順天堂医学
Online ISSN : 2188-2134
Print ISSN : 0022-6769
ISSN-L : 0022-6769
原著
心室収縮性の酸素浪費効果におよぼす最大エラスタンスと容積速度の相互作用に関する研究
林 克尚
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 40 巻 2 号 p. 200-209

詳細
抄録

心筋酸素消費量 (VO2) は, 収縮期圧容積面積 (PVA) および最大エラスタンス (E max) によりVO2=A・PVA+B・E max+Cとして表されることが知られている. PVAが0のとき, すなわち無負荷状態のVO2は無負荷VO2=B・Emax+Cとなり収縮性 (E max) 増強に応じて増大する酸素浪費効果を示す. この酸素浪費効果におよぼず容積速度の影響をみるため, 甲状腺機能亢進家兎摘出心と正常家兎摘出心を比較検討した. 甲状腺機能亢進家兎の心筋ミオシンアイソフォームは, 正常家兎心にみられる遅い運動性のV3優位より速い運動性のV1優位に転換されていることが知られている. 摘出心を上行大動脈より潅流した後, 左室内にバルーンを挿入し容積制御装置に接続した. 容積速度の測定法は, 等容性収縮中に容積を種々の速度 (dV/dt) で急激に減少させたときの左室圧の変化 (dP/dt) を測定し, dP/dt=0のときのdV/dtをもってそのときの容積速度とした. これより圧容積速度関係を求め双曲線で外挿した容積速度軸切片をV max, 左室内容積を変化させたときの左室圧からE maxを, 冠状動静脈潅流液の酸素濃度較差よりVO2を求めた. このときのPVA-VO2関係のVO2切片より無負荷VO2を求めた. 以上のE max. V max・無負荷VO2を, 冠潅流量を5段階に変化させて測定した. その結果E max-無負荷VO2関係は正常対照群では高い直線関係を示したのに対し, 甲状腺機能亢進群では低潅流量域では直線関係を示したが, 高潅流量域ではE maxの上昇がわずかであるにもかかわらず無負荷VO2が増大した. 一方, V max-無負荷VO2関係は正常対照群ではやはり高い直線関係を示したが, 甲状腺機能亢進群では低潅流量域では直線関係を示したものの, 高潅流量域では傾きが緩やかになった. 以上の結果より心筋ミオシンアイソフォームが速い運動性をもつV1優位に転換されることにより, 容積速度上昇時に内部負荷が増大しこれが収縮性の酸素浪費効果を高めている可能性が示唆された.

著者関連情報
© 1994 順天堂医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top