タイでは1980年代以降、農村開発に関心を持つNGOや研究者から、地域開発に従事する僧侶の活動が注目されており、僧達のイニシアチブが高く評価されている。本稿では「開発僧」の問題を、開発主義政策と上座仏教サンガ組織の関わり、NGO活動と地域僧侶の関わり、地域の農村部仏教と住民の宗教的関係から考察した。調査データは、1995-97年に東北タイで実施した開発に従事する僧侶30数ケースの聞き取り調査、文書資料からなる。知見として、第一に、開発僧の一見オルターナティブな開発が、サリット・タナラットの開発政策やサンガの協力体制という社会的背景で生まれ、しかも、開発の方法は地域の仏教伝統に根ざしている事実を確認した。第二に、僧侶による開発はコミュニティ・レベルでは成果を上げているが、それを国家経済・社会レベルの発展に結びつけようとする政策や開発論には様々な問題があることを指摘し、仏教・僧侶の役割の限界を示唆した。