抄録
コバルト共存下のヒスチジンの示す極大電流については,古くから注目され,ある場合は極大波として,ある場合は接触水素波として見られてきており,この性格が定まらなかつた. 本研究では,通常ポーラログラフ法,放射ポーラログラフ法,吸収スペクトル法等を用い,コバルト(ll)を含むアンモニア緩衝溶液中での電極還元を-1.0V - -2.0Vの加電圧範囲に於て検討した. 装置としては,島津自記ポーラログラフ,Philipsシンチレーション・カウンター,島津分光光度計を用い,10-3FCoCl2を含む0.1FNH4CI-NH3緩衝溶液中でのヒスチジンについて実験を行つた.実験の結果,次の事項が判明した.1)-1.25Vにみられる2価コバルトの還元波は,ヒスチジンを添加すると減少し,-1.45Vに新しく還元波を生ずる.2価コバルトの還元波は波高減少を利用し電流滴定を行なつた所,コバルトとヒスチジンは1:2の割合で結合していることが認められた.2)アンモニア緩衝溶液中でのビスーヒスチジナート・コバルト(ll)塩の吸収スペクトルは2つの極大を示す。3)ヒスチジンの添加により-1.45Vに新しく生じた還元波は2電子還元と考えられ,コバルトヒスチジン錯体の還元により,コバルトが金属状態に迄還元する波である事が,放射ポーラログラムにより判つた.この還元電流は添加したヒスチジン量に比例し,ヒスチジン量に応じ,その半波電位は負電位にずれ,極限値は-1.45Vである,4)コバルト還元の限界電流の中程に見られる特殊な極大波は,極少部分を伴い,この極少部はコバルトの拡散電流よりも小さな冠流値を示す.極大波のピーク冠位はヒスチジンの添加量により異なり,又pHが減少すれば正側にずれ,コバルトーヒスチジンの錯体の還元波と重なる.極大波の波高はコバルト及びヒスチジン量に応じ,ほぼ直線的に増加する.放射ポーラログラフ法による観測の結果,この極大波はシステイン波の如き接触水素波と異なり,コバルトの還元に基づくものであることが判つた.5)この極大波は溶存酵素があれば,波高高く,アンモニア濃度が増せば,2つの極人に分かれることが認められた.