Physical Therapy Japan
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Research Reports (Original Article)
Prediction of Toileting Independence in Patients with Stroke-induced Hemiplegia in a Convalescent Rehabilitation Ward
A Scoring System Study
Koichi IKEUE Keisuke FUNABIKIYuya NAKATANI
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 53 Issue 1 Pages 1-9

Details
要旨

【目的】回復期リハビリテーション病棟における脳卒中片麻痺患者の入棟時情報から退院時のトイレ自立を判別するスコアモデルを構築することを目的とした。【方法】対象は社会医療法人三栄会ツカザキ病院回復期病棟に入棟した脳卒中片麻痺患者207名とし,退院時のFunctional Independence Measure(以下,FIM)トイレ動作・トイレ移乗がともに6点以上を自立と定義した。退院時のトイレ自立可否をアウトカムとし,入棟時の基本情報,身体機能,認知機能から予測モデルを作成した。【結果】入棟時の年齢(基準値77.5歳),起き上がり動作能力(介助有無),FIMトイレ移乗(基準値2.5点),FIM認知項目(基準値20.5点)が有意な予測因子として抽出され,退院時のトイレ自立可否を予測するスコアモデルが得られた。【結論】本スコアリングシステムは,入棟時情報からトイレ自立の可否を高精度に予測可能であり,退院支援や家族指導における実用的な指標となる可能性がある。

Abstract

Objective: This study aimed to develop a scoring model to predict toileting independence at discharge in patients with stroke-induced hemiplegia in a convalescent rehabilitation ward, using admission data.

Methods: This study included 207 patients with stroke-induced hemiplegia admitted to the convalescent rehabilitation ward of our hospital. Toileting independence at discharge was defined as a Functional Independence Measure (FIM) score of ≥6 for toileting and toilet transfer items. The outcome was toileting independence from toilet use at discharge. Candidate predictors included baseline demographic data and physical and cognitive functions upon admission. Logistic regression analysis identified significant predictors and developed a scoring model.

Results: The significant predictors were age (cutoff, 77.5), ability to get up (with or without assistance), FIM toilet transfer score (cutoff, 2.5), and FIM cognitive score (cutoff, 20.5). A scoring model assigning one point per criterion demonstrated high predictive accuracy for toileting independence at discharge.

Conclusion: This scoring system enables early prediction of toileting independence using admission data. This model may serve as a practical tool for discharge planning, caregiver education, and individualized rehabilitation strategies.

はじめに

2022年の厚生労働省による調査では,脳卒中(脳血管疾患)は日本人の死因の第4位1,寝たきりの原因の第2位2とされている。また,2023年の統計によると,脳血管疾患で治療を受けている総患者数は188万4000人であり,前回調査(2020年)から14万2000人の増加がみられている3。脳卒中の発症は国民生活への影響が大きく,日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)の自立に向けたリハビリテーションは極めて重要な課題である。

なかでもトイレ動作の自立は,脳卒中発症後におけるADLの中でも特に重要な課題4とされている。回復期リハビリテーション病棟においては,Functional Independence Measure(以下,FIM)におけるトイレ移乗およびトイレ動作が自宅退院と関連する因子であることが,ロジスティック回帰分析56および決定木分析7を用いた先行研究で報告されている。また,臨床現場においても,退院先の選定や介助方針の検討に際し,トイレ動作の自立は家族からの要望が多く,患者本人にとっても自尊心に関わる要素である8。このため,多くの脳卒中患者は,早期からのトイレ動作自立を強く希望しており,トイレ動作の予後を早期に見通すことは,退院支援・生活再建において重要である。

先行研究では,トイレ動作に影響する要因として,年齢910,発症から回復期病棟への入棟までの日数(以下,発症後日数)9,体幹機能1113,認知機能91214,下肢運動麻痺1215,バランス能力41517,排尿コントロール18,およびトイレ移乗動作能力9などが報告されている。ただし,これらの多くは横断的研究に基づいており,トイレ自立の予後を予測する目的での縦断的研究913は少数であり,サンプル数の不足,妥当性の未検証,病期の不均一性など,臨床応用に向けた課題が残されている。

近年,臨床予測ルール(Clinical Prediction Rule:以下,CPR)がリハビリテーション分野でも用いられるようになってきている19。CPRは,臨床で容易に得られる複数の変数を統合し,診断や予後予測をより正確に行うための数学的意思決定ツールである20。その検査精度を高めるには,互いに独立した判別能の高い変数の組み合わせが重要であり21,少数の簡便な変数を用いて高精度な判断が可能となるCPRは,多忙な臨床現場において大きな価値をもつ22。ただし,CPRは元となるデータセットにおいて過適合(overfitting)が生じやすく,その性能を過大評価しやすい傾向があることから,開発時には必ず妥当性検証が求められる23

本研究では,トイレ自立を予測するCPRの一つとしてスコアリングシステム2427に着目した。スコアリングシステムは,統計学的手法によりアウトカムとの関連を説明因子ごとに点数化し,単一因子による予測よりも精度の高い予測が可能となる手法である。本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟に入棟した脳卒中片麻痺患者を対象に,先行研究において単独でも有用とされる予測因子をもとに,トイレ自立に関連する因子を解析し,それらを統合したスコアモデルを構築して妥当性を検証することである。得られたモデルは,入棟初期からのトイレ動作自立の見通しやリハビリテーション目標設定において,有効な判断材料となることが期待される。

対象および方法

1. 対象

本研究の対象は,2020年1月から2024年12月の期間に社会医療法人三栄会ツカザキ病院(以下,当院)回復期リハビリテーション病棟へ入棟した初発脳卒中片麻痺患者311名のうち,入院前にトイレ動作が自立しており,入棟時のFIM下位項目であるトイレ動作・トイレ移乗のいずれも5点以下であった222名とした。このうち,他疾患の合併や再発により急性期病棟へ転棟した4名,1週間以内の早期退院となった3名,家族希望で他院へ転院した6名,評価データに欠損のあった2名を除外し,最終的に207名を解析対象とした。

2. 方法

本研究は,入棟時から退棟時までの経過を追跡した後ろ向き縦断コホート研究である。対象者の電子カルテより,基本情報および入棟時のリハビリテーション評価項目,および入退棟に関する情報を後方視的に収集した。

基本情報として,入棟時の年齢,性別,病型(脳梗塞または脳出血),病変部位(テント上またはテント下),麻痺側,発症後日数を収集した。

入棟時のリハビリテーション評価項目は,先行研究でトイレ動作自立に対して単独でも予測因子として報告されている因子を優先的に選定した。使用した評価項目は,体幹機能1113の指標としての起き上がり動作能力,下肢運動機能1215の指標としてのFugl-Meyer Assessment(以下,FMA)下肢項目,バランス能力41517の指標としてのBerg Balance Scale(以下,BBS),排泄機能18としてのFIM排尿コントロール,移乗動作能力9の指標としてのFIMトイレ移乗,認知機能91214の指標としてのFIM認知項目合計とした。起き上がり動作能力は,日常生活機能評価表の起き上がりの項目28を参考に採点した。ベッド上での仰臥位から座位姿勢への移行の程度で分類し,ベッド柵やバーなどの使用の有無を問わず,介助を必要とせずに遂行できる場合を「介助なし(1)」とし,介助を要する場合を「介助あり(0)」と二値化した。体幹機能の評価項目として,Trunk Control Test(以下,TCT)やTrunk Impairment Scale(以下,TIS)といった詳細な評価バッテリーも存在するが,臨床現場での迅速かつ簡便な予測ツールとしての実用性を重視し,あえて二値化を採用した。

入退棟に関する情報として,回復期リハビリテーション病棟の在棟日数,入棟時のFIMトイレ動作,退棟時のFIMトイレ動作・トイレ移乗を記録した。すべての評価はリハビリテーション専門職が実施し,事前に評価基準と手順の統一を行った(表1)。

表1 対象者の基本情報および入棟時のリハビリテーション評価項目

全体自立群非自立群p値
(n=207)(n=98)(n=109)
年齢(歳)74.4±11.670.7±11.877.8±10.3<0.001
性別(名)男:105 女:102男:46 女:52男:59 女:500.331
病型(名)脳梗塞:146脳梗塞:66脳梗塞:800.363
脳出血:61脳出血:32脳出血:29
病変部位(名)テント上:175テント上:80テント上:950.336
テント下:32テント下:18テント下:14
麻痺側(名)右:112 左:95右:54 左:44右:58 左:510.889
発症後日数(日)18.4±11.816.1±6.120.6±15.00.049
在棟日数(日)69.3±30.763.5±29.574.5±31.00.021
入棟時起き上がり動作能力(名)介助なし:104介助なし:76介助なし:28<0.001
介助あり:103介助あり:22介助あり:81
入棟時FMA下肢(点)20.7±10.724.3±9.117.4±11.1<0.001
入棟時BBS(点)18.7±17.627.8±16.310.5±14.5<0.001
入棟時FIMトイレ動作(点)2.6±1.53.4±1.51.9±1.2<0.001
入棟時FIM排尿コントロール(点)3.6±2.14.9±1.82.5±1.7<0.001
入棟時FIMトイレ移乗(点)3.0±1.43.7±1.02.4±1.3<0.001
入棟時FIM認知項目合計(点)20.6±8.325.7±6.215.9±7.1<0.001
退棟時FIMトイレ動作(点)4.8±2.06.3±0.53.3±1.7<0.001
退棟時FIMトイレ移乗(点)5.0±1.76.3±0.53.8±1.5<0.001

平均値±標準偏差,もしくは例数.FMA: Fugl Meyer Assessment, BBS: Berg Balance Scale, FIM: Functional Independence Measure.

本研究対象病棟では,脳卒中片麻痺患者に対して,理学療法,作業療法,言語療法を365日体制で1日7~9単位提供しており,特別な事情がない限り,本研究対象者にも同様のリハビリテーションが実施された。

アウトカムは,先行研究9に準じて,退棟時のFIMトイレ動作・トイレ移乗の両方が6点(修正自立)以上である場合を自立群とし,いずれか一方でも6点未満,あるいは両方が6点未満であった場合を非自立群として分類した。

3. 統計解析

統計解析は,まず自立群と非自立群における基本情報および入棟時評価項目の12因子の正規性をShapiro–Wilk検定で確認した。その後,群間比較として対応のないt検定,Mann–WhitneyのU検定,Fisherの正確確率検定を用いた。

次に,先行研究2527に準じて,有意差を認めた因子について,Variance Inflation Factor(以下,VIF)が5以下であることを確認した(表2)。多重共線性がないことを前提に,ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った(表3)。これは,候補変数が複数存在する中で,対象者数とのバランスを考慮しつつ,過剰適合や多重共線性を回避し,臨床的に解釈可能で簡潔なモデルを構築するためである。特にスコアリングシステムにおいては,因子数が多すぎると算出や解釈が煩雑になり,臨床応用性が損なわれる可能性がある。そのため,臨床的に有用かつ汎用性の高い最小限の因子を抽出する目的で,ステップワイズ法を採用した。解析で有意となった因子をスコアリングシステムに採用した。各因子についてReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線を作成し,感度と特異度が最も高くなるカットオフ値を算出した(表4)。先行研究24を参考に,カットオフ値とオッズ比,臨床的妥当性に基づいて各因子に1点ずつのスコアを割り当て,それらの合計値をトイレ自立スコアとした(表5)。また,トイレ自立スコアの点数別の自立率を算出した(表6)。さらに,トイレ自立スコアを唯一の説明変数としたROC曲線を作成し,最適カットオフ値を算出した(図1)。

表2 説明因子のVIF

年齢発症後日数起き上がり動作能力FMA下肢BBSFIM排尿コントロールFIMトイレ移乗FIM認知項目合計
VIF1.4061.0581.8042.4352.4981.8522.4571.355

VIF: Variance Inflation Factor, FMA: Fugl-Meyer Assessment, BBS: Berg Balance Scale, FIM: Functional Independence Measure.

 

表3 ロジスティック回帰分析結果

オッズ比95%CI下限95%CI上限p値
Intercept1.6900.08135.6000.734
年齢0.9180.8800.958<0.001
起き上がり動作能力4.3401.62011.6000.003
FIMトイレ移乗1.5901.0402.4300.031
FIM認知項目合計1.1801.1101.260<0.001

CI: Confidence interval, FIM: Functional Independence Measure.

 

表4 各因子のカットオフ値

カットオフ値感度特異度AUC
年齢(歳)77.571.4%57.8%0.685
起き上がり動作能力(点)0.577.6%74.3%0.759
FIMトイレ移乗(点)2.590.8%53.2%0.772
FIM認知項目合計(点)20.579.6%78.0%0.841

FIM: Functional Independence Measure, AUC: Area Under the Curve.

 

表5 トイレ自立スコア

因子点数
年齢≦77.5歳1
>77.5歳0
起き上がり動作能力≧0.5点1
<0.5点0
FIMトイレ移乗≧2.5点1
<2.5点0
FIM認知項目合計≧20.5点1
<20.5点0
トイレ自立スコア0–4

FIM: Functional Independence Measure.

 

表6 トイレ自立スコアの点数別の自立率

トイレ自立スコア(点)自立(名)非自立(名)自立率(%)
4点(n=45)40588.9
3点(n=54)431179.6
2点(n=35)92625.7
1点(n=50)64412.0
0点(n=23)0230
図1 トイレ自立スコアによるROC曲線

内的妥当性の検証として,先行研究2930を参考に,ブートストラップ法(1000回)によるリサンプリングを実施し,キャリブレーションプロット(図2)とHosmer-Lemeshow適合度検定でモデルの較正を評価した(表7)。また,Concordance index(C-index),Mean Absolute Error(MAE),Observation/Expected比(O/E比),Calibration Intercept,Calibration Slopeを算出した。判別能については,正診率,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,Area Under the Curve(以下,AUC)を元標本およびブートストラップ標本それぞれで算出した(表8)。

図2 ブートストラップ法によるキャリブレーションプロット
表7 トイレ自立スコアモデルの内的妥当性検証

Concordance index(元標本)0.888
Concordance index(1000組のブートストラップ標本)0.888
MAE0.025
O/E比1.000
Calibration Intercept<0.001
Calibration Slope1.000
P値(Hosmer-Lemeshowt適合度検定)0.148

MAE: Mean Absolute Error, O/E比:Observation/Expected Ratio.

 

表8 トイレ自立スコアモデルの有効性(カットオフ:3点以上)

元標本1000組のブートストラップ標本
正診率85.0%85.0% (95%CI: 79.4–89.6)
感度84.7%84.7% (95%CI: 76.8–91.8)
特異度85.3%85.3% (95%CI: 78.1–91.9)
陽性的中率83.8%83.9% (95%CI: 76.5–91.2)
陰性的中率86.1%86.0% (95%CI: 79.1–92.7)
ROC曲線のAUC0.888平均0.890 (95%CI: 0.843–0.927)

ROC曲線:Receiver Operating Characteristic曲線,AUC: Area Under the Curve, CI: Confidence interval.

統計解析にはR version 4.4.0を使用し,有意水準は5%とした。

4. 倫理的配慮

本研究は後ろ向き観察研究であり,当院回復期リハビリテーション病棟に入棟した患者の診療録情報を匿名化して使用した。対象患者には入院時に,診療録などの匿名化データを研究目的で利用する可能性について説明し,研究利用に関する文書による包括同意を事前に取得した。したがって,オプトアウトによる同意手続きは行っていない。研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,ツカザキ病院倫理審査委員会の承認(承認番号:2505003)を得て実施した。

結果

対象者の基本情報および入棟時のリハビリテーション評価項目の12因子について,自立群と非自立群の2群間で比較した結果を表1に示す。自立群は98名(47.3%),非自立群は109名(52.7%)であった。自立群は,非自立群と比較して,起き上がり動作能力,FMA下肢項目,BBS,FIM排尿コントロール,FIMトイレ移乗,FIM認知項目合計がいずれも有意に高値を示し(p<0.001),また年齢,発症後日数は有意に低値であった(年齢はp<0.001,発症後日数はp<0.05)。これら有意差を認めた全項目について,VIFはすべて5以下であり,多重共線性は認められなかった(表2)。

続いて,単変量解析で有意差が認められた8因子を独立変数,自立群・非自立群の群別分類を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。自立群は98名であり,イベント数に対する投入因子数の比率は約12と,一般的に推奨される基準であるEvents Per Variable(以下,EPV)≧10を満たしていた。その結果を表3に示す。最終モデルとして,入棟時年齢,起き上がり動作能力,FIMトイレ移乗,FIM認知項目合計の4因子が有意に抽出され,スコアリングシステムの構成因子とした。

各因子に対しROC曲線を作成し,感度および特異度が最も高くなる座標に基づいてカットオフ値を算出した(表4)。それぞれのカットオフ値は,年齢77.5歳,起き上がり動作能力0.5点,FIMトイレ移乗2.5点,FIM認知項目合計20.5点であった。これらのカットオフ値に基づいて各因子に0または1点のスコアを割り当て,合計点(0点~4点)によるトイレ自立スコアを作成した(表5)。なお,実際の臨床応用に際しては,これらの数値を直感的に活用可能な形へ読み替える必要がある点については,考察で詳述する。

作成したスコアを唯一の予測因子とし,ROC曲線を作成した結果,感度および特異度が最も高くなるカットオフ値は3点以上(4点満点中)であった(図1)。また,トイレ自立スコアの点数別に,自立率を算出した結果を表6に示す。

さらに,ブートストラップ法(1000回)を用いた内的妥当性検証を実施し,キャリブレーションプロットを図2に,その定量的評価結果を表7に示した。Calibration Interceptは0に近い値(<0.001),Calibration Slopeは1.000であり,予測と実測の整合性は高かった。キャリブレーションプロットにおいては,全体として予測確率と実測値は良好に一致していた。特に0.5~0.8の中間域では高い一致を示した。一方,0.3~0.5の範囲では,予測確率に比べて実測の自立率が低く,モデルはやや過大評価する傾向が認められた。しかし,乖離はいずれも軽度であり,全体的には良好なキャリブレーションが確認された。加えて,モデルの判別能の評価結果を表8に示す。正診率85.0%,感度84.7%,特異度85.3%,陽性的中率83.8%,陰性的中率86.1%であり,AUCは0.888と高値を示した。なお,ブートストラップ標本においてもこれらの指標に明らかな低下は認められなかった。

考察

1. スコアリングモデルにおける各予測因子の臨床的妥当性

本研究の結果より,回復期リハビリテーション病棟にFIMトイレ動作・トイレ移乗が5点以下で入棟した脳卒中片麻痺患者において,入棟時の年齢,起き上がり動作能力,FIMトイレ移乗,FIM認知項目合計の組み合わせにより,退院時のトイレ自立可否を高精度に予測できることが示された。これらの因子は,いずれも先行研究で報告されている関連因子と一致しており,さらにスコアリングシステムとして明確なカットオフ値と合計点を提示したことにより,臨床現場で即時に活用可能な予測ツールとしての新規性が示された。

入棟時の年齢については,本結果は,脳卒中患者のトイレ自立の関連因子として年齢を挙げている先行研究910を支持したと考えられる。法山ら9は,回復期病棟の脳卒中患者における退院時トイレ自立を予測する重要因子として,年齢を挙げており,その基準を73歳としている。Imuraら10による,回復期病棟の重度脳卒中患者における退院時トイレ自立を予測する決定木分析を用いた研究では,重要項目として年齢を挙げ,そのカットオフ値を72歳,80歳としており,トイレ自立割合は年齢が高くなるにつれて減少していたと報告している。本研究のカットオフ値は,77.5歳であり,先行研究と比較して,明らかな相違がなく妥当であると考える。

起き上がり動作能力について述べる。本研究のアウトカムであるトイレ自立は,FIMトイレ動作およびトイレ移乗の両項目が修正自立以上であることを条件としている。武井ら31は,脳卒中患者の移乗能力の予測因子として,機能障害要因では腹筋力,構成要素動作要因では立ち上がり,立位方向転換,起き上がりを挙げ,体幹機能の重要性を示している。Koikeら11は,脳卒中患者のトイレ動作における下衣操作の関連因子としてTCT点数を挙げ,特に寝返りや起き上がりなどの体幹コントロールの重要性を報告している。また,田中ら13は,急性期におけるトイレ動作・移乗動作の予測因子としてTCTが有効であると述べている。これらの先行研究を踏まえると,起き上がり動作能力は体幹機能を反映する簡便な指標であり,本研究において選択されたことは妥当であると考えられる。本研究ではTCTのようなスケールではなく,「介助の有無」という日常的かつ即時的な評価を用いており,現場での汎用性と実用性の高い工夫といえる。

トイレ移乗については,法山ら9が,回復期病棟の脳卒中患者における退院時のトイレ自立を予測する重要因子としてFIMトイレ移乗を挙げており,本研究の結果はその知見を支持したと考えられる。移乗動作は,座位から立ち上がり,方向転換を経て着座するという連続した動作で構成される。武井ら31は,移乗能力を評価する際,静的姿勢保持よりも,立ち上がりや立位方向転換などの動的な構成要素の評価が重要であると報告している。宮本ら16は,バランス能力の評価(BBS)が移乗動作およびトイレ動作の自立度判定に有効であると述べ,米持ら17は,非麻痺側下肢の筋力と動的立位バランスの獲得が,トイレ動作の自立に不可欠であると報告している。これらの先行研究を踏まえると,移乗能力は,主に下肢筋力や動的バランスに基づく複合的な動作であり,トイレ動作の自立に関連する妥当な予測因子であると考えられる。また,本研究ではトイレ動作とトイレ移乗の両項目をアウトカムとし,いずれも修正自立以上と定義していることから,移乗動作がその一部を構成する要素として重要視された点も妥当である。

FIM認知項目については,脳卒中患者のトイレ自立に影響することが先行研究91214にて報告されており,本研究は先行研究を支持したと考えられる。また,白石ら32は,回復期脳卒中患者のFIM改善とその要因を検証した結果,入棟後にFIM改善が期待できる患者群の特徴として,FIM認知項目合計が21点以上であったと報告している。アウトカムをトイレ自立とした本研究の基準は,20.5点であり,先行研究の基準と近似していることから,その値は妥当であると考えられる。認知機能低下に伴い生じるトイレ動作の問題33として,見当識低下によりトイレの場所・容器が判断できない,トイレ動作の一連の手順の理解・実行ができない,などが挙げられる。特に認知機能の中でも理解・記憶は,運動学習を進める強化因子であり34,トイレ自立群は,動作手順理解やパフォーマンスの向上に必要な運動学習効果が得られやすく,結果としてトイレ自立に至ったのではないかと推察される。

以上のように,本研究では入棟時の年齢,起き上がり動作能力,FIMトイレ移乗,FIM認知項目合計の4因子が選択され,それぞれに統計学的なカットオフ値が算出された。これらの値は予測モデルの構築に有用である一方で,臨床応用を考える際には,そのまま小数点を含む値で解釈するのではなく,現場で直感的に利用できる基準へと置き換えることが重要である。具体的には,入棟時の年齢は「77歳以下であれば自立の可能性が高い」,起き上がり動作能力は「介助不要であれば自立獲得を予測し得る」,FIMトイレ移乗は「3点以上であれば自立獲得が期待できる」,FIM認知項目合計は「21点以上であれば自立に寄与する」といった形で解釈するのが妥当である。このように,本研究で得られたカットオフ値は,統計的基準を踏まえつつも,実際の臨床現場に即して理解・応用できる指標として提示できたと考えられる。

発症後日数については,先行研究9ではトイレ自立の重要因子として報告されているが,本研究では単変量解析で有意差を認めたものの,最終モデルには残らなかった。この背景には,当院が急性期病院に併設されており,発症早期から回復期病棟へスムーズに転棟できる体制を有していることが関係している可能性がある。実際に,本研究対象者の発症後日数の平均は18.4日であり,全国平均(33.9日)35より短期間であった。なお,在棟日数の平均は69.3日で,全国平均(66.0日)35とほぼ同等であったことから,退棟までの経過は全国的傾向と概ね一致していたと考えられるが,入棟時点における発症後日数のばらつきは限定的であり,自立群と非自立群の差が縮小した可能性がある。そのため,発症後日数は統計的に独立した寄与因子として抽出されにくくなり,結果として,入棟時の年齢といった背景因子や,起き上がり動作能力・FIMトイレ移乗などの機能・動作面を直接反映する因子の寄与が優勢となったと考えられる。したがって,発症後日数は一定の影響を持ち得る因子であるものの,本研究のように早期転棟が可能な体制においては,相対的に影響が小さく,他の因子が予測因子としてより重要である可能性が示唆された。

2. 予測モデルの性能と臨床的意義

本研究の予測モデルは,退院時のトイレ自立可否を,入棟時点の情報から推定可能とする点で,実用的意義が高い。スコアリングシステムにおいて,カットオフ値(年齢77.5歳,起き上がり動作能力の介助の有無,FIMトイレ移乗2.5点,FIM認知項目合計20.5点)を基準に各因子に1点を割り当て,合計3点以上であればトイレ自立が期待できると判定された。自立群98名中,3点以上であったのは83名(正診率85.0%)であった。また,Hosmer-LemeshowのAUC基準36では,0.7≦AUC<0.8は受容可能な判別,0.8≦AUC<0.9は優れた判別,0.9≦AUCは卓越した判別とされ,本研究のスコアモデルはAUC=0.888と高値を示し,正診率も85.0%と良好であった(表8)。これらの結果より,本モデルは退院時トイレ自立を予測するうえで高精度なモデルであると解釈できる。本研究では,ブートストラップ標本を用い,先行研究3739に準じて,予測モデルのキャリブレーションの評価を行った。本研究のキャリブレーション結果(表7)では,Calibration Interceptは<0.001と非常に低値であり,0に近いほど理想的であることから,モデル全体の予測と実測に明らかな差違はないと考えられる。加えて,Calibration Slopeは1.000であり,予測と実測が一致しており,実際の値に沿っていることから,このモデルのキャリブレーションは良好であると考えられる(図2)。これらの結果より,本スコアモデルは,予測精度・妥当性ともに良好であり,臨床判断を支援する予測ツールとして有用である可能性がある。特に,複雑な計算式を用いず,簡易に適用できる点は,多忙な臨床場面において実装性が高い。さらに,各因子の基準値が明示されているため,スコアに基づく可視化された根拠をもって,患者・家族への説明や退院支援カンファレンスにおいて説得力のある情報提供が可能となる。これにより,退院時期の見通し設定,在宅介助量の予測,住宅改修の準備,福祉用具の選定など,より具体的な退院支援計画の立案に貢献するものと考えられる。

3. 研究の限界と今後の課題

本研究にはいくつかの限界がある。第一に,単一施設で実施した後ろ向きコホート研究であり,対象地域や施設特性に起因するバイアスを完全に排除できない。特に,当院は急性期病院に併設されており,発症後比較的早期から回復期病棟に転棟可能な体制を有していることから,本研究対象者の発症後日数のばらつきは限定的であるため,因子としての影響が過小に評価された可能性がある。したがって,他施設や異なる転院プロセスを有する集団を対象とした多施設共同研究により,発症後日数の影響を含めた外的妥当性を検証する必要がある。第二に,リハビリテーション内容やスタッフの介入技量を完全に統一することは困難であり,介入方法の違いが結果に影響を与えた可能性がある。ただし,本研究対象病棟は回復期リハビリテーション病棟入院料1を取得しており,脳血管疾患などリハビリテーション料(I)などの施設基準を満たしたうえで,理学療法・作業療法・言語療法を365日体制で提供している。さらに,評価方法の標準化とスタッフ教育が定期的に行われており,一定の質と一貫性は担保されていると考えられる。それでもなお,施設特性に起因する介入内容の差異を完全に排除することはできない点は,本研究の限界の一つである。第三に,起き上がり動作能力の評価については臨床での簡便性を重視して介助の有無で二値化したが,TCTやTISなどの詳細な体幹機能評価と比較すると,微細な機能回復を捉えきれていない可能性がある。この点は本モデルの限界の一つであり,今後はより詳細な評価指標を組み合わせた検討が望まれる。第四に,アウトカムはFIMに基づく動作能力の判定であり,退院後の実生活環境におけるパフォーマンスとは乖離する可能性がある。今後は,在宅生活における実地評価や,追跡研究を通じた実用性の検証も重要な課題である。第五に,投入因子数と症例数のバランスについてはEPVの観点から統計的に許容範囲と判断したが,より大規模なコホートを対象とした再現性の検証により,本モデルの安定性を確認することが望まれる。

結論

本研究では,回復期リハビリテーション病棟において,入棟時の年齢,起き上がり動作能力,FIMトイレ移乗,FIM認知項目合計の4因子を用いたスコアリングシステムを構築し,退院時のトイレ自立可否を高精度に予測できる可能性を示した。本スコアリングシステムは,入棟早期の段階でトイレ自立の見通しを客観的に把握することができ,退院調整や家族指導,介助量の見積もり,住宅改修の検討など,具体的な支援計画の立案に役立つ有用なツールであると考えられる。今後は,多施設共同研究による外的妥当性の検証を行い,さらに他のADLへの応用を図ることで,より包括的かつ実用的な予後予測モデルの構築を目指していく必要がある。

謝辞

本研究の実施にあたり,ご協力いただいた対象者の皆様,協力・助言をいただいたスタッフの皆様に心から感謝申し上げる。

利益相反

本研究において開示すべき利益相反はない。

文献
 
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