抄録
環境配慮行動を促進する否定的メッセージの効果
―道徳的規範との関連性―
【要約】
本研究は、道徳的規範の強さとメッセージフレーミング(肯定的および否定的メッセージ)が、人々の環境配慮行動意図にどのような影響を与えるかを検討した。環境問題への対応が喫緊の課題となる中、人々の行動変容を促進する効果的なメッセージ戦略の構築が求められている。本研究では、道徳的規範の高さが否定的メッセージの影響を高める可能性に着目し、3つの実験を通じて検証を行った。
実験1では、道徳的規範の高さが否定的メッセージの効果に与える影響を調査した。道徳的規範を連続変数として扱い、肯定的/否定的メッセージを提示した上でリサイクル行動意図を測定した。調整付き媒介分析の結果、道徳的規範が高い人ほど否定的メッセージ下で罪悪感が強く喚起され、罪悪感が行動意図を媒介することが示された。
実験2では、道徳的規範を一時的に高めることがメッセージの効果に与える影響を検討した。参加者を対象に、道徳的規範を高める動画を視聴した群(動画視聴群)と視聴しない群(対照群)に分け、肯定的または否定的なメッセージを提示し、環境に配慮した製品の使用における行動意図を測定した。その結果、動画視聴群の道徳的規範は、対照群と比較して有意に高まることが確認され、さらに、否定的メッセージ条件下で罪悪感を媒介して行動意図が高まることが明らかになった。
実験3では、実験1・2で得られた知見の実社会への適用可能性を検証するため、食品ロス削減を訴えるFacebook広告を作成し、オンライン広告を用いたフィールド実験を行った。その結果、道徳的規範を訴求した否定的メッセージを使用した広告が、他の条件と比較して最も高いCTR(クリック率)を示し、実社会においても効果的であることが確認された。
本研究の結果を総合すると、道徳的規範が高い人々は、否定的メッセージに対して強い罪悪感を感じ、それが環境配慮行動の意図を高めることが明らかになった。この効果は、オンライン調査だけでなく、実際の広告キャンペーンにおいても裏付けられ、実践的な応用可能性が示唆された。
今後の研究では、否定的メッセージの強度や、他の心理的要因(例えば自己効力感や社会的圧力)がメッセージの効果に与える影響を詳細に検討し、より効果的な環境行動促進戦略の開発に貢献することが期待される。また、異文化間比較や、長期的な行動変容への影響を検証することで、持続可能な環境配慮行動を促進するための包括的な知見を得ることが求められる。