抄録
1.伊豆大島及びその付近より神津島に至る水域のカニについて,1954年より1965年までの調査結果から16科78属130種を同定し,本水域における分布相について論及した。2.同定されたカニの系統別構成は次の通りである。I.インド太平洋種44,II.インド洋特有種36,III.熱帯太平洋種13,IV.極東固有種7,V.日本固有種27,VI.北部太平洋(寒流系)種1,VII.汎世界的分布種2。I〜IIIは熱帯系種で合計93,IV〜Vは温帯及び亜熱帯系種で34,この構成は日本全土の分布相にほぼ似ている。3.本報告が新しい北限地となる熱帯系種は22で,この中には小笠原,北大東島,沖縄が従来の北限地とされていた各1種が含まれている。4.本水域でのカニ類の分布相は八丈島から相模湾への移行型を示すが,黒潮本流の強い影響を受けて,その地理的位置よりも南の分布相を示し,ことに大島汀線帯のカニについて,それが著しいことを確認した。ただし,この分布相は,黒潮の強勢な夏期を中心とした季節的なものであろうと考えられる。5.安定した砂泥底質の海浜を欠き,淡水系に乏しい大島から得られた3種のSand Crab-Ocypoda stimpsoni, O.cordimana,Scopimera globosa;2種のEsturine crab-Eriocheir japonicus, Sesarma(Holometopus) haematocheir:1種のFresh water crab-Potamom(Geothelphusa) dehaaniについてのべ,波浮港内のカニの生活についても言及した。6.稀少種のうち,Lasiodromia coppingeni unidentata, Achaeopsis rostrata,Platymaja bartschi, Ovalipes iridescens, Charybdis orientalis, Lybia tessellata, Geograpsus crinipesの7種についてのべた。