Review of Polarography
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水-アセトニトリル混合溶媒におけるタリウム及びカドミウムの還元電位
高橋 玲爾
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1961 年 9 巻 3 号 p. 116-120

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抄録
 非水溶媒中の電極電位の決定は次の理由により極めて困難である.(1)N.C.E.,S.C.E.等の如き水溶液を用いて構成されている参照電極を結合して測定を行なう場合,非水溶液と水溶液との間に生じる液界電位はかなり大きな値をもち,不安定で測定が困難であり,因子が複雑で消去することも計算することも不可能に近い.(2)被測定電解液と同じ溶媒を用いた参照電極を設定することが考えられるが,この場合,作られた電極にはその参照電極としての動作に疑問がある場合が多い.一つの方法として,水溶液におけるタリウムの如く,各媒質中でその還元電位が一定あるいは既知の物質を共存させ,これと比較して電極電位をきめることが考えられる.Vlcekはカリウムをそのような目的で,非水溶媒中で用いているがあまり一般的ではない.より陽なる還元電位をもつ物質として,ここではタリウム及びカドミウムがとり上げられ,水-アセトニトリル混合溶媒中で硝酸カリウムを支持塩として検討された. 液界電位をなるべく安定させる目的で,硝酸カリウム飽和の水溶液寒天ブリッヂを上向きに,すなわちアセトニトリル含有のため密度の小さくなつている被測定電解液が水溶液の上になるようにしてN.G.E.との結合を計つた.かようにして得られた各媒質中に共存するタリウムとカドミウムの半波電位(第I表)は共にアセトニトリルの増加によつて陽へ移るが,液界電位を含むため,その値にはやや曖昧さが存する.しかし同一媒質中における両者の差は,液界電位を含まずさらに参照電極とは無関係であり,測定値もより精確になしうる(第II表). Tomesに従つてそれぞれの還元波について(E¾-E¼)を測定すると,用いられたアセトニトリル含有量の範囲では,タリウム及びカドミウムについての理論値-56mV.,-28mV.に対し,第I表の如き結果が得られる所から,それぞれの過程はいずれも充分なる可逆性をもつものと考えられ,以下の扱いが妥当となる. すなわち,それぞれの半波電位は第(2)式で表わされ,液界電位Elを含むが,共存する二物質の半波電位について差をとれば第(4)式の如くになる.第(4)式右辺第2・第3項の,fa及びDaは水銀中の還元体に関係し,ポーラログラフ的微少電流の状態下では,その外側の媒質(溶液)とは無関係に,一定値を保つものと仮定しうる.さらに同式右辺の,fi及びDiは溶液中のイオンに関係し,溶媒の効果をEoに含めて定義すれば,活量係数,fiはその溶液中で定義された活量係数として,希薄溶液におけるDebye-Hückelの扱い(第(3)式)が適用可能である.その溶液中でのイオンの拡散係数恥は,限界拡散電流値をIlkovic式に適用して求められる.第(4)式を第(5)式の如く変形し,その左辺の総和をdoとおけば,第II表の値を用いて計算されたΔEは同表最終行の如き値をとる.Di及びκは前報の測定値から計算され,aは4×10-8cm.とおかれた.溶媒の透電恒数εはStrehlowらの測定値をとつた.ΔEをεの逆数に対してプロットすると,第1図の如く直線関係が得られた. イオンが,溶媒との化学反応及びイオン対形成を伴なわずにある溶媒中におかれるとき,その溶媒和エネルギーはBornの理論から第(6)式の如く表わされる.溶媒和エネルギーの差が,その溶媒中での標準単極電位の差に相当すると仮定すれば,共存する二つのイオンについて(7)の如き関係が成立する.それぞれのイオンの標準単極電位Eo'は,同一溶媒中の標準アマルガム電極電位Eoと直線関係にあるから,第(5),(6),(7)の諸式からΔEはεの逆数と直線関係となる.実験との一致から,タリウム及びカドミウムは共に,用いた溶液中では,溶媒との化学反応及び会合イオンの形成を行わないものと解釈され,各溶媒中での標準電位,さらに半波電位の算出の可能性が与えられた。'ただし,タリウムとカドミウムとのイオン性の相違の程度から,それぞれのBornの理論からの偏差が両者について差をとることにより打消されることはないものとした. 最近のSchwabeによる,0.1M酢酸緩衝塩を含む水-イソプロパノール中のタリウムの半波電位値の測定結果では,半波電位値がεの逆数に比例しないとされたが,これは拡散定数及びイオン間相互作用の補正がなされていないためと考えられる.
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© 日本ポーラログラフ学会
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