本稿では、日本人ムスリムの改宗までの諸経験に着目することで改宗プロセスの分類を行う。先行研究においては、日本人の改宗の大半はムスリムとの結婚が契機であるとされ、結婚以外の経験は十分に着目されてこなかった。本研究ではまず、欧米の先行研究から「便宜的改宗者」と「確信(意識)的改宗者」、及び「関係的改宗」と「理性的改宗」という分析視点を提示する。これらの視点を基に、インタビューデータや入信記にあらわれる諸経験を検討する。そこで、日本においても、グローバルな人や情報の移動の中で生じるムスリムとの交流や海外渡航等が契機となる関係的改宗や、読書、勉強会、議論などが重要となる理性的改宗が時に重なり合いながら現れていることを指摘する。一つの要因に還元できない多様な経験に着目する本稿は、従来の日本人の自己像と他者としてのムスリム像の双方を問い直し、今日のイスラームをめぐる共生の課題解決に向けたひとつの視座を提供するものである。