Review of Polarography
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交流ポーラログラフ法による電極反応速度定数の測定
神原 富民石井 猛
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1961 年 9 巻 1 号 p. 30-35

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抄録
 交流ポーラログラフ法で記録されるピークの高さは,関与する電極反応の可逆度に依存する神原,松田によつて導入された理論によると,電極―溶液界面のFaradaic Admittrnccは(1)式で与えられる.ここでIAcは交流電流の振巾,Δは交番電圧の振巾,qは電極表面積,ωは角速度,κ=0.627m2/3tI/6はよく知られているIlkovic factor,-di/dEは古典ポーラログラムの微分曲線である.可逆度は(2)式の様なパラメーターλに支配されている.、ここでkkは還元と酸化の電極反応速度定数であり,DoととDRは酸化体と還元体の拡散定数である.関数f(λ,ω)は(3)式で定義される.還元体の初濃度が0に等しいときは(4)式となり,Ilkovic理論により(5)式を用いると,(6)式をうる.yが実験的に測定出来ると,可逆度に関する関数f(λ,ω;)は次の様にして求めることが出来る.交流電流が最大値を示す半波電位での変数λを碗としよう.それから一次近似として(7)式がえられる.ksは標準電位での速度定数である.この様に一定周波数の場合での関数f(λ,ω;)は(8)式で簡単に決められる.log f (λ,ω;)とlog(λ/√ω;)の変化はFig.1に示される.勾配1及び0の2直線は,破線で示される理論曲線の漸近線である.交点はf(λ,ω;)=1及びλ/√ω;=1に相当する.A.C.及びD.C.ポーラログラフ法に於ける波高は,柳本製A.C.ポーラログラフ(Type PA-102)で測定し,ポーラログラム例はFig.2に示す.滴下時間tAc及びtDcは,それぞれ交流波の頂点電位及び直流階段の高い平滑部で測定した.Randlcs,Somertonによつて報告されているksの値を用いるとlog xは計算出来,Fig.1.に示される様にlog x対log yの図にプロットされる.実験結果はTable 1.に要約される.Fig.1に示した直線はlog y=log x+6.72で示されることがわかつたA.C.ピークの高さを反応速度定数との対応性は千田,千出及び館によつて実験的に見出されていたが,現在の方法で反応速度定数を容易に決定することが出来る.1M NaOH中のZn++を用いての実験ではlog yzn=0.53であり,これからxzn=6.46×10-7をうる(標準としてHClO4中のBi+++のデーターを用いてxBi=1.83×10-6がえらばれた).復極剤の濃度と水銀流出速度は一定に保たれるので,計算によりks=7.4×10-5cm/sec(for Zn2+ in 1M NaOH)となる. 可逆度の関数f(λ,ω;)がA.C.ポーラログラフ法のピークの高さを決定するということは,理論的に予想される.標準電位での反応速度定数値についてはよく一致することが実験的に立証された.D.C.波高と一緒にA.C.波高を測定すればlog yの値を定めることが出来,それに相当するκ又はλ/√ω;の値を決定することが出来る.しかしながらこの方法の第1の困難性はA.C.波高が濃度とよく比例する濃度範囲はD.C.ポーラログラフ法に於ける範囲より低い事である.それにもかかわらず,この方法は標電位での反応速度定数ksを計算するのに非常に簡単で迅速な方法を提供している.2,3の場合に於いては,電極反応に先行する化学反応があるということが知られている.その為に本法によつてえられる値は,簡単な電極反応が行われる場合に等価な速度定数であるということが出来よう 以上を要約するに交流ポーラログラフ法の波高と反応速度定数との関係が,神原,松田が提出した理論に基づいて実験的に研究された.A.C.波高は,可逆度関数によつて変化することが見出され,標準電位での電極反応速度定数Ksを計算する新しい簡単な迅速な方法が提出された.
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© 日本ポーラログラフ学会
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