順天堂医学
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教授定年退職記念
原子を覗くと宇宙が見える
-量子論の新世紀-
堀川 彌太郎
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2010 年 56 巻 3 号 p. 228-237

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抄録

現在開講されている順天堂大学の物理の授業の紹介をして, そこで用いている教材を使い, 粒子の運動と電磁波の運動について復習する. 20世紀が始まる前にできあがったこれらの運動の理論は, 20世紀になってつくられた量子論と対比して古典論という. 古典論は, 高温の物体が発する光の強度, 原子の安定性, 原子から出る光のスペクトルなどを説明できず量子論が生まれた. こうして生まれた量子論と古典論との違いを典型的に示す, 干渉実験と合成系のもつれの状態におけるベルの不等式の破れについて説明する. 実験技術の進歩により, 光だけでなく電子や分子の干渉実験が行われ, もつれによる不等式の破れも量子論の予言と一致することが実験で確かめられた. 環境によるデコーヒーレンスと整合的な履歴の概念を用いて原子の世界も目に見える世界も一貫して量子論の枠組みで理解できると考えられるようになり, 量子論の基本的な原理を利用する応用技術が研究されるようになった. このような量子論の新展開である量子情報科学について, 量子論の重ねあわせの原理や量子もつれを直接検証するテクノロジーであるともいえる, 量子コンピューターと量子鍵配送を例にとり簡単な紹介をする.

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© 2010 順天堂医学会
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