抄録
目的: アトピー性皮膚炎患者の皮膚における黄色ブドウ球菌数が顕著に高いことはよく知られている. 黄色ブドウ球菌由来成分はアトピー性皮膚炎の発症および増悪化に関与する可能性がある. Toll様受容体 (TLR) を介した病原体構成分子の認識は, 獲得免疫応答への架け橋となる自然免疫応答を起動する. 黄色ブドウ球菌はペプチドグリカン, リポタイコ酸, およびリポタンパク質などのTLR2関連リガンドを産生する. 本研究では, アトピー性皮膚炎の感作過程および増悪化サイクルにおいて皮膚バリア機能破壊によって黄色ブドウ球菌由来TLR2関連リガンドが角化細胞と相互作用しうる状況を想定し, これまで検討されていなかったジアシル化リポペプチド刺激による角化細胞における炎症性サイトカイン発現誘導を解析する.
方法: 3つのTLR2リガンド (ペプチドグリカン, 合成トリアシル化リポペプチド, および合成ジアシル化リポペプチド) でヒト角化細胞を刺激し, 炎症性サイトカインおよびケモカインの産生誘導をELISA法および定量PCR法によって解析した.
結果: TLR2とTLR6複合体によって認識されるジアシル化リポペプチドは, ペプチドグリカンや, TLR2とTLR1複合体によって認識されるトリアシル化リポペプチドよりも効率よくCXCL8/IL-8タンパク質の放出を誘導した. ジアシル化リポペプチドはトリアシル化リポペプチドよりも効率よくCXCL8/IL-8, GM-CSFおよびCCL5/RANTESなどの炎症性サイトカインおよびケモカインのmRNA発現を誘導した.
結論: 角化細胞刺激におけるTLR2-TLR6複合体の重要性が示唆された. アトピー性皮膚炎の発症および増悪化における黄色ブドウ球菌由来ジアシル化リポタンパク質の関与の可能性は今後の検討課題である.