Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Mini Review
Exacerbation mechanism of type 2 diabetes mellitus by periodontopathic bacterial dipeptidyl-peptidases (DPPs)
Manami Nakasato-SuzukiYu ShimoyamaYuko Ohara-NemotoDaisuke SasakiTakayuki K. NemotoTakashi Yaegashi
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2023 Volume 65 Issue 1 Pages 1-8

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要旨

2型糖尿病は我が国において増加している生活習慣病である。一方で高齢化と8020運動の推進による高齢者での残存歯増加に伴って歯周病の患者数も増加の一途を辿っている。歯周炎は2型糖尿病の合併症とされており,近年両者の相互関係について明らかにされつつあるが,その分子メカニズムについては未だ明確ではない。インクレチン[GLP-1(glucagon-like peptide-1)およびGIP(gastric inhibitory polypeptide/glucose dependent insulinotropic polypeptide)]はインスリン分泌を促して食後血糖値を低下させる生理活性ペプチドである。共にジペプチジルペプチダーゼ(DPP)4により速やかに限定分解を受けて不活化されるため,その血中半減期は短く,血糖調節の要となっている。最近,ヒトの慢性歯周炎の主要原因細菌であるPorphyromonas gingivalisが保有するDPP4とDPP7はヒトDPP4同様にインクレチンを切断・不活化することが判明した。本ミニレビューでは糖非発酵性細菌のP. gingivalisがアミノ酸を獲得するために必要なこれらのDPPsに着目し,細菌DPPsが病原因子として2型糖尿病の病態形成に関わる機序について総括する。

1. はじめに

歯周炎は歯周病原細菌が初発因子の慢性炎症であり1),世界人口の約20~50%が罹患し,歯を喪失する二大疾患の1つとされる2,3)。超高齢化社会では歯周病の重症化に起因する歯の動揺や損失により高齢者の口腔機能低下症が誘発されている4)。これに伴い高齢者の摂食・嚥下障害が惹起されるため,歯周病の予防と治療は有病者のQOLや生存率を高める上で喫緊の課題である。

さらに歯周病は口腔機能の低下だけではなく,全身疾患の発症・進行に密接に関係していることが報告されている5)。歯周病が関与する全身疾患として,糖尿病6-10),メタボリックシンドローム11,12),冠動脈硬化症13),早産・低体重児出産14,15),誤嚥性肺炎16,17),関節リウマチ18,19),慢性腎臓病20),非アルコール性脂肪性肝炎21)やアルツハイマー型認知症22)など種々の疾患が挙げられている。特に糖尿病は歯周病と相互的な関連性が明白であり,歯周病が2型糖尿病の進行に影響することが示唆されることから23),2型糖尿病の合併症としての歯周病ではなく,歯周病と2型糖尿病の相互作用を介した病態形成の分子メカニズムの解明が,歯周病だけでなく2型糖尿病に対する新たな予防・治療の基盤となる可能性がある。

歯周病原細菌をはじめとする口腔細菌はヒト成人口腔内に約800種生息しているものの24),重度慢性歯周炎患者ではPorphyromonas gingivalisTannerella forsythiaTreponema denticolaの存在頻度が高いことが示され,red complex speciesと呼ばれている25)。これら3菌種のうち,P. gingivalisT. forsythiaは糖非発酵性細菌で,栄養源として外来タンパク質由来のアミノ酸を炭素源とエネルギー源とするというユニークな生物学的特性を有している26,27)P. gingivalisでは強力なエンドペプチダーゼであるジンジパインによって菌体外タンパク質はまずオリゴペプチドに分解され,その後,ペリプラズムに局在する複数のエキソペプチダーゼにより主にジペプチドに転換される。ジペプチドはオリゴペプチド輸送体であるproton-dependent oligopeptide transporter(POT)により細菌細胞内に輸送される28)。これらのエンドペプチダーゼやエキソペプチダーゼ群はP. gingivalisの生存に必須であるばかりでなく,病原因子として機能することも明らかとなってきている29)

本ミニレビューでは,P. gingivalisおよび嫌気性の歯肉縁下プラーク細菌が発現するジペプチジルペプチダーゼ(dipeptidyl-peptidase, DPP)に着目し,P. gingivalisと歯周病原細菌が関与する新たな糖尿病の病態増悪機序の可能性について総括する。

2. 歯周病と2型糖尿病

糖尿病と歯周病との関連については,「糖尿病の第6の合併症」として歯周病があげられるほど密接であることは周知の事実である30)。これまでの研究により,2型糖尿病と歯周病の関連については2017年アメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟によるワークショップで策定された歯周病の新分類のグレードにおいて,糖尿病のコントロール状態が歯周炎の進行と将来的なリスクを推定するモニタリングの一要因となっていること31),また歯周治療後の再発予後を評価するサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)のリスクアセスメントのうち,糖尿病が認められる場合は高リスクと評価されることが示されており32),これまで以上に,糖尿病が歯周病の重大なリスクファクターであることが明白となった。一方で,歯周病と糖尿病の関連についてはGrossiらの報告33)において,歯周炎かつ2型糖尿病の患者を対象に,糖尿病治療は行わず歯周治療のみで,そのHbA1c値が改善すること,また宗長ら34)が日本人の2型糖尿病患者を対象に局所抗菌薬療法を併用した歯周治療を行ったところ,歯周治療前の状態で高感度CRPが軽度に上昇した患者のHbA1c値が有意に改善することを報告している。これらの事実から,近年両者の相互の関係性が強く推測されている。

3. 2型糖尿病治療薬としてのDPP4阻害薬

2型糖尿病の治療薬として,低血糖副作用を有しないDPP4阻害薬35)が本邦では第一選択薬として用いられている。DPP4阻害薬は生理活性物質であるインクレチンのDPP4による不活化を阻害し,インクレチンによるインスリン分泌促進を継続させることを目的とした薬剤である。インクレチンとしてglucagon-like peptide-1(GLP-1)およびgastric inhibitory polypeptide/glucose dependent insulinotropic polypeptide(GIP)があり,糖尿病患者では活性型インクレチンの血中濃度低下とインスリン分泌の低下が報告されている36-38)。インクレチンは,食物が消化管に到達するとブドウ糖や脂質等の刺激により十二指腸細胞や小腸下部から分泌される生理活性ペプチドで,膵β細胞からのインスリン分泌を促進し血糖値低下をもたらす39)。一方,これらペプチドの血中半減期は2~5分と短く,血中や細胞表面に存在するDPP4によって分解・不活化され,DPP4は過度に血糖値を低下させないフィードバック因子として働く。DPP4はペプチドのN末端から2番目のプロリン(Pro)あるいはアラニン(Ala)を認識し,GLP-1およびGIPのAla2とグルタミン酸(Glu3)間のペプチド結合を切断する40)。糖尿病患者では生体内でDPP4活性が上昇しているとの報告はあるものの,その詳細は明らかではない41)。このため本薬剤は糖尿病の治療薬としてではなく対症療法の段階にあるものといえる。

4. 歯周病原細菌のDPP

P. gingivalisはプロテアーゼであるジンジパインと複数のエキソペプチダーゼを産生する(図1,表142-46)。本菌はアミノ酸単体よりもジペプチドを優先的に利用すると報告されていたが,ジペプチド産生酵素の全容は明らかでなかった。それまで既知であったDPP4とDPP7に加えて,我々はアスパラギン酸(Asp)とGluの酸性アミノ酸特異的なDPP11を新たに見いだし42),さらに真菌でのみ報告のあった疎水性アミノ酸特異的なDPP5を発見した43)。4種類のDPP酵素活性の検討からP. gingivalis,T. forsythiaおよびPrevotella intermediaを含む嫌気性菌DPP4はヒトDPP4と同じ基質特異性を有しており,GLP-1とGIPを分解不活化することを明らかにした47)。さらに,最新の研究からDPP7はこれまでに知られていた疎水性アミノ酸に加えてより広い基質特異性を有しており,Alaもターゲットにできることが明らかになった。この広い基質特異性によりDPP7はDPP4よりも高効率にGLP-1およびGIPのAla2-Glu3間を加水分解して不活化し,さらにジペプチド単位でのペプチド分解が進むことが明らかになった(図248)。一方,口腔細菌叢データベースeHOMDとP. gingivalis DPPsのKEGGオルソログデータベースのクロス検索の結果,772分類群の中で43菌種がDPP4を,さらにその中の33菌種がDPP7を共に発現していることが示された。33菌種は嫌気性のBacteroidesPorphyromonasPrevotellaTannerella属菌と通性嫌気性菌であるCapnocytophaga属菌である。これらの口腔嫌気性細菌は歯肉縁下プラーク細菌叢を構成し,咀嚼などの日常動作によって歯周病患部からの血行移行が推測される49)

P. gingivalisのDPP4とDPP7の特性の差異について注目すると,DPP4は前述の通りヒトオルソログがあり,P. gingivalis DPP4と約32%のアミノ酸配列相同性を有している50)。一方,DPP7はヒトには存在せず,原核生物のみが発現する。N末端より2番目(P1位置)のアミノ酸特異性を考慮すると,P1位置のAlaをターゲットとしうるDPP4やDPP5がインクレチン分解に適しており,一方DPP7にはインクレチン分解能がないものと当初は考えられた。しかしMALDI-TOF MS解析でインクレチン切断能を比較したところ,GLP-1に対してDPP7はDPP4の約22倍,GIPに対しては約500倍分解能が高いことが示された48)。同じ条件下でDPP5による分解はみられなかった。その後の詳細な検討から,P1位置のアミノ酸だけではなく,N末端から3番目(P1’位置)のアミノ酸Glu3の存在がこれらのDPPの活性に影響を与えていることが判明した。すなわちGlu3を持つペプチドに対しての活性はDPP7>>DPP4>DPP5であるため,DPP7が最も強力にインクレチンを切断するのである(根本ら,未発表)。さらにDPP7はGLP-1よりもGIPを効率的に分解するが48),その理由は,DPP7がN末端アミノ酸(P2位置)の疎水性アミノ酸を好むためにN末端にヒスチジン(His1)を持つGLP-1よりもチロシン(Tyr1)であるGIPの方が切断されやすいためであった51)。このように,従来P1アミノ酸の特異性でのみ語られることが多かったDPPであるが,さらにP1位置周囲のアミノ酸配列も考慮する必要があることがわかってきた。本報では詳述しないが,我々はP. gingivalisのDPP4およびDPP7が複数のヒト生理活性ペプチドを基質とすることから,歯周病原細菌DPP群がこれら分子の分解を介してホメオスタシスに介入し,種々の疾患の発症・進行に関与する可能性があると考えている48)

図1

P. gingivalis DPPsのジペプチド産生と生理活性ペプチドの分解

エキソペプチダーゼはペリプラズムに局在する。Rgp:Arg-gingipains,Kgp:Lys-gingipain,AOP:acylpeptidyl-oligopeptidase,PTP-A:prolyl tripeptidyl-peptidase A,SstT:serine/threonine transporter,POT:proton-dependent oligopeptide transporter,OPT:oligopeptide transporter,Dcps:peptidyl-dipeptidase(文献29より改変)

表1

P. gingivalis ペリプラズムDPPsと分解ペプチド

図2

PgDPP4とPgDPP7によるインクレチンの切断

(A)GLP-1分解のMALDI-TOF MS解析(B)インクレチン切断部位 疎水性アミノ酸を赤で示す。DPP4ではAla2-Glu3間だけが切断されるが,DPP7ではさらにジペプチド単位で切断が続く。(文献48より改変)

5.  P. gingivalis DPP4およびDPP7による血糖値調節機能の修飾

P. gingivalis DPP4およびDPP7による血糖調節系の修飾の可能性を10-13週齢のマウスを用いて検討した結果を示す(図3)。P. gingivalis DPP4およびDPP7組換え分子をそれぞれマウス尾静脈から投与し,グルコース溶液経口投与後の血糖値変化を測定した。その結果,DPP4およびDPP7のいずれの投与群でも有意な血糖値の上昇と高血糖持続時間の延長を認めた一方,血中活性型GLP-1とインスリン濃度は有意に減少した47,48)

T. forsythiaPrev. intermedia由来のDPP4でも同様に濃度依存的に血糖値の上昇が認められた。これらの結果は,歯周病原細菌DPP4とDPP7がインクレチンを不活化して,直接的に血糖値調節系を修飾し,糖尿病の増悪をもたらす病原因子であることを強く示唆しており,2型糖尿病の病態形成に歯周病が関与するという仮説を補強する根拠となりえる。また,DPP4阻害薬は歯周病原細菌のDPP4活性も阻害するが,DPP7活性には影響しないことから,将来的にはDPP7阻害薬を用いた歯周治療や糖尿病患者への適用が期待できる。

図3

歯周病原細菌DPP4投与による血糖値,血漿GLP-1およびインスリン濃度変化

(A)P. gingivalis,(B)Prev. intermedia(C-F)T. forsythia DPP4 またはPBSをマウス尾静脈から投与後,グルコース溶液を経口投与した。D-Fは15分後の測定値 p<0.05,p<0.01,**p<0.001(vs PBS,Studentのt-検定)(文献47より改変)

6. まとめ

本ミニレビューでは,歯周病原細菌が自身の生存・増殖に必要な栄養摂取を担うエキソペプチダーゼであるDPP4とDPP7が宿主のインクレチンを切断・分解し,インスリン分泌誘導が抑制されることで,高血糖状態が継続し,その結果的に2型糖尿病を増悪化するという可能性を提唱した。我々が報告してきた知見は,糖尿病患者に対する歯周治療の重要度が従来よりも増す可能性を示唆している。さらに,P. gingivalisを含めた歯肉縁下プラーク細菌DPPsはヒトの生理活性ペプチドの切断・不活化を介した他の全身疾患とも関与する可能性がある。歯周病の早期発見と治療の介入によって歯を喪失せずに口腔機能を保全することでQOLを高め健康寿命を伸ばすと同時に,全身疾患である糖尿病などの生活習慣病の軽減や悪性化予防にも貢献が可能である。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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