抄録
肝移植は急性あるいは慢性の終末期肝臓病変に対する有効な治療法として確立している. 米国では肝移植の95%以上は脳死肝移植であり, 生体肝移植はドナーの死亡例が報告されて以来, 2001年の522例をピークに減少傾向にある. これに対して本邦では脳死の概念が定着するのが欧米に比べていちじるしく遅れたため99%が生体肝移植である. 当初, 生体肝移植は小児の胆道閉鎖症に対して行われていたが, 1993年に成人例での成功例が報告され, 以後成人例に対する移植数が増加している. 最近はHCV肝硬変や肝細胞癌合併例に対しても積極的に移植が行われるようになっている. HCV肝硬変に対する肝移植ではグラフトにHCV再感染がおこり, 免疫抑制下という特殊な状況にあるため, 移植後5年で約90%の症例で組織学的に肝炎の再発が認められ, 一部は肝硬変からgraftlossに至る. このためHCV肝硬変に対する対策としてインターフェロン・リバビリン療法が行われているが, 副作用のため治療が継続できない症例も多い. 肝細胞癌合併例に対してはミラノ基準 (腫瘍径5cm1個以下, 腫瘍径3cm3個以下) が適応基準のスタンダードであり, 肝細胞癌非合併例とほぼ同等の成績が示されている. 最近, この適応基準の拡大や適応基準に大きさ, 個数だけでなくAFP, PIVKA IIなどの腫瘍マーカを含めた新しい適応基準が提唱されている. 生体肝移植では右葉グラフトの使用が優位であるが, ドナーの安全性の観点からは左葉グラフトが望ましく, 順天堂大学肝胆膵外科ではもっぱら左葉グラフトを使用している. 成人例で1年生存率100%, 5年生存率95%と良好であり, 左葉グラフトの再認識を世界に発信している.