2026 Volume 53 Issue 3 Pages 175-182
【目的】頭部computed tomography(以下,CT)画像の空間的標準化法による脳画像解析の手順を提示し,脳卒中リハビリテーションにおける病変に基づく予後予測やグループ解析への有用性をvoxel-based lesion-symptom mapping(以下,VLSM)で検証すること。【方法】回復期リハビリテーション病棟に入院した片側テント上脳出血患者のうち,退院時に歩行可能であった25名を対象に,各患者の発症時の頭部CT画像と病変マスクをCTテンプレートに空間的標準化し,退院時の最大歩行速度と病変部位との関連をVLSMで解析した。【結果】退院時の最大歩行速度と有意に関連する病変は内包後脚後部に認められ,下肢筋を支配する皮質脊髄路後部に一致した。【結論】本手法によりmagnetic resonance imaging(以下,MRI)を用いた先行研究と整合する領域が検出され,MRIを保有しない一般病院における頭部CT画像を用いた脳卒中リハビリテーション研究・臨床への応用可能性が示された。
Objective: To present and validate a CT-based spatial normalization framework for brain imaging that supports lesion-based outcome prediction and group-level analyses in stroke rehabilitation.
Methods: We retrospectively analyzed data from 25 patients with unilateral supratentorial intracerebral hemorrhage who were admitted to a convalescent rehabilitation ward. The hemorrhagic lesion on each patient’s CT image was segmented and converted to a binary mask. The whole-brain CT image and the lesion mask were spatially normalized onto an age-specific CT template using the Clinical Toolbox for Statistical Parametric Mapping. Voxel-based lesion–symptom mapping (VLSM) was used to relate lesion location to maximal gait speed at discharge.
Results: Spatial normalization was successful in all patients and yielded accurate anatomical alignment despite variability in routine clinical CT acquisition. VLSM identified a cluster in the posterior part of the posterior limb of the internal capsule. Overlay with a white matter atlas indicated that this cluster corresponded to corticospinal tract fibers innervating the lower limb muscles, consistent with previous MRI-based reports.
Conclusion: VLSM using spatially normalized CT images identified brain regions consistent with those reported in previous MRI-based studies, thereby demonstrating the validity of this method. This approach may facilitate wider implementation of quantitative neuroimaging in general hospitals.
脳卒中後のリハビリテーションを行う上で,脳画像解析は脳機能局在の解明や予後の推定に有用であり,こうした画像情報を活用することで,理学療法の目標設定や期待される到達レベルをより適切に見積もることが可能となる。脳画像のグループ解析をする際には,複数の被験者の脳画像を共通の座標系に揃える「空間的標準化(spatial normalization)」を行うことで,統計解析を含む客観的な画像評価が可能になる。一般的な空間的標準化では,形や大きさがさまざまな個人の脳画像を,標準テンプレート画像に合致するように自動で変形させる処理が行われる1)2)。標準テンプレート画像としては,カナダのモントリオール神経学研究所(Montreal Neurological Institute:以下,MNI)が多数の健康被験者の頭部magnetic resonance imaging(以下,MRI)画像を平均化して作成したMNIテンプレートが使用されることが多い。またMNIテンプレート上の位置については,MNI座標として3次元的に表現される。空間的標準化を用いた脳画像のグループ解析においては,MRIを用いることが一般的である。しかし,MRIは高額であり,安全に検査を行うためには体内金属の有無の確認やMRI撮像室への磁性体の持ち込み防止などの安全管理が必要であるため,導入される施設は限られている。一方で,computed tomography(以下,CT)はより多くの施設で導入されていることから,頭部CT画像を空間的に標準化できれば,MRIを保有しない施設でも脳画像解析が可能となり,研究や臨床応用の裾野が広がることが期待されていた。
CT画像では,X線が組織を透過する際の減弱の程度(X線の通過しにくさ)がHounsfield単位(HU)を使って画像の濃淡で表現されている。この単位では水を0 HU,空気を−1000 HUと定義していることから,脳脊髄液は0 HU,脳実質は30 HU前後である一方,骨は1000 HU以上になる3)。一般的な空間的標準化では,個人の脳画像が標準テンプレート画像と同一の脳領域でできるだけ同じ信号強度を持つように,個人の脳画像に変形を加える。しかし,CT画像ではHUに基づくスケールの特性上,空気や骨のコントラストが強く,脳の実質や脳脊髄液のコントラストが弱いため,最小二乗法などの標準的なコスト関数(cost function)では脳構造の位置合わせがうまくいかないという問題があった。これに対してRordenらは,HU値を非線形的に変換して,空気や骨の影響を抑えつつ,脳脊髄液と脳実質のコントラストを強調する強度変換(invertible intensity transform)を導入し,これを適用した画像を用いて標準化を行うことで,CT画像に対する精度の高い空間的標準化を可能にした4)。海外の論文では,この技術を用いた脳画像解析の報告が散見されるものの5)6),本邦での利用報告は限られており,この方法の妥当性を一般病院における脳卒中患者の頭部CT画像で評価した研究はない。
本研究の目的は,頭部CT画像の空間的標準化法を用いた実践的な脳画像解析の手順を紹介するとともに,その妥当性をvoxel-based lesion-symptom mapping(VLSM)を用いて検証することである。脳画像は,1辺が数mm程度のボクセル(voxel:体積要素)が三次元的に配列したデータであり,空間的標準化によって各被験者のボクセルが共通の座標系上で対応づけられる。ボクセル単位での解析(voxel-based analysis)では,空間的標準化を行った後の全脳の各ボクセルについて統計解析を行う。VLSMは,脳画像の各ボクセル単位での病変の有無と行動や症状との関連を統計学的に解析し,特定の機能に関与する脳領域を明らかにする手法である7)。ボクセル単位での解析で妥当な結果を得るためには,空間的標準化が正しく行われていることが必要条件である8)。そのため,今回紹介した空間的標準化法を用いたVLSM解析において,特定の症状との関連がすでに知られている脳領域が検出されれば,本法によるCT画像の標準化の妥当性を確認できる。本研究では,脳出血後患者が回復期リハビリテーション病棟で理学療法を含む包括的なリハビリテーションを受けた後の退院時の歩行能力と関連する病変位置を調べた。退院時の歩行能力としては,理学療法評価において代表的なアウトカム指標のひとつである歩行速度を用いた。脳卒中後の皮質脊髄路の障害は,リハビリテーション後の歩行速度と関連することが頭部MRIの空間的標準化を用いた先行研究で示されていることから9)10),今回の研究において同部位が検出されれば,頭部CTの空間的標準化を含むVLSM解析が正しく行われたことが検証できたと考えられる。
2020年1月から2023年12月の期間に千里リハビリテーション病院回復期リハビリテーション病棟へ入院した初発の片側テント上脳出血患者291名の中で,退院時に歩行可能であった患者192名を抽出した。これらから下記調査項目の欠損があった患者(167名)を除いた25名を画像解析の対象とした。
2. 調査方法と調査項目年齢,性別,病変側,発症から回復期リハビリテーション病棟退院までの日数,入院時および退院時の下肢Brunnstrom stage(BRS)およびFunctional Independence Measure(FIM)歩行項目,最大歩行速度を,診療録から後方視的に抽出した。発症24時間以内に撮像された初回の頭部CTを脳画像解析に用いた。
3. 画像解析の手順1)データ形式の変換一般的に,CTを含む医療用画像機器で撮像されたデータは,1辺が数mm程度のボクセル(立方体もしくは直方体)から構成される3次元データである。これらは,国際標準規格であるDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)形式(拡張子は.dcmが一般的)で保存されている。これを画像解析に適した形式であるNeuroimaging Informatics Technology Initiative(以下,NIfTI)形式(拡張子は.niiが一般的)へ変換する作業には,フリーソフトウェアであるdcm2nii(https://www.nitrc.org/projects/dcm2nii/)を使用した。CT画像は急性期病院に搬送された当日に撮像されたデータであり,撮像機器や撮像パラメータ(マトリックスサイズ,ボクセルサイズ,スライス厚)はさまざまであった。
2)画像の原点設定とオリエンテーション補正一般的に空間的標準化処理は,脳内の前交連を画像の原点と仮定して計算を開始する。また,標準化しようとしている画像と標準テンプレート画像の位置が標準空間上で大きくかけ離れている場合は,空間的標準化のための計算が正しく行われない可能性がある。そのため,脳画像を空間的標準化する手続きを開始する前に,前処理として画像の座標系の中心,すなわち原点を適切に設定するとともに,大まかな位置合わせをしておくことが必要である。今回使用したソフトウェアにおいては,空間的標準化処理を行う前に,自動的に原点の位置合わせを行うプログラムが組まれている。しかし,画像によってはこれがうまく作動しない可能性があるため,Statistical Parametric Mapping(以下,SPM)のDisplay上で各被験者のCT画像の原点の位置を確認した上で,必要に応じて左右,前後,上下に平行移動させたり,3つの座標軸(x軸,y軸,z軸)を中心とした回転を加えたりすることで,標準化しようとしている画像と標準テンプレート画像とが大まかに重なり合うようにしておくのが良い(図1)。具体的な方法については,NeuroImaging Tools and Resources Collaboratory(NITRC)のウェブサイトに掲載されているマニュアル(https://www.nitrc.org/docman/view.php/881/1853/manual.pdf)に基づき実施した。

空間的標準化処理を行う前に,各個人の頭部CT画像上の前交連が標準空間上の中心座標に一致するように原点(origin)の設定を行うとともに(原点設定),各個人の頭部CT画像が標準テンプレート画像と大まかに重なるように画像の位置を補正した(オリエンテーション補正).なお,画面上のright(左右),forward(前後),up(上下),pitch角(x軸回転),roll角(y軸回転),yaw角(z軸回転)を調整することで,画像の位置を修正することができる.
各症例の頭部CT画像において,脳出血病変の範囲を定義するためのマスク画像を作成した。マスク画像では,病変部を値1,その他の領域を値0として二値化した(図2左)。マスクの作成にはMRIcronGL(https://www.nitrc.org/projects/mricrogl)を使用した。まず,MRIcronGLの自動描画機能を用いて病変領域を抽出した。自動描画では,病変中心のボクセルを基準点として設定し,その基準ボクセルとのCT値(HU)の差を閾値として指定することで,類似したCT値をもつ周辺ボクセルを自動的に抽出できる。また,基準ボクセルを中心とした抽出範囲を半径で設定することが可能である。これらのパラメータ(CT値差および半径)は,実際の病変形状と一致するよう各症例で調整した。CT値差の設定は症例により異なったが,おおむね50~80 HUの範囲であった。自動描画によって正確に抽出できなかった複雑な形状の病変や頭蓋骨近傍の病変については,補助的に手動で修正を行った。評価者の主観的バイアスを避けるため,マスク作成時には対象患者の臨床情報を確認できない状態で実施した。なお,脳卒中病変の手動抽出については評価者間・評価者内の再現性が高いことが報告されている11)。特に本研究対象である脳出血はCT上で高吸収域として描出され,周辺脳実質とのコントラストが大きいことから,病変境界は比較的同定しやすい。

標準化前のCT(左上段)からMRIcronGLを用いて病変を抽出し(左中段),病変部を値1, その他の領域を値0として二値化したマスク画像(左下段)を作成した.頭部CTの空間的標準化(右上段)で利用した変換行列を用いて,マスク画像を空間的標準化した(右中下段).
空間的標準化には,SPM8(https://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/software/spm8/)を用いた。SPMは1990年代にイギリスのFristonらにより開発されて,その後も発達を遂げている最も一般的な画像解析のためのフリーウエアのひとつである2)。また,SPMはMATLAB(MathWorks社製)上で動作させる必要があり,空間的標準化においては標準脳テンプレートとしてMNIテンプレートが用いられている。
空間的標準化のアルゴリズムでは,個人の脳画像が標準空間上のテンプレート画像にできるだけ一致するように,ボクセルごとの信号強度差の二乗和を最小化する変換パラメータが推定される(最小二乗法)2)。その際には,まずはアフィン変換(affine transformation)により平行移動・回転・拡大縮小・シアーを含む12自由度(3平行移動+3回転+3拡大縮小+3シアー)の線形変換を行い,大まかな位置合わせを行う。なお,シアーとは,長方形を平行四辺形に傾けるような変形である。次に,脳の局所的な解剖学的違いを補正するために,基底関数を用いた非線形変形(non-linear warp)が適用される1)。これは,例えるなら,おおまかに型にはめ込まれた粘土を指で押し込んで隅々まで型に合わせるような操作である。このようにして得られたアフィン変換と非線形変形のパラメータを用いて,個人の脳画像は標準空間上のテンプレート画像と一致するように座標変換される。
本来,SPMは頭部MRI画像の空間的標準化を行うために最適化されている。今回は,SPMを用いて頭部CT画像の空間的標準化およびマスク画像の標準空間へのマッピングを行うために,Rordenらが開発した方法4)を用いた。この方法は,Clinical Toolbox for SPMとして公開されている(https://www.nitrc.org/projects/clinicaltbx)。本研究では,Rordenらと同様にこのToolboxをSPM8に導入し,個人の頭部CT画像の空間的標準化を行った(図3)。このToolboxでは,今回解析した患者とほぼ同年代の平均年齢65歳の中高年の被験者から作成されたCTテンプレート画像が使用されている。一般的には脳出血などの異常な信号強度を呈する病変部位がある場合は,空間的標準化が正確に行われにくい。しかし,このToolboxでは異常信号を呈する病変部位を空間的標準化の際の計算から除外するcost function masking法12)が導入されているため,病変があっても正確な結果を得られることが示されている4)。個々の患者の頭部CTを空間的標準化した際に用いられた変換行列を用いて,上記3)で作成した個々の患者の病変部位を定義するマスク画像を標準空間へ変換した(図2右)。今回の解析の目的は,歩行速度に関する病変側の左右差を評価するものではなく,解剖学的におおむね左右対称の構造が想定される皮質脊髄路の検出を想定したものである。また,先行研究においても,病変側は脳卒中後の歩行速度を予測する因子としては挙がっていない13)。そこで今回の解析では,空間的標準化により得られたデータのうち右半球損傷例の画像を左右反転し,病変を左半球に統一した。

左図の頭部CT画像の標準テンプレートに合致するように,各個人の頭部CT画像を変形(線形・非線形変形)した.右図は空間的標準化された各個人の頭部CT画像の代表例に頭蓋部分を除去したCTテンプレート(赤色部分)を重ね合わせている.
退院時の最大歩行速度に関連する脳出血発症時の病変部位を明らかにするために,MATLAB上で動作するNiiStat(https://www.nitrc.org/projects/niistat/)を用いてVLSM解析を行った7)。解析の前段階として,作成したすべてのマスク画像をそれぞれNIfTI形式からMATLAB解析用のデータ形式であるMATLAB MAT-file(拡張子は.matが一般的)へMATLABを用いて変換した。空間的標準化を行った後,各ボクセルについて,そのボクセルが病変に含まれる患者(病変あり)と含まれない患者(病変なし)に分け,両群で最大歩行速度が有意に異なるかをt検定を用いて評価した。VLSMは数万から数十万に及ぶ多数のボクセルを検定する解析であるため,多重比較補正としてfalse discovery rate(FDR)を適用した7)10)。有意水準はFDR補正後p<0.05とした。結果はZ-scoreで表示した。結果の解釈は単一ボクセルではなく,連続した領域として行った。
退院時の最大歩行速度との関連が検出された領域と白質の神経線維束との位置関係を確認するために,主要な神経線維束を標準空間上で表示する白質アトラス(地図)を重ね合わせた。ここでは白質アトラスとして,ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University:以下,JHU)が提供しているJHU-ICBM-tracts-maxprob-thr25-1mm.niiを用いた。これは,MRIトラクトグラフィーで描出した複数名の被験者の神経線維束のうち,25%以上の確率で軌道として一致する領域を描出したものである。また,NiiStatが提供するVLSM解析においては,患者の病変部位を定義する全患者25名分のマスク画像を標準脳テンプレート画像上に重ね合わせてMRIcronGL上で表示することで,対象患者の病変部位の傾向を視覚的に確認することができる。
4. 倫理的配慮本研究はヘルシンキ宣言に基づき,千里リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:202505)。得られたデータは匿名化を行い,個人情報が特定されないように配慮した。
対象患者の背景および評価項目を表1に示す。対象患者の平均年齢は60.3±10.1歳,出血部位の臨床診断は右視床出血2名,左視床出血5名,右被殻出血5名,左被殻出血7名,右尾状核出血1名,右前頭葉皮質下出血2名,左前頭葉皮質下出血1名,右頭頂葉皮質下出血1名,左側頭葉皮質下出血1名であった。退院時の最大歩行速度の平均値は1.01±0.48 m/秒であった。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 年齢(年齢幅) | 60.3±10.1(42–79) |
| 性別 男:女(%) | 16 : 9(64 : 36) |
| 病変側 右:左(%) | 11 : 14(44 : 56) |
| 発症から回復期退院までの日数(日) | 165.0±47.4 |
| 入院時 下肢BRS | 3(2–5) |
| 退院時 下肢BRS | 5(4–6) |
| 入院時 FIM歩行項目 | 1(1–1) |
| 退院時 FIM歩行項目 | 6(5–7) |
| 退院時 最大歩行速度(m/秒) | 1.01±0.48 |
連続変数は平均値±SD, 順序変数は中央値(四分位)で表記.
BRS: Brunnstrom stage, FIM: Functional Independence Measure.
画像解析においては,空間的標準化が行われた各患者の頭部CT画像をCTテンプレートに3次元的に重ね合わせて比較した結果,前後反転などの明らかな誤整合がないこと,およびおおむね良好な位置合わせが得られていることを目視により確認した。対象患者の病変部位を定義したマスク画像を標準脳テンプレートに重ね合わせたところ,被殻後部に最も病変が集中しており(n=18),前頭葉や頭頂葉,側頭葉皮質下に病変が広がるものもあった(図4)。VLSM解析の結果,退院時の最大歩行速度と有意に関連のある脳出血病変部位として,内包後脚後部(MNI座標:24,−21,7)に検出された(z-scoreの最大値は−3.67,クラスターサイズは9ボクセル)(図5)。Z-scoreは負の値を示しており,抽出された領域は歩行速度の低下に関連していることを示している。JHU白質アトラスを重ねた結果,内包後脚を走行する皮質脊髄路の後部に位置していることが確認できた(図6)。

対象患者(n=25)の発症時の脳出血病変の重なりを示している.

退院時の最大歩行速度と有意に関連のある発症時の脳出血病変部位として,内包後脚後部(MNI座標:24, −21, 7)が検出された(z-scoreの最大値は−3.67, クラスターサイズは9ボクセル).

退院時の最大歩行速度と有意に関連のある発症時の脳出血病変部位の直交断面図(図A)と,それに標準空間上の皮質脊髄路(JHU白質アトラス;緑色)を重ね合わせた図(図B).検出された部位が皮質脊髄路の後方領域であることが分かる.オレンジ枠は図5と同じ領域であることを示している.
本研究では,頭部CT画像の空間的標準化法を用いた脳画像解析の手順について,解説を交えながら説明した上で,その妥当性についてVLSMを用いて検証した。Rordenらの方法を用いた頭部CT画像の空間的標準化は,1例ずつの視察的評価では,適切に行われていることが確認できた。さらにはこの空間的標準化が正確に行われていることを前提にしたVLSM解析において,脳卒中後の最大歩行速度と関連する領域として,MRIを用いた先行研究と同様に内包後脚後部が検出された9)10)14)。白質アトラスとの重ねあわせによって詳細な解剖学的位置を確認したところ,検出された領域は皮質脊髄路の後部に位置することが分かった。内包後脚の皮質脊髄路においては,前から順番に顔,上肢,下肢の筋を支配する神経線維が走行していることから15),今回検出された領域は下肢の筋を支配する神経の走行部位と合致すると考えられ,最大歩行速度との関連が認められたことと整合していると考えられた。以上の結果より,一般病院で撮像された撮像機器や撮像パラメータの異なる頭部CTの空間的標準化が適切に行われたと考えられる。
先行研究においては,今回の研究で検出された皮質脊髄路に加えて,被殻10)16),島皮質9)16),上縦束9)16)なども脳卒中後の歩行速度低下に関連する領域として報告されている。先行研究との比較において,本研究で検出された領域は限定的であったが,これは対象群の病態やサンプルサイズ,共変量のコントロールの有無などの違いに起因する可能性はある。
脳卒中の病態については,本研究と先行研究で対象の違いが検出領域に影響した可能性がある。すなわち,本研究の対象者は脳出血患者に限定しているのに対し,先行研究では被験者の74~82%が脳梗塞であった9)10)16)。脳梗塞においては,支配血管を同じくする複数の領域が病変に含まれることがある。そのため,内包後脚と支配血管を同じくするその他の領域についても,脳卒中後の歩行速度低下に関連する領域として同時に検出された可能性がある9)16)。今回検出された内包後脚後部は,レンズ核線条体動脈もしくは前脈絡動脈によって支配されていることが多い17)18)。そのため,前者の閉塞による脳梗塞では被殻を含む基底核が同時に病巣に含まれやすい17)。また,レンズ核線条体動脈が由来する中大脳動脈や前脈絡動脈が由来する内頚動脈などの,より中枢側における血管閉塞では,内包後脚に加えて基底核や島皮質,さらには上縦束を含むより広範な領域が脳梗塞病変に同時に含まれることになる17)。このようなことから,主に脳梗塞を対象とした先行研究においては,脳卒中後の歩行速度と関連する領域として,内包後脚以外に,被殻や島皮質,上縦束などが含まれていた可能性がある。一方,本研究は脳出血患者に限定しており,発症直後のCT画像を用いた点で異なる。脳出血では発症早期に血腫による圧排や浮腫が存在し,画像上の病変範囲は広範に及ぶが,時間経過とともに血腫は吸収されて,浮腫は消退する。これに伴って,急性期CTで定義された病変範囲に比べて,後の神経機能回復段階での実質的な損傷領域は限局されるため,検出領域の違いに影響した可能性がある。
サンプルサイズの違いについては,本研究における対象症例数の少なさが検出力の制約となった可能性はある。一般的にVLSM解析においては,サンプルサイズが小さくなるほど結果のばらつきが大きくなりやすく,検出力が低下する。言語機能課題と病変との関係についてVLSM解析を用いて調べた先行研究においては,サンプルサイズ30では,サンプルサイズ360で解析を行った時に比べて,約40%しか有意結果を再現できなかった19)。もちろん,高次脳機能に比べると歩行速度のような単純な運動機能は,局所的な神経基板に依存するため,病変との対応関係が明確になりやすく,統計学的に大きな効果量を示しやすい19)。そのため,比較的小規模なサンプルでも一定の信頼性は得られると考えられるが,本研究におけるサンプルサイズ25は,内包後脚以外に有意な領域を検出するための検出力を備えていなかった可能性はある。
脳卒中後の歩行速度に影響しうる共変量については,急性期・亜急性期・慢性期といった異なる臨床段階のいずれにおいても,年齢,発症時のバランス能力(Berg Balance Scale),および発症からの経過期間が報告されている13)。本研究は後方視的研究であり,最大歩行速度が測定された退院時における発症からの経過期間は一定でない。今回の解析ではサンプルサイズの制約から単変量VLSMとしたが,実際にこれらを共変量として導入してMRIを使ってVLSM解析をした結果,内包後脚を含む皮質脊髄路以外に,島皮質や上縦束も脳梗塞後の歩行速度に関連する領域として検出されたことが報告されている9)。さらには,大きな病変は重要な解剖学的部位を巻き込みやすいため,VLSM解析においては症状と統計的に結びつきやすいこと(病変サイズバイアス)が知られているため20),病変の大きさも共変量に加えて解析されることが多い。しかし,一般的に病変サイズバイアスが存在する場合には,より広範な領域が「有意」として検出されやすくなる。そのため,本研究で内包後脚のみの限局した領域しか検出されなかったことは,病変サイズバイアスの影響とは考えにくい。
以上のように,いくつかの制約はあるものの,CT画像を用いた本解析でMRI研究と整合する結果が得られたことは,頭部CT画像の空間的標準化法の信頼性を支持する結果であると考えられる。特にRordenらのClinical Toolboxを用いた手法は,異常信号部位をcost function masking法により自動的に除外できるため,脳卒中のように信号変化を伴う病変を含む症例においても安定した変換を可能にする4)。本研究で得られた結果は,この手法の本邦における臨床応用の可能性を実証するものであり,MRI設備を持たない一般病院において,脳卒中患者の脳画像解析を行う際の重要な技術基盤になると考えられる。
本研究では,Rordenらが開発したClinical Toolboxを用いた頭部CT画像の空間的標準化手順を提示し,片側テント上脳出血患者を対象としたVLSM解析によりその妥当性を検証した。その結果,退院時の最大歩行速度と関連する病変部位としてMRIを用いた先行研究と整合する所見が得られた。以上より,本手法は一般病院において脳卒中リハビリテーションの脳画像解析を支える有用な技術基盤となりうると考えられた。
本研究の一部は,文部科学省科学研究費助成基盤研究C(16K09715)および基盤研究B(23H03263)の助成を受けた。
本論文に関連して,著者全員に開示すべき利益相反はない。