Journal of Innovation Management
Online ISSN : 2433-6971
Print ISSN : 1349-2233
Refereed Research Notes
B2B Platform and Distribution Innovation in China: The Case Study of Shenzhen Synergy
Yifei Wang
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2019 Volume 16 Pages 121-139

Details
要旨

中国においてB2Bプラットフォーム型流通企業が台頭し注目を集めている。同型企業は包括的なリテールサポートを展開し、伝統的な中小零細小売店舗の経営能力を強化することによって、大規模組織小売企業と大規模ネット通販企業に対抗する流通サプライチェーンの構築を狙う。本研究では、理論的サンプリングで先駆的なB2Bプラットフォーム型流通企業である星利源社を調査対象に選定し、同社に対する事例研究を行う。そのうえで、流通システムのイノベーションの視点から、同社のリテールサポートの実態と構成要素を解明するとともに、流通システムのダイナミズムという視点から、中国流通システムの進化プロセスにおけるB2Bプラットフォーム型流通企業のもたらすインパクトを考察する。

1.  はじめに

中国流通システムでは、B2Bプラットフォーム型流通企業と称するタイプの事業者はここ数年、急速に台頭し、注目を集めている。B2Bプラットフォーム型流通企業は、伝統的な中小零細小売店舗1に対する効率的かつ効果的な商品供給を主な事業内容とする。インターネットや情報システムなどのIT技術を駆使して、小売店舗とベンダー2が参加するバーチャルなプラットフォームを構築し、マーチャンダイジング3や配送などのサービスを提供することで中小零細小売店舗の支援を展開するといった点が、従来の卸売企業や卸売市場にない特徴である。

2000年以降、ネット通販が爆発的な成長を遂げてきた。アリババと京東など一握りのネット通販大手は、実店舗の大規模組織小売企業を凌駕する小売の雄となった。中国国家統計局の公表データによると、2016年度のネット通販総額は4兆1944億元にのぼり、中国社会消費財小売総額の12.6%を占めた。もっとも、最近になってネット通販の快進撃はこれまでの勢いを失い、伸び率は緩やかに落ちてきている傾向を見せている。2016年度の伸び率は取扱金額ベースで前年度比7.1%減であった。同時期の実店舗の売上総額は減少に転じた。チェーンストア上位100社の売上総額伸び率は2010年の2.2%から2016年の−0.5%に悪化した4

プラットフォーム型流通企業の出現する背景の一つには、中国流通システムにおけるネット通販の巨人を含む大企業と夥しい数の中小零細小売店舗という二重構造が存在していることがある。中国商務部の公表データによると、2016年まで、中国の小売業で個人商店は1,567万社を超え、経営組織別構成比をみると、86.5%の割合となっている。例えば、FMCG(fast moving consumer goods 在庫回転率の速い消費財)5分野をみると、2016年、ネット通販は全体売上高の7.0%を占めていることに対し、雑貨店のような零細小売店舗はほぼ同シェア(6.8%)を占めている。それとは対照的に、コンビニエンスストア(以下「コンビニ」と省略)のシェアはわずか4.4%である(BAIN&COMPANY, 2017)。流通の近代化が進展してきた今日でも、夥しい数の零細小売店舗は依然として中国流通システムにおいて生命力を保ち、重要な小売機構として役割を果たし続けていることを示している。こうした零細小売店舗は、多段階の卸売業者および伝統的な卸売市場と相互依存しながら、中国流通システムの一角を占めている(李, 2003)。

こうした伝統的な中小零細小売店舗は、効率的な流通機構とはいえないものの、市民生活のインフラとしての性質を有し、コミュニティの不可欠な構成要素となっている。実際、ここ数年ネット通販の興隆は量販店や百貨店などの実店舗型組織小売業を大きく圧迫している一方で、日用消費財を取り扱う中小零細小売店舗に対する影響は比較的軽微と見られる。地域密着・コミュニティ密着の零細小売店舗は依然として市民に支持され、強靭な生命力と大きな潜在性を示しているといえる。近年、減速している流通業界は、オムニチャネル戦略に代表されるECビジネスと実店舗の融合戦略が求められている。そのため、零細小売店舗のオムニチャネルの物理的拠点になる可能性は注目を浴びる。

しかし、生業型の零細小売店舗は市民から支持されているものの、厳しい状況に直面するのも現実である。大規模組織小売業や大手ネット通販事業者と比べて、個々の中小零細店舗は経営基盤が脆弱で、経営資源が乏しいため、市場把握力もマーチャンダイジング(商品化計画)能力も総じて低い。中小零細店舗はポテンシャルを発揮するためには、経営資源の強化やネットワーク化などの取り組みが必要である。

プラットフォーム型流通企業は、中小零細小売店舗の課題とポテンシャルをビジネスチャンスとして捉える。具体的には、小売店舗に対して、販売予測、店舗配送、単品管理、マーチャンダイジングの改善、仕入価格の適正化などの支援を行う一方で、店舗の組織化とネットワーク化を推進するプラットフォームを構築することである。このようなプラットフォームはリテールサポート6機能の遂行をベースに、流通サプライチェーンの統合を行い、ECビジネスと零細小売店舗の融合を図ることでオムニチャネル対応の基盤構築を目指す。

流通革命論など流通システムのダイナミズムに関する既存研究では、零細・生業型の伝統的小売店舗を後進的な流通機構と認識し、淘汰されるべきであると主張する(林, 1962佐藤, 1971)。これに対して、零細小売店舗を取り込み、それらとの共進を図るB2Bプラットフォーム型流通企業の取り組みは、新たな流通システムの進化方向を示唆する。B2Bプラットフォーム型流通企業の取り組みには、本質的にいかなる流通イノベーションがあるのか。流通システムのダイナミズムにどのようなインパクトを与えるのか。解明すべき研究課題は多く浮上している。本稿はこうした課題への探索的な研究の一環として、典型的な事例を取り上げて考察してみる。

2.  調査手法と調査概要

直接消費者に販売するネット通販のプラットフォームと異なり、小売店舗向けのサービスということで、この種の流通事業は総じてB2Bプラットフォーム型流通企業と称されている。B2Bプラットフォーム型流通企業は2013年から現れ、当時全国で十数社が存在していたが、星利源社はこれら先発企業の一つである。2017年3月まで、200社以上のB2Bプラットフォーム型流通企業が設立された(新経銷, 2017a)。そのうち、中商恵民、掌合天下、アリババ傘下の零售通などの大手企業は加盟店舗40万店を超えていた(表1)。2016年に実施した調査によると、FMCG分野における680万店零細小売店舗のうち、16%がB2Bプラットフォームを利用しており、B2Bプラットフォームを通しての仕入れ金額は400億元に達し、仕入れ総額の25%を占める。また、2018年になると、44%の零細小売店舗がB2Bプラットフォームを利用し、仕入れ金額は3,300億を超え、店舗仕入れ総額の半分ほどを占めると予測される(KANTAR RETAL, 2016)。

表1 有力B2Bプラットフォーム型流通企業9社
会社名 創業年 本社所在 事業展開地域 加盟店舗数 事業モデル 事業特徴
中商恵民 2013年 北京 全国 40万店以上 卸売型 ①商品を仕入れ、自社在庫を保有しており、在庫リスクを負う。
②物流システムを自社で構築する。
星利源 2013年 深圳 深圳 1万店以下 卸売型
易酒批 2014年 北京 全国 10万
~20万店
卸売型
京東新通路 2016年 北京 全国 5万~10万店 卸売型
全時匯 2011年 北京 北京、天津、河北省 1万店以下 卸売型
掌合天下 2013年 北京 全国 40万店以上 仲介型 ①ベンダーと小売店をマッチングし、在庫リスクを負担しない。
②物流業務をアウトソーシングする。
アリババ零售通 2014年 杭州 全国 40万店以上 仲介型
快消帮 2015年 杭州 浙江省 1万店以下 仲介型

(出所)各社の公開資料より筆者整理。

B2Bプラットフォーム型流通企業によるイノベーションを探索するために、筆者は、理論的サンプリング手法7を用いて、ケーススタディとしての星利源社を選んだ。同社は、2013年に中国華南地域で中小零細小売店舗向けのプラットフォームを構築し、情報システムや配送センター、購買の集約など様々な仕組みを導入し、経営基盤が脆弱な零細小売店舗に包括的なリテールサポート・サービスを提供しはじめた。同社がサービスを開始した後、類似したサービスを手掛ける企業は続出し、アリババなどネット通販大手もこの領域に進出したため、大きな関心を呼んでいる。星利源社は規模として最大級ではないが、草分けとしての企業である。同社は今日まで堅実に発展しており、中堅規模を有する。2017年発表したB2Bプラットフォーム型流通企業の「22都市総合影響力TOP20ランキング」8の20位にランクインしており、深圳市でアリババ零售通に注ぐ2位であった。また、都市部の伝統的中小零細店舗を対象とする点と、プラットフォーム機能・サービスは他の同業他社より完備している点も典型的なケースとして妥当と考えられる。

星利源に関する情報は社内資料、公開資料、インタビュー調査、直接・参与観察など複数のソースから収集した(表2)。

表2 星利源社の現地調査
日付 名前 部門 肩書(当時) 調査手法 時間
2016/7/25 沈柳斌 社長補佐 インタビュー 10時~12時
林立方 会長 インタビュー 14時~18時
2016/7/26 常波 マーケティング 副部長 インタビュー 10時~12時
熊超 調達 部長 インタビュー 14時~16時
2016/7/27 劉興玲 金融 部長 インタビュー 10時~12時
劉茜 IT エンジニア インタビュー 14時~16時
谢渝畅 IT 部長 インタビュー 14時~18時
2016/7/28 物流部門 参与観察 9時~16時
陳勇 iDCセンター 部長 インタビュー 16時~18時
2016/7/29 周向陽 iDCセンター QAグループ インタビュー 9時~12時
高敬 人事 マネジャー インタビュー 14時~16時
2016/7/30 直営モデル店 直接観察 10時~12時

(出所)筆者作成。

3.  フィールド概要

3.1  深圳市小売産業の概要

香港に隣接する深圳市は、中国で設立された最初の経済特区の一つとして知られる。同市の経済規模は北京市、上海市、広州市に次ぐ中国第4位である。深圳市は香港の影響を受け、中国では小売業が最も発達した都市の一つである。中国チェーン経営協会の発表した「2016年中国都市コンビニ指数」によると、深圳市は総合得点で1位であった。コンビニ出店数の増加率は25%にも達し(同5位)、約半数の店舗は24時間営業を実施し、1店舗あたりの顧客数は2,589人(同3位)である。そして、地方政府もコンビニの発展を強力に支持する(同4位)という。

2013年時点で、深圳小売店舗は17.5万店、売場総面積は3,235.6万平方メートルである(FHKI, 2014)。『深圳市統計年鑑2015』によると、2014年まで、年商500万元以上の店舗は427店しかなく、売場総面積は579万平方メートルである。従って、数多くの零細小売店舗が域内に存在していることがデータから推察できる。さらに、大規模コンビニチェーンと分類される店舗のうち、チェーン本部と緩やかなフランチャイズ契約を結びながら、実質的に独立している零細小売店舗も数多く含まれている点を考えると、域内に膨大な数の伝統的な零細小売店舗が営まれていることが分かる。そのため、深圳はB2Bプラットフォーム型企業の激戦区になる。24社のB2Bプラットフォーム型企業は深圳で事業を展開している(新経銷, 2017b)。

3.2  星利源社の概要と沿革

本ケース・スタディの対象企業である星利源社は香港出身の企業家・林立方氏が、2013年に創業したプラットフォーム型流通企業である。同社は零細小売店舗向けのリテールサポートを中心にして事業を展開している。2015年7月、深圳で約1万平方メートルの在庫型物流センターiDC9を稼働し、リテールサポーティング・ビジネスを本格的に展開し始めた。2016年5月に月間商品取扱高は1,251万元に達成し、会員店舗数が6,000店を超えているという。

星利源の前身企業は糖果動力という社名で、お菓子の生産販売を営んでいた。2002年から、糖果動力は全国で営業拠点を設立し、それぞれの地域の有力卸売業者や小売業者と提携するなど、全土をカバーする販売ネットワークを構築し始めた。自社製品以外の外国のブランドの代理ビジネスも開始し、製造業から卸売業へと徐々に主力事業を転換していった。2010年までは、200もの都市で営業拠点を擁するネットワークを完成した。この過程で、同社は中国流通システムを深く理解し、市場開拓のノウハウが蓄積できたという。

全国範囲の販売ネットワークの整備により、菓子販売事業は順調に軌道に乗り拡大していったが、ネット通販の急成長の影響を受けて数年前から成長が鈍化した。その状態を打破するために、様々な打開策を打ったが、期待された結果が得られなかった。試行錯誤を繰り返しているうちに、多様なアイディアを融合した結果、プラットフォーム型流通企業に変身するという新たな事業構想に辿り着いた。2013年に社名を「星利源」に変更し、お菓子の生産販売業から、零細小売店舗向けのリテールサポートを提供するプラットフォーム事業にシフトする戦略を明確に打ち出した。

4.  発見事実

4.1  ビジネスモデル確立のきっかけと構想

中国国内市場を開拓する際に、並みならぬ地道な調査努力により、林は中国の消費財流通経路に大規模国有卸売企業、伝統的な卸売市場、個人卸売店など多種多様な卸売業者と大量の零細小売業者が存在し、長くて複雑な多段階構造になっているという特徴を把握した。

同時に、先進国流通市場の調査も行った。アメリカに進出する際に、アメリカのセブン-イレブンと契約を結び、セブン-イレブンの提携企業であるサプライチェーン・サービスの大手企業マクレーン社と一括納品代行の取引を開始した。マクレーン社との取引を通じて、林は初めてリテールサポーティングという事業を認識した。

林はセブン-イレブン・ジャパン、アルディなど先進国の小売企業の在り方についても研究した。特に、アルディの経営手法に惹かれたという。同社は店舗のSKU(最小在庫管理単位)管理を実施し、徹底したローコストオペレーションと低価格販売を実現している。日本の食品スーパーでは1万から数万品目までを取り扱うのは一般的であるが、アルディは700から1,400品目までに絞り込み、死に筋商品を排除し、商品の高回転率を維持して高い売場効率を実現しているという(吉田, 2012)。

星利源は以上のような先進国企業の経験を踏まえながら、中国の流通市場でリテールサポートやSKU管理といった経営手法を応用できると考え、卸売企業からプラットフォーム型流通企業に変身するという戦略を打ち出した。

4.2  ビジネスモデルの設計

(1)  ターゲットの選択

FHKI(2014)の報告書によると、深圳市の大規模コンビニチェーンと零細小売店舗は、1平方メートル当たりの年間売上の格差が約5,000元、粗利益率の格差が5%前であり、両者の利益水準には大きな開きが存在する。この格差は主に仕入れチャネルの仕組みの違いに起因している。大規模コンビニチェーンストアは90%以上の商品をメーカーから直接仕入れるのに対し、零細小売店舗は約40%の商品を伝統的な卸売市場から、約30%を三次卸業者から、残りはネット通販などを利用して仕入れているという。このような調達構造は比較的に高い仕入れコストを余儀なくされる。加えて、商品の安定供給や品質保証など問題が多い。こうした問題が解決できれば、零細小売店舗の収益水準が大幅に向上できるものと考えられる。

そこで、星利源は零細小売店舗向けのリテールサポート機能を提供することにより、零細小売店舗の仕入れ経費を改善するだけでなく、仕入れ価格の交渉力強化や市場把握力の向上、店内オペレーション効率の改善といったメリットを与え、彼らの競争力を引き上げることができると確信した。そのため、同社は零細小売店舗を主たるターゲットに定め、リテールサポート事業に乗り出した。2015年からまず深圳市で同事業を開始し、順次珠江デルタ全域に事業を拡げ、2017年までに5つのiDCセンターを設立することを盛り込む事業計画を立てた。

(2)  小売店舗の改造目標

星利源が零細小売店舗にリテールサポート機能を提供する目的は、店舗の収益水準を向上させ、自社と店舗のWIN-WIN関係を構築し、より多くの店舗をプラットフォームに取り込み、ゆくゆくはECと融合する新たな流通サプライチェーンを構築することである。そのために、加盟店舗の収益水準を現状の2倍以上増やすという目標を立て、零細小売店舗に様々な経営改善案を提案している。

星利源はマーチャンダイジングの改善、在庫の最適化、店内作業の効率化3つの手段で零細小売店舗の既存経営活動の改善を促進する。同社の市場調査によると、零細小売店舗の取扱SKU数は1,000~1,200程度である。そのうち、600SKUの売上げは店舗の売上げの約95%を占め、残り400以上のSKUが売上げに占める比率はわずか5%に過ぎない。死に筋SKUの大量滞留は、売場の効率を損なう要因と考えられる。店舗のマーチャンダイジングを改善し、商品構成を最適化する必要がある。しかし、零細小売店舗のオーナーは知識不足や情報不足などの原因で、店舗の経営実態を正確に分析できず、総じて低い売場効率と収益性に喘いでいる。これらを改善するために、星利源は自社の情報システムを利用し、販売効率の低いSKUを排除し、売れ筋商品に集約することで、マーチャンダイジングを改善する提案を店舗側に働きかけた。

また、在庫管理も零細小売店舗経営の難点である。欠品が発生すると、販売機会ロスになり、顧客の満足度も下がる。一方で、過剰な在庫を抱えると、資金効率の悪化、商品の陳腐化などの問題が発生する。星利源は店舗在庫の最適化を実現するために、店舗向けの在庫管理専用アプリを開発した。店舗の従業員はスマホの簡単な操作によって商品の在庫数や賞味期限、発注残などを含むデータを収集し、分析の結果も入手できる。これにより、在庫の最適化を実現し、在庫管理作業の難易度と作業量も大幅に低減させた。

さらに、店内作業の効率も店舗経営状態に大きな影響を与える。通常、零細小売店舗の従業員はオーナーを含めて2~3人しかいないので、接客しながらの発注・荷受作業が大きな負担になる。発注や荷受け、陳列ミスが発生しやすく、棚卸を定期的に行うことも難しい。店舗オペレーションの効率は総じて低い。このような状態を改善するために、星利源はスマホでSNSと専用アプリを経由する発注システムを開発し、店舗に無料提供している。これにより発注の便利さを大幅にアップした。また、店舗検品レス制度を提案し、荷受け作業の生産性向上を図る。さらに毎日配送サービスを行い、店舗側の多頻度小口発注を実現し、シェルフスペースの節約につながる。こうした一連の取り組みにより、店舗の作業負担を軽減し、生産性の向上などの効果が得られる。

4.3  四つの機能カテゴリーからなるリテールサポート

星利源のリテールサポート・サービスは主に、①ロジスティクス機能、②マーチャンダイジング機能、③情報機能、④店舗チェーン化の四つの機能カテゴリーから構成される(図1)。以下では、リテールサポート・サービスの各部分の実態をケースから抽出してみる。

図1 リテールサポート機能の概念図

(出所)社内資料に基づき筆者作成。

(1)  ロジスティクス機能とマーチャンダイジング機能の協働

ロジスティクス機能は小売店舗の日常経営活動に直接つながるので、リテールサポート・サービスのパフォーマンスを左右し、店舗をプラットフォームに誘致する鍵を握る。

星利源は、高度なロジスティクス機能を競合他社との差別化の武器にすべく、先進国の経験を参考にしながら、独自のロジスティクス体系を構築した。同社はロジスティクスのほとんどのオペレーションを内部化した。翌日デリバリーの納品リードタイム、毎日配送と事後検品などのサービスを提供し、ノンアセット型10のプラットフォーム型流通企業や従前の卸売企業より高水準の物流サービスを提供し、差別化を図る。一方で、物流活動のコストを抑えることにも注力している。星利源はSKUを絞り込むなどの方法を採用し、サービス水準とコスト両者のバランスを図ろうとしている。そのため、ロジスティクス機能とマーチャンダイジング機能2つの要因によって、多様なイノベーションが生じた(図2)。

図2 ロジスティクス機能とマーチャンダイジングの機能の協働

(出所)社内資料に基づき筆者作成。

2015年7月に星利源は在庫型物流センターiDCを本格的に稼働し始めた。センターの供用は業務の拡大に大きく貢献した。2016年に入ると、同社は急速に取扱量を伸ばした。2016年5月時点で約2,000店舗に商品を供給しており、月次取扱高は1,251万元に達成する。一日当たりの平均オーダー数は420件、約425台のカゴ車相当の商品を出荷し、1日当たりトラック稼働台数はのべ38台である。

iDCセンターの基本作業の流れは一般的な物流センターと似通っているが、零細小売店舗のニーズに合わせ、物流サービス水準とコスト削減のバランスをとるために、センター内のオペレーションに様々な工夫を凝らした。

星利源がiDCセンター内の取扱いSKU数を絞り込む。一般の小売店舗向けの物流センターは最低数万SKUを取扱うのに対し、iDCのSKU数が約2,000にとどまる。SKU数を少なく設定する理由は零細小売店舗をターゲットとするプラットフォーム戦略にある。星利源のiDCセンターでは、零細小売店舗向けのロジスティクス機能を提供するのが目的となっている。高回転率の商品を中心に、限定的なSKUを取り扱い、低コストのオペレーションと高品質のサービスを同時に追求することで、リテールサポート戦略を支える。

前述した星利源社の調査結果で示されているように、零細小売店舗に販売貢献度の極めて低いSKUが少なからず存在している。星利源はフルライン商品の供給を目指すのではなく、商品を絞り込み、売れ筋商品の発見と更新を中心とするマーチャンダイジング機能を店舗に付与することで、零細小売店舗の収益力を向上させようとしている。同社は個々の零細小売店舗の経営状況を踏まえながら、品揃え提案、商品補充プログラム、店舗経営診断の3つの機能を提供し、低コストでマーチャンダイジングの改善を図る。

まず、星利源は自社の情報システムを通じて、POS端末・スマホアプリで収集した店舗の経営データを解析する。所在商圏、店舗規模、消費者習慣といった点で共通する店舗群のデータに対する分析結果に基づき、店舗群別のマーチャンダイジング提案を作成する。各店舗は店舗の実態と所属店舗群のマーチャンダイジング提案を比較しながら、商品構成、在庫、補充を調整する。

また、星利源は店舗の販売と収益への貢献度が高いカテゴリーを中心に商品を供給する。同社は受発注システムの中で、毎日の推奨商品のリストを公示し、リベート付きの優遇価格を設定するなど、店舗からの注文を推奨商品に誘導する。こうした仕組みにより、店舗側の商品構成を最適化に向けて絶えず改善し、収益性も好転させる効果が得られる。推奨商品リストは市場動向や季節変動、商圏の変化などに合わせて頻繁に調整し、マーチャンダイジングの持続的な改善を狙う。

そのゆえに、iDCセンターは膨大な数にのぼるSKUを保有すべきではなく、2,000前後と限定する方針を定めた。SKUの数、種類とブランドは固定化せず、季節の変動や市場動向の変化に合わせて柔軟かつ効果的に調整し、消費者のニーズに対応する。

零細小売店舗は経営の実態により、商品発注の安定性が低く、注文が小口になりがちである。こうした点に対応する物流センターの作業は、ピースピッキングが多く、波動が激しい。星利源はオペレーションの波動を克服する取り組みを続けており、物流作業の平準化を図る。星利源は商品の出荷データに基づき、ABC分析を行い、取扱いSKUをABCランクに分類する。各ランクのSKUを一定基準(毎週出荷数と出荷頻度など)でグループに分け、推奨商品リストを作る。受発注システムで毎日のリストを店舗側に公示し、店舗側はリストから商品を選んで注文すれば、リベートを受けられる。この仕組みにより、毎日取扱う商品を500SKU前後に限定し、出荷アイテムと出荷量の平準化を実現する。

優れた配送サービスは高品質の物流サービスの不可欠な部分である。星利源は配送サービスが競合他社との差別化の重要な一環と位置付け、巨額な資金を投入し、自社運営の配送システムを構築した。いすゞ製の箱型トラックを購入して自社のニーズに合わせて改造した。トラック1台にカゴ車12台を積載できる。車内に監視カメラが装置され、積み込みから配送完了までの全過程が追跡できる。筆者らの調査時点では、50台の配送用トラックを保有しているが、近々約5,000万元を投資して200台まで増やす計画だという。

零細小売店舗の納品リードタイムは通常2–3日であるのに対し、星利源は翌日配送を実現している。17時までの受注に対して、翌日配送を行う。ドライバーは事前に編成された配送ルートに沿って、ダイヤグラム配送を担当する。配送ルートによって、店舗の納品時間帯が異なる。短いリードタイムを可能にしたのは、自社運営iDCセンターと配送サービスを連携させることである。24時間稼働のiDCセンターでは、入荷、ピッキング、仕分けなどの作業が常に夜間で行うことによって、リードタイムを大幅に短縮できた。

また、零細小売店舗では従業員が1人しかいない場合が多いので、荷受・検品作業は大きな負担になる。接客販売の合間で検収するので、荷受けに時間がかかり、店内作業の効率が低下する。配送要員はしばしば店内で手待ちせざるを得ず、配送の非効率につながる。この問題に対して、星利源は事後検品と一週間以内返品可という制度を導入し、将来の検品レスにつなげていこうとしている。店舗の検品レスを実現するために、星利源は誤選や誤配などの作業ミスを極力削減する。センター内では入荷から出荷までスキャン検品の仕組みとDAS(デジタル・アソート・システム)を導入し、すべての庫内作業はハンディ端末の指示に従い、ヒューマンエラーの回避を狙う。DASとスキャン検品を併用しており、ミス率は1万分の1以下に抑えることができた。それにより、零細小売店舗の店内作業の生産性が向上しながら、配送サービスも効率的に行っている。

さらに、ドライバーは毎日配送サービスを行うので、営業担当者より店舗に接触する頻度が高い。その高頻度を活用するため、星利源は「セールス・ドライバー」制度を導入し、通常の営業チームとの連携を進めた。ドライバーの営業の能力を育成するために、営業に関する基本知識を学習する訓練コースなどの仕組みを構築した。すなわち、ドライバーは配送業務だけではなく、一部の営業活動を兼ねる。例えば、ドライバーは自社プラットフォームの宣伝や、配送先で代金回収など業務を担当する。

(2)  総合的な情報システムの構築

このようなリテールサポート機能の全てのオペレーションを支えるのは総合的な情報システムである。星利源はERP(イー‐アール‐ピー Enterprise Resources Planningの略称)システム分野の最大手SAP社のシステムを基幹システムとして導入し、さらに、WMS(Warehouse Management System倉庫管理システム)、TMS(Transport Management System輸配送管理システム)、モバイルアプリなどサブシステムと連動して、総合的な情報システムを構築した(図3)。

図3 星利源の情報システム

(出所)社内資料に基づき筆者作成。

零細小売店舗向けのリテールサポート機能において、店舗の経営実態を把握することが不可欠である。そのため、優れたデータベースと分析システムの構築が最優先だと考えられている。当初、SAP導入の狙いは、SAPシステムを通じて優れたデータベースの構築と正確なデータ分析により、リテールサポート機能を支えるだけではなく、プラットフォーム全体をサポートすることである。企業経営に関連する全てのデータはSAPシステムを経由して処理されるため、情報システムの基盤たるデータベースにデータが蓄積される。リテールサポートの諸活動はデータの分析結果に基づいて展開される。

しかし、筆者ら調査の段階ではSAPの先端システムは、業務に不適合する部分が存在している。SAPシステムの強みは、各モジュールが緊密に連動し、安定的な事業プロセスを正確に分析するということである。星利源はリテールサポート・サービスという新事業を展開している初期段階で、各プロセスがまだ固まっていない部分が残っており、頻繁な変更を余儀なくされている。この場合には、SAPシステムは調整の柔軟性が欠如するという弱点が現れる。安定性と柔軟性を両立する情報システムを整備するために、星利源は2つの打開策を実施した。一つはITベンダーから購入したWMS、TMSなどサブシステムを自社の業務ニーズに合わせてカスタマイズする。もうーつは、受発注システムと店舗管理などのサブシステムを自社で開発する。つまり、SAPシステムを情報システムの中核として安定的に稼働させながら、他のサブシステムを柔軟に調整できるという仕組みを作るという。

店舗との情報共有化はロジスティクス機能やマーチャンダイジング機能などを実現する基礎なので、情報共有の仕組みも力を注ぐ。まず、星利源は店舗の経営活動データ収集に着手する。通常、POS端末はデータ収集のソースになるが、大規模チェーンストアに比べ、零細小売店舗はPOS端末のインストール率が低い。POS使用率を向上させるために、星利源は一部の加盟店舗にPOS端末を無料で貸与している。そして、市場の中でよく利用される48種類のPOSを連動できる「グラウンドPOS」というソフトを開発した。零細小売店舗の現存POS端末のデータを統一的な形式に自動的に転換し、星利源の情報システムに取り込むことが可能になる。

また、店舗オーナーは雑多な業務に追われるうえ、大量のデータから有用な情報を読み取る能力も時間も不足している。それに、分析の結果を理解しなければ、データ分析の意味がない。店舗オーナーが分析結果を簡単に入手して理解できるようにするために、星利源が零細小売店舗向けの一連のモバイルアプリを開発した(表3)。店主はスマホの簡単な操作で、星利源の情報システムにアクセスし店舗経営に関わるデータ分析結果を手軽に入手できる。

表3 零細小売店舗向けのモバイルアプリ:「店老板」
アプリ機能 内容
SKU診断機能 店頭の商品構成を分析し、最適な品揃えを提案する
在庫管理機能 棚卸を行い、店内在庫の最適化を提案する。
損益計算機能 店の経営状況を分析し、損益を自動的に算出する
発注機能(SNSアプリ) 需給情報に基づき、最適な発注情報を知らせる。

(出所)筆者作成。

(3)  店舗のチェーン化

プラットフォーム戦略の成否にとって、既存参加者を保持するとともに、絶えず新規参加者を誘致することでネットワーク効果を高めることが重要である。一般に、プラットフォーム型流通企業は店舗チェーン化という方法を採用する。レギュラーチェーンはチェーン本部が意思決定の権限を持ち、規模の経済とネットワーク経済を生むことで経営活動を展開する。これに対し、プラットフォーム型流通企業の店舗チェーン化を実施する場合には、各店舗に意思決定の権限を残すまま、マーチャンダイジング機能、店舗運営機能、物流機能など実務レベルでオペレーションを統合し、ネットワーク効果を追求する。

星利源はレギュラーのチェーンストアと区別する「フリー・フランチャイズ」という無料加盟制度を導入した。「わが社の収益源は店舗からもらうロイヤルティ(royalty)ではない。iDCというプラットフォームを中心とするサプライチェーン全体で、節約するコストと創出した価値を再配分することが特徴だ」と林は述べた(2006年7月25日聞き取り調査)。このような方針に基づいて、星利源は加盟ハードルを低くし、より多く店舗を引き寄せるために、ロイヤルティ無料、サービス無償のフリー・フランチャイズの仕組みを設計した。

一方で、零細小売店舗の経営状況はバラツキがあるので、すべての店舗に同じ水準でサポートするのは非効率である。従って、星利源は加盟店を3階層に分けるピラミッド型会員制度を設計した。図4で示すように、加盟制限がないiDCメンバーは最もベーシックの会員である。iDCメンバー中から、月間売上が12万元以上の優良店舗を選び、スター・アライアンスのメンバーにグレートアップさせる。さらに、スター・アライアンスのメンバー店舗から、星利源クラブ・フランチャイズ・メンバーにグレートアップするコースを用意している。各レベルの会員店舗はプラットフォームへの関与度合いに相応する水準のサービスが受けられる。上位レベルの会員店舗は関与の度合いが高く、より高水準のサービスが得られるという。例えば、通常、一回あたり発注金額600元を達す場合、店舗に無料配送サービスを提供するが、上位レベルの会員店舗に対しては、この制限がない。

図4 3階層会員制度

(出所)社内資料に基づき筆者作成。

iDCメンバーは初期段階において、より多くの店舗をプラットフォームに誘い込むために、排他的取引条項を契約に盛り込まなかった。しかし、フランチャイズ契約を導入する際には、店舗との他の取引先との取引を原則として禁止する。一方で、星利源のプラットフォームに提供できない商品について、例外として認める。その場合は、最低取引額を満たさなければ、フランチャイズの使用料を徴収する。

5.  考察

第4節では星利源のビジネスモデルに関する発見事実を記述した。本節では、こうした発見事実を踏まえながら、流通イノベーションと中国流通システムのダイナミズムの視点から、プラットフォーム型流通企業の特徴と中国流通システムに与えるインパクトを分析してみる。

5.1  プラットフォーム型流通企業のリテールサポート

Bucklin(1966)は、流通経路全体の費用を節約するために、流通機能を部分的に代替・移転する可能性があると主張した。リテールサポートは小売からプラットフォーム型流通企業への流通機能移転の典型的な現象である。

プラットフォーム型流通企業のリテールサポートは、従来のリテールサポートと共通点が多いが、事業展開の目的に明確な相違が見られる。従来のリテールサポートは卸売業者間の「水平的競争」、小売業者との「垂直的競争」2つの側面があるが、根本的には、卸売業者の生き残る戦略である(杉本, 2002)。しかし、大規模組織小売業向けの従来型卸売業のリテールサポートは代理店制度の制限、無償サービスの提供などの要因により、競争差別化の手段としてうまく機能しないと同時に、卸売業者の収益構造を圧迫しつつある(麻田, 2001)。

一方で、一般に、プラットフォーム型企業はプラットフォームの参加者を増やし、サイド11間のクロスサイドネットワーク効果12を拡大することによって、利益が獲得できる(Eisenmann, Parker, & Van Alstyne, 2006)。そのため、プラットフォーム企業は短期間の利益を犠牲にしてネットワーク効果の拡大に大きな影響を与えるサイドに補助する戦略を採る(Eisenmann et al., 2006Hagiu, 2014)。プラットフォーム型流通企業も同じ特徴を持っているので、優遇条件の設定など手法を利用することにより、参加者としての零細小売店舗を自社のB2Bプラットフォームに誘致することに力を注ぐ。

また、プラットフォーム企業の顧客志向の方向性は、プラットフォームのパフォーマンスに大きな影響を与える(Chakravarty et al., 2014)。買い手としての零細小売店舗の数はネットワーク効果の拡大を左右するため、プラットフォーム型流通企業は市場集中度が非常に低い零細小売店舗に顧客志向の重点を置く、プラットフォーム型流通事業を展開している。

プラットフォーム型流通企業は代理店を含むベンダーと零細小売店舗をプラットフォームに誘致し、両サイド間のクロスサイドネットワーク効果を拡大することを図る。それを達成する手段として、プラットフォーム型流通企業はロジスティクス機能、情報機能、マーチャンダイジング機能を含むリテールサポートを零細小売店舗に無料で提供する。これによって、零細小売店舗の経営力強化を実現し、零細小売店舗が依存する冗長で複雑な流通チャネルに取って代わりつつある。そのうえで、ベンダー、プラットフォーム型流通企業、店舗三者の持続的なWINWIN関係を構築し、新しいタイプの流通サプライチェーンの形成を目指す。そのため、零細小売店舗の経営実態に適応するリテールサポート機能の組み合わせを設計した。

前述したように、零細小売店舗向けのロジスティクス機能、情報機能、マーチャンダイジング機能を含む総合的なリテールサポートを提供する星利源は、SKU数を絞り込むといった方法で、サービス水準とコストのバランスを図ろうとしている。このようなリテールサポート機能のパフォーマンスを左右するのは、機能間のデータ循環である(図1)。星利源は情報システムの解析結果に基づいてマーチャンダイジング提案を作成し、店舗に提供する。零細小売店舗のマーチャンダイジング提案に基づく注文は商品の品目の集約とiDCセンターの取扱いSKU数のさらなる絞り込みにつながる。このことは、物流オペレーションの効率化をもたらし、高水準の物流サービスと低コスト運営の両立に寄与する。また、ロジスティクス機能の現業データは情報システムにフィートバックし、蓄積していく。蓄積されるデータを解析・活用することで、マーチャンダイジング提案の持続的な改善が図られる。このように、3つの機能は相互補完・相互補強という形で効率的に連携することによってリテールサポート機能の効果を高めていく。

さらに、マーチャンダイジング機能は、商品の安定供給と自動補充の実現をもたらすため、需要と供給の高精度のマッチングを実現し、ベンダー、店舗、星利源の三者間の緊密な関係を築く。ベンダー、星利源、店舗の三者間の安定的な取引関係は、プラットフォームの価値を増大させ、持続的なWIN-WIN関係になる。このようなインタラクションは既存の加盟店舗の競争力強化に寄与するだけでなく、さらに多くの零細小売店舗をプラットフォームに吸引し、それによってネットワークは拡大するという好循環が期待できる。このようなネットワーク効果による好循環はプラットフォームの最大な優位性と言える。

補完製品・サービスの質はプラットフォーム利用者にとって重要な選択要因の一つであり、補完製品の質をコントロール手法はエコシステムの規模と成長速度を左右する(根来, 2017)。補完サービスとしてのリテールサポート・サービスの質の確保を狙うと同時に、プラットフォーム流通企業が展開する店舗のチェーン化はバイイング・パワーの形成を図るだけではなく、ネットワーク効果を獲得しようとする。フリー・フライチャイズなどの制度でプラットフォーム参加のハードルを低め、加盟店舗数が急増しており、エコシステムが拡大しているが、プラットフォームに無条件参入することにより、コスト増とサービスの質の低下といった弊害が発生する可能性がある。これらの弊害を抑制するために、プラットフォーム型流通企業は段階的な加盟店会員制度など手法を採用する。

以上の分析から明らかになるように、プラットフォーム型流通企業はリテールサポートを展開し、プラットフォームを中心に、零細小売店舗を取り込む斬新な流通システムを形成しつつある。この過程で依拠するリテールサポートという概念や、ロジスティクス、IT、マーチャンダイジングに関わる要素技術はいずれも目新しいものではない。しかし、こうした概念や要素技術の組み合わせで、経営資源の乏しい中小零細小売店舗を取り込み、独特なプラットフォームを構築し、流通プロセスで新たな価値を創造し提供する点が、流通システムのイノベーションと言える。

5.2  中国流通システム変革へのインパクト

流通システムのダイナミズムに視点を変えて、プラットフォーム流通企業のイノベーションのインパクトを考察してみる。

前世紀80年代以来の中国の流通システムを振り返ってみると、最初は、伝統的な市場の復活と拡大という独特なプロセスで流通の活性化が進んでいった。その後、小売業は先進国の経験を模倣・学習した結果、チェーンストア経営をはじめ、近代的な小売業態が短期間で集中的に出現し、流通近代化のプロセスが圧縮された形でキャッチアップしていった(矢作, 2009)。ここまでの流通システムのダイナミズムは、基本的に「流通革命」(林, 1962佐藤, 1971)など先進国の経験から帰納した既存理論で説明できる。

卸業段階では、チェーンストアを展開する小売組織の本部による卸売機能の代替現象が見られるものの、数多くの生産者と中小零細小売業者を広域的に結びつける卸売の役割は、依然として伝統的な卸売市場によって担われ続けている。流通の近代化過程で、伝統的な市場は衰退せず、重要な流通装置であり続けることが、先進国の経験で見られなかったユニークな展開と指摘されている(李, 2003)。

そして近年、ネット通販は従来の流通チャネルを圧迫するようになっている。その結果、実店舗の小売企業と伝統的な卸売企業は停滞と低迷を余儀なくされ、一部の分野でそれらの流通機能がネット通販に急速に取って代わられつつある。つまり、ネット通販企業と従来の流通業者はWIN-LOSEの関係にある。ネット通販企業は幅を利かしている中、数多くの伝統的な流通事業者が苦境に陥り、厳しい競争にさらされているため、ネット通販企業が既存の流通システムを破壊する勢力と見られる向きがある。

その一方で、地域に密着し一般の消費者に廉価な商品・サービスを提供する中小零細小売店舗は膨大な数のまま存続している。伝統的な中小零細小売業者は、流通システムの主役ではないものの、中国の流通システムにおいて依然として重要な役割を担っている。彼らはこれまでの流通近代化過程で大規模組織小売企業から駆逐されなかったことと同じように、ネット通販から駆逐され完全に退場することも容易ではないと思われる。しかし、こうした零細小売店舗は十分な経営資源と競争力をもっておらず、ネット通販の脅威にさらされているのも事実である。大規模組織小売業の衰退とネット通販の成熟化の中で、中小零細小売店舗は流通システムにおいて引き続き役割を果たしていく可能性が十分にあるが、イノベーションが必要である。

そこで、包括的なリテールサポーティングを提供することによって零細小売店舗を束ねるプラットフォーム型流通企業が登場している。これらの企業は、統合的な流通プラットフォームを構築し、零細小売店舗を流通近代化のプロセスに取り込み、またメーカーと連携する形で新型流通サプライチェーンを形成する。長い間、前述したような二重構造は中国流通システム全体の進化を阻害してきた。膨大な数にのぼる伝統的な零細小売店舗は淘汰の対象と認識され、流通近代化のプロセスから疎外されてきた。プラットフォーム型流通企業は初めて、こうした伝統的な零細小売店舗に光をあてるイノベーションを起こし、流通システムの新たな進化方向を示唆している。このような進化方向に向かうプロセスでは、伝統的な零細小売業者は消滅するのではなく、流通プラットフォームを中心に組織され、先進的な経営資源に武装され、競争力が強化される。その結果、スケールメリットと利便性を同時に実現し、コミュニティの住民のニーズに的確に対応する効率的な小売サービスを提供する流通エコシステムを形成している。

このような流通イノベーションは、ネット通販と大規模実店舗小売企業の激しい競争を背景に、従来の二重構造を相補完的都市部流通システムに再構築をするものと評価できる。B2Bプラットフォーム型流通企業を中心にする流通システムは深圳をはじめ、多くの中国都市で着実に発展している。特に、北京(40社)、広東省(24社)、上海(22社)、浙江省(14社)、四川省(13社)、山東省(13社)などの地域で120社以上が設立され、そのうち12社は10都市以上で事業を展開している(新経銷, 2017a)。このシステムは、従来の大規模組織小売業、ネット通販と並んで、中国流通システムの重要な構成となりつつあり、今後さらに拡大するものと予想される。

6.  おわりに

本稿では、星利源社の事例研究を通して、プラットフォーム型流通企業のイノベーションとその影響について考察を行った。事例研究からの発見事実を踏まえて、プラットフォーム型流通企業の試みが中国流通システムにいかなるインパクトを与えるのかを考察してみた。

プラットフォーム型流通企業は、リテールサポート機能の提供によって伝統的な零細小売店舗の経営を改善し、おびただしい数の零細小売店舗を統合する流通エコシステムを形成し、流通産業の二重構造を超える流通サプライチェーンの構築を目指している。

プラットフォーム型流通企業は実店舗業態を駆逐したり疲弊させたりするのではなく、むしろそれらを改造し、強化するのである。即ち、中小零細小売店舗に新たな生命力を吹き込むのである。街から商店を追い払うネット通販と対照的に、プラットフォーム型流通企業による流通イノベーションは伝統的な零細小売店舗のオペレーション改善と経営能力強化に取り組むことで、中国流通システムの全体の持続的な進化に寄与するものと考えられる。このシステムは、都市部の伝統的な零細小売店舗の再生と組織化につながり、またECビジネスの要素をこうした伝統部門に取り入れる点で、都市部の商業に新しい可能性を示している。

最近、アリババ、京東などのネット通販大手も自社の既存プラットフォームを活用する形でリテールサポート事業に参入する動きが見られる。いずれも、中小零細小売店舗をターゲットとする事業である。こうした動きは、プラットフォーム型流通企業の始めたイノベーションが中国流通システムの進化すべき方向性につながることを裏づけていると言えよう。

本研究では、いくつかの限界がある。まず、プラットフォーム型流通企業はまだ未熟な状態であるため、経営活動、発展のプロセス、イノベーションの手法などが常に調整されている。今後、市場の変化に合わせる企業の戦略を調整することにより、プラットフォームの構造が変化する可能性があるだろう。次に、他のタイプのプラットフォーム型流通企業も存在している。一つは、ネット通販大手企業が事業を多角化するというタイプである。もう一つは、ネットで純粋なバーチャルプラットフォームを構築するタイプである。本研究ではこの2つのタイプを取り上げなかったが、それらの企業の動向は大きな研究課題になる。本研究は、理論的サンプリングに基づく単一ケースを取り上げ、中国流通システムのダイナミズムをした。今後、理論的サンプルを増やし、本研究で解明したことを確認する必要があると考える。そうすることによって、本研究で導き出した理論の飽和を目指す。

1  中国の法律では零細小売店舗について明確な定義が存在していない。通念上、家族経営の個人商店が中小零細型小売店であると考えられる。おおざっぱに言えば、日本のパパママストアと同様な店舗と理解してよい。

2  メーカー、卸売業者など商品の供給業者である。

3  マーチャンダイジングとは、「流通業がその目標を達成するために、マーケティング戦略に沿って、商品、サービスおよびその組み合わせを、最終消費者のニーズに最もよく適合し、かつ消費者価値を増大するような方法で提供するための、計画・実行・管理のこと」(田島, 2004 p.30)である。リテール・サポートのマーチャンダイジングは、品揃え・棚割の提案、プロモーション、商品の補充業務、店舗経営の診断、競合分析など機能を含む(寺嶋, 2010)。

4  CNCIC(中華商業信息中心)公表データ

5  FMCGとは、頻繁に消費され、在庫回転率が速い商品である(Majumdar, 2007)。食品、日用品雑貨の総称である。代表的な商品としては、飲料水、食品、洗剤、タバコなど商品が挙げられる。

6  リテールサポートとは、メーカーや卸売業ないしチェーン本部が小売店舗に支援する仕組みである(青木, 1998)。広義のリテールサポート機能は、情報機能、マーチャンダイジング機能、ロジスティクス機能3つの部分がある(寺嶋, 2010)。本文中で言及されるリテールサポート機能は店舗のチェーン化機能も含む。

7  理論的サンプリングとは、理論を導出するために行うデータ収集のプロセスである(Glaser&Strauss, 1967)。この手法は、現象把握に必要されるカテゴリーとその諸特性をできるだけ広範囲に見つけられるように、またカテゴリー同士やカテゴリー属性を関連付けられるようにケースを選択し、データ収集過程である。本研究の文献の中心とするプレー調査の中で、星利源社はB2Bプラットフォーム型流通企業の特徴を最も多く見られる。この会社を調査することによって、B2Bプラットフォーム型流通企業のイノベーションを解明することができると判断した。従って、本研究は、理論的サンプリングの手法を援用し、星利源社のケースを選定した。

8  進出した都市数、加盟店舗数、受注頻度、店内商品に占めるシェア、配送サービス、価格、商品品質、営業など8つの指標で測定する(新経銷, 2017b)。

9  iDC:星利源の社内用語である。DCはディストリビューション・センターで、iはインテリジェンス、インターネット、インターシティの意味を含む。iDCは即ち、高度な情報システムを備える都市間流通センターのことである。iDCは仕分けや配送を行う通過型センターではなく、1週間分の在庫を保有し、手持ちの在庫で配送に対応する在庫型センターである。

10  倉庫、配送車輌など物流アセットを保有しない企業をノンアセット型と定義されている。

11  サイドとは、同種類のユーザー・グループを意味する。

12  クロスサイドネットワーク効果とは、片方のサイドのユーザーが増える、別のサイドにとってプラットフォームに参加する価値が増加する効果を指す。

参考文献
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© 2019 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
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