日本古生物学會報告・紀事 新編
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935. 琉球諸島から発見されたピクノドンテ属の隠生種 : 生きている化石カキ
速水 格加瀬 友喜
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1992 年 1992 巻 165 号 p. 1070-1089

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抄録

宮古列島の下地島および沖縄島西岸の海底洞窟(深度約20m)の薄暗い壁面にかなり大型の見馴れないカキが発見された。殼形態・微細構造・軟体部を検討した結果, この種はベッコウガキに最も近いが, 現生の既知種に該当するものはなく, 白亜紀-古第三紀にテチス海域で繁栄し, 中新世に絶滅したと考えられてきたPycnodonte属の遺存種であることが明らかになった。Pycnodonte (Pycnodonte) taniguchii「和名 : オオベッコウガキ(新称)」と名付けて記載し, その進化古生物学的意義を考察する。その形状・殼色は変異に富むが, 稜柱構造の外層だけからなる右殼の腹縁部は紙のように薄く, 生時には柔軟で, 著しく広い形成面を示す。しかしPycnodonte (s.s.)のすべての特徴(例えば, 長い背縁に沿って広がる固着面, 背側に位置する円形の閉殼筋痕, 広いcommissural shelf, 蟲状のchomata, 蜂の巣状の構造をもつ殼内の空洞, 右殼表面の著しい放射状の割れ目)はよく保持されている。このカキは, ほぼ同所に生息するアマガイモドキと同様に, 隠生化することによって長い地質時代を生き延びてきた「生きている化石」であることが強く示唆される。競合者や捕食者の少ない海底洞窟のような環境には, 古い時代の生物相の一面が残されていると考えられる。

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