人間の文化の構成要素には，技術や思想，コミュニケーションの慣習などが含まれる．これらは，個々の個体の学習や模倣に基づいて進化していくと考えられるが，そのメカニズムを計算モデルとして表現し，文化進化に影響を与える要因を明らかにすることは，我々の文化の来歴や行く末を理解する上で重要な課題である．これまでの研究では，集団の規模や，集団としての文化特性の維持力など，集団全体の動態を表現する数理モデルが提案されてきた一方で，個々の個体の行動方策が文化進化に与える影響は明示的には考慮されてこなかった．本研究では，Henrichの文化進化モデルを拡張した，個々の個体の行動をシミュレーションする文化進化モデルを提案し，その基礎的な性質を明らかにすることを目的とする．我々は，Henrichの文化進化モデルと，提案手法との関係について，数理的な分析とシミュレーション実験に基づいて検討し，提案手法によってHenrichの手法と同等の結論を導けることを明らかにした．さらに，提案モデルに基づいて，個々の個体の行動方策が文化進化に与える影響を分析する展望について述べる．
