抄録
滴下水銀電極におけるアコペンタアンミンコバルト(III)イオンおよびアコペンタアンミンクロム(III)イオンの還元におよぼすハロゲンィオン,チオシアン酸イオンの影響を直流ポーラログラム,電流時間曲線を記録することによって検討した.コバルト(III)錯イオンの場合,臭素イオン,塩素イオン,チオシアン酸イオンが共存するとコバルト(III)→コバルト(II)に対応する還元波より正の亀位に水銀の溶出波に引き続いて反応電流の性質を持った前波が現われる.しかし,ヨウ素イオンの共存では前波は現われない.クロム(III)錯イオンの場合上記陰イオンによって前波は現われず,多量のヨウ素イオンを添加したときクロム(III)→クロム(II)の還元波全体がより正の電位に移行した.これらの挙動の違いを錯イオンの酸化還元電位と水銀―ハロゲン化水銀(1)系の酸化還元電位の差から説明した.