Physical Therapy Japan
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Practical Report
Possibility of Preoperative Rehabilitation for Frailty Patients Undergoing Transcatheter Aortic Valve Implantation
Yuki Yoshimura Shun HoriguchiSeiya OkadaSeiji ShimadaYukihiro MiyagawaAkira ArimaMasaomi Hayashi
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2026 Volume 53 Issue 1 Pages 62-68

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要旨

【目的】フレイルを呈する経カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:以下,TAVI)患者における術前リハビリテーション(以下,術前リハ)の実践が身体機能に及ぼす影響を明らかにする。【方法】2024年8月~2025年3月の期間で待機的にTAVIを施行された患者を対象とし,術前リハ群と非術前リハ群に分類した。主要アウトカムをShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)とし,入院関連機能低下(Hospitalization-associated Functional Decline:以下,HAFD)発症率の比較および介入前後の群間の差を反復測定二元配置分散分析にて検討した。【結果】HAFDの発症率は術前リハ群0%(0/28名),非術前リハ群31%(5/16名)であった(p=0.004)。SPPBスコアの合計と4 m歩行で交互作用を認め,術前リハ群で改善が顕著であった。【結論】フレイルを呈するTAVI患者に対する術前リハの実施はSPPBスコアの維持・向上に影響する可能性が示唆された。

はじめに

本邦における経カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:以下,TAVI)の件数は,高齢者や外科的手術リスクの高い大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis:以下,AS)患者を中心に,年々,増加傾向にある1。術後は循環動態が安定すれば可及的速やかに離床を行うことが推奨されており2,TAVI後の心臓リハビリテーションは,Barthel indexおよび6分間歩行距離(6-min Walk Distance:6MWD)の回復に寄与する3

一方,TAVI前後に運動耐容能や身体活動量が改善しないとの報告もある45。TAVI患者の術後入院期間は中央値8日(四分位範囲7–12)6程であり,臨床においてはTAVI後の短い介入期間では,術前より形成されたフレイルや運動耐容能低下を改善できない場面を多く経験する。TAVI患者の心臓リハビリテーションの効果を示したメタ解析3において,対象者は2~3週間セッションに参加しており,高齢・フレイルがベースとなるTAVI患者の身体機能の回復には時間を要することが推察される。

心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2021年改訂版7において,運動負荷試験および積極的な運動療法が禁忌となる疾患・病態として,症候性の重症ASは絶対的禁忌であるが,中等度の狭窄性弁膜症,無症候性の重症ASに関しては相対的禁忌とされている。また,van Erckら5は手技前後で栄養状態と身体活動量に有意な改善を認めないことから,術前に栄養状態または活動レベルを改善すべきと述べている。このような背景から,相対的禁忌に相当する無症候性の重症AS患者に関しては,リスクとベネフィットを十分に考慮して,TAVI前のリハビリテーションを導入する必要があると考える。

小倉記念病院(以下,当院)では2024年8月より入院時のClinical Frailty Scale(以下,CFS)が4以上かつ,AS精査から入院継続しTAVIを行う症例に対し,身体機能の維持・向上を目的とした術前リハビリテーション(以下,術前リハ)を開始している。そこで本研究では,高齢者の身体パフォーマンス評価や身体的フレイルのスクリーニングとして汎用されるShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)7をメインアウトカムとし,フレイルを呈するTAVI患者における術前リハの実践が周術期のSPPBスコアの変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

対象および方法

1. 研究デザインおよび対象

本研究は,単施設後向きコホート研究であり,診療録から各種臨床情報を収集した。当院循環器内科において,2024年8月~2025年3月の期間で待機的に経大腿動脈アプローチ(Transfemoral Approach:TF)にてTAVIを施行された連続166名中,除外基準に該当する122名を除いた44名を解析対象とした(図1)。除外基準は,入院時CFS:1–3にて術後リハビリテーションをクリニカルパスにて看護師が実施した者,術前リハ介入の除外基準に該当した者,術後合併症発症例,データ欠損例とした。本研究はヘルシンキ宣言に則り実施し,データの集計は患者名をコード化し,個人の特定ができないように配慮した。また,ホームページによるオプトアウトを行い,研究内容を適切に公開することで診療情報の利用について拒否機会を設けた。なお,本研究は小倉記念病院臨床研究審査委員会の承認を得ている(承認番号:25041701)。

図1 対象のフローチャート

TF: Transfemoral Approach, TAVI: Transcatheter Aortic Valve Implantation, LVEF: Left Ventricular Ejection Fraction, Vmax: Aortic Valve Maximal Blood Flow Velocity, TRPG: Tricuspid Regurgitation Pressure Gradient.

2. 介入方法

当院では入院時のCFSによりフレイルのスクリーニングを行い,4以上の場合は理学療法士が個別介入を開始する(CFS:1-3の場合は看護師がクリニカルパスに沿ってTAVI後に病棟歩行を実施)。その中でTAVI前日に入院となる者,AS精査からTAVIまで入院を継続する者の2つのパターンが存在する。後者のパターンでは9.5日(四分位範囲:3)の待機期間が生じるため,この期間で術前リハを実施した。なお,2つのパターンはTAVIを行う医師の予定,手術室の空き状況で決定されており,病態による割り付けではない。術前リハの除外基準は症候性のASに加えて,循環器医師と協議の上,経胸壁心臓超音波検査にて左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction:以下,LVEF)40%以下,大動脈弁最大血流速度(Aortic Valve Maximal Blood Flow Velocity:以下,Vmax)5.0 m/s以上,三尖弁逆流圧較差(Tricuspid Regurgitation Pressure Gradient:以下,TRPG)50 mmHg以上のいずれかに該当した者とした。

術前リハは心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2021年改訂版8の慢性心不全患者に対する運動プログラムを参考に実施し,運動療法実施中の中止基準は同ガイドラインの絶対的中止基準・相対的中止基準を遵守した。プログラムは運動前後のウォームアップとクールダウン,有酸素運動およびレジスタンストレーニング,バランストレーニングにて構成した。有酸素運動は歩行もしくは自転車エルゴメータにて実施し,運動強度はBorg指数13以下,心拍数が安静座位時+20~30/min程度かつ120/min以下とした。レジスタンストレーニングはフリーウェイトにてカーフレイズおよびハーフスクワットを実施した。運動強度はBorg指数13以下,1セット10~15回反復できる負荷量とし,1~3セット実施した。バランストレーニングは身体機能に応じて閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位のいずれかを選択し,1回につき20~30秒を2~3セット実施した。平日は理学療法士が上記内容を1回につき30~40分介入し,休日および祝日は病棟看護師へ歩行形態,1回の歩行距離,セット数を申し送り,歩行練習を継続した。術後はTAVI翌日より歩行練習を開始し,段階的に有酸素運動およびレジスタンストレーニング,バランストレーニングを再開した。

リハビリ実施中に限らず,ASの特異的な症状(失神,胸痛),心不全増悪を認めた場合は,有害事象として術前リハは中止とした。心不全増悪の定義は,過去3日以内の心不全自覚症状(呼吸困難,易疲労感など)の増悪,体液貯留を疑う3日間で2 kg以上の体重増加とした8

3. 調査項目

1)基本属性と臨床データ

TAVI直前の基本項目,経胸壁心臓超音波検査,血液生化学検査,併存疾患,リハビリ関連指標を調査した。

基本項目は性別,年齢,Body Mass Index(BMI),Society of Thoracic Surgeons Score(STS SCORE),CFSとした。

経胸壁心臓超音波検査は,大動脈弁狭窄症の重症度指標として大動脈弁口面積(Aortic Valve Area:AVA),Vmax,大動脈弁圧較差(Aortic Valve Pressure Gradient:AVPG)および平均大動脈弁圧較差(Aortic Valve Mean Gradient:AVMG),TRPG,LVEFを用いた。

血液生化学検査は血清アルブミン(Albumin:Alb),血清クレアチニン(Creatinine:Cre),推算糸球体濾過量(estimated Glomerular Filtration Rate:eGFR),血色素(Hemoglobin:Hb),脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide:BNP)を用いた。

併存疾患は高血圧症,糖尿病,慢性腎臓病,運動器疾患,脳血管疾患,呼吸器疾患,冠動脈疾患の有無とした。

リハビリ関連指標は術前,術後の在院日数,術前,術後の理学療法実施日数,術前,術後の複合的運動療法(歩行練習以外の有酸素運動およびレジスタンストレーニング,バランストレーニング)実施日数,術前,術後の理学療法実施単位数とした。

2)身体機能評価

身体機能評価はSPPBを用いた7。SPPBはバランス(閉脚立位,セミタンデム肢位,タンデム肢位),4 m歩行,5回椅子立ち座りの3項目で構成され,それぞれの結果を4点満点で評価し,合計点をスコア化する(0~12点)。心疾患患者の臨床的に意義のある最小変化量(Minimum Clinically Important Difference:以下,MCID)は1点であることが報告されている910。また,入院関連機能低下(Hospitalization-associated Functional Decline:以下,HAFD)は,退院時のSPPBスコアが入院時より1点以上低下した場合と定義した11。なお,本研究では入院日~入院翌日および退院前日に理学療法士が測定した。

4. 統計解析

対象を術前リハ群,非術前リハ群の2群に分類した。各変数について連続変数は,平均値と標準偏差,または中央値と四分位範囲,名義変数は,人数(%)で示した。患者背景因子の比較には,対応のないt検定,Mann-Whitney U検定およびχ2検定を実施した。また,SPPBの変化については反復測定二元配置分散分析(群×時間)を実施し,交互作用が有意であった場合には,群ごとに術前後を対応のあるt検定にて比較した。さらに,介入前後の効果量(t検定d)を算出した。効果量(Effect size)については,dの指標を用いて大きさの目安は0.20~0.49を小(small),0.50~0.79を中(Medium),0.80以上を大(Large)とした12。統計解析ソフトはEZR Ver.1.54を使用した。すべての解析において有意水準は5%とした。統計力分析ソフトウェアG*power3を用いてサンプルサイズの計算を行い,少なくとも66名,各群33名と推定された。なお,検出力(1−β)は80%,αエラーは5%に設定した。本研究の対象者は術前リハ群が28名,非術前リハ群が16名であり,必要なサンプルサイズに至らなかった。

結果

術前リハ実施期間中の有害事象(失神,胸痛,心不全増悪)は確認されず,全例で予定通りにTAVIが施行された。

1. 患者背景因子の比較(表1)

術前リハ群において,有意にAVAが狭小化しており,LVEFが低値であった。その他の基本情報,経胸壁心臓超音波検査,血液生化学検査,併存症,下位項目を含めた術前のSPPBスコアに有意差は認めなかった。

表1 患者背景因子の比較

術前リハ群 n=28非術前リハ群 n=16p-Value
基本項目
女性,例(%)21(75)11(69)0.731
年齢,歳86.7±5.685.1±5.00.344
BMI, kg /m222.5±3.621.4±3.70.322
STS SCORE, %8.67 (8.6)10.7 (8.3)0.880
CFS5(1)5(1.25)0.644
経胸壁心臓超音波検査
AVA, cm20.69 (0.10)0.82 (0.21)0.047
Vmax, m/s4.09(1.09)4.20(0.58)0.798
AVPG, mmHg67.1 (35.6)70.4 (18.9)0.726
AVMG, mmHg38.0 (19.2)40.2 (7.8)0.687
TRPG, mmHg25.4±7.029.3±10.00.170
LVEF, %60.4 (10.5)64.1 (5.5)0.027
血液生化学検査
Alb, g /dL3.5±0.43.4±0.30.407
Cre, mg/dL0.94(0.78)1.05(0.90)0.893
eGFR, mL/min/1.73m246.9±21.547.2±25.20.968
Hb, g/dL11.0±1.510.6±1.40.453
BNP, pg /mL610.6(266.1)300.5(284.9)0.798
併存疾患
高血圧症,例(%)20(71)14(87)0.283
糖尿病,例(%)7(25)3(18)0.723
慢性腎臓病,例(%)9(32)5(31)1.000
運動器疾患,例(%)15(53)4(25)0.113
脳血管疾患,例(%)7(25)2(12)0.450
呼吸器疾患,例(%)8(28)4(25)1.000
冠動脈疾患,例(%)7(25)4(25)1.000
術前SPPB
合計,点6.8±2.97.3±2.70.644
バランス,点2.8±1.32.9±0.80.834
4 m歩行,点2.1±0.92.6±1.00.151
5回椅子立ち座り,点1.8±1.31.7±1.20.796

平均値±標準偏差,中央値(四分位範囲),例(%)で表示.

BMI: Body Mass Index, STS SCORE: Society of Thoracic Surgeons Score, CFS: Clinical Frailty Scale, AVA:大動脈弁口面積,Vmax:大動脈弁最大血流速度,AVPG:大動脈弁圧較差,AVMG:平均大動脈弁圧較差,TRPG:三尖弁逆流圧較差,LVEF:左室駆出率,Alb:Albumin(血清アルブミン),Cre:Creatinine(血清クレアチニン),eGFR:estimated Glomerular Filtration Rate(推算糸球体濾過量),Hb:Hemoglobin(血色素),BNP:Brain Natriuretic Peptide(脳性ナトリウム利尿ペプチド),SPPB:Short Physical Performance Battery.

2. アウトカム,リハビリ関連情報の比較(表2)

HAFDの発症率は術前リハ群0%(0/28名),非術前リハ群31%(5/16名)となり,術前リハ群では有意に低値であった。また,SPPBスコアのMCIDである1点以上の向上を認めたのは術前リハ群75%(21/28名),非術前リハ群12%(2/16名)となり,術前リハ群で有意に高値であった。術後在院日数,術後理学療法実施日数,術後複合的運動療法実施日数,術後理学療法実施単位数に有意差は認めなかった。術前リハ群において,術前在院日数9.5日(四分位範囲:3),術前理学療法実施日数5日(四分位範囲:3),術前複合的運動療法実施日数3.5日(四分位範囲:2.5),術前理学療法実施単位数6(四分位範囲:5.25)であった。

表2 アウトカム,リハビリ関連情報の比較

術前リハ群 n=28非術前リハ群 n=16p-Value
アウトカムの変化
SPPB低下(HAFD),例(%)0(0)5(31)0.004
SPPB向上,例(%)21(75)2(12)<0.001
リハビリ関連情報
術前在院日数,day9.5(3)
術後在院日数,day7(5)6(2.25)0.155
術前理学療法実施日数,day5(3)
術後理学療法実施日数,day4(2.25)4(1)0.699
術前複合的運動療法実施日数,day3.5(2.5)
術後複合的運動療法実施日数,day3(3)3(1.25)0.078
術前理学療法実施単位数,単位6(5.25)
術後理学療法実施単位数,単位4(3.25)4(2)0.492

リハビリ関連情報は中央値(四分位範囲)で表示.

SPPB:Short Physical Performance Battery, HAFD:Hospitalization-associated Functional Decline(入院関連機能低下).

3. 介入前後でのアウトカム比較(表3)

SPPBスコアの合計と4 m歩行は,群(術前リハ群,非術前リハ群)×時間(入院時,退院時)で交互作用が有意であった。群毎に介入前後で対応のあるt検定で比較した結果,SPPBスコアの合計,4 m歩行とも術前リハ群のみで有意に改善を認めた。Effect sizeは,術前リハ群のSPPBスコアの合計,バランス,4 m歩行は中程度,術前リハ群の5回椅子立ち座りは小程度であった。

表3 介入前後でのアウトカム比較

SPPB入院時退院時GroupsTimeGroup×TimeEffect size
Fp-valueFp-valueFp-value
合計(点)0.3020.58515.574p<0.00117.967p<0.001
術前リハ群6.8±2.98.6±2.8*0.60
非術前リハ群7.3±2.77.2±3.10.02
バランス(点)0.4780.4925.1430.0283.4810.069
術前リハ群2.8±1.33.5±0.80.57
非術前リハ群2.9±0.83.0±1.00.07
4 m歩行(点)0.0020.9655.5690.02317.296p<0.001
術前リハ群2.1±0.92.8±1.0*0.72
非術前リハ群2.6±1.02.4±1.20.17
5回椅子立ち座り(点)0.4260.5173.7100.0602.0610.158
術前リハ群1.8±1.32.2±1.60.29
非術前リハ群1.7±1.21.8±1.60.04

平均値±標準偏差,*:介入前に対してp<0.05.

SPPB: Short Physical Performance Battery.

考察

本研究ではフレイルを呈するTAVI患者28例に対し,9.5日(四分位範囲:3)の待機期間中に有害事象なく術前リハが実施可能であった。また,術前リハ群において,HAFDの発症率は0%であり,退院時にSPPBスコアの合計と4 m歩行は有意な改善を認めた。

本研究のメインアウトカムであるSPPBはフレイル7,サルコペニア13の診断に有用であり,心疾患患者のMCIDは1点であることが報告されている910。また,HAFDはTAVI患者の退院後の死亡率上昇11に関連する。これら先行研究の結果を踏まえると,TAVI患者のSPPBスコア維持,向上を目的とした介入はきわめて重要であると考えられる。一般にTAVI後のHAFD発症率は18.6%~24.4%1114であるとされるが,本研究では31%とやや高い結果となり,全例,非術前リハ群で発症していた。要因としては先行研究と比較して術前のSPPBスコアが7.3±2.7点と低値であることが考えられた。一方,術前リハ群においては,入院時のSPPBは非術前リハ群と同程度であったにも関わらず,HAFDの発症率は0%であり,SPPBスコアが1点以上向上した者の割合は75%であった。これらの結果より,フレイルを呈するTAVI患者に対する術前リハの実施は,SPPBスコアの維持,向上に寄与する可能性が示唆された。

術前リハ群において,アウトカムの介入前後のEffect sizeは,SPPBスコアの合計,バランス,4 m歩行に中程度,5回椅子立ち上がりに小程度の効果を得た。この一因として,実施した運動の種類と期間が考えられる。TAVI患者の心臓リハビリテーションの効果を示したメタ解析3において,運動の種類は有酸素運動(ウォーキングおよびサイクリング),レジスタンストレーニング,呼吸筋トレーニングなど複合的に構成され,期間は2~3週間実施されていたことが示されている。また,Molinoら15は,高齢フレイル患者に対する有酸素運動やレジスタンストレーニング,バランストレーニング,柔軟体操からなる複合的な運動療法がSPPBを有意に改善することを報告している。当院の従来の介入では,術後にクリニカルパスを参考にした画一的な歩行練習が主体となっていたが,本研究の術前リハ群は詳細な身体機能評価を行った上で,術前より複合的な運動療法を実施し,術後も早期に有酸素運動およびレジスタンストレーニング,バランストレーニングを再開することができた。また,術前リハ群のTAVI前後の入院期間は概ね2~3週間となっており,非術前リハ群と比較して5日(四分位範囲3)多く,理学療法が実施されている。

TAVI患者に有効とされる複合的な運動療法の実施と身体機能向上に必要な時間を担保することができたことで,SPPBスコアの維持,向上の一因となった可能性がある。

近年,術後早期回復プログラム(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)だけでなく,プレハビリテーションの概念が注目されている16。プレハビリテーションとは,手術が施行されるまでの期間を利用して行う予備力の向上や患者の状態を最適化する取り組みである17。プレハビリテーションにより予備力が向上することで,術後合併症の発生リスク軽減,術後合併症発生時の回復が早い可能性が示されている1819。Cheemaら20は,プレハビリテーションを行うべき高齢者の選択に,高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)が有用であることを述べており,特に日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL),身体機能,栄養状態に問題がある場合に実施を検討することを推奨している。また,TAVI特有の合併症である完全房室ブロックや鼠径部の創トラブルは安静を強いられることも多いため,相対的禁忌に相当する無症候性の重症AS患者に関しては,リスクとベネフィットを十分に考慮して,術前より身体機能維持・向上を目的とした複合的な運動療法を導入する必要があると考える。

本研究には多くの限界があった。第1に単一施設の後ろ向き観察研究であり,十分な検定力が期待されるサンプルサイズに至らなかった。第2にメインアウトカムのSPPBは順序尺度であるが,(術前リハ群・非術前リハ群)×(入院時・退院時)の2要因の上,繰り返し測定が必要なため,反復測定二元配置分散分析を採用した。第3にTAVI前後の運動療法は,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン2021年改訂版8の慢性心不全患者に対する運動プログラムを参考に実施したが,内容や運動量を完全に統一できていない。また,急性入院後のADLの低下には身体活動量が関連するが21,リハビリ以外の病棟での身体活動については調査を行えていない。術前リハ群においては,待機期間に身体機能を病棟看護師と共有できており,病棟での身体活動量が増加した可能性を否定できず,これら運動療法を含む身体活動量については言及できていない。第4に術前リハを実施しない者を症候性のASに加えて,循環器医師と協議した上で独自に決定した点が挙げられる。ベースラインの比較において,有意差を認めた項目はAVA, LVEFのみであり,少なくとも身体機能は調整が行えたと推察するが,対象者の背景や選択に偏りが生じた可能性がある。第5にSPPBは天井効果22および床効果23が指摘されており,本研究の対象者は介入効果の得られやすい集団であった可能性がある。これらのことから,本研究の結果を一般化できるとは言い難い。一方,術前リハは有害事象なく行えており,HAFDの発症率は0%,退院時のSPPBスコアの合計,4 m歩行は有意な改善を認めた。これらの結果は臨床的に有益なものであると考える。

結論

フレイルを呈するTAVI患者における術前リハは有害事象なく実施可能であった。また,術前リハ群においてHAFDの発症率は0%であり,退院時のSPPBスコアの合計,4 m歩行は有意な改善を認めた。これらの結果より,フレイルを呈するTAVI患者において,術前より複合的な運動療法を実施することは,SPPBスコアの維持・向上の一助になりうる可能性が示唆された。

利益相反

本研究において開示すべき利益相反はない。

文献
 
© 2026 Japanese Society of Physical Therapy

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