2024 Volume 51 Issue 6 Pages 188-194
これまでの我々理学療法士による超音波の利用は「物理療法」における超音波療法が主であったが,本論のテーマである「下肢静脈エコー」は超音波検査に位置付けられるものである。これまでの理学療法における超音波の利用方法とは異なることから,本稿ではまず検査としての超音波がどのように発展してきたのか,その歴史を簡単に振り返り,次に超音波検査(エコー検査)の基本的事項,続いて超音波検査(エコー検査)の実際,最後に今後の理学療法士による下肢静脈エコー利用の可能性について解説していく。
超音波(エコー:echo)は周波数が高く,人間の耳で聞こえる範囲の周波数(20~20 kHz)を超えるものとされる。その物理的性質を利用した応用が試みられ,現在では様々な分野にわたる。
超音波の利用は,19世紀後半の圧電(ピエゾ)効果の発見に始まる。この現象はある物質(例えば水晶などの結晶)に機械的な圧力を加えると電圧が生じることであり,逆に電圧を加えると機械的振動を引き起こすことも可能である(逆圧電効果)。この現象を利用し超音波を発生させる技術が確立された。
1920年代にはWood RW, Loomis ALらにより超音波の医療応用に向けて生体組織への影響についての研究が開始された。1930年代には我が国においても雄山らにより研究が始まり,1930年代後半には超音波治療器が開発された。1950年代には,体内の構造を非侵襲的に観察することが可能となり,超音波の医療応用が飛躍的に進展した。日本でも同時期に超音波診断技術が開発され,医療現場での普及が進むこととなった1)。
1970年代には,デジタル技術の発展とともに超音波画像の質が向上し,リアルタイムでの観察が可能となった。これにより,妊娠中の胎児の発育状況を確認する産科領域や,心臓や内臓の異常を検出する内科領域など,多岐にわたる医療分野での利用が進んだ。さらに,2000年代に入ると,3Dおよび4D超音波が開発され,高解像度化,エラストグラフィの導入により,より詳細な画像や情報が提供されるようになり,診断精度が飛躍的に向上している。ドプラ超音波は血管疾患において欠かせないものであり,1960年代のパルスドプラの開発や1980年代のカラードプラの開発により,血管の状態や血流の異常をリアルタイムで把握することが可能となった1)。
このように超音波の利用は医療分野でも多岐に渡っている。近年はリハビリテーション分野,理学療法分野での活用も増えてきている2)3)。
本項では超音波検査の理解を進めるために必要な基本的事項を中心に解説する。
1. 超音波の特性4)5)超音波は可聴範囲を超えた周波数が20 kHz以上の高周波音であり,以下に示す特性がある。
1)波長と周波数周波数が高くなると波長が短くなり,細かい構造を検出する能力が向上する。医療用超音波では,一般的に1 MHzから20 MHzの範囲の周波数が使用される。
2)音速超音波の音速は媒質によって異なり,組織の密度と弾性に依存する。一般的に体内では約1,540 m/secである。
3)反射と透過超音波は媒質の密度と伝搬速度が異なる境界面で一部は反射し,他は透過する。直進で入射したときはそのままの角度で反射するが,斜めに入射したときは入射角と反射角が等しくなる。密度と伝搬速度の積を音響インピーダンスといい,これらの差が大きいところでの反射は強いものとなる。この反射波を利用して内部構造の画像を生成する。
4)散乱超音波は小さな粒子や不均一な構造の反射面によって散乱される。散乱とは反射面に当たった超音波があちらこちらに広がることをいう。この散乱波も画像生成に利用されるが,過度の散乱は画像の質を低下させる。
5)減衰超音波が媒質を通過する際にエネルギーが減少することを減衰といい,減衰により深部の構造の検出が難しくなる。高周波ほど減衰が大きくなるため,深部の検査には低周波が使用される。
6)音場超音波が発射されたときに音が伝わる領域のことをいい,広い平面から発射された場合は平面波となり直進するが,小さい面から発射された場合は球面の波となる。
2. パルス波と連続波4)5)パルス波は断続的に超音波を発射するもので,1秒間当たりの発射する数をパルス繰り返し周波数といい,パルス波の長さをパルス幅という。パルス波を用いる超音波検査(例えばパルスドプラなど)では,パルス波とパルス波の間で反射して戻ってきた超音波のデータ収集が行われる。
連続波は連続的に超音波を発するもので,反射した超音波がいつのものか同定することは難しいため,反射元との距離を測ることが難しい。
エコー検査の基本的な仕組みは,超音波を発生させる探触子(以下,プローブ)と呼ばれる装置から,体内に超音波を送信し,その反射波を受信して画像化するというものである4)5)。プローブには圧電素子が内蔵されており,圧電効果により電気信号を超音波に変換する。また,体内の異なる組織や構造に応じて反射波の強さや速度が変化するため,その情報を基に画像が生成される。超音波が体内の組織に当たると,その一部が反射し,残りはさらに深部へと進む。反射した超音波は再びプローブによって受信され,その時間差や振幅の変化を解析することで,体内の組織構造や異常を可視化する。この際,超音波は体内の水分量や密度の違いによって異なる速度で伝播するため,異なる組織や臓器の境界が明瞭に描き出される4)5)。
1. 探触子(プローブ)と走査方式4)5)プローブは超音波の発信,反射波の受信と超音波検査における重要な役割を担っている。プローブは音響レンズ,音響整合層,振動子,音響吸収材で構成され,振動子で発生させた超音波を音響整合層で生体への送受信効率のよい状態に調節し,音響レンズにて超音波を収束させ生体に発信する。生体から反射してきた超音波は振動子で電気信号に変換される。音響吸収材は生体と逆方向に発信された超音波を吸収する役割を果たす。
超音波を発信する振動子と受信する振動子は同一のものであるが,発信している間は受信できない。そこで送受信を切り換える必要がある。実際に使用されるプローブでは多数の振動子を並べて電子的に切り換えることで送受信を行うこととなる。多数の並列した振動子からの超音波発信を切り換えることを走査という。走査方式にはいくつかの種類があり,適したプローブを用いる(表1)。
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文献4, 5, 8を参考に作成.
超音波ビームが平行に直線的に送信され,得られた画像は長方形または正方形の断面図として表示される。
2)セクタ走査超音波ビームの発信点が固定され,方向を変えることにより扇形に広がる。得られる画像は扇形になる。
3)コンベックス走査(オフセットセクタ走査)リニア走査の生体接触面を凸形にしたプローブにより行う。超音波ビームは扇形に広がり,広範囲の深部の臓器の画像化に適している。
4)フェーズドアレイ走査プローブ内の複数の振動子が,電子的に制御されることで,超音波ビームの方向を瞬時に変更できる。狭い接触面積から広範囲の視野を得ることができるため,心臓などの動的な臓器のリアルタイム観察に適している。
2. モードの種類4–8)超音波検査装置には,Ampritudeモード(Aモード),Brightnessモード(以下,Bモード),Motionモード(以下,Mモード)の他,いくつかのモードがあり,それぞれ異なる目的と仕組みを持つ。これらのモードは,心臓,肝臓,腎臓,甲状腺,乳腺,血管,胎児などのさまざまな臓器の構造や状態を評価する際に使用される。以下に主要なモードとその仕組み,目的,検査方法,使用対象について説明する。
1)Bモード(輝度(Brightness)モード)(図1a)Bモードは,反射波の強度に応じて明るさ(輝度)が変わり,これを二次元画像として表示する。最も一般的に使用されるモードであり,臓器や構造物の形態を観察するために使用される。使用対象は,腹部臓器(肝臓,胆嚢,膵臓,腎臓),甲状腺,乳腺,妊娠中の胎児,心臓である。プローブを患者の皮膚に当て,プローブを動かしながら対象部位の適切な断面を取得し,リアルタイムで画像を確認することができる。
下腿後面腓腹筋外側頭近位部,a: Bモード,b:カラードプラモード.
Mモードはプローブを一定の位置に固定し,時間の経過に伴う反射波の変化を記録するモードであり,組織や構造物の動きを時間軸に沿って表示する。主に心臓の動きや血管の壁運動を観察するために使用される。
3)ドプラモード(Dopplerモード)ドプラ超音波検査は,主に血流の速度や方向を評価するために用いられる技術である。この検査では,プローブから送信された超音波が血流により反射される際に生じる周波数の変化を測定する。この周波数の変化量は,血流の速度に比例しており,血液がプローブに向かってくるときは周波数が増加し,遠ざかるときは減少する。この周波数シフトを解析することで,血流の速度と方向をリアルタイムで可視化することができる。
これらはBモードの画像を連続的に取得し,それをコンピュータで三次元画像として再構成するモードである。3D画像に再構成する際の座標変換などの計算は複雑であるため,ボクセルデータ(立体格子状のデータ)にいったん変換し保存される。4Dモードでは,これに時間軸を加えた動的な三次元画像が得られる。胎児,心臓,肝臓,乳腺などが対象で,臓器や胎児の立体構造を詳細に観察するために使用される。リアルタイムで3D画像が表示されるため,動きも観察できる。
5)エラストグラフィモード(Elastographyモード)超音波エラストグラフィは組織の硬さ(弾性)の分布を非侵襲的に画像化する技術である。加圧方法は手動によるもの,音響放射力によるもの,加振の方法は音響放射力によるもの,機械的加振などに分類される。計測される物理量はひずみ(または変位)と剪断波速度で,これらを用いた計算により定性的,定量的な組織の硬さが求められる。
超音波検査には,様々な種類と使用目的があり,それぞれの検査が特定の疾患の診断や治療計画に役立つ。ここでは主な超音波検査の種類とその使用目的について説明する。
1. 腹部超音波検査4)腹部超音波検査は,肝臓,胆嚢,胆管,膵臓,腎臓,副腎,脾臓,膀胱などの腹部臓器を観察するために使用される。これにより,肝硬変,胆石,膵炎,腎結石,腫瘍などの病変を診断することができる。また,腹水や胸水の貯留などもモリソン窩やダグラス窩,胸腔にて確認できる。特に,肝臓の状態評価や肝臓癌の早期発見には非常に有効である。
2. 産科・婦人科超音波検査(骨盤腔超音波検査)4)産科超音波検査は,妊娠中の胎児の発育状況を観察するために行われる。妊娠初期から胎児の心拍確認や成長状態のチェック,胎盤の位置や羊水の量の評価などが可能である。婦人科超音波検査では,子宮や卵巣の状態を確認することができ,子宮筋腫,卵巣嚢胞,子宮内膜症などの疾患の診断に用いられる。
男性の骨盤腔超音波検査では前立腺の検査により,前立腺癌や前立腺肥大などの病変が確認できる。
3. 心臓超音波検査(心エコー)4)心臓超音波検査は,心臓の構造や機能を評価するために行われる。心臓の壁の厚さ,心臓弁の動き,血流の速度や方向などを観察することができ,心筋梗塞,心不全,心弁膜症などの診断に役立つ。特に,心臓のポンプ機能の評価(左室駆出率:Ejection Fraction(EF))には欠かせない検査である。
4. 血管超音波検査4)6)9)血管超音波検査は,主に頸動脈,四肢の動脈・静脈の状態を観察するために使用される。動脈硬化の程度や血栓の有無を確認することができる。また,ドプラ超音波を用いることで血流の速度や方向を測定し,血管の狭窄や閉塞の評価を行う。下肢静脈疾患の診断にも広く用いられている。
5. Focused Assessment with Sonography for Trauma(以下,FAST)10)外傷に対する焦点を絞った超音波による評価で,超音波で検出しやすい場所に絞って,出血の有無を確認する検査のことで,外傷の初期診療における循環の異常を認める患者に対して必須の検査である。①心嚢腔,②モリソン窩,③右胸腔,④脾臓周囲,⑤左胸腔,⑥ダグラス窩の順番に検査し,液体貯留の有無を検索し,心嚢腔,胸腔,腹腔の出血の有無を確認する。FAST陽性(出血あり),FAST陰性(出血なし)と判断する。
6. その他の特殊な超音波検査2–4)その他の特殊な超音波検査には,乳腺超音波検査,甲状腺超音波検査,関節超音波検査などがある。乳腺超音波検査は,乳腺組織の状態を評価し,乳癌の診断に用いられる。甲状腺超音波検査は,甲状腺の腫れや結節の有無を確認するために行われる。関節超音波検査は,関節内の炎症や液体の貯留,靭帯の損傷などを評価するために使用される。
超音波検査は,医師,検査技師,理学療法士などの医療専門職によって利用されている。それぞれの職種が超音波検査をどのように活用しているのかについて説明する。
1. 医師による超音波検査(エコー検査)の利用4)6)9–13)医師は,主に診断目的で超音波検査を使用している。内科,外科,産婦人科,循環器科,皮膚科など,多くの診療科で超音波検査が行われている。例えば,産科の医師は胎児の発育状態や異常を確認するために,内科の医師は肝臓や胆のう,腎臓の状態を観察するために,循環器科の医師は心臓の機能や血管の状態を評価するために利用する。また,外科の分野では,手術前後の状態確認や,経皮的処置のガイドとして超音波が用いられることが多い。医師は,患者の症状や既往歴,身体検査の結果などを総合的に判断して,超音波検査の適応を決定し,検査結果を解釈して診断を下す。
2. 検査技師による超音波検査(エコー検査)の利用4)6)9)11–13)臨床検査技師や診療放射線技師は,医師の指示のもとで超音波検査を実施する。彼らは,高度な技術を持ち,プローブの操作や画像の調整に習熟している。検査技師は,患者の体位の設定や適切なプローブの選択,画像の撮影技術などに精通しており,質の高い画像を提供することで,医師の診断をサポートする。特に,血管超音波検査や心臓超音波検査においては,技師の技術的なスキルが診断精度に大きく影響するため,その役割は非常に重要である。
3. 理学療法士による超音波検査(エコー検査)の利用理学療法士は,主に治療計画の策定や治療効果の評価に超音波検査を使用するが,診断行為は行わない。医師の診断を補完する形で,より具体的な治療アプローチを提供するための情報を得る手段として利用されることが多い。
理学療法士がリハビリテーションの過程で超音波検査を活用する機会は増えており,平山2)は理学療法士の運動器エコー活用方法が大きく2つに分けられるとしている。1つは触診や体表解剖の学習ツールとして,2つ目は理学療法評価・治療の補助ツールとしての活用である。特に,2つ目の評価ツールとしての活用方法は筋骨格系の評価において有用であり,筋,腱,靭帯の状態をリアルタイムで観察することができる。例えば,筋肉の収縮やリラクゼーションの様子や筋の癒着や滑走性の低下を観察したり,筋断面積や筋線維長,筋の質の変化を定量的に評価したりすることができる。これらの情報からリハビリテーションの効果を評価したり,適切な運動療法を計画したりすることが可能となる3)14–19)。また,近年ではウイメンズヘルスや産科領域での理学療法士の活動も活発化してきており,骨盤底筋群へのアプローチに対する評価にも応用されてきている20)21)。
下肢静脈疾患(下肢静脈瘤や深部静脈血栓症など)の診断と治療において,超音波検査は重要な役割を果たしている。日本静脈学会は,下肢静脈瘤に対する超音波検査の標準的な記載方法と,その臨床応用について詳細なガイドラインを提供しており,特に超音波検査による静脈の評価が,治療方針の決定に重要であるとしている6)12)。超音波検査は非侵襲的であり,患者への負担が少ないため,初期診断やフォローアップの手段として広く使用されている6)11)12)。
1. 下肢静脈瘤の診断6)11–13)下肢静脈瘤は,静脈の弁が機能不全を起こし,血液が逆流することで発生する。超音波検査は,静脈の形態や血流の状態を観察するのに有用である。特に,カラードプラ法を用いることで,血流の方向と速度を可視化し,逆流の有無やその程度を評価することができる。これにより,治療の必要性や治療法が決定される。例えば,逆流の範囲が広範である場合,外科的治療が検討されることがある。
2. 深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:以下,DVT)の診断6)11–13)DVTは,下肢の深部静脈に血栓が形成される疾患で,血栓が肺に移行すると致命的な肺塞栓症を引き起こすリスクがある。超音波検査は,DVTの診断においてゴールドスタンダードとされており,超音波を用いることで,血栓の有無,位置,サイズを正確に評価することができる。また,圧迫法を用いることで,静脈の圧迫性を確認し,血栓の存在を確認することができる。血栓が存在する場合,静脈は圧迫に対して閉鎖しないため,この手法は非常に有効である。
3. その他の静脈疾患の評価超音波検査は,慢性静脈不全症の評価にも利用される。慢性静脈不全症は,静脈の血流が不十分な状態が長期間続くことで発生し,下肢の腫れや痛み,皮膚の変色などを引き起こす。超音波検査により,静脈の構造的異常や血流の不均一性を評価することができる。これにより,弾性包帯やストッキネットなどを用いた適切な圧迫療法や外科的介入の必要性を判断することが可能となる。
4. 理学療法に関連した下肢静脈エコーの例我が国の理学療法場面での超音波検査の例は運動器疾患に対して,筋機能や関節機能の評価への使用が多いのが現状である2)3)14–18)22)。運動器疾患やスポーツ障害に対する理学療法場面では急性期の炎症やその後の拘縮の存在は,パフォーマンスやADLの低下に直結する問題であるとともに,高齢者やサルコペニア患者にとっても筋の質的評価の有無および成否は,理学療法ゴールの達成に向けてのプログラム立案に重要な情報となる。これらの情報を非侵襲的手段である超音波検査で得られることは,対象者のみならず,理学療法,ひいては理学療法士にとっても重要である。
しかしながら,運動器以外の超音波検査を使用した理学療法に関連した報告は限られている。高橋ら22)は内部機能に関する超音波エコーを使用した評価について報告している。脈管系の評価,横隔膜の評価,膀胱の観察を取り上げているが,脈管系の非侵襲的な評価は簡便であるが解剖学的知識や健常者での事前の練習が必須で,それがなければ困難な検査であるとしている。深部静脈血栓症の診断には血栓の有無や急性期か慢性期か,存在する領域,安定しているか,不安定かなどを確認する過程がある11)。その超音波検査による静脈内血栓の確認に際し,静脈圧迫法や下腿の圧迫(ミルキング)の実施時に,血栓の遊離による肺血栓塞栓症を誘発する危険性に対する注意を喚起している18)22)。
報告者は理学療法士ではないが,下腿リンパ浮腫に対する圧迫療法・複合的理学療法による効果を,新美ら23),Suehiroら24)は超音波検査を用いて検討した結果を報告している。また,我が国の各関連医学会のガイドライン6)13)25)26)を確認しても,理学療法治療が可能な疾患における超音波検査の必要性が記されている。
理学療法における超音波検査の利用は今後ますます広がると予測され,今後は理学療法士も簡便に使えるツールとなることが期待される。
そのためにも,多職種連携の強化も重要で,理学療法士,医師,検査技師などの医療専門職が連携して,エコーを活用した包括的な治療アプローチが求められる。例えば,理学療法士がエコーを使用して評価した結果を医師に報告し,共同で治療計画を立案することで,患者にとって最適な治療が提供される。多職種連携にも関係するが,エコーガイド下注射やエコーを利用した新しい治療技術の開発が進んでいることにより,より安全で効果的な治療が可能になり,患者の回復を促進することができることから,理学療法士もそれらの治療法の理解が必要である。
また,ポータブルエコー装置の開発により,理学療法士が自宅訪問やスポーツ現場での超音波による評価を行うことが容易になってきている。このことにより,患者の状態をその場でリアルタイムに評価することが可能となり,迅速な対応が可能となる。米国では理学療法士協会の深部静脈血栓症診療ガイドライン(American Physical Therapy Association’s Clinical Guideline for Deep Venous Thrombosis)27)が示されており,また英国ではSmithら28)が理学療法士の超音波検査介入についての指針を提言している。我が国とは制度上の違いはあるが,理学療法士が超音波検査に関与していくことも増加することが予想されることより,同様のガイドラインの策定が待たれる。
最後になるが,理学療法士がこの超音波検査の技術を効果的に利用するためには,教育と訓練がさらに重要となる。現在の理学療法教育課程おいて「超音波検査」をカリキュラムに取り上げている教育機関や理学療法士に向けた画像診断学の教科書は限られている。まずは教育課程の充実(最低限本論の前半で述べた基本的な知識)と,理学療法士による臨床での実践例の積み重ねが重要であり,今後に期待したい。