抄録
DMF中での5-キノリノールのポーラログラムは,不完全な第1波(H)とこれと等波高の完全な第2波(C)の二つからなる。1%の水を含むDMF溶液中でテトラエチルアンモニウムハイドロオキサイドを加えると第1波だけが減少し,当量以上のプロトンアクセプターの存在下では第2波のみとなつた.この間,第2波までの全波高和は常に2電子還元に対応し,また第2波の半波電位は不変であつた.このことからDMF中での5-キノリノールの第2波をキノリノレートアニオンのピリジン核の還元(本文(2a),(2b),(2c)式)に,したがつて第1波をOH基の水素の還元(本文(1)式)に対応させた. 水の添加により第2波は正電位に称行し,5~20%の水を含む溶液中では第1波の1部と重なつた.更に水を加えるときは第1波の前後に新しい二つの波(B1,B2)が出現し,これらはもとの二つの波(H,C)を消費しながら増大し90%含水溶液中ではほぼ等波高の(B1,B2)両波のみとなつた.DMF-水系混合溶媒中での全波高和は常に2電子還元のそれに対応した.一方,同混合溶媒中での5-キノリノールの吸収スペクトルを研究した結果,460mμ付近に最大吸収(ε=66.2,90%水溶液中)が観察され,この吸収は水の増大と共に(B1)波高の増大に対応して急激に増大した.この吸収はキノリノレートアニオン(λmax=370mμ,ε=3.21×103)およびヒドロキシキノリニウムカチオン(λmax=370mμ,ε=2.31×103)のいずれとも異なる新しい分子種の生成を示すものと考えられる.以上の結果から(B1),(B2)両波はこの新しい分子種(恐らく水和型)の還元に起因し,その機構はキノリンおよび6-クロルキノリンのそれとほぼ同じく,第1波(B1)が活性二量体の形成(5)式に,第2波(B2)がその活性二量体の還元(6式)に対応するものとした.