられる。カミツレチンキ,ラタニアチンキ,ミルラチンキの抗炎症作用,収斂作用は歯周病に効果があることがすでに示されている15)

また抗菌性に関してもアセスAを精製水で溶解した希釈水溶液を用い,歯周ポケット内洗浄に適用することで局所の臨床症状を改善し,歯肉縁下ポケット内の総菌数を有意に減少させたという報告がされている16,17)。しかしながら,歯磨剤として適用させ,口腔内細菌に与える影響について検討した報告はない。

局所の歯周組織の状態と唾液サンプリングによって得られた歯周病原菌との間に相関関係が認められるとする報告18)や,サンプリング法による細菌叢の違いがあるが特異的歯周病原細菌の対総菌数比率には類似傾向があるとの報告19)から,アセスの口腔内全体に対する影響を検討するため本試験では細菌学的分析には唾液サンプル法を採用することとした。

図1

アセス®

目的

本試験では,ブラッシング時にアセスを併用した場合の臨床パラメーターに与える影響を観察するとともに,新たに歯周病原細菌および総菌数に与える影響をPCR-Invader法を用いて評価することである。

方法

試験デザイン

軽度から中等度の慢性歯周炎患者に対してアセスを用いてブラッシングを行わせる介入群とアセス成分を含有しない歯磨剤を用いてブラッシングを行わせる対照群の2群に割り付け,口腔内細菌に対する効果を検討するランダム化非盲検並行群間比較試験である。

被験者

被験者は,鶴見大学歯学部附属病院保存科を受診した患者であり,選択基準は慢性歯周炎を有する20歳以上の者で,残存歯が15歯以上存在すること,試験開始日に被験歯のうち最も重症な1歯が4 mm以上7 mm未満の歯周ポケット深さであること,本試験の趣旨に賛同し本試験への参加について文書による同意の取得が可能な者とした。除外基準としては,試験開始日のプロービング時の出血(Bleeding on probing,BOP)が被験歯にない者,試験に支障のある広範な歯冠修復物を有する者,矯正治療中の者,著しい歯列不正を有する者,過去1か月以内にアセスならびに関連製剤を継続使用していた者,過去1か月以内に抗菌薬,抗炎症薬を継続的に内服した者,過去3か月以内に抗菌薬・抗炎症薬の口腔内局所投与を受けた者,またコントロール不良な糖尿病など重篤な全身疾患を有する場合や自己免疫疾患によりステロイド治療がなされている場合を除外とした。なおサンプルサイズ決定にはフリーソフトGpower3を用い,効果サイズ0.8,両側有意水準α=0.05,検出力0.80で算出し,各群n=26とした20)

O'LearyのPlaque control records(PCR)は全顎で行った。また臨床パラメーターの被験歯はRamfjörd21)の6歯(16,21,24,36,41,44)とし,補綴物や修復物を装着やう蝕の認められる場合には後方隣接歯とした。測定点は唇頬側近心,中央,遠心の3点,同様に舌口蓋側近心,中央,遠心の3点,計6点とし臨床パラメーターの測定を行った。細菌検査は唾液サンプル法により行った。

本試験は,鶴見大学歯学部倫理委員会の審査,承認のもとに行われた(承認番号1409号)。また,全ての被験者に本試験の趣旨,試験への参加の可否,中断が今後の診療に影響を及ぼさない旨を説明し,書面をもって同意を得た。

アセスならびに対照製剤

アセスならびに対照製剤は無地チューブに120 gを充填した。薬剤番号を記載したチューブラベルを貼付したが,外観上区別がつかず,試験品のチューブ口はシーリングされており,チューブ蓋の末端部分の先鋭部分でチューブ口に穴を開けないと中の確認や使用ができないようになっている。対照製剤は薬効成分を含有せず,歯磨剤に一般的に使用されている基剤成分等(化粧品種別許可基準・口腔化粧品の範囲内での成分分量)を用いた。基剤として無水ケイ酸ならびにD-ソルビトール,粘調剤としてケルメロースナトリウム,着色剤として酸化チタン,保存剤としてパラオキシ安息香酸メチルナトリウムならびに水酸化ナトリウム,溶剤として精製水を含有している。

使用歯ブラシについて

使用歯ブラシはアセス用に開発された歯ブラシを使用した14)。外側を形成するエッジと先端部の毛束が長いU字型の配列を施し,さらに内側は外側より1.5 mm短い毛束により段差植毛を行った,アセスを保持する形態機能を持つ歯ブラシである。歯ブラシの形状は,毛の直径6mil(0.152 mm),毛束の長さは外側で8 mm,内側で6.5 mm,4列30毛束のナイロン毛であり,外側を形成するエッジは2面でそれぞれ1列7毛束,先端部は2列2毛束,内側部は先端部に至る部分までで2列7毛束である。柄はストレートタイプである。

使用歯ブラシはベースラインとなる試験開始日に被験者に提供し,使用開始から2週後の評価時に,提供した歯ブラシは回収し新たな歯ブラシを提供した。

試験方法

試験のフローチャートを表1に示す。試験の初回となる開始日ではまず,細菌検査用に唾液サンプルを採取した。その後,Gingival index(GI,Löe & Silness(1963)),Probing depth(PD),BOPの測定を行った。口腔清掃法指導前にプラークの染色を歯垢染色液(プロスペック,ジーシー,東京)にて行いPCRを測定した。次いで,バス改良法による口腔清掃指導を実施した。最後に残存した着色色素を除去した。試験品の使用は,開始日の夕方に開始し,1日2回(朝,夕)5分間ブラッシングを行わせた。2週後,4週後でも同様の手順で検査を行ったが,口腔清掃指導は開始日のみとした。なお,アセスまたは対照製剤以外の歯磨剤の使用や,本試験で提供した歯ブラシ以外の清掃器具の使用は結果に影響するため,禁止した。

試験品の使用状況は患者日誌に,開始日以降使用開始4週後まで毎日試験品の使用状況を記入させることで調査した。また,来院時には必ず患者日誌を持参させ,内容の確認を行った。また,患者日誌から使用回数を使用すべき回数で除し,使用率の確認を行った。

なお試験期間は開始日より2週後で許容範囲±3日以内とし,最終日に当たる4週後は試験開始から許容範囲±3日以内とし試験期間が短縮されないように設定した。

表1

フローチャート

評価項目

臨床パラメーター

臨床パラメーターの評価項目としてPD22),GI23),BOP24)を評価した。臨床パラメーターの測定は歯周病専門医(S.S)ならびに歯周病認定医(M.Y)による2名にて十分なキャリブレーションを行った上で実施した。PDの測定には歯周プローブ(PC-PUNC 15,Hu-Friedy,USA)を用いプロービング圧は20~25 gとし,1 mm単位(小数点以下は四捨五入)で測定を行った。また,口腔清掃状態を診るためにPCR25)を測定した。

細菌学的評価

開始日,2週後および4週後の3回,細菌検査を実施した。開始日を除く検査当日は来院時間の2時間前にアセスあるいは対照製剤を用いブラッシングを行わせた。ブラッシング後の含嗽は1回のみとした。来院後,無味のパラフィンガムを5分間噛ませ刺激唾液を採取し試料とした。採取した試料から2 mlをセラムチューブに分注し,-80°で冷凍保存した。試料はPCR-Invader法(ビー・エム・エル,東京)を用いて総菌数ならびに歯周病原細菌の定量・定性分析を行った。対象とする歯周病原細菌はPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis),Tannerella forsythia(T.forsythia),Treponema denticola(T.denticola),Aggregatibacter actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans),Prevotella intermedia(P.intermedia)とした。結果は1 ml中に相当する菌数(log)で表した。

試験品の割付ならびに開鍵

選定された被験者の適格性が確認された後,置換ブロック法にて無作為にアセス群ならびに対照製剤群に割り付けた。試験薬の割付は割付担当者(I.M)によって行われ,試験品割付表は封筒に入れ,封印し保管した。

本試験の試験情報や結果は症例報告書に記載し管理した。全ての症例報告書の作成が終了し,解析のためのデータが固定された後,試験薬割付表の開鍵を行い,分析に使用した。

統計学的分析

臨床パラメーター(GI,BOP,PD),PCRならびに細菌検査(総菌数,Red complexならびに5菌種合計)に関して群内比較にはマン・ホイットニーのU検定,群間比較ではウィルコクソンの符号付順位検定を用いた。各歯周病原細菌の分析にはマン・ホイットニーのU検定を,細菌減少率の分析にはウィルコクソンの符号付順位検定を用いた。統計処理はSPSS Statistics ver19.0(International Business Machine,USA)を使用した。

結果

本試験に参加同意をした被験者は55名であった。その後,試験開始日前あるいは来院当日に辞退の申し出が4名であった。最終的に開始日より開始した被験者数は51名であった。

対照製剤群では1例がインフルエンザに罹患し予定日である4週目検査日に来院できなかったため,2週目までの検査結果を採用した。アセス群では1例が4週目検査日に来院しなかったため,同様に2週目までの検査結果を採用した。除外症例はアセス群で1例あり,開始日の検査は行ったが2週検査日前に根尖性歯周炎の急性発作を起こし抗菌薬を服用したため除外とした。なお,本試験に参加した被験者の参加時の状態は,アセス群で初診患者16名,SPT中患者9名,対照製剤群で初診患者19名,SPT中患者7名であった。

各群の男女数ならびに平均年齢±標準偏差はアセス群では男性4名,女性20名,62.6±11.4歳であった。対照製剤群では男性4名,女性22名,61.2±9.8歳であった。性別,年齢に有意差は認められなかった。

本試験期間中にアセスならびに対照製剤を用いたことでアレルギー反応や歯ブラシによる歯肉外傷などの有害事象を示す被験者は認められなかった。

また,試験品の使用状況から各群における使用率を算出した。対照製剤群では98.8±2.9%,アセス群では99.6±1.9%で群間に差は認められなかった。

なお,本試験は2016年9月から2017年11月にかけて行われた。

PCR

アセス群ならびに対照製剤群のPCRは共に開始日から2週後ならびに4週後で,また2週後から4週後で有意に減少した。また,開始日でアセス群と対照製剤群で有意差を認めたが,2週後,4週後ではアセス群と対照製剤群との間に有意差を認めなかった(図2)。

図2

PCR

臨床パラメーター(図3a-f,図4a-c

アセス群内においてGI,PDならびにBOPは開始日と2週後,および4週後の間で有意に減少した(p<0.01)。しかし2週後と4週後の間では差を認めなかった(図3a-c)。

対照製剤群内においてPDはどのタイムポイントにおいても有意差を認めなかった。GIならびにBOPは開始日と4週後で増加を示した(図3d-f)。

アセス群と対照製剤群における各臨床パラメーターを開始日,2週後ならびに4週後で比較した(図4a-c)。GI,BOPならびにPDの開始日のパラメーターに有意差を認めなかった。2週後ならびに4週後では全てのパラメーターにおいてアセス群が対照製剤群に比べ統計学的に有意な減少を示した(p<0.01)。

図3

臨床パラメーター(群内比較)

a:アセス群GI,b:アセス群BOP,c:アセス群PD,d:対照製剤群GI,e:対照製剤群BOP,f:対照製剤群PD

図4

臨床パラメーター(群間比較)

a:GI,b:BOP,c:PD

細菌学的評価(図5,図6,図7,表2

アセス群内において総菌数は開始日と2週後,および4週後の間で有意に減少した(p<0.01)。しかし2週後と4週後の間では差を認めなかった(図5)。Red complexならびにA.actinomycetemcomitansP.intermediaを合わせた5菌種で検討を加えたところ,アセス群では開始日と2週後,および4週後の間で有意に減少した(図6)。また,歯周病原細菌5菌種個々での解析を行った。P.intermediaは開始日から4週後で減少した(p<0.05)。P.gingivalisは変化を認めなかった。T.forsythiaならびにT.denticolaは開始日と2週後,および4週後の間で有意に減少した(p<0.01,p<0.05)(図7a-d)。

対照製剤群において総菌数はどのタイムポイントにおいても変化を認めなかった(図5)。Red complexならびに5菌種合計でも同様に差を認めなかった。また,歯周病原細菌5種個々での解析においても同様に変化を認めることはなかった(図6,図7e-h)。

A.actinomycetemcomitansは対照製剤群で1例,アセス群で3例検出されたが,被験者数が少ないため単体での分析には用いなかった。

アセス群ならびに対照製剤群間の比較では,アセス群の総菌数が2週後ならびに4週後で統計学的に有意に減少した(p<0.01,p<0.05)(図5)。Red complex,5菌種合計,歯周病原細菌個々では群間差を認めなかった(図6,図7)。

歯周病原細菌の減少率に関してアセス群と対照製剤群とで比較したところ,アセス群において総菌,歯周病原細菌5菌種合計,Red complexで2週ならびに4週で有意な減少を認めた。また,各歯周病原細菌ではT.forsythiaは2週ならびに4週で,T.denticolaは4週で有意な減少を認めた(p<0.01,p<0.05)(表2)。

図5

細菌検査:総菌数

図6

細菌検査:Red complexならびに歯周病原細菌5菌種合計

a:Red complex,b:歯周病原細菌5菌種合計

図7

細菌検査:各歯周病原細菌

各線形は被験者の違いを表す。

a~dはアセス群の歯周病原細菌の結果を示す。a:Prevotella intermedia(P.intermedia),b:Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis),c:Tannerella forsythia(T.forsythia),d:Treponema denticola(T.denticola)。e~hは対象製剤群の歯周病原細菌の結果を示す。e:Prevotella intermedia(P.intermedia),f:Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis),g:Tannerella forsythia(T.forsythia),h:Treponema denticola(T.denticola)。

表2

細菌減少率

考察

歯周疾患の予防ならびに治療においてプラークコントロールは最も重要である。

プラークコントロールの主たる方法は機械的な歯ブラシを用いたブラッシングである。ブラッシングによるプラークコントロールを効果的に行うには歯列や歯冠形態,口腔内の修復・補綴装置,軟組織形態などの状態を把握し,それに合ったブラッシング方法を選択することが挙げられる26,27)。さらにブラッシングに加えて,効果的に薬剤が適用されることで相乗効果が加わり,歯周組織の改善がさらに進む可能性がある28-30)

今回試験で用いた歯ブラシはアセス用に開発された歯ブラシを用いて行った。本歯ブラシはU字型段差植毛が行われアセスの保持に適するようにデザインされている。市販歯ブラシと同等のプラーク除去能を有する14)

被検歯はRamfjördの6歯(16,21,24,36,41,44)を用いた石川らの研究31)によりRamfjördの6歯での評価は全部診査法での結果に差が認められないことが示されている32)

ブラッシング方法は,以前行った試験を参考にバス改良法とした。アセスは粘度が低く,歯ブラシから脱落しやすい面があり,歯磨剤を歯ブラシの植毛部内に保持するためのものであること,歯磨剤成分の歯周組織に対する効果を検討するにはバス改良法を採用するのが適切と考えた。

本試験では歯垢を染色しPCRを測定した。その後残存した着色色素を除去した。その介入によりその後の唾液サンプルに影響を与える可能性があるが,次のサンプリングまでに2週あいだが開くことから,介入による試験結果への影響は少ないと考えている。

プラークコントロール

アセス群ならびに対照製剤群でともに群内のPCRは開始日から2週で有意に減少を示した。このことから,開始日におけるブラッシング指導は適切に行われたことが考えられた。また,開始日と4週,2週後ならびに4週後でも統計学的有意差を認め,ブラッシング指導後のブラッシングは継続して行われていると考えられた。一方で,アセス群と対照製剤群の群間比較においては開始日においてアセス群が有意に高かったが,2週後ならびに4週後でPCRに有意差を認めず,患者間でブラッシングの巧拙がないことが考えられた。

臨床パラメーター

対照製剤群では開始時から試験終了時まで,臨床パラメーターの改善が認められなかった。一方でアセス群では開始日と2週後,並びに開始日と4週後の間ですべての臨床パラメーターの改善を認めた。また,2週後と4週後の間では有意差が無かった。アセス群における臨床パラメーターの改善はアセスの持つ抗炎症作用,収斂作用によると考えられ,その効果は使用開始初期から発揮され,使用し続けることで効果が維持されると考えられた14)。最も影響がしにくいと考えられるPDは表在性の炎症を示すGIならびにポケット内部の炎症を示すBOPの双方が改善することによって相乗的に働き改善したと考えられた。

細菌検査

対照製剤群では開始から試験終了時まで,総菌数に変化が認められなかった。一方でアセス群では開始日と2週後ならびに4週後で有意に減少を認めた。アセス群と対照製剤群との比較ではアセス群において有意に総菌数が減少した。これは臨床パラメーターの推移と同様であった。アセスの含有成分であるカミツレチンキ,ミルラチンキには強い抗菌活性があることが報告されていることから33),アセスの使用により口腔内細菌数が減少し,使用し続けることで効果が維持されていることが考えられた。

また,歯周病原細菌5菌種個々での解析を行ったところ,対照製剤群では歯周病原細菌5菌種に変化を認めることはなかった。一方で,アセス群ではP.intermediaは開始日から4週後,T.forsythiaならびにT.denticolaは2週後および4週後で有意に減少した。一方,P.gingivalisには変化を認めなかった。これらの違いから,細菌種によりアセス成分に対する感受性に差がある可能性が考えられた。また,アセス群のRed comlpexと5菌種合計で,開始日から2週後および4週後で有意な細菌数の減少が認められたが,これはT.forsythiaT.denticolaならびにP.intermediaの減少に伴うものと考えられた。しかしながら,対照製剤群とアセス群の群間比較では,Red complex,5菌種合計ならびに5菌種個々において有意差を認めなかった。

歯周病原細菌の減少率についてアセス群と対照製剤群との群間比較を行ったところ,アセス群において総菌数,Red complex,5菌種合計ならびにT.forsythiaで2週後および4週後で,またT.denticolaは4週後で有意な減少を認めた。

対照製剤群,アセス群ともPCR値は減少しており,口腔清掃指導は奏功していると考えられるが,依然として両群ともにPCR値は30%台であり,十分とはいえない。また,対照製剤群においては細菌数に変化を認めなかった。この理由として,PCR値は歯頸部に付着したプラークを評価しており,プラーク総量を評価していないこと,また本研究では唾液サンプルを採用していることなどが原因として考えられた。

対照製剤群に比べアセス群において有意にGI,BOP,PDの改善を認めたことから,以前の研究で示された結果と同様に抗炎症作用や収斂作用による歯肉の炎症や歯周ポケットの改善効果を有することが確認できた。また,アセス群において総菌数が2週ならびに4週で有意に減少を認めたこと,Red complex,歯周病原菌5菌種ならびに総菌数の減少率が2週後,4週後で有意に高かったことから,歯周病原細菌を含む口腔細菌に対してアセスは抗菌作用を有すると考えられ,臨床パラメーターの改善と共同して歯周炎の改善に効果を示すことが示唆された。

謝辞

稿を終えるにあたり,本試験の遂行にご協力頂きました鶴見大学歯学部歯周病学講座の医局員各位に厚く御礼申し上げます。

本試験の要旨は第61回春季日本歯周病学会学術大会(2018年6月1日)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態は以下の通りです。

本試験は佐藤製薬株式会社より歯ブラシおよびアセスの提供を受けた。

References
 
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