抄録
アンガウル島(ミクロネシア,パラオ共和国)に生息するカニクイザル(Macaca fascicularis)は,約80年前に持ち込まれた少数の動物が増えたものだと伝えられている(Poirier & Smith, 1974)。これらのサルの生体計測や血液性状,内部寄生虫相の検査を行い,また血液蛋白の電気泳動分析による遺伝的変異性の定量を行ってこの島の個体群の特徴および由来を明らかにする事を目的として,1986年11月と12月に現地での捕獲調査を実施した。計70頭の試料から得られた結果は,以下の通りである。体格はオス・メス共にインドネシア産のものよりやや小さく,また茶色味を欠く被毛色変異が3頭で観察された。血液性状はこれまで報告されている他産地のものと大差はなかったが,白血球数が多く,赤血球数,ヘマトリック値が低い傾向が認められた。内部寄生虫相では,蠕虫でStreptopharagus1種のみが見出され,単純さが目立った。血液蛋白の変異性は,平均ヘテロ接合体率(H)が10.2%とかなり高く,またトランスフェリンでは6種類の対立遺子が見出された。アルブミンやトランスフェリンのタイプからみると,インドシナ半島や大スンダ列島のカニクイザルに由来するものと思われた。