抄録
過去30年間の癌研究は, 癌細胞における遺伝子変異や, シグナル伝達の異常のメカニズムの解析を中心に行われてきた. しかしながら, 実際のヒトの癌塊は, 癌細胞のみならず多数の間質細胞が含まれた集合体として形成されている. この数年, 癌細胞とこれらの間質細胞との相互作用が, 癌の進展に深くかかわっているという知見が多数報告されてきており, 癌内環境が及ぼす癌化および癌の進展のメカニズムが注目されている. 言い換えれば, 癌の増殖や進展の能力は, 癌細胞自身の能力に加えて, 間質細胞よりほどこされる援助に依存している. 癌細胞は, 従来正常の周囲の間質細胞を毒化し悪玉の間質細胞に変えることにより, この悪玉細胞より援助を受けて, さらなる増殖や, 周囲の組織への浸潤や, 遠隔臓器への転移を容易にしているのかもしれない. この総説では, 癌細胞の進展における癌間質の重要性について考えてみたい.