抄録
交通問題は,多数の運転者の振る舞いの集積により,多様な状況が生み
だされる複雑な問題である.この問題に対して,個々の運転者を,エー
ジェントとして独立した意思決定主体として定義し,エージェント間の
相互作用によって交通状況を再現できるマルチエージェントシステムの
適用が有望である.既存のマルチエージェント交通シミュレーションの
多くはマクロ的な視点によるアプローチであり,ここでの各運転者のモ
デルは,統計量などに基づいた均質なモデルが仮定される事が多い.既
存のアプローチでは,交通ルールなどの社会的な制約が変化した場合の
個々の運転者の振る舞いの変化を分析することが困難であり,また運転
者の多様な運転特性は,交通現象の詳細な分析のために無視できない.
例えば,高齢の運転者が増加した状況で起こる交通現象を分析するには,
個々の運転操作のモデル化が必要である.筆者らは,統計量に基づくモ
デル化ではなく,環境に対する振る舞いをモデル化するアプローチを採
り,本論文では,個々の運転者のモデル化手法を提案する.本手法は,
3Dドライビングシミュレータ上での仮想道路の走行を通して被験者の運
転操作ログを取得し,またインタビューにより,道路環境と運転操作の
因果関係を明らかにし,操作ルールを生成する.運転操作ログ,および
操作ルールをもとに仮説推論を行い,個々の運転者モデルを獲得する.
本論文では,若齢の運転者と高齢の運転者からデータを取得し,運転モ
デルの構築を試みる.