順天堂医学
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原著
ラット肺の生後発達に伴う肺胞血管内皮細胞表面膜の形成について
長野 宏史栗原 秀剛木下 勝之坂井 建雄
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2006 年 52 巻 1 号 p. 76-83

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抄録

目的: 血管内皮細胞は血液凝固系を制御して抗血栓活性を発揮し, 血液に流動性を与えている. この機能には血管内皮細胞表面に発現する膜蛋白群が重要な働きをしていると考えられるが, 器官形成に伴うそれらの発現過程は明らかではない. 今回, 周産期ラット肺を用いて肺胞の成熟に伴う毛細血管内皮細胞膜に発現する蛋白を解析し, その変化を検討した. 対象: 今回の実験における実験動物はすべて『順天堂大学医学部動物実験に関する指針』に従った. 動物はWistar系ラットを用いた. 方法: ラット肺を灌流固定後, 光学顕微鏡および電子顕微鏡試料を作製した. ラット血管内皮細胞に発現する蛋白 (ICAM2, ポドカリキシンおよびI-10抗原) について肺での発現を免疫組織化学とイムノブロット法にて解析した. 結果: 胎仔期, 新生仔期から成獣の肺においてICAM2とポドカリキシンはすべての血管内皮細胞の表面に均一に発現を認め, 内皮細胞の良いマーカーとなることを確認した. 新規に作製したモノクローナル抗体I-10は成獣において腎と肺を含めた一部の器官の血管にのみ発現を認める80kDの抗原を認識した. I-10抗原は胎仔期の肺より発現が認められた. ポドカリキシンとI-10抗原の発現を成獣肺で比較した結果, 内皮細胞表面の一部で完全に一致するが, 残りの部分はI-10抗原を欠くことが分かった. そこで, 詳細なI-10抗原の局在を調べるために免疫電顕を行ったところ, I-10抗原は肺胞血管内皮細胞間質側の内皮細胞表面にのみ局在し, 肺胞腔側の内皮細胞表面では発現が認められないことが分かった. 結語: I-10抗原の特徴的な局在から, 肺の毛細血管内皮細胞ではガス交換を行う肺胞腔側と間質側で蛋白の発現が異なり, 肺成熟に伴いマクロドメインを形成していることが強く示唆された.

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© 2006 順天堂医学会
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