抄録
最近某造船所における大型油槽船の建造に際して一部隅肉熔接部に熔着金属が母材から剥離するという事故が発生しその熔接部およば使用鋼板の安全性を調査する研究が当部に依頼された.本文はその研究報告の概要であって隅肉熔接シャルピー衝撃試験およぶ隅肉熔接疲労試験が行われている.その結果を総括すると以下の各項となる.
1)この鋼板の隅肉熔接部に発生した欠陥(剥離性破壊)は通常のアンダービードグラックとは異なり鋼板自体の持つ微小偏析物がその板厚の方向の強度を著しく不足させていることに基くものである.
2)低水素系熔接棒の使用や予熱を行うことは剥離性破壊の発生を幾分少なくする程度に止まっている.
3)鋼板に焼準を施す事によっても充分な効果は期待できない.
4)この鋼板は衝合熔接に対しては全く欠陥を示さなか
った.
5)この鋼板に対して行われた隅肉熔接部の疲労強度は良好な鋼板と比較して殊んど損色が見られず疲労試験に於いては熔着金属が母材から剥離することは全くなかった.
6)隅肉シャルピー衝撃試験の結果では試験温度が上昇するほど剥離性破壊の発生は増加している.