2025 Volume 67 Issue 4 Pages 123-129
肥満は,2型糖尿病や冠動脈疾患など,多くの健康障害と関連している。肥満の脂肪組織内ではマクロファージ等の免疫細胞が浸潤し,慢性的な炎症状態が引き起こされている。この持続的な炎症がインスリン抵抗性や動脈硬化などの病態の基盤になりうる。我々は脂肪細胞とマクロファージを共培養し脂肪組織の慢性炎症に関与する因子を網羅的に解析し,その中で脂肪細胞での発現が顕著に亢進したケモカインの一つ,CCL19に着目した。脂肪細胞特異的にCCL19を過剰発現させたCcl19ノックインマウスを作製し検証した結果,脂肪組織におけるCCL19シグナルの活性化が脂肪組織の炎症を増幅し,脂質代謝,エネルギー制御機能の減弱化を引き起こし耐糖能低下に関与することが明らかになった。通常食,40%高脂肪食,60%高脂肪食の3つの群のうち,野生型マウスとの比較における差は,40%高脂肪食群で最も顕著にみられた。これらの結果から,軽度の肥満の場合には局所の炎症が全身に及ぼす影響が増大することが示唆された。日本人に多い軽度肥満では,脂肪組織におけるマクロファージ等の免疫細胞と脂肪細胞の相互作用による炎症性シグナル経路の活性化を介して歯周炎症が全身レベルに増幅する可能性が考えられる。
Obesity is associated with numerous health impairments, including type 2 diabetes mellitus and coronary artery disease. Adipose tissue in cases of obesity shows infiltration of immune cells such as macrophages which induce chronic inflammation, which, in turn, can lead to pathological conditions such as insulin resistance and atherosclerosis. We comprehensively analyzed the factors involved in chronic adipose tissue inflammation by co-culturing adipocytes and macrophages. We focused on CCL19, a chemokine whose expression was significantly elevated in adipocytes co-cultured with macrophages. We generated Ccl19 knock-in (KI) mice specifically overexpressing CCL19 in adipocytes, and demonstrated that activation of CCL19 signaling in adipose tissue amplifies inflammation, impairs lipid metabolism and energy regulation, and contributes to glucose intolerance. The differences observed between the Ccl19KI and wild-type mice were most pronounced in the groups fed a 40% high-fat diet as compared with a normal diet and the 60% high-fat diet. Our results suggest that mild obesity increases the systemic effects of local inflammation. In mild obesity, which is common among Japanese individuals, periodontitis can be amplified to a systemic level through the activation of inflammatory signaling pathways mediated by interactions between adipocytes and immune cells such as macrophages in the adipose tissue.
2型糖尿病,冠動脈疾患など肥満に関連する疾患は数多く,また日本人は軽度の肥満でも肥満に関連した健康障害が生じやすい傾向がある。肥満と歯周病の関連性について述べられた国内外での報告は1990年代後半以降に少しずつ増え始め,これまでに多くの疫学研究で肥満が歯周病の増悪因子となりうることが示されているものの,そのメカニズムについて言及したものは少ない。近年では,脂質代謝およびエネルギー消費に対して歯周病が及ぼす影響についても示唆されている1,2)。
肥満の脂肪組織内ではマクロファージ等の免疫細胞が浸潤し,炎症性サイトカインやケモカインの産生が亢進することで慢性的な炎症状態が引き起こされる3,4)。この持続的な炎症がインスリン抵抗性や動脈硬化などの病態の基盤になるとされている。
筆者らは歯周病のような局所の炎症が糖尿病および肥満など全身に影響を及ぼす機序の解明とその影響の排除を目指し研究を進めてきた。本稿では,歯周病のような局所の慢性炎症がインスリン抵抗性や脂質代謝に及ぼす影響の基盤として重要な,脂肪細胞―マクロファージ相互作用による炎症増幅機構について,これまでに筆者らの研究グループが得た知見をふまえて概説する(図1)。

歯周炎症と脂肪細胞―マクロファージ相互作用による炎症の増幅機構の想定図
脂肪細胞は通常多くの生理活性物質(アディポカイン)を産生,分泌し生体機能の維持にはたらいている。正常な脂肪細胞は全身の代謝制御,恒常性維持に重要な役割を果たし,抗炎症性のアディポカインを分泌して炎症を鎮める。肥満状態では脂肪細胞に蓄積する中性脂肪量が増大して脂肪細胞が肥大化し,肥大化した脂肪細胞ではアディポカインの産生,分泌機能に異常をきたす。さらに,肥満の脂肪組織では脂肪細胞から多量に分泌された,単球やリンパ球を呼び寄せるmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)を介してマクロファージ等の免疫細胞が脂肪組織に浸潤する。「脂肪細胞―マクロファージ相互作用説」3)に提唱されるように脂肪細胞とマクロファージが相互に刺激し合い,脂肪組織における炎症性サイトカイン,ケモカインの産生が増大し炎症状態が惹起される。培養脂肪細胞にインスリンを作用させるとインスリンシグナル関連タンパク質のリン酸化亢進がみられるが,脂肪細胞とマクロファージの共培養系にlipopolysaccharide(LPS)を作用させると脂肪細胞のインスリンシグナル伝達が抑制される5)。筆者らはこの共培養系にアンジオテンシンII受容体拮抗薬の一種であるvalsartanを作用させるとマクロファージにおけるLPS誘導性のnuclear factor kappa B,activator protein 1の活性化,炎症性サイトカイン遺伝子発現が抑制され,結果的に脂肪細胞におけるインスリンシグナル伝達が回復することを示した2)。すなわち肥満誘導性の脂肪組織インスリン抵抗性は活性化マクロファージによって誘導され,マクロファージ活性化制御による脂肪組織炎症の減弱はインスリン抵抗性の改善における鍵となる。
歯周病のような局所の炎症が全身に影響を及ぼすメカニズムを紐解くにあたり着目した報告がある。宗永らは,日本人の糖尿病の歯周病患者に対する介入研究から,歯周病による炎症の全身への影響と肥満の程度との関連について,被検者をbody mass index(BMI)で分類して解析している3)。この研究においてBMI25 kg/m2程度の被検者は全身の炎症度を示す高感度C-reactive protein(CRP)値がベースラインで500 ng/ml以上で,歯周治療後にCRP値が減少し,ヘモグロビンA1c(HbA1c)値も改善した。一方,BMI23 kg/m2程度の被検者はベースラインの高感度CRP値が500 ng/ml未満で,歯周治療前後でCRP値,HbA1c値ともに有意な変動はなかった6)。これらの結果は,BMI25 kg/m2程度,すなわち軽度の肥満では標準体重の歯周病患者に比べ歯周病による炎症が脂肪組織を介して全身に波及しやすく,また歯周治療によって全身性に波及した炎症が減弱しうることを示唆している。他の研究者らの報告では,BMI35 kg/m2程度の被験者では歯周病と血清CRP値に関連がなかったことや歯周治療後の血清中のinterleukin-6(IL-6)等の炎症マーカーの値に変化がなかったことが示されているが7,8),これらの結果に対しその著者らも考察しているように,高度肥満では歯周病の有無に関わらず全身性の炎症の度合いが強く,歯周病等の局所の炎症が全身に及ぼす影響が顕在化しない可能性が考えられる。日本人を含むアジア人は欧米人のような高度な肥満になる人は少ないものの,日本人成人男性では3割以上が軽度肥満の基準値BMI25 kg/m2を超えている9)。これらの層の歯周病患者では歯周炎症が脂肪組織で増幅し,全身性の,特に糖尿病や心血管疾患等に至るような影響を及ぼしうるといえる。近年,日本人の歯周炎とメタボリックシンドローム発症の関連性を検証したコホート研究において,6 mm以上の歯周ポケットを有する群では,歯周ポケット3 mm以下の群に比べ8年後の腹部肥満発症の相対リスクが有意に高いことが示された10)。歯周病と肥満の関連性の解明において興味深い結果であるが,肥満に対する歯周病の影響を調べた縦断研究や介入研究の数はまだ十分とはいえないのが現状である。
前述したように,肥満の脂肪組織では脂肪細胞とマクロファージの相互作用により炎症性サイトカイン,ケモカインの産生が増大し炎症状態が惹起される。筆者らは,歯周病によって活性化された免疫細胞が脂肪組織に浸潤し脂肪組織の炎症を促進すると仮説をたて,低濃度のLPS存在下で脂肪細胞とマクロファージを共培養し,脂肪組織の慢性炎症に関与する因子の網羅的解析を行った11)。その結果共培養した脂肪細胞では,LPSの作用に必要なLPS-binding protein(LBP),CD14などの遺伝子発現が亢進し11),共培養系の培養液中では,脂肪細胞,マクロファージそれぞれの単独培養またはLPS刺激なしの共培養時に比べ,LBP,可溶型CD14,chemokine(C-C motif)ligand 5(CCL5),血清アミロイドA(serum amyloid A,SAA)などのタンパク質分泌が顕著に増大した。低濃度LPSを静脈内投与した遺伝性および食餌性の肥満マウスでは,対照の肥満でないマウスに比べ血清中のLBP,CCL5,SAA等の濃度が顕著に増大し12),in vitroと同様の結果がin vivoにおいて示された。また,マクロファージ由来tumor necrosis factor-α(TNF-α)を介して脂肪細胞からのIL-6産生量が著しく増大し13),CRP,SAA等の急性期タンパク質の誘導が示唆された12)。SAAは樹状細胞からのIL-6産生を誘導してヘルパーT(Th)17細胞の分化促進にはたらく14)。主にTh17細胞から産生されるIL-17は,歯周病における炎症反応と歯槽骨破壊に強く関与することが知られているが,脂肪細胞―マクロファージ共培養系での検討から,慢性炎症状態にある脂肪組織において,IL-17がCCL20産生亢進を介してTh17細胞浸潤を促進させ炎症状態を増悪させる可能性が考えられた15)。
共培養系の脂肪細胞ではさらに,糖輸送担体(glucose transporter type 4,GLUT4)の抑制やインスリン抵抗性の増悪に関わる遺伝子発現の変動,血栓形成に関与するplasminogen activator inhibitor-1の遺伝子発現の亢進をみとめた11)。そこでこの脂肪細胞におけるインスリン応答への影響を検討したところ,インスリンを作用させた際のインスリン受容体,インスリン受容体基質-1およびセリンスレオニンキナーゼAKTのリン酸化の減弱,細胞膜GLUT4発現の低下がみられ,実際に細胞内のインスリンシグナル伝達が顕著に抑制されていることが明らかとなった5)。
前述の通り,マクロファージと共培養した脂肪細胞の網羅的解析の結果,脂肪細胞においてMCP-1,CCL5など多くのCCケモカイン,CXCケモカイン群の著明な遺伝子発現の増大がみられた。そのなかに樹状細胞・T細胞の誘因に寄与するケモカインCCL19が含まれていた。また,遺伝性(ob/ob)および食餌性(高脂肪食負荷)の両方の肥満マウスの血中CCL19濃度は著明に増大していた16)。そこでCCL19およびその受容体CC-chemokine receptor 7(CCR7)に着目した。
CCL19の受容体CCR7は主に成熟樹状細胞,T細胞,炎症促進性のM1マクロファージに発現していることが知られている。筆者らは肥満状態を想定し飽和脂肪酸がCCR7発現を上昇させるかどうかを調べた。バター,チーズ,肉などに含まれる一般的な脂肪酸であるパルミチン酸でマウス骨髄由来細胞(bone marrow derived cell,BMDC)を刺激すると,CCR7遺伝子発現が亢進した。フローサイトメトリー解析により,パルミチン酸刺激はMHCII+CD11c+CCR7+ BMDCの割合を増加させることが明らかになった17)。パルミチン酸を腹腔内投与したC57BL/6マウスでは血清遊離脂肪酸濃度が上昇し,皮下および内臓の白色脂肪組織におけるCCR7,MCP-1,TNF-α,IL-12,およびCD11cの発現が増大した。以上の結果から,高脂肪食の摂取はマウスの脂肪組織におけるCCR7陽性細胞数を増加させ,炎症誘発シグナルを活性化させることが示唆された。そこで,譲渡を受けたCCR7遺伝子を欠損させたマウス18)を用いて,脂肪組織炎症,代謝制御に及ぼす影響について検証を進めた。Ccr7欠損マウスは野生型と比較して,高脂肪食によって引き起こされる肥満,脂肪組織および肝臓の炎症,脂肪肝,脂質異常症の誘導が抑制され,耐糖能,インスリン応答が正常に維持されていた13)。また冷刺激を与えた際の直腸温が高く有意な熱産生の亢進がみられ,褐色脂肪組織での熱産生促進分子の発現が増大していた16,19)。これらの結果から,CCL19/CCR7シグナル伝達は,炎症誘発性インスリン抵抗性の誘導だけでなく,エネルギー代謝にも影響を及ぼす可能性が考えられた。
CCR7のもう一つの既知のリガンドとしてケモカインCCL21がある。CCL19とCCL21は,32%の同一性に限られる低い配列相同性を示し,リガンド間の構造的差異はCCR7結合後の細胞応答に違いを引き起こす可能性がある20,21)。したがって,Ccr7欠損マウスで観察された現象が,脂肪組織由来CCL19によって誘導されるCCR7を介したシグナル伝達の完全な消失に関連しているかどうかを判断することは困難である。肥満者の血清中ではCCL19濃度が上昇することや22),脂肪組織におけるCCL19発現がBMI,HbA1c,CRP,インスリン抵抗性指数などと相関することが報告されている23)。これらは,脂肪組織におけるCCL19の発現が,肥満関連代謝疾患の病態生理において重要な役割を果たす可能性を示唆しているが,脂肪細胞由来CCL19のエネルギー代謝における役割は解明されていない。筆者らは脂肪細胞特異的にCcl19をノックアウトしたマウスの作製を試みたが,Ccl19の近傍に11個の疑似遺伝子が存在し脂肪細胞特異的な相同組換えは困難であった。そこでgain of functionの観点から脂肪組織におけるCCL19の機能を検証することとし,脂肪細胞特異的にCCL19を高発現させたCcl19 knock-in(Ccl19KI)マウスを作製した17)。
脂肪組織CCL19が糖脂質代謝,エネルギー制御機構に及ぼす影響について,食餌の脂肪量の違いを含めて調べるため,Ccl19KIマウスおよび野生型(wild type,WT)マウスに1カロリーあたりの脂肪含有量13.6%の通常食(normal diet,ND),40%または60%の高脂肪食(40%FD,60%FD)を与えた。40%FDは西洋化された現代のアジア人の食事に近いものである。摂餌量は脂肪含有量に関わらず遺伝子型間で有意差はなかった。血清CCL19濃度は全ての食餌群においてCcl19KIマウスではWTマウスの6倍から10倍高く,脂肪細胞で産生されたCCL19タンパク質が循環血中に放出されたことが確認された。NDを摂取したWTマウスとCcl19KIマウスの体重には有意差はなかったが,Ccl19KIマウスでは皮下脂肪組織量が有意に増加した。40%FD群では,Ccl19KIマウスはWTマウスと比較して体重,皮下脂肪組織量,内臓脂肪組織量が有意に増加した。60%FD群では,10週齢まではWTマウスと比較してCcl19KIマウスの体重が有意に増加したが,11週齢以降は両マウス間で差が見られなかった。Ccl19KIマウスでは,いずれの食餌群でもWTマウスと比較して血清遊離脂肪酸濃度が有意に上昇した。
40%FD群では,Ccl19KIマウスの空腹時インスリン値はWTマウスよりも有意に高く,40%FDまたは60%FDを摂取したCcl19KIマウスは各食餌群のWTマウスと比較して耐糖能が低下した。インスリン負荷試験では,40%FD負荷Ccl19KIマウスではWTマウスと比較してインスリン感受性が有意な低下が示され,インスリン抵抗性指数はWTマウスよりも有意に高かった。全般的な傾向として,CCL19の過剰発現が脂肪組織の肥大,血清遊離脂肪酸濃度の上昇,インスリン抵抗性のリスクの増強を引き起こすことを示唆した。特に,40%FD群においてCcl19KIマウスとWTマウスのこれらの表現型の変化の差が顕著に観察された。
脂肪組織の観察をしてみると,NDおよび40%FD群では,Ccl19KIマウスの白色脂肪組織の脂肪細胞径および褐色脂肪細胞の脂肪滴サイズがWTマウスに比べ有意に増大していた。リコンビナントCCL19でマウスBMDCおよび3T3-L1脂肪細胞を刺激すると両細胞においてCCR7の発現が増大したことから,Ccl19KIマウスの脂肪組織におけるCCR7発現を調べた。Ccl19KIマウスの白色脂肪組織では,食餌に関わらず,WTマウスに比べてCCR7発現細胞の浸潤が増加した。また,NDを摂取したWTマウスの脂肪組織にはCCR7陽性細胞はほとんど見られなかったが,60%FDを摂取すると,CCR7陽性細胞数が増加した。さらに,Ccl19KIマウスの白色脂肪組織では,WTマウスと比較して,主に樹状細胞および炎症誘発性M1マクロファージに発現するCD11cおよび,マクロファージマーカーF4/80の陽性細胞浸潤が亢進した。これらの結果から,CCL19の高発現がCD11c陽性樹状細胞およびマクロファージの脂肪組織への浸潤を誘導することが示唆された。
これまでの結果から,脂肪細胞CCL19がエネルギー代謝に影響を及ぼす可能性が示唆された。既報では,樹状細胞においてCCR7リガンドによる刺激がextracellular signal-regulated kinase(ERK)1/2の活性化を介してエネルギー代謝関連分子であるAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化を抑制すること24),また,ERK1/2は脂肪細胞の肥大化に関与することが示されていたことから25),脂肪細胞CCL19がERK,AMPKおよびその下流分子のタンパク質発現に及ぼす影響を検証した。CCL19で刺激した脂肪細胞株およびCcl19KIマウスの脂肪組織ではERK1/2のリン酸化の亢進,AMPKαリン酸化の抑制がみられた。また,褐色脂肪組織においてその下流分子peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α,uncoupling protein 1の発現の減弱がみられ,WTマウスとの比較では40%FD群で最も顕著な差をみとめた。
以上の結果から,脂肪細胞CCL19の高発現はエネルギー代謝調節障害を引き起こすこと,40%程度の高脂肪食はCCL19/CCR7経路の活性化を増強し脂肪蓄積を誘導することが示された。脂肪の多い食事を好む現代人に歯周病感染が合併した際,脂肪組織を介してエネルギー制御に影響をきたす可能性が考えられた。60%FD群では,WTマウスとの比較において40%群ほどCCL19KIによる影響が大きくみられなかった理由として,高度な肥満では,他のシグナル経路が与える影響が大きく,局所的なCCL19の高発現による影響はマスクされる可能性が推察された。
日本人に多い軽度肥満では,脂肪組織におけるマクロファージ等の免疫細胞と脂肪細胞の相互作用による炎症性シグナル経路の活性化を介して歯周炎症が全身レベルに増幅しやすい可能性が考えられる。
40~50歳代日本人男性の3人に1人以上は肥満に該当することから,将来的に,歯周病に肥満およびその関連疾患を合併した中高年層の一層の増加が推測される。歯周病治療によって血中のTNF-α,CRP値など全身性の炎症レベルが軽減しうることがこの20~30年間で相当数報告されているが26),近年では高感度CRP値は動脈硬化の微小な炎症を捉えるマーカーとして注目され,将来の心血管イベントの発症予測にも有用とされている。先に述べた臨床研究6)でも,糖尿病と歯周病を合併した軽度肥満日本人における高感度CRP値およびHbA1c値の上昇が歯周治療によって改善したことが示しているように,歯周病の治療は全身性の,特に心血管疾患や糖尿病等に至るような影響を回避しうる可能性があるといえる。このことは今後の我が国の医療体制において,疾患の治療から発症予防へのシフトおよび健康寿命の延伸を見据えるうえで非常に重要な点である。引き続き,歯周病と肥満やその他代謝関連疾患等との関わりの機序の解明および増悪機序の制御法の開発を目指していきたいと考えている。
稿を終えるにあたり,大学院入学当初から常々導いていただき,後押しをしていただきました,九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯周病学分野教授西村英紀先生に,心より感謝申し上げます。また,研究の遂行に際し多大なご支援をいただきました広島大学名誉教授浅野知一郎先生,研究チームの先生方,CCL19/CCR7シグナルに関する研究にご尽力いただきました林大翔先生,佐野朋美先生,日々温かいお力添えをいただきました九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯周病学分野の先生方,広島大学大学院旧医歯薬学総合研究科医化学講座ならびに同研究科健康増進歯学分野の先生方に厚く御礼申し上げます。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。