Journal of Innovation Management
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Research Report on Entrepreneurial Intention Among University Students: Analyzing Japanese Samples from GUESSS 2018
Yuki TamaiNoriko TajiTomoyo KazumiMakoto FujimuraHiromi YamadaShingo Igarashi
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2021 Volume 18 Pages 207-229

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要旨

GUESSS 2018は、世界54カ国、3,191大学が参加して行われた、大学生の起業意識調査である。全体で208,636件の有効回答を集めている。日本では49大学・大学院が参加し、4,150件の有効回答を得た。

本調査レポートの目的は上記データを用いて、日本の大学生の起業意思の特徴を明らかにすることである。参加国全体と日本の集計結果を比較したところ、卒業直後および卒業5年後のキャリア選好においては、日本の学生は参加国全体よりも従業員となることを希望する傾向が強い。この傾向は日本の調査が開始された2011年から変わらぬ傾向となっている。専攻別にみると、工学、芸術学、商学・経営学で卒業5年後に創業者になるという起業意思を持つ学生の割合が高くなっており、男女別でみると男子学生の起業意思が高くなっている。家族との関係では、母親が自営業者の学生の起業意思が他の場合と比較して高くなっている。起業家活動に関する科目の履修率も調査を重ねるごとに高まっており、特に卒業直後に創業予定の学生において起業家教育科目を履修する割合が高くなっている。

それらを踏まえ、専攻の違い、大学所在地の違い、親の職業の違いによって、起業意思等の変数に差が生じているかどうかについて検討を行ったところ、各変数に有意に差が生じていることが明らかとなった。

Abstract

3,191 universities from 54 countries participated in the GUESSS 2018 survey of student entrepreneurial spirit. The global survey produced a total of 208,636 valid responses. In Japan, 49 universities and graduate schools participated, producing a total of 4,150 valid responses.

The purpose of this survey report is to understand the characteristics of entrepreneurial intention among Japanese students using the above data. Comparing results from all participating countries with those from Japan, we find that when asked about career preferences at graduation and in five years, a higher proportion of students in Japan hope to be employees. This tendency has been consistent since 2011 when the survey was first conducted in Japan. Students showing stronger entrepreneurial intention are those from departments of engineering, arts, and business administration. The intention among male students is higher than among female students. Regarding family, the intention of students whose mothers are self-employed is higher than others.

The rate of enrolment in entrepreneurship lectures has been increasing since the survey began. In particular, students who intend to be entrepreneurs immediately after graduation are more likely to be taking such lectures.

We examined whether differences in major, university location and parental occupation affect several variables including entrepreneurial intention. There was clear evidence that differences in major, university location and parental occupation produce significant effects.

1.  はじめに

イノベーションと雇用創出を生み出す方策の1つとして、起業家活動(Entrepreneurship)の促進が期待されている。日本をはじめ多くの国々で起業促進を目指した政策が実施され、起業家教育の重要性が議論されている。しかし、何をどのようにすれば起業家活動が促進されるのか、個人が起業に至る意思決定の解明については十分ではない(Fayolle & Linan, 2014)。

そのような状況において、80年代以降、起業しようとする個人の属性や特徴を探る研究が盛んに行われており、その中でも起業意思(Entrepreneurial Intention)に関する研究が急速に進展している(Linan & Fayolle, 2015)。起業意思とはビジネスチャンスを発見し、創造し、活用する起業家活動プロセスの第一段階にあるものであり(Gartner et al., 1994)、起業意思がどのように形成されているかを探ることは、起業家活動を理解する上で重要となる(Shane & Venkataraman, 2000)。

日本人の起業家活動に関しては、他の先進国と比較し、低迷していることがグローバル・アントレプレナーシップ・モニターから指摘されている。同調査は一般成人を対象とした調査であるが、日本の起業家活動が活発でない理由として、起業家予備軍の少なさが問題点として指摘されている(高橋, 2013)。しかし、どのようにすれば起業しようと思う人が増えるのか、何が起業意思を高め、育み、阻害するのか、日本を対象とする研究はいまだ発展途上の段階にあり、十分な検討が行われていないと考える。

そこで、本研究は近年注目が高まっている起業意思に関して、日本を含め世界54か国の大学生および大学院生を対象として行った調査、GUESSS(Global University Entrepreneurial Spirit Students’ Survey)2018を用いて、日本の大学生・大学院生の起業意思の特徴を参加国全体との比較を行いながら明らかにすることを目的とする。日本で行われた過去3回の調査(GUESSS2011, GUESSS2013, GUESSS2016)に関しては、それぞれ田路他(2012)鹿住他(2015)田路他(2018)において調査結果を発表している。GUESSS2018に関しても速報版の調査結果がGUESSSのホームページに掲載されているが1、本研究はそれに新たな分析を加え、再構成を行ったものである。

2.  学生の起業意思

2.1  起業意思とは

起業意思とは何か、その定義には様々なものが提案されている。例えば、起業意思と行動との関係を分析するモデルとして、起業アイデアモデルを提唱したBird(1988)は起業意思(Intentionalityとしている)を、特定の目標へと、個人の関心、経験、行動が向かっていく精神状態と定義している。また、Krueger(1993)は、起業意思を新しいビジネスを始めることへのコミットメントと定義している。

起業意思に関する定義をいくつか概観すると、起業意思とは行動に先だつものであり、新しいビジネスを始めたり、起業家になるような行動に向かって意識を集中させる心の状態(Moriano et al., 2012Esfandiar et al., 2019)という特徴がある。つまり、起業意思とは個人がビジネスを始めるように駆り立てる心の状態を指し(Lortie & Castogiovanni, 2015)、起業行動を予測するものと位置付けられている(Biraglia & kandile, 2017)。

では、なぜ起業という行動のみならず、それ以前の起業意思に注目が集まるのか。その背景には、起業家活動に関する研究で幅広く取上げられているテーマに「何が起業家を作るのか」、特に「個人が起業家になる基本的な要因は何か」という問いがある(Zhang et al., 2014)。起業意思に関する研究は、個人が起業家になっていく過程を研究対象とするものであり、起業意思を含めた様々な要素が起業行動にどのような影響を与えているのかという問いに答える研究でもある。

2.2  起業意思に関する理論

起業意思を分析する理論枠組みには2つの流れがある(Linan & Fayolle, 2015)。1つはAjzen(1991)による計画的行動理論(Theory of Planned Behavior:計画的行動理論)を起業意思の解明に適用するというような、社会心理学の研究成果を援用する研究の流れである。計画的行動理論は、行動には意思が働き、その意思には①態度、②主観的規範(自分にとって重要な人が行動すべきと思う程度の知覚)、③行動のコントロール感(行動を遂行する容易さの知覚)が影響を及ぼすとし、意思が行動のもっとも直接的な予測要因であるとする(Ajzen, 1991)。Krueger and Carsrud(1993)が計画的行動理論を起業意思の分析に用いて以降、多くの研究が計画的行動理論を起業意思の分析に用いている。社会心理学分野の理論の援用は、起業意思の研究に理論の確かさと方法論の厳密さを高めることに貢献してきた(Linan & Fayolle, 2015)。

もう1つの流れは、Shapero and Sokol(1982)の起業イベント理論やBird(1988)の起業アイデアモデルといった起業家活動分野に特有のものである。起業イベント理論は起業意思を起業プロセスの中心に置いてプロセスを描写するが、特定の行動をとるかどうかは望ましさの認識と実現可能性の認識に依存しており、何かのきっかけが起きた場合に起業に至るモデルである。

先行研究の多くが計画的行動理論もしくは起業イベント理論に基づいた理論を展開している。どちらがより説明力が高いモデルかといった検証も行われているが(Kruger et al., 2000)、その結論は出ていない。さらに、起業意思に関する研究動向として、起業意思と行動との間には距離があり、意思と行動とをつなぐリンクの必要性が指摘されている。例えば、Kautonen et al.(2013)Kautonen et al.(2015)は、起業意思と行動のリンケージに関する実証分析を行い、起業意思が行動を説明できる割合はそれぞれの研究で39%と31%であったことを明らかにしている。この結果は、計画的行動理論を支持しているものの、起業意思と行動との間に距離があることを踏まえて、意思と行動とをつなぐ媒介要因を含む、説明力の高いモデル構築の必要性を示唆している(Fayolle & Linan, 2014)。

2.3  大学生・大学院生の起業意思に関する研究

起業意思に関する研究では、大学が研究者や学生の起業に対する態度や活動に大きな影響を与えていることから大学生・大学院生を研究対象とした研究も進展している(Bercovitz & Feldman, 2008)。大学生を対象とする研究の多くがGUESSSのデータを用いている。GUESSSが計画的行動理論を理論枠組みとして用いていることから、それらの研究の多くは、同理論を採用している。さらに、大学生を分析するための特徴的な要素として、大学の講義(Souitaris et al., 2007)、大学の環境(Lüthje & Franke 2004)、大学の持つ文化(Bergmann et al., 2018)などが起業意思に与える影響が検討されている。

日本の大学生を対象とした研究では、GUESSS2011、2013、2016の調査結果によって、日本の大学生の起業意思の低さが報告されている(田路他, 2012鹿住他, 2015田路他, 2018)。何が大学生の起業意思を高めるかについては、過去3回にわたって一貫して確認できた要因と一貫していない要因がある。Ajzen(2002)のモデルにおける「起業に対する態度」と「行動のコントロール感」は一貫して起業意思と正の相関が見られたが、「主観的規範」はそうではなかった。「大学の学習」は一貫して、「起業に対する態度」と「行動のコントロール感」を媒介して「起業意思」と正の相関が見られたが、「起業意思」との直接の相関は、2016年のみ、負の相関が見られた。「大学の環境」は一貫した結果を確認できなかった。これらには、サンプル数の違いが影響している可能性はある。2011年は561人、2013年は890人、2016年は1,490人であった。

以上に示すように、日本に関する先行研究では、大学生の起業意思が諸外国と比較して低いことはわかっているものの、何が起業意思を高めるかについては調査年によって結果が異なっている。

そこで、本研究では、筆者らが参加して集めたGUESSS2018の4,150人のデータを用いて、日本の大学生の起業意思の特徴を明らかにするとともに、Ajzen(2002)のモデルに示される起業意思等の変数に影響を与える要因を探っていく。

3.  調査方法と概要

3.1  GUESSS調査の概要

GUESSSは、スイスのサンガレン大学の中小企業・企業家活動研究所(The Institute for Small Business & Entrepreneurship)とファミリービジネスセンター(The Center for Family Business)が事務局となり、2年に1度実施されている。実施方法はGUESSS事務局が参加国ごとに幹事大学を決め、それを通じて各国ごとに参加する大学を募り、調査を実施する。同調査は、2003年から実施されており、今回は8回目の調査となる。日本は2011年から参加しており、今回の調査で4回目の参加となる。

2018年調査は、世界54か国から3,191大学が参加し、208,636件の有効回答を得た。参加国数、参加大学、有効回答数ともに過去最高である。参加国全体分析の結果はレポート(Global Student Entrepreneurship, 2018)を参照されたい2。日本での調査は、2018年10月から2019年1月末まで、オンラインによって行われた。調査への協力を承諾した大学教員が、調査概要を記載した配布物を授業等で学生へ配布し、学生が調査サイトにアクセスする方法を取った。なお、調査票は、GUESSS事務局が英語で作製したものを、日本の調査チームが日本語に翻訳して作成された。

3.2  GUESSS調査のフレームワーク

GUESSS2018の調査目的は学生の起業意思と活動を明らかにすることである。集めたデータから作られたレポート(Global Student Entrepreneurship, 2018)は、学生の起業意思とそれを推進する要因についての洞察を行っている(Sieger et al., 2019)。

GUESSS調査のフレームワークは、Ajzen(2002)の計画的行動理論を基本としている。Ajzen(2002)のモデルを起業家活動に適用すると、態度、主観的規範(周囲の反応)、行動のコントロール感(起業のコントロール感や自信)が、起業意思に影響を及ぼす。さらに、GUESSS調査が起業意思に影響を及ぼすのではないかと想定した要因には、大学の環境や教育、家族の状況、個人の動機づけ、社会/文化環境がある(図1参照)。

図1 GUESSS調査の基本的フレームワーク

(出所)Sieger et al.(2014)International Report of the GUESSS 2013/2014, P.7(筆者訳)。

なお、GUESSS調査では、起業意思の変数として、起業意思(キャリア選択)と起業意思(マインド)の2つが用意されている。起業意思(キャリア選択)は、キャリア選択の観点から卒業直後、卒業5年後の進路について、創業者、従業員、研究者、公務員、事業継承等のいずれを選択するかを尋ねている。もう一つの起業意思(マインド)は、起業したいというマインドの高まりを測定する6つの質問項目によって測定されている(後述)。

しかしながら、調査は在学中の一度しか行われず、実際に行動に至ったかどうかまでを確認していないため、Ajzen(2002)のモデルが唱える、意思から行動に至るかどうかまでを調査対象にはしていない。

3.3  参加国全体の回答数

GUESSS 2018の参加国と有効回答数は表1のとおりである。3,191大学が参加し、54か国から208,636人の学生が調査に参加した。前回調査と比較して参加大学が3倍、サンプル数が1.7倍に増加した。サンプル数全体のうち、スペインが約16%を占めており、以下、ブラジル、中国と続いている。

表1 GUESSS 2016参加国と有効回答数
大学数 サンプル数 比率 大学数 サンプル数 比率
Spain(ESP) 76 33,278 15.95% Indonesia(IND) 7 1,279 0.61%
Brazil(BRA) 143 20,623 9.88% Czech Republic(CZE) 9 1,254 0.60%
China(CHN) 2,010 18,685 8.96% Greece(GRE) 32 1,157 0.55%
Colombia(COL) 65 15,851 7.60% Lithuania(LTU) 24 1,059 0.51%
Germany(GER) 25 10,082 4.83% Algeria(JOR) 10 979 0.47%
Switzerland(SUI) 69 9,784 4.69% United Arab Emirates(UAE) 5 931 0.45%
Hungary(HUN) 24 9,667 4.63% Republic of Korea(KOR) 19 832 0.40%
Chile(CHI) 30 7,704 3.69% Ukraine(UKR) 25 722 0.35%
Costa Rica(CRC) 85 7,359 3.53% Turkey(TUR) 25 693 0.33%
Italy(ITA) 21 7,299 3.50% Kosovo(KOS) 4 683 0.33%
Mexico(MEX) 53 5,173 2.48% El Salvador(ESA) 11 641 0.31%
Slovakia(SVK) 17 4,868 2.33% Slovenia(SLO) 6 564 0.27%
Jordan(JOR) 29 4,564 2.19% Albania(ALB) 5 518 0.25%
Portugal(POR) 26 4,178 2.00% Uruguay(URY) 3 509 0.24%
Japan(JAP) 49 4,150 1.99% Belarus(BLR) 15 504 0.24%
Ecuador(ECU) 8 3,702 1.77% England(ENG) 6 465 0.22%
Panama(PAN) 8 3,564 1.71% Republic of North Macedonia(MKD) 6 398 0.19%
South Africa(RSA) 16 3,515 1.68% Liechtenstein(LIE) 1 338 0.16%
Kazakhstan(KAZ) 20 3,425 1.64% Poland(POL) 8 332 0.16%
Russia(RUS) 15 2,851 1.37% Sierra Leone(SLE) 11 332 0.16%
Argentina(ARG) 26 2,691 1.29% France(FRA) 7 230 0.11%
Pakistan(PAK) 17 2,389 1.15% Finland(FIN) 16 181 0.09%
Austria(AUT) 33 1,999 0.96% Peru(PER) 1 121 0.06%
New Zealand(NZL) 2 1,924 0.92% Australia(AUS) 1 77 0.04%
Saudi Arabia(KSA) 16 1,641 0.79% USA 2 64 0.03%
Ireland(IRL) 12 1,408 0.67% Norway(NOR) 10 56 0.03%
Estonia(EST) 26 1,303 0.62% Lebanon(LBN) 1 40 0.02%
Total 3,191 208,636 100%

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.1、表1を修正。

3.4  日本の回答数

日本の調査に参加した大学と有効回答数は表2のとおりである。49大学が参加し、4,150件の有効回答を得ている。過去3回の調査では、2011年調査が561件、2013年調査が890件、2016年調査が1,490件となっており、前回調査と比較すると2018年調査の参加大学数は2倍、サンプル数は2.7倍になり、参加大学数、有効回答数とも過去最高であった。

表2 大学ごとの有効回答数
大学名 n
専修大学 722 17.4%
立命館大学 608 14.7%
福山市立大学 360 8.7%
愛知学院大学 318 7.7%
法政大学 245 5.9%
東京経済大学 223 5.4%
東京理科大学 176 4.2%
武蔵大学 131 3.2%
大阪商業大学 114 2.7%
関西大学 113 2.7%
福山大学 87 2.1%
北海道科学大学 71 1.7%
龍谷大学 60 1.4%
明治大学 57 1.4%
大阪市立大学 54 1.3%
東北大学 51 1.2%
静岡大学 48 1.2%
東京工科大学 42 1.0%
日本大学 40 1.0%
その他 630 15.2%
合計 4,150 100.0%

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.2、表2を修正。

3.5  日本の回答者の属性

(1)  性別

回答者の性別は、男子学生は2,416人(58.2%)、女子学生は1,721人(41.5%)、答えたくない、無回答が13人(0.3%)であった。

(2)  学籍

回答者の学籍は図2に示すように学部が95.6%、大学院修士(博士前期)課程が3.1%、博士後期課程が0.3%、その他が1.0%であった。参加国全体と比較すると、修士課程以上の学生の割合が少なく、大多数が学部生の回答となっている。この傾向は過去3回の調査と同様であった。

図2 回答者の学籍

n=4,150

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.3、図1より引用。

(3)  国籍

回答者の国籍は95.5%が日本であり、中国(2.6%)、韓国(0.6%)、ベトナム(0.3%)、台湾(0.2%)、その他(0.8%)となっている。留学生がいるものの、これまでの調査と同様に日本人による回答が多く、多様性は低くなっている(表3)。

表3 日本調査回答者の国籍
国籍 n
日本 3,550 95.5
中国 96 2.6
韓国 23 0.6
台湾 6 0.2
ベトナム 11 0.3
その他 30 0.8
合計 3,716 100.0

n=3,716

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.4、表3より引用。

(4)  専攻

回答者が学んでいる専攻の内訳は、図3のとおりである。日本は商学、経営学を専攻する学生の割合が高くなっており、全体の72.9%を占めている。これは商学、経営学の教員への依頼が多かったことを反映しており、これまでの日本での調査と同様の結果となっている。参加国全体で最も多いのは商学、経営学であり日本の回答者と同様であるが、次に多いのは工学であり、次いで人間医学・健康科学を専攻する学生の割合が高くなっている。日本と参加国全体では異なる傾向を示している。

図3 回答者の専攻

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.4、図2より引用。

4.  世界と日本の比較分析

4.1  起業意思

(1)  キャリア選択

回答者に卒業直後および卒業5年後に希望する働き方を尋ねたものが表4である3。参加国全体では、卒業直後は「企業で従業員として働く」とする者が、小企業14.1%、中企業18.4%、大企業22.6%であるが、卒業5年後には企業で働くとする者は減り、「創業者として自分の会社を経営する」ことを希望する者が34.7%となっている。日本では、卒業直後から「企業で従業員として働く」とする者が多く、小企業4.6%、中企業24.3%、大企業36.6%と、大企業志向である。一方、卒業直後に「創業者として自分の会社を経営する」ことを希望する者は1.6%であり、卒業5年後は12%となっている。

表4 キャリア選好の比較
単位:%
卒業直後(日本) 5年後(日本) 卒業直後(参加国全体) 5年後(参加国全体)
従業員として働く 77.0 56.9 78.9 50.5
従業員数1~49人の小企業で働く 4.6 2.9 14.1 3.8
従業員数50~249人の中企業で働く 24.3 13.4 18.4 6.7
従業員数250人以上の大企業で働く 36.6 29.3 22.6 16.6
非営利組織で働く 1.0 1.5 3.1 3.1
研究者になる 0.7 0.9 9.2 9.0
公務員になる 9.9 9.0 11.5 11.3
創業者として自分の会社を経営する 1.6 12.0 9.0 34.7
事業承継者になる 0.6 3.1 2.5 4.3
事業承継者(親や親戚の会社) 0.5 2.5 1.8 2.1
事業承継者(親が管理していない事業) 0.1 0.6 0.7 2.2
その他/まだわからない 20.7 28.0 9.5 10.6
合計 100.0 100.0 99.9 100.1

(出所)筆者作成。

全体の傾向をみると、参加国全体では「最初は企業で従業員として働く、次に創業者」という傾向がみられるが、日本は卒業直後も卒業5年後も「企業で従業員として働く」ことを希望する割合が高い。さらに、日本は卒業直後に創業者を希望する割合(1.6%)と卒業5年後に創業者を希望する割合(12%)のいずれもが参加国全体の中でもっとも低くなっている。加えて、卒業直後と卒業5年後のキャリアをその他/わからないと回答する割合も参加国全体と比較して高くなっており、いずれも参加国全体の2倍以上となっている。

(2)  専攻別の起業意思(キャリア選択)

専攻別に起業意思を持つ者の割合について日本のデータを示したものが図4、参加国全体のデータを示したものが図5である。日本では、卒業直後に起業意思を持つ割合が高いのは法律であり、続いて商学・経営学となっている。卒業5年後になると順位が変わり、工学、芸術学、商学・経営学で起業意思を持つ学生の割合が高くなっている。一方、参加国全体では卒業直後に起業意思を持つ者の割合が最も高いのは芸術学であり、卒業5年後も同様である。以下、卒業5年後は商学・経営学、工学と続いている。

図4 専攻別の起業意思(キャリア選択)を持つ者の割合(卒業直後と卒業5年後:日本)

n=4,129

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.10、図12より引用。

図5 専攻別の起業意思(キャリア選択)を持つ者の割合(卒業直後と卒業5年後:参加国全体)

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.11、図13より引用。

日本と参加国全体とを比較すると、卒業5年後に起業意思を持つ者の割合が高い上位3専攻は工学、芸術学、商学・経営学となり、参加国全体と同じだった。しかし、商学・経営学を参加国全体と比較した場合、卒業5年後に起業意思(キャリア選択)を持つ割合は参加国全体では43.6%に上るが、日本は13.6%に過ぎず、この割合は参加国全体で最も低くなっている(Sieger et al., 2019)。

(3)  男女別の活動起業家、起業予備軍の占める割合および起業意思(キャリア選択)を持つ者の割合

表5図6は日本のデータに関して、すでに起業している人を活動起業家、起業の準備をしている人を起業予備軍、卒業5年後に創業者になりたいと回答している人を卒業5年後、卒業直後に創業者になりたいと回答している人を卒業直後とし、各グループの男女別の人数がそれぞれの全体数に占める割合を示したものである。

表5 男女別起業活動状況および起業意思(キャリア選択)を持つ者の人数(日本)
グループ名 男性 女性 全サンプル
全体 2,416 100.0 1,721 100.0 4,150 100.0
活動起業家 61 2.5 22 1.3 84 2.0
起業予備軍 431 17.8 140 8.1 572 13.8
卒業5年後 383 15.9 117 6.8 500 12.1
卒業直後 56 2.3 12 0.7 68 1.6

(出所)筆者作成。

図6 男女別起業活動状況および起業意思(キャリア選択)を持つ者の率(日本)

男性=2,416人、女性1,721人

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.12、図16より引用。

活動起業家は、「既に自分の会社を経営している、または自営業者である」という質問に「はい」と回答した84人を指し、そのうち性別について回答があったのは男性61人、女性22人、合計83人であった4。男女別にそれぞれ全体に占める割合を見ると、男性の活動起業家が男性全体に占める割合は2.5%であり、女性の活動起業家は1.3%であった。

次に、起業予備軍とは「会社を設立または自営業を開業しようとしている」という質問に「はい」と回答した572人を指し、そのうち性別について回答があったのは男性431人、女性140人、合計571人であった5。男女別にそれぞれ全体に占める割合をみると、男性の起業予備軍が男性全体に占める割合は17.8%、女性の起業予備軍は8.1%であった。

続いて、卒業5年後とは「卒業5年後に創業者として自分の会社を経営したい」と選択した500人であり、その内訳は男性383人、女性117人である。男女別にそれぞれの全体に占める割合を見ると、男性では卒業5年後に創業者になりたい割合は男性全体の15.9%、女性では6.8%であった。

最後に、卒業直後とはキャリア選択に関する質問において「卒業直後に創業者として自分の会社を経営したい」と選択した68人であり、その内訳は男性56人、女性12人であった。男女別に見ると、卒業直後に創業者になりたいと選択した男性が男性全体に占める割合は2.3%、女性は0.7%しかいなかった。

図6について、起業活動状況(活動起業家、起業予備軍)と起業意思(キャリア選択)(卒業5年後、卒業直後)で男女別にその割合を見てみると、いずれもすべて男性の方が女性よりもその割合が高くなっている。

次に参加国全体に関して、図6と同様に活動起業家、起業予備軍、卒業5年後、卒業直後のグループごとに男女別の人数がそれぞれの全体数に占める割合を示したものが図7である。男性全体のうち、既に起業している活動起業家は15.2%、女性は8.0%となっている。同様に、男性のうち起業予備軍が占める割合は38.6%、女性では24.2%となっている。次に、起業意思(キャリア選択)を持つ者の割合を見ると、男性全体のうち卒業5年後に創業者として自分の会社を運営したいという意思を持つ者は33.6%、女性は33.1%となっている。同じく卒業直後に起業意思(キャリア選択)を持つ者の割合は男性で11.2%、女性で7.3%となっている。

図7 男女別起業活動状況および起業意思(キャリア選択)を持つ者の率(参加国全体)

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.12、図17より引用。

男女別に活動起業家と起業予備軍がそれぞれの全体に占める割合を日本(図6)と参加国全体(図7)で見てみると、日本も参加国全体のどちらにおいても男性の方が女性よりも活動起業家、起業予備軍の占める割合が高くなっている。同様に、起業意思(キャリア選択)に関しても、日本、参加国全体ともに男性の方が女性よりも卒業5年後、卒業直後に創業者として自分の会社を運営したいと思う割合が高くなっている(図6図7)。

(4)  家族の状況

図8は親が自営業者か非自営業者かについて示したものである。どちらも自営業者ではないと回答した割合は、参加国全体が76.3%、日本が79.9%であり、日本のほうが両親とも自営業者ではない割合がやや高くなっている。また、日本は父親が自営業者の割合が参加国全体と比較してやや高く、両親が自営業者ならびに母親が自営業者の割合は下回っている。

図8 親の自営/非自営の割合

n=4,150

(出所)筆者作成。

図9は日本の親の自営/非自営と回答者の起業活動および卒業後の起業意思との関係についてみたものである。GUESSS2018のワールドレポートでは起業家の両親は起業家活動の促進に役立ち、理想的には両親ともに起業家であることがより効果が高いことが指摘されているが(Sieger et al., 2019)、日本では母親が自営業者の場合、いずれのグループにおいても起業意思(キャリア選択)を持つ割合が高くなっている。

図9 親の自営/非自営と回答者の起業活動および卒業後の起業意思(キャリア選択)

(出所)GUESSS2018 Japanese Country Report, p.13、図18より引用。

(5)  起業意思(キャリア選択)の経年変化

図10は卒業5年後に創業意思を持つ割合を調査年ごとに示したものである。起業意思(キャリア選択)を持つ割合は調査年を追うとともに変化し、参加国全体では2013年以降安定したプラスの傾向がみられる(Sieger et al., 2019)。日本での調査は調査年ごとにサンプル数に大きな違いがあるため慎重な検討が必要ではあるが(2013年調査は890人、2016年調査は1,490件、2018年調査は4,150件)、わずかではあるが参加国全体と同様に増加傾向になっている。

図10 卒業5年後に起業意思(キャリア選択)を持つ割合の変化

(出所)筆者作成。

次に日本のデータに関して、全回答者のうち卒業直後と卒業5年後のキャリア選択で起業家になりたいと選択した割合と、同じく全回答者のうち起業予備軍と活動起業家が占める割合の調査年ごとの変化を示したものが図11である。活動起業家、起業予備軍、卒業5年後に創業者になりたいと選択した割合がわずかではあるが増加の傾向を示している。一方、卒業直後に創業者になりたいと選択する者の割合は2013年から2016年に減少したのち、2018年には増加しているが2013年調査と同程度の割合にとどまっている。

図11 起業準備状況別に見た起業意思(キャリア選択)を持つ割合の変化(日本)

(出所)筆者作成。

(6)  起業家活動に関する科目の履修

起業予備軍および卒業直後に創業者になりたいと回答した学生は、どの程度、起業家活動に関する科目を履修しているのであろうか。図12は回答者に対して起業家活動に関する科目を履修したことがあるかについて尋ねたものである。全体でみると、日本、参加国全体ともに起業家活動に関する科目を履修したことがない回答者が最も多い。しかし、日本の結果について2013年調査以降で比較してみると、2013年調査は57.4%、2016年調査は50.5%、2018年は46.0%であり、調査を重ねるごとに起業家活動に関する科目の履修率は高くなっている。

図12 起業家活動に関する科目の履修率(日本と参加国全体、起業準備状況別)

(出所)筆者作成。

次に、卒業直後と起業予備軍のグループ別に見てみると、それぞれのグループにおいて日本の学生は参加国全体よりも起業家活動に関する科目を履修している。特に卒業直後に創業を希望する学生のグループでは8割程度が起業家活動に関する科目を履修している。つまり、日本の学生は、参加国全体よりも、起業家教育の効果が高いとみなすことができるのだろうか。しかしながら、履修した結果として起業に前向きになるのか、または、そもそも起業に前向きな学生が積極的に科目を履修しているのか、因果関係までは解明できない。

5.  個人属性がもたらす影響の確認

本章では、専攻、大学の所在地、親の職業という個人の属性の違いが、計画的行動理論をベースにした図1のモデルのいくつかの変数に影響を与えているかどうかを検証したい。起業を準備している起業予備軍と、既に起業をしている活動起業家を分析の対象から除いている。測定した変数は、起業意思(マインド)、起業への周囲の反応、起業へのコントロール感、起業への自信、起業に対する態度、大学の環境、大学の講義である。それぞれの説明と構成する質問項目は次のとおりである。

「起業意思(マインド)」の測定には、Linan and Chen(2009)によって開発された尺度を使用した。尺度の項目は、「起業家になる準備はできている」、「私の職業上の目標は起業家になることだ」、「自分の事業を立ち上げて経営していくためなら、どんな努力も惜しまない」、「私は将来事業を興すと決めている」、「私はかなり真剣に事業を興すことを考えている」、私は事業を興したいと強く思っている」である。参加者はこれらの項目に「1.全くあてはまはない」から「7.とてもよくあてはまる」で回答し、分析にはその平均値を用いた。

「起業への周囲の反応」は、計画的行動理論の主観的規範に該当するものであり、家族、友人、仲間の学生が、どの程度起業に賛成してくれるかを尋ねている。測定にはLinan and Chen(2009)の尺度を使用した。

「起業へのコントロール感」は、計画的行動理論の行動コントロール感に該当するものであり、「私はいつも自分の利益を守ることができる」、「私は計画を作るときは、ほぼ実現させるようにする」、「私は自分の人生に起きることのほとんどを決定することができる」という3つの質問項目で構成される(Levenson, 1973)。

「起業への自信」は、「新しいビジネスチャンスを発見する」、「事業の中でイノベーションを管理する」、「リーダーやまとめ役になる」、「専門家のネットワーク」を作る等7つの質問項目で構成される(Chen et al., 1998Forbes, 2005Weber & Schaper, 2004Zhao et al., 2005)。

「起業への態度」は、「起業家になることは、自分にとってデメリットよりもメリットの方が大きい」、「起業家というキャリアは魅力的である」、「機会や資金などのリソースさえあれば、起業家になるだろう」など5つの質問項目で構成される(Linan & Chen, 2009)。

「大学の環境」は「大学の雰囲気は新規事業のアイデア創出を促してくれる」、「起業家を生む好ましい雰囲気がある」、「私の大学は学生が起業家的な活動をすることを後押ししてくれる」という3つの質問項目で構成される(Franke & Luthje, 2004)。

「大学の講義」は、「起業家としての姿勢、価値観、モチベーションに関する理解を深めてくれた」、「ビジネスを始めるために取るべき行動に関する理解を深めてくれた」、「ビジネスを始めるための実践的スキルを高めてくれた」、「ネットワークを広げていく能力を高めてくれた」、「ビジネスチャンスを発見する能力を高めてくれた」という5つの質問項目で構成される(Souitaris et al., 2007)。

上記変数について、学部、大学所在地、そして親の職業の違いによって平均値の差が見られるかどうかをt検定によって確認した(表6)。

表6 専攻、大学所在地、親の職業による平均値の比較
経営学部 それ以外 t 首都圏 それ以外 t 親が自営業 それ以外 t
(N=2245) (N=860) (N=1358) (N=1639) (N=550) (N=2567)
M SD M SD M SD M SD M SD M SD
起業意思 2.29 1.34 2.08 1.32 3.94** 2.17 1.32 2.30 1.36 2.70** 2.59 1.44 2.15 1.30 6.61**
起業への周囲の反応 4.09 1.33 3.91 1.31 3.39** 4.04 1.34 4.06 1.31 0.43 4.34 1.33 3.98 1.31 5.84**
起業へのコントロール感 3.68 1.17 3.52 1.24 3.19** 3.70 1.20 3.60 1.19 2.29* 3.80 1.17 3.60 1.20 3.49**
起業への自信 3.21 1.21 2.99 1.27 4.30** 3.15 1.21 3.17 1.26 0.32 3.36 1.20 3.11 1.24 4.43**
起業への態度 3.39 1.39 3.11 1.45 4.96** 3.30 1.40 3.34 1.42 0.79 3.70 1.44 3.23 1.39 6.90**
大学の環境 3.55 1.25 3.33 1.31 4.18** 3.30 1.20 3.71 1.30 8.93** 3.62 1.35 3.46 1.26 2.47*
大学の講義 3.80 1.20 3.50 1.33 5.93** 3.64 1.20 3.81 1.28 3.83* 3.82 1.25 3.70 1.24 2.12*

** p<0.01, * p<0.05, † p<0.1

(出所)筆者作成。

専攻の違いに関しては、回答者の72.9%が商学・経営学部であったことから商学部・経営学部とそれ以外の学部との比較を行ったところ、すべての変数について商学部・経営学部の方が高い得点を示しており、統計的に有意な差が生じていた。Souitaris et al.(2007)の研究では学部の違い、つまり教育プログラムによって起業意思に違いが生じていることを明らかにしているが、日本のデータに関してはこれまで十分なデータ収集が行えず、検証が行えていなかった。今回の結果では有意に差が生じていることから、専攻の違いが起業意思にもたらす影響について今後より詳細に検討する必要があると考えらえる。

次に、大学所在地の違いに関しては、首都圏6に大学がある学生、そして、それ以外の地域の学生とで比較を行った。その結果、起業意思(マインド)、大学の環境、大学の講義に関しては、首都圏の学生よりもそれ以外の地域の学生の方が有意に得点が高かった。一方、起業へのコントロール感については、首都圏の学生の方が首都圏以外の学生よりも得点が高い傾向が示された。近年、首都圏の学生の創業が増えており、起業意思が高まっているとの論評が多いが、本調査では首都圏以外の学生の起業意思(マインド)が高く、大学の環境や講義への満足度も高くなっていることが分かった。しかし、起業行動のコントロール感についての認識は首都圏の学生の方が高かった。先行研究を確認すると、大学そのものが持つ影響に加えて大学が所在する地域が与える影響も加味した研究があるが(Bergmann et al., 2018)、日本に関してこの影響に関する分析は手つかずの状況である。今回の結果では、地域間によって起業意思に違いが生じており、大学の環境や講義に対する認知についても差が生じていることが示唆されたことから、今後の検討課題としていきたい。

最後に、親が自営業者であるか否かで差の検定を行ったところ、どちらかもしくは両親が自営業者の学生の方がすべての項目でそうではない学生を上回る結果となった。先行研究においても親が自営業者であることが起業意思を高める効果を持つことが示されており(Zellweger et al., 2011)、予想できる結果であった。さらに、親が自営業者の学生は、商学部・経営学部の学生や東京地域以外の大学に通う学生と比較しても起業意思が最も高い数値となっており、他の項目もおおむね高い数値を示している。

6.  おわりに

本稿は、日本の大学生の起業意思の現状とそれに影響を与える要因を明らかにすることを目的にGUESSS2018を用いて分析を行った。

過去の調査結果と比べて、日本の大学生が創業者になるキャリアを選択する傾向は、他の調査参加国と比較して低いことに大きな変化はない。しかし、過去3回の調査を概観するとわずかではあるが創業者になるキャリアを選択する割合は高まりつつある。次に専攻別にみると、2018年調査では工学、芸術学、商学・経営学では、卒業5年後に創業者のキャリアを選択する学生の割合が高くなっており、これは参加国全体と同様の結果であった。また、男女別にみると男子学生のほうが創業者になるキャリアを選択する割合が高くなっている。家族の状況では、日本では母親が自営業者の場合に自営業者になるキャリアを選択する割合が高くなっている。起業家活動に関する科目の履修に関しては、2011年の調査以降、調査を重ねるごとに履修率が高まっており、特に、卒業直後に起業しようと考える学生が起業家活動に関する科目を履修する割合が高くなっている。

それらを踏まえ、専攻の違い、大学所在地の違い、親の職業の違いによって、起業意思(マインド)、起業に対する態度、起業への周囲の反応、起業へのコントロール感、起業への自信、大学の環境、大学の講義に関して差が生じているかについて検討を行ったところ、学部の違いや大学の所在地、親の職業によって各項目で有意に差が生じていることが明らかとなった。これらの論点は、海外の先行研究では指摘されているものの、日本のデータを用いた検証はこれまで行われてこなかった。本稿は、その差を生じさせている要因まで踏み込めていないが、そのためには、大学のカリキュラム、地域性、個人のバックブラウンドに踏み込むような調査が必要となる。今後の課題としたい。

付記

本研究は、科学研究費補助金(課題番号18H00887、19H01530)の支援を受けている。

1  Japan Country ReportはGUESSSの公式ウェブサイト(http://www.guesssurvey.org/publications/publications/national-reports.html)からダウンロード可能である。

2  参加国全体に関するレポートはGUESSSの公式ウェブサイト(http://www.guesssurvey.org/publications/publications/international-reports.html)からダウンロード可能である。

3  ワールドレポートに従い、参加国全体については小数点2位以下の処理により、合計しても100%とはならない。

4  サンプル全体では、性別について回答のない活動起業家が1名おり、活動起業家の合計は84人となっている。

5  サンプル全体では、性別の回答のない起業予備軍が1名おり、起業予備軍の合計は572名となっている。

6  今回の調査では、東京都と神奈川県に所在する大学が該当する。埼玉県と千葉県からは参加がなかった。

参考文献
 
© 2021 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
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