哲学
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ヘーゲルの「論理学」における生命の概念
十八世紀の科学と哲学に対するその関係について
渡辺 祐邦
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1970 年 1970 巻 20 号 p. 186-198

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抄録

本稿の目的はヘーゲルの『論理学』における生命の概念を十八世紀の啓蒙主義的自然哲学の伝統との連関において考察し、ヘーゲルにおける弁証法の問題と十八世紀における生物学的諸発見との間の根本的連関を見出すことにある。ヘーゲルの論理学における「生命」の問題は一見彼の時代の自然科学の諸問題と全くかけ離れている様にみえる。しかし彼がそこで考察した諸問題は彼の時代の生物学的認識の発展と本質的に連関していたのである。
とは云えこの両者を直ちに結びつけることは非常に危険である。われわれは彼の弁証法の問題と生物学の問題との連関を正しく考察するためには、十八世紀における生物学者の観察が同時代の哲学に対していかなる問題を提起したかを考察しなければならない。ヘーゲルの論理学における「生命」の理念の諸問題は十八世紀のドイツにおける啓蒙主義的自然哲学において提起された諸問題の伝.承を通じてのみ把握されうるのてある。
ロジニは彼の大著 『十八世紀のフランス思想における生命の記学』において、十七世紀と十八世紀に行われた生物学的発見が十八世紀の哲学的精神に及ぼした作用を詳細に考察した。そこで彼は次の様に述べている。「一六七〇年から一七四五年までの生命の科学の歴史はアプリオリな機械論に対する観察それじしんの長い戦いの歴史だった。この戦いの結果は疑うまでもなく機械論の破滅に帰着した。」
ところでドイツ自然哲学の諸問題も全く同じ観察によって提起されたのである。ドイツの啓蒙主義的思想家も、超自然主義的信仰や自然神学に対する彼らの戦いにおいて、必然的に生物学の諸問題を考察しなければならなかったからである。

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