抄録
従来報告されているオッシログラフィックポーラログラフは,一般に直流分極電圧下での直流ポーラログラムを観測するもまであって,ペン式ポーラログラフにおける交流ポーラログラフ法に対応するものとしては詳しい報告はまだない様である. したがつて著者等は電極反応の研究および分析化学的応用に新知識を得るために,新らたに交流オッシログラフィックポーラログラフ装置を試作した.オッシログラフィックポープログラフでは,直流電圧の掃引速度が比較的大きく,更にこれに重畳する交流電圧の周期も高周波領域になるため,電気二重層の充放電による荊電電流成分が非常に顕著になる.したがつて交流オッシログラフィックポープログラフを試作するに際してはこの荷電電流成分を除去する必要がある. 著者等はこのためにBarkerの方形波法を用いて荷電電流成分をゲート回路によつて除く事を試みた.しかしながらBarkerの方形波法における様に重畳方形波の周期が充電電流の時定数に比して充分大きい時には単にゲートを行なうだけで有効であるが,オッシログラフ法の場合には数KC/sの方形波を使用するためこの方法のみでは不充分であつて荷電電流成分を除く事はほとんどできなかつた.したがつて,著者等はFig.1に示した様に,まず電極を増幅器によつて駆動させその出力を増幅器の入力側に正帰還して荷電霜流の時定数を大きく減少させる事によつて充分な効果を得る事ができた.(Fig.4)この方法によつて方形波電圧によつて生じる荷電電流はほとんど完全に除去できる. 一方直流加電圧は従来のRandles型のものでは,水銀滴の成長落下に周期させたsingle sweep法と,水銀滴に無関係なmulti-sweep法とがあるが,後者は観測上および理論的取扱上不利な点が多いので著者等はsingle sweep法による事としたが,新らたに陽極側掃引過程を設けて還元に引続いて再酸化が行なわれる様にした.このためには論理回路がかなり複雑なものとなるため,直流電圧の掃引開始信号を零加電圧附近における大きな荷電電流成分を利用して得る方法を考案し比較的簡単な論理回路ですむ様にした.(Fig.12,13) 以上の様な考えに基づいて試作した装置のブロックダイヤグラムはFig.2に示した. 本ポープログラフは荷電電流を含まない方形波ポーラログラムをオッシロスコープによつて観測するものであり,試作装置の特性は次の様になる. 1)交流オッシログラフィックポーラログラムの観測および二現象オッシロスコープを用いるため,同時に直流ポーラログラムの観測ができる. 2)直流加電圧は原則として0から―2v.および―2から0v.へと連続的に掃引し,このため還元波および再酸化波が連続して観測できる.加電圧速度(4v./sec.)および加電圧範囲はいつれも可変である. 3)電圧掃引は水銀滴の成長に同期させてあり,常に同一の成長段階において水銀滴一滴につき一回だけ行なわれる. 4)重畳方形波は燭期3KC/s,振幅10mv.p-pのものを用いた. 5)ゲートは方形波電圧の各立上りから145μsec後に行ない,ゲート幅は10μsecとした. 6)荷電電流を除去するための正帰還同路への入力は可変であつてポーラログラムを観測しながら調節する事ができる. 以上の様に試作したオッシログラフィック方形波ポープログララフの電気的特性,回路について詳細に報告した.