Journal of Innovation Management
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Print ISSN : 1349-2233
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Occurrence of Negative Effects and Their Impact on Relationships on Facebook Pages
Toshie Takeuchi
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2021 Volume 18 Pages 55-88

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要旨

本研究は、2,269人のFacebookユーザーを対象としたアンケート調査を通じて、Facebookページへの参加による便益(快楽的便益、情報探索的便益、社会的便益、経済的便益)がネガティブ効果を抑制するのか、あるいは、促進するのか、また、ネガティブ効果はリレーションシップ(信頼)やロイヤルティ(推奨)に対してどのように影響するのかを検討する。ネガティブ効果は、Facebookページに対する情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念、後悔で測定した。分析の結果、次の知見が得られた。

・快楽的便益と情報探索的便益は、ネガティブ効果を抑制する。一方、社会的便益と経済的便益(10%有意水準)はネガティブ効果を促進する。

・満足は後悔に負の影響を及ぼす。

・ネガティブ効果の要因間には因果関係がある。

・プライバシーへの懸念は信頼に負の影響を及ぼす。しかしながら、後悔による信頼への影響、後悔による推奨への影響は有意ではなく、仮説は棄却された。

そこで、男女や「いいね!」意図の高低などの2群間で差異を検証するために、多母集団の同時分析を行った。

・「いいね!」意図、コメント意図、シェア意図が低い場合、後悔は信頼に負の影響を及ぼす。

・コメント意図が低い場合、また、女性の場合、後悔は推奨に負の影響を及ぼす。

これらの結果に基づいて、理論と実務に対するインプリケーションを述べる。

Abstract

Based on a questionnaire survey of 2,269 Facebook users, this study investigates whether participation benefits (hedonic benefits, informational benefits, social benefits and economic benefits) limit or promote negative effects and how negative effects impact relationship (trust) and loyalty (recommendation) on Facebook pages. Negative effects are measured by information overload, irritation, privacy concerns and regrets about Facebook pages. The findings of the empirical analysis are as follows:

· Hedonic benefits and informational benefits limit negative effects. On the other hand, social benefits and economic benefits (10% significant level) promote them.

· Satisfaction negatively impacts regret.

· There are causal relationships among the factors of negative effects.

· Privacy concerns negatively impact trust. However, the impact of regret on trust and regret on recommendation is not significant, so the hypotheses are rejected.

Additionally, the difference between the two groups, such as male and female and high and low “like” intention were examined in detail by simultaneous analysis of several groups.

· In the group with low intention to “like”, comment and share, regret negatively impacts trust.

· Moreover, in the group of low intention to comment and the female group, regret negatively impacts recommendation.

Based on these results, implications for theory and practice are discussed.

1.  はじめに

インターネットを情報検索のために利用することが当たり前の時代になり、誰でも手軽に、迅速に情報を入手できるようになった。我々消費者はその利便性を日々享受している一方、膨大な情報量に圧倒され、検索の結果として提示される情報の処理が自身の処理能力を超えている、あるいは、追い付かないという「情報過負荷」を経験している。また、個人情報の流出やセキュリティの問題なども社会的問題として取り上げられ、利用者はプライバシーに対する懸念を持っている。これらは、企業やブランドが主催するブランド・コミュニティであるFacebookページに限らず発生し、インターネット利用の功罪の「罪」の部分といえる。

Facebookページの場合、当該ページへの参加を決めたのは消費者自身であり、自らの意思決定の結果である。テレビ広告などのマス広告とは異なり、受動的な受信ではなく、能動的な選択の結果として情報を受け取っている。しかしながら、Facebookページに「いいね!」を押して、Facebookページへの参加を自ら表明したものの、毎日のように送られてくる情報に対して、情報過負荷が発生しているのも事実である。その結果、テレビ広告を見ているときと同様に、苛立ったり、回避したくなったりする。これは、テレビ広告におけるネガティブなコミュニケーション効果として概念化されている「ウェアアウト」と同様の現象と捉えることができる。また、ブランドの選択・購買の際に発生する「認知的不協和」と同様に、当該Facebookページを選択したことに対する後悔の念が生じることもある。これも一種のネガティブ効果である。

企業のFacebookページにおけるコミュニケーション活動をより効果的に実施するためには、なぜネガティブ効果が発生するのか、その具体的な発生要因を解明することが重要である。逆に、発生を抑制できるのであれば、その要因を明確にすることによって、コミュニケーション効果を高めることも可能になる。また、ネガティブ効果の発生によって、どのような悪影響が及ぼされるのかについても把握しておく必要がある。そこで本研究では、ネガティブ効果を情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念、後悔の4つの観点から捉え、ネガティブ効果の発生要因およびリレーションシップやロイヤルティへの影響を明らかにするためのモデルを構築し、実証分析を行う。

2.  先行研究の成果と知見、課題

2.1  Facebookページへの参加動機や参加によるベネフィットに関する先行研究

竹内(2018, 2019, 2020)は、オウンドメディアの中でもFacebookページに着目し、コミュニケーション効果とリレーションシップの形成について検討を行っている。その中でFacebookページへの参加動機や参加によるベネフィットとして、先行研究のレビューに基づいて快楽的便益、情報探索的便益と社会的便益の3因子を設定し、経済的便益を除外した。除外する理由として、Facebookページをメンバー同士、あるいは、メンバーと企業間のコミュニケーションの場、すなわち、長期的リレーションシップ形成のプラットフォームとして位置づけて活用すべきであると主張している。しかしながら、Facebookページの実態を見てみると、特に流通系企業のFacebookページにおいてキャンペーンの告知やプロモーションのための手段として活用している場合も散見される。このようなプロモーション活動の告知に対して、消費者が歓迎しているかどうかは疑問であるものの、Facebookページのコミュニケーション効果を検討するに際し、企業の活用の実態を反映する必要もある。また、金銭的なつながりで引き付けよう、関係を継続しようとする、いわゆる、金銭で釣るような行為、そして、それに関連した情報提供は、消費者にベネフィットを与える一方、そうした情報が過剰になれば、ストレスになり、情報処理したくないというネガティブな反応を発生・助長させる可能性がある。そこで、ネガティブ効果を検討する本研究においては、改めてこの経済的便益を明示的に取り込むべく、先行研究での検討を確認する。

経済的便益を取り扱う根拠として、Park and Kim(2014)が挙げられる。Parkらは、学術雑誌Top10、オンライン消費者コミュニティに関するインターネット上の記事とワーキングペーパーを包括的にレビューして、快楽的便益、情報的便益と社会的便益の3要因を抽出するとともに、業界紙、業界レポート(ソーシャルコマースやFacebookマーケティング関連記事など)を精査して、経済的便益も特定した。また、経済的便益という命名とは若干異なるが、聴取する質問内容は同等、つまり、定義としては同義と判断できる研究もある。Sung et al.(2010)は、4つの探索動機の1つとしてインセンティブ(サイバーマネー、クーポン、サンプルなどの提供)を、Kang, Tang, and Fiore(2014)においても、4次元に分類した1次元として金銭的便益(特別価格やクーポンの提供)を取り上げている。

そこで本研究では、経済的便益を先行要因として追加し、快楽的便益、情報探索的便益、社会的便益と合わせて、Facebookページへの参加動機を4因子と仮定する。なお、経済的便益以外の3因子の詳細については、竹内(2018, 2019, 2020)を参照されたい。

2.2  ネガティブ効果に関する先行研究

冒頭で述べた通り、消費者は、日ごろ閲覧しているFacebookページに対して親しみを感じたり、意見交換の場所として楽しんだり、高評価をしている一方で、情報量の多さやその内容に対して苛立ったり、プライバシーの問題が気になったり、必ずしも良い反応ばかりをしているわけではない。そこで以下では、情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念、後悔の4つの視点からネガティブ効果の側面に焦点を当て、先行研究の知見と課題について概観する。

(1)  情報過負荷

まず、情報過負荷について整理する。ただし、研究の枠組みによっては苛立ちやプライバシーへの懸念を同一モデル内で検証している事例もあり、その場合には得られた成果と知見についてあわせて言及する。Eppler and Mengis(2004)は、情報過負荷の問題に着目し、組織科学、マーケティング、会計、管理情報システムの領域の過去30年間にわたる文献に基づいて、概念を整理している。マーケティング関連では、情報過負荷とは「情報の供給量が人間の限られた情報処理能力を超えると発生し、その結果、ストレスや混乱などの機能障害を引き起こす」(Jacoby, Speller, & Berning, 1974)、「情報処理要件が情報処理能力を超えると発生する。統合する必要がある情報の量(量的側面)だけでなく、情報の特性(質的側面)も重要である」(Keller & Staelin, 1987)などの定義がある。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の人気が高まるにつれて、ユーザーに公開される情報量も一段と多くなり、継続的な使用拡大と相まって、消費者はますます情報過負荷を経験するようになっている。上記のEppler et al.(2004)は文献レビューを行った上で、情報過負荷は感情的な苦痛と不満につながると警鐘を鳴らした。その後、情報過負荷の問題に取り組む研究も増えている(例えば、Chen, Shang, & Kao, 2009Koroleva, Krasnova, & Günther, 2010Kefi, Mlaiki, & Kalika, 2015Lim et al., 2017Nawaz et al., 2018Zhang et al., 2018)。

Koroleva et al.(2010)は、グランデッド・セオリー・アプローチを適用して、Facebookの情報過負荷について調査した。分析の結果、閲覧者の注意力が低下して、活動が減少する、また、快楽体験を妨げて、フラストレーションと不満をもたらす、最悪の場合はFacebookから脱落する可能性があると指摘している。Nawaz et al.(2018)は、SNSがもたらす悪影響に着目し、社会的過負荷、情報過負荷、SNSに対する疲労感が不満や後悔を引き起こし、使用中止意図に影響することを見出している。

情報過負荷とは視点が少し異なるが、相互作用や社会的過負荷から検討した研究もある。リアクタンス理論に依拠したLim et al.(2017)は、Facebookにおける受容し難い人の存在、使用の自由への脅威という2つの変数を用いて、実証分析を行っている。その結果、①受容し難い人の存在は、Facebookの相互作用による社会的過負荷への影響に対して調整効果があること、②社会的過負荷は、使用の自由に対する脅威と不満の2要因が媒介変数となって、使用中止意図にプラスの影響を及ぼすこと、③社会的過負荷による不満や使用中止意図への直接的な影響は有意ではなく、社会的過負荷は、自由への脅威の潜在的な前兆(リアクタンス状態のトリガー)として機能する、という3点を明らかにしている。Zhang et al.(2018)は認知負荷理論に基づき、中国最大のコミュニケーションサイト(WeChat)における社会的過負荷に着目して実証分析を行った。その結果、社会的過負荷とタスクの複雑さは、SNSでのユーザーの参加と相互作用を減少させ、心理的負担をかけて、ユーザーのエンゲージメントに影響を与えることを見出している。

Tsimonis, Dimitriadis, and Omar(2020)は、ソーシャルメディア環境における消費者とブランドのリレーションシップに焦点を当て、ソーシャルメディア(FacebookとTwitter)のブランドページと対話するときに消費者が感じるメリットとコストを類型化している。この中で、先行研究の知見に基づき、コストとして3つの要因、すなわち、情報過負荷、広告への苛立ち、プライバシーへの懸念を挙げ、情報過負荷を「情報があふれていると感じること、人が処理できるより多くの情報を受け取ること」、広告への苛立ちを「露出された宣伝内容の量に悩まされると感じること」、プライバシーへの懸念を「個人情報に誰がアクセスし、どのように使用するのかに関する個人の懸念」と定義している。探索的因子分析と確認的因子分析の結果、その構造はFacebookとTwitterともにブランド間で不変であることを明らかにしている。

以上、情報過負荷の問題に関しては、情報や社会的な観点から取り組まれており、本研究においても、情報過負荷を重要なネガティブ因子として取り上げる。しかしながら、発生の促進要因と抑制要因の解明、問題が発生することに起因した悪影響、さらにはネガティブ評価間の因果関係について包括的に検討した研究は管見によれば見当たらない。

(2)  苛立ち

次に、苛立ちに関する先行研究を概観する。広告効果測定の理論や実証研究の分野では、広告のネガティブ効果としてウェアアウトの重要性が指摘され(竹内, 2010)、その中で苛立ちについて検討されている。ウェアアウトが発生すると、継続的な露出にもかかわらず、オーディエンスに対して正の効果をもたらさなくなる(Aaker, Batra, & Myers, 1992)。Craig, Sternthal, and Leavitt(1976)によると、ウェアアウトは、広告内容を学習して理解できているため、注意力が向けられず、広告を評価しなくなる、つまり、広告情報内容に対する飽きと定義されている。一方、Calder and Sternthal(1980)は、広告投下量に着目し、ウェアアウトを過剰な露出によって発生する苛立ちの感情と定義している。

インターネットの時代になって、情報が氾濫するとともに、消費者の情報処理能力を超え、情報過負荷の状態が恒常的になると、消費者の苛立ちも日常的に発生してしまう。Facebookページによっては、クイズへの参加やアンケートの回答への要求があったり、「いいね!」を押すよう促されたり、それらが頻繁に行われると、イライラして煩わしく感じることさえある。このような時代を反映して、ネガティブ効果としての苛立ちの研究も行われている(例えば、Li, Edwards, & Lee, 2002Edwards, Li, & Lee, 2002Baek & Morimoto, 2012Cortés & Royo-Vela, 2013Royo-Vela & Meyer, 2016)。

Li et al.(2002)は、広告の煩わしさを測定する尺度を開発した。その成果を活用したEdwards et al.(2002)はポップアップ広告の煩わしさに関する実証分析を行っている。その結果、広告のエンターテインメント性は広告の煩わしさと苛立ちを、また、広告の情報性は広告の煩わしさを抑制する効果があること、広告の煩わしさが苛立ちと広告回避の感情を引き起こすことを明らかにしている。また、Baek et al.(2012)は、ダイレクトメール(郵便物や電子メール)、テレマーケティングなどのパーソナライズされた広告メディアにおける広告回避の潜在的な要因を特定している。分析の結果、プライバシーへの懸念と広告への苛立ちが広告回避に直接プラスの影響を与えることを見出している。Cortés et al.(2013)は、広告への否定的な態度を引き起こす先行要因として、苛立ち、プライバシーへの懸念、広告の煩わしさを取り上げて、ショートメッセージサービス(SMS)の広告効果を分析している。その結果、プライバシーへの懸念は、煩わしさを経由して苛立ちに影響を与えること、苛立ちはプライバシーへの懸念よりもSMS広告に対する態度に大きな悪影響を及ぼすことを明らかにしている。Royo-Vela et al.(2016)は、モバイル広告を対象に、広告への態度に影響を及ぼす要因と苛立ちの先行要因を検討した。分析の結果、苛立ちは広告配信の事前許諾によって抑制され、頻度とプライバシーへの懸念によって促進されること、また、広告への態度はメッセージのエンターテインメント性、信頼性、広告配信の事前許諾から正の影響を、苛立ちと頻度から負の影響を受けることを見出している。

上記の研究の成果を踏まえ、また、苛立ちは情報接触の量との関係も深いと考えられるため、苛立ちの発生要因とその影響について検討する必要がある。

(3)  プライバシーへの懸念

本研究で着目する3つ目のネガティブ要因として、プライバシーへの懸念がある。情報過負荷の問題と同様に、SNS利用者の増加に伴って、個人情報の流出やプライバシー侵害などのセキュリティに関連した問題が、より重要な関心事として消費者に意識されるようになった。こうした背景の下、研究テーマとしても取り上げられ(Ku, Chen, & Zhang, 2013Tan et al., 2012)、その領域は消費者行動、マーケティング、eコマース、インターネット・情報技術の使用などにまで拡大している(Lanier & Saini, 2008Phelps, Nowak, & Ferrell, 2000)。

プライバシーへの懸念は、Lanier et al.(2008)によれば、個人および消費者の観点から「個人のプライバシーに関する不安感」、また、Tan et al.(2012)では、「個人のプライバシー侵害に関連するリスクの認識と評価」と定義されている。換言すると、誰に個人情報へのアクセス権があるのか、いかにそうした情報が使われるのかという個人的な懸念である。

Malhotra, Kim, and Agarwal(2004)は、情報プライバシーに対する消費者の信頼の欠如は、電子商取引の成長を妨げる問題であると指摘し、社会契約理論を援用して、インターネット利用者のプライバシーへの懸念(IUIPC)の次元に関する理論的枠組みを提案し、尺度開発を行っている。加えて、提案したモデルで実証分析を実施した結果、IUIPCは信頼への信念に負の影響を、リスクへの信念には正の影響を及ぼすと結論づけている。前述の通り、広告の回避に着目したBaek et al.(2012)は、プライバシーへの懸念と広告への苛立ちが忌避意識の潜在的な決定要因であることを特定している。Tan et al.(2012)の実証分析によれば、プライバシーへの懸念は統計的に有意であるものの、SNS利用者の受容に直接的には影響を与えず、知覚された有用性と使いやすさによるSNS使用継続意図への影響に対して調整効果があると主張している。Tanらが示唆するように、プライバシーへの懸念はオンライン環境で消費者に追加の心理的コストを引き起こすという意味で、ネガティブ効果である。Ku et al.(2013)は、利用と満足理論に依拠して、クリティカルマスとプライバシーへの懸念について検討し、プライバシーへの懸念はSNSユーザーの継続意図に負の影響を与えることを見出している。2006年から2014年の間の43本の情報システム研究を対象にメタ分析を実施したWang, Min, and Han(2016)は、リスクの1つとしてプライバシーへの懸念を取り上げている。分析の結果、ソーシャルメディア・プラットフォームに対して、信頼とリスクのいずれも個人の行動(選択、購入、シェア)に大きな影響を与えることを明らかにしている。Demmers, van Dolen, and Weltevreden(2018)では、企業は顧客サービスを拡張して顧客満足度を高めたいと意図しているにもかかわらず、SNS上で消費者コメントに対して積極的に介入することにより、消費者から否定的に受け止められてしまうのではないかという問題意識から、プライバシー侵害による満足度への影響を検討した。分析の結果、知覚された有効性は満足度に正の影響を与えるのに対して、プライバシー侵害は負の影響を与えることを明らかにしている。

それぞれの研究は目的も異なり、取り上げている変数も異なるため、結果に関する一貫性は必ずしもない。しかしながら、プライバシーへの懸念は、信頼や満足、使用継続意図にネガティブな効果をもたらし、広告忌避の感情を引き起こす要因となっている。したがって、これを1つの重要な変数として取り上げ、他のネガティブ要因との関係や悪影響について検証することは重要である。

(4)  後悔

Yi and Baumgartner(2004)は、後悔とは自分が選択した案よりも代替案のほうが良いと判明した場合、あるいは、そう感じた場合に発生する否定的な感情であると論じている。Oliver(1980, 2010)が提唱した期待不一致理論によれば、選択した製品のパフォーマンスが期待値以下であれば、不満が発生する。満足・不満足は期待値と実際のパフォーマンス間の評価に基づいており、結果に関連するのに対して、後悔は選択した案と代替案の間で生まれ、選択の問題、すなわち、プロセスに関連している(Keaveney, Huber, & Herrmann, 2007Tsiros & Mittal, 2000)。Taylor(1997)は、後悔が満足度に影響を与えることを見出している。また、後悔と満足度の関係を調べる実験調査では、後悔が顧客の満足度に影響を与えることが観察されている(Inman, Dyer, & Jia, 1997)。後悔と満足は異なる概念ではあるが、同時に独立して存在することもできる(Tsiros & Mittal, 2000)。期待不一致理論を適用し、オンライン上における消費者行動に対する満足と後悔について検討したLiao et al.(2011)は、情報、システム、サービスの品質レベルが後悔に負の影響を与えること、また、後悔によって、満足や再利用意図に対してもネガティブな効果をもたらすことを明らかにしている。前述の通り、Nawaz et al.(2018)も後悔に着目し、不満や後悔の発生原因と、使用中止意図への影響を実証している。

ブランド購買行動における意思決定と異なり、Facebookページの選択行動に対しては、経済的、心理的、身体的リスクを伴うわけではないものの、時間的リスク(変更のために時間や手間がかかる)や社会的リスク(他人や所属集団から仲間外れにされる)の可能性があり、自身の選択を後悔する場合も想定できる。また、後悔することによって、Facebookページに対して信頼できなくなったり、積極的に参加(例えば、意見交換、メンバーへの支援など)しなくなったり、コミットしない状況にも陥ることになると予想される。したがって、後悔をポジティブ効果に負の効果をもたらす媒介変数として明示的に組み込み、その影響を検討する必要があると考える。

2.3  Facebookページに対する満足、リレーションシップとロイヤルティに関する先行研究

Facebookページへの参加動機や参加によるベネフィットに関する先行研究と同様に、竹内(2018, 2019, 2020)では、満足、リレーションシップ(信頼、相互作用、コミットメント)とロイヤルティ(推奨)に関する先行研究についても論じている。そこで、以下では簡単にその概要をまとめる。なお、詳細については、これらを参照されたい。

竹内(2018)では、満足について、その定義は先行研究の中でも捉え方が異なり、複雑な概念であると指摘し、全体的満足、情報への満足、参加による便益に対する満足を測定尺度とし、捕捉している。また、リレーションシップ形成において、信頼、相互作用、コミットメントが重要な変数であると主張し(竹内, 2018, 2019)、他者への推奨意図、すなわち、ロイヤルティへの影響をモデル化し、実証している。分析の結果、相互作用と信頼はコミットメントに影響を及ぼすとともに、推奨意図に直接正の効果をもたらすこと、また、コミットメントも推奨意図に影響することを明らかにしている(竹内, 2018)。しかしながら、リレーションシップやロイヤルティ形成に対するネガティブ反応の悪影響についての検討は十分とはいえず、取り組むべき課題として残っている。

3.  仮説の設定

ネガティブ反応を引き起こす要因として、まず快楽的便益について検討する。竹内(2019, 2020)によれば、快楽的便益とはエンターテインメントや楽しみを求める便益であり、SNSへの参加動機として多くの研究で取り上げられている。前述の通り、Edwards et al.(2002)は、ポップアップ広告を対象に検証し、エンターテインメント性は煩わしさと苛立ちに対して、また、情報性は煩わしさに対して抑制効果があることを明らかにしている。ポップアップ広告とFacebookページという違いはあるものの、Edwardsらの知見より、Facebookページにおいても次のように考えることができる。Facebookページへの参加動機である快楽的便益(親しみ、好感、楽しさ、リラックス)を感じると、閲覧によって楽しい気分になり、没頭していれば、情報の多さ(情報過負荷)も気にならず、苛立ちを感じたりもしない。したがって、快楽的便益はネガティブ反応を引き起こすというよりはむしろ、ネガティブ反応を抑制する効果があると仮定できる。また、知識向上、詳細情報の取得、理解促進などを目的にSNSに参加する、つまり、参加動機が情報探索であれば、提供される情報が多くても(情報過負荷)、あまり負担に感じないと仮定できる。したがって、情報探索的便益にも抑制効果があると考える。

参加動機の3つ目は社会的便益である。本研究では、竹内(2019, 2020)に依拠し、Facebookページに参加する動機として社会的便益(友達作り、他メンバーとの関係強化、ソーシャルネットワークの拡大)、つまり、ポジティブな側面から社会性を取り上げている。先述したLim et al.(2017)は、SNSが急成長を遂げたにも関わらず、使用が減少している原因を探ることを目的にしているため、目的変数を使用中止意図とし、Facebookへの写真の投稿頻度、「いいね!」やコメントの書き込みなどのソーシャル機能に着目し、「社会的過負荷」というネガティブな側面から検討している。本研究は、情報過負荷に焦点を当てているため、社会的過負荷とは若干概念が異なるが、Limらの知見に基づき、社会的便益を得たいという動機を持つほど、情報過負荷を知覚しやすくなる、つまり、社会的便益は情報過負荷を促進させる効果があると仮定する。

4つ目は経済的便益である。竹内(2019, 2020)では、Facebookページを消費者とのリレーションシップ形成の場として捉えるべきと主張し、経済的便益について検討していないが、本研究では、ネガティブ効果の検証であり、あえてこの変数を組み込んでいる。クーポン・サンプル配布告知、キャンペーン告知、お得情報の提供は、販売促進や売上向上を目的にしており、あくまでも企業側の伝えたい一方的な情報という性質を持っている。もちろん、消費者にとってメリットがないわけではない。ベネフィットも提供されるものの、その頻度が多くなるとストレスを感じ、情報処理しなくなる、つまり、ネガティブな反応を助長させる可能性がある。したがって、経済的便益も社会的便益と同様に、情報過負荷を促進させると仮定する。

以上、先行研究の知見を踏まえ、本研究では、情報過負荷や苛立ちの発生要因として次の5つの仮説を設定する。

H1-1:快楽的便益は情報過負荷に負の影響を与える。

H1-2:快楽的便益は苛立ちに負の影響を与える。

H2:情報探索的便益は情報過負荷に負の影響を与える。

H3:社会的便益は情報過負荷に正の影響を与える。

H4:経済的便益は情報過負荷に正の影響を与える。

次に、情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念、後悔といったネガティブ反応間の因果関係について検討する。先述のRoyo-Vela et al.(2016)は、モバイル広告を対象に分析し、苛立ちは頻度とプライバシーへの懸念によって促進されることを明らかにしている。Tsimonis et al.(2020)は、本研究でネガティブ反応として取り上げる情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念を3つのコストとして扱っているが、これらの変数間の因果関係については検討していない。しかしながら、これらは同時に発生するというよりも、あまりに情報が多くて処理できずに苛立ってしまったり、あるいは、自分の情報もデータベース化されているのではないかと不安に思ったりする、また、プライバシーの問題が気になると、クイズへの参加やアンケートの回答も気軽にはできない、つまり、苛立ちや煩わしさが発生するという因果関係が想定できる。さらに、情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念が引き金になって、違うFacebookページを選択すれば良かったという後悔の念を感じ、認知的不協和の状況に陥ると考えられる。

以上より、情報過負荷によって発生する他の3つのネガティブ効果に関する仮説、プライバシーへの懸念による苛立ちへの影響に関する仮説、後悔が他の3因子から受ける影響に関する仮説、計6つの仮説を設定する。

H5:情報過負荷は苛立ちに正の影響を与える。

H6:情報過負荷はプライバシーへの懸念に正の影響を与える。

H7:プライバシーへの懸念は苛立ちに正の影響を与える。

H8:情報過負荷は後悔に正の影響を与える。

H9:苛立ちは後悔に正の影響を与える。

H10:プライバシーへの懸念は後悔に正の影響を与える。

後悔と満足の関係については、Liao et al.(2011)では後悔→満足を仮定し、後悔による満足への負の影響を実証している。Taylor(1997)Inman et al.(1997)も同様の知見を得ている。また、知覚されたプライバシーへの懸念は満足に負の影響を与える(Demmers et al., 2018)という実証分析の結果もある。しかしながら、受動的なテレビCMなどの視聴と異なり、自ら進んで、あるいは望んで選択したFacebookページでは、後悔より先に満足を仮定してもよいのではないか、後悔は満足できない、期待外れだったという結果から引き起こされる、逆に言えば、満足すれば後悔の念は抑制されると仮定することもできるのではないかと考える。先行研究では購買行動という金銭の支払いを伴う経済的リスクがある中での満足や後悔を想定しており、経済的リスクをほぼ考慮しなくて良いFacebookページの選択においては、満足と後悔の因果関係が異なる可能性もある。そこで本研究では、満足→後悔の関係を仮定し、以下の仮説を設定する。ただし、この因果関係については、先行研究の知見を踏まえ、後悔→満足を仮定したモデルについても分析を行う。

H11:満足は後悔に負の影響を与える。

プライバシーへの懸念に関する先行研究で述べた通り、プライバシーへの懸念→信頼において負の影響が実証されている(Malhotra et al., 2004)が、この直接効果としての負の影響のみならず、プライバシーへの懸念によって、選択したこと自体を後悔し、後悔を経由して、信頼に悪影響を及ぼす可能性もあると仮定できる。また、Ku et al.(2013)は、プライバシーへの懸念がロイヤルティ(継続意図)に悪影響を与えることを明らかにし、Liao et al.(2011)は、他人への推奨、サイトの継続使用など4項目から構成されるロイヤルティ(再利用意図)が後悔から負の影響を受けることを実証している。これらの先行研究による知見を基に、本研究では以下の仮説を設定する。

H12:プライバシーへの懸念は信頼に負の影響を与える。

H13:後悔は信頼に負の影響を与える。

H14:後悔は推奨に負の影響を与える。

以上、ネガティブ反応を中心に仮説を設定したが、それ以外の因果関係について簡単に説明する。社会的ベネフィット1は満足に影響するとともに、同一化に関する2変数を媒介とし、相互作用に影響を及ぼすとの知見(竹内, 2018)に基づき、社会的便益は、相互作用に直接正の影響を及ぼすと仮定する。また、竹内(2018)では、満足は同一化の2変数を媒介として、相互作用と信頼に影響するという結果も見出しているため、満足は相互作用と信頼に正の影響を及ぼすと仮定する。さらに、これら以外の参加動機(4つの便益)と満足、リレーションシップ変数とロイヤルティ変数との関係は、竹内(2018)と同様に仮定しており、本研究では改めて仮説としては設定しない。

図1は、ネガティブ反応に関連して設定した仮説、ならびに、竹内(2018)で検証された因果関係を1つのモデルとしてまとめている。本モデルを「ネガティブ効果の発生とリレーションシップ形成モデル」と命名する。本モデルは、Facebookページへの参加動機である4つの便益が、ポジティブ効果である「満足」のみならず、ネガティブ効果の「情報過負荷」、「苛立ち」、「プライバシーへの懸念」、「後悔」の発生の引き金となり、リレーションシップやロイヤルティの形成に対してポジティブ・ネガティブの両面から影響を及ぼすことを概念化している。

図1 ネガティブ効果の発生とリレーションシップ形成モデル(概念図)

(注)図が煩雑になるパスについては一部省略している。

(出所)筆者作成。

4.  調査概要

調査エリアは県・ブロック別等の割付をせずに全国とする。調査対象者は、マスコミ・調査会社等の関係者を除外した男女20~59歳である。2,400サンプルを目標回答数とし、男女×年代の8グループを均等割り付け(各グループ300名)とする。スクリーニングの段階で、回答者がFacebookを利用するアカウント所有者であることを確認している。また、50ブランドのFaccebookページが回答候補として提示され、その中から本調査で閲覧するFacebookページを1つ選択した上で、当該Facebookページへの評価等を回答するという方式を採った。提示する50ブランドは、Digital Dashboard2で公開されているランキングデータを用い、ファン数、投稿数などを参考に選定した。閲覧してもよいと回答したFacebookページの評価を行うに当たり、「投稿原稿を『もっと見る』、参加者のコメントを『コメント〇件をすべて見る』、『他のコメントを見る』等をクリックして3分程度(あるいはそれ以上でも結構です)閲覧してください」というメッセージを提示し、次ページへの遷移禁止のアラートつき表示とした。本調査は2019年7月12日(金)~17日(水)に実施した。

5.  具体的な質問内容と分析に使用するデータの概要

質問項目は基本的に7段階のリッカート尺度によって測定した。経済的便益とネガティブ効果に関する質問は、先行研究に依拠し、表1の通り設定した。他の質問内容の詳細については竹内(2018, 2019)を参照されたい。

表1 ネガティブ効果、経済的便益に関する潜在変数、観測変数の一覧
潜在変数 観測変数 出典
苛立ち このFBページに苛立ちを感じた。
このFBページは魅力的ではない。
このFBページには興味を持てない。
「いいね!」の要求や、クイズ・アンケートの回答要求への対応は面倒だ。
Li et al.(2002)
Duncan and Nelson(1985)
Cortés et al.(2013)
Tsimonis et al.(2020)
Baek et al.(2012)
情報過負荷 このFBページはメッセージを頻繁に投稿しすぎている。
このFBページの投稿は、コメントの量(文字数)が多すぎる。
このFBページには写真が多すぎる。
このFBページには動画が多すぎる。
このFBページのどこに必要な情報があるのかわかりにくい。
このFBページにはたくさんの情報があって、これらすべての情報を入手するのは難しい。
Tsimonis et al.(2020)
Chen et al.(2009)
プライバシーへの懸念 このFBページはプライバシー問題を引き起こすと思う。
このFBページへコメントを投稿するのは心配だ。
このFBページが私の個人情報を収集するのではないかと心配だ。
Cortés et al.(2013)
Tsimonis et al.(2020)
Baek et al.(2012)
Ku et al.(2013)
後悔 このFBページを選択したことを残念に思う。
このFBページを選択したことを後悔している。
別のFBページを選べばよかったと思う。
Liao et al.(2011)
経済的便益 割引クーポンやお得なキャンペーン情報、無料サンプルなどを得られる。
期間限定価格、特別割引、プレゼントやイベントの応募などについて詳しく知ることができる。
ここでしか見ることのできないお得な情報がある。
Sung et al.(2010)
Kang et al.(2014)

(出所)筆者作成。

本研究では、Facebookページとのリレーションシップ形成に対するネガティブ効果の影響を検証することが目的であるため、調査以前に回答するFacebookページに対して「いいね!」を押したり、コメントを書いたりした経験がある程度あるほうが望ましい。そこで、これらの経験について「覚えていない」という回答者を削除した。また、1ブランドあたりの回答数が少ない場合、回答者の価値観等個人的要因による影響が大きくなる可能性があると考えて、8名以上の計40ブランドを分析対象とした3。アンケートの回答総数は2,269名である。分析に用いるデータの概要は表2の通りである。

表2 分析に使用するブランド名、回答数、性別比率、平均年齢
ブランド名 回答数 性別比率 平均年齢 ブランド名 回答数 性別比率 平均年齢
Amazon 489 0.34 37.24 BMW 29 0.24 42.72
ANA 183 0.43 42.37 JR東日本 29 0.31 40.79
楽天市場 179 0.62 41.64 H.I.S. 28 0.86 35.25
東京ディズニーリゾート 162 0.75 36.52 ユニバーサル・スタジオ 25 0.56 37.00
スターバックス 141 0.79 36.35 キリンビール 24 0.54 46.83
セブン-イレブン 78 0.50 39.77 マツダ 22 0.23 46.09
JAL 71 0.46 46.18 Sony 20 0.35 38.50
NTTドコモ 69 0.38 41.13 ケンタッキーフライドチキン 18 0.44 40.72
無印良品 69 0.88 41.33 アサヒビール 17 0.41 43.18
ローソン 63 0.67 44.02 TSUTAYA 15 0.60 42.40
au 55 0.38 38.15 メルセデス・ベンツ 15 0.27 46.13
コカ・コーラ 55 0.27 41.71 本田技研工業 14 0.29 45.14
トヨタ自動車 48 0.23 38.81 キリンビバレッジ 13 0.85 44.15
ユニクロ 48 0.63 37.40 パナソニック 13 0.38 49.46
ハーゲンダッツ 46 0.86 35.08 アウディ 12 0.33 41.00
スバル 38 0.18 41.55 アディダス 10 0.40 40.70
ソフトバンク 37 0.57 40.92 ハローキティ 10 0.90 34.50
日産自動車 34 0.15 44.00 カップヌードル 9 0.22 42.00
ファミリーマート 33 0.55 43.79 リクルート 8 0.63 30.00
資生堂 32 0.88 41.50 富士フイルム 8 0.75 52.38

(注)性別比率に関しては、男性0、女性1として算出している。

(出所)筆者作成。

6.  分析結果

6.1  探索的因子分析と確認的因子分析の結果

本研究で用いる質問項目は、先行研究に基づいているものの、複数の先行研究を参照しており、必ずしもその因子構造が明確化されているわけではない。そこでまず、探索的因子分析(Exploratory Factor Analysis; EFA)を、次に確認的因子分析(Confirmatory Factor Analysis; CFA)を行った。EFAにおける因子数の確定では、設定した仮説と近い因子構造になるように、また、竹内(2018, 2019, 2020)との整合性を考慮して、ガットマン基準(Guttman, 1954)ではなく、堀(2005)によるMAPと対角SMC平行分析の挟み込み法等を併用して、精査した4。その結果、因子数は表3に示す通り、ポジティブな潜在変数として、快楽的便益(HED)、情報探索的便益(INF)、社会的便益(SOC)、経済的便益(ECO)、満足(SAT)、信頼(TRU)、相互作用(INT)、コミットメント(COM)、推奨(REC)の9因子、また、ネガティブな潜在変数として、苛立ち(N_IRR)、情報過負荷(N_INF)、プライバシーへの懸念(N_PRI)、後悔(N_REG)の4因子、計13因子とした。

表3 観測変数の探索的因子分析(EFA)の結果
因子1 因子2 因子3 因子4 因子5 因子6 因子7 因子8 因子9 因子10 因子11 因子12 因子13 共通性
好感 0.787 0.093 −0.010 0.017 −0.018 −0.061 0.015 0.045 0.063 −0.029 0.000 0.009 0.004 0.779
なじみ 0.901 0.016 −0.009 −0.020 0.029 0.012 0.004 −0.049 0.034 0.017 0.002 −0.018 0.028 0.844
親しみ 0.861 −0.013 0.005 0.006 0.055 0.023 0.013 −0.032 0.007 −0.030 −0.004 −0.017 0.038 0.835
リラックス 0.593 −0.038 0.233 0.026 −0.005 0.184 −0.037 0.052 −0.037 0.029 0.031 −0.020 −0.032 0.657
楽しい 0.565 0.063 0.126 0.080 −0.007 0.068 −0.024 0.051 −0.082 −0.013 −0.060 0.024 0.076 0.697
役立つ 0.145 0.634 −0.061 0.053 0.041 −0.066 0.017 0.061 0.054 −0.012 −0.051 0.043 0.037 0.716
詳細情報 0.070 0.683 0.077 −0.017 0.003 0.022 0.017 0.030 −0.015 −0.003 0.020 −0.037 0.107 0.766
知識向上 0.020 0.755 0.046 0.060 0.017 0.031 −0.007 0.011 −0.041 −0.007 0.013 −0.021 0.030 0.761
理解促進 −0.041 0.698 0.144 0.046 0.054 0.086 −0.028 −0.032 0.005 0.004 −0.002 −0.004 0.011 0.725
ネットワーク 0.033 0.173 0.692 0.001 0.021 0.015 0.008 0.044 0.039 −0.009 −0.010 0.012 0.020 0.799
関係強化 0.033 0.052 0.835 0.020 0.008 −0.004 −0.004 0.028 0.062 0.023 −0.007 0.014 0.006 0.905
友達作り 0.000 −0.009 0.691 0.001 0.078 0.021 0.035 −0.007 0.122 0.012 0.031 0.020 0.042 0.766
クーポン・サンプル −0.023 0.028 0.043 0.001 0.818 0.022 0.027 −0.013 0.027 0.000 0.020 −0.007 −0.016 0.745
応募詳細 0.052 −0.008 −0.027 0.034 0.897 −0.029 −0.010 0.031 −0.015 0.018 −0.007 −0.002 0.007 0.840
お得情報 0.014 0.089 0.112 −0.028 0.514 0.034 −0.018 0.041 0.024 −0.021 −0.004 0.025 0.165 0.668
情報信頼 0.098 0.164 −0.081 0.711 −0.003 −0.022 0.004 0.009 0.054 −0.010 −0.043 0.020 −0.026 0.766
約束 0.016 0.030 0.046 0.756 0.026 0.035 0.000 0.011 0.010 0.022 0.016 −0.003 0.054 0.785
正直 0.015 −0.001 0.067 0.875 −0.011 0.052 −0.023 0.010 −0.018 0.008 0.038 −0.014 −0.001 0.853
信頼 −0.019 0.004 −0.015 0.861 0.022 −0.007 0.014 0.020 0.018 −0.032 −0.010 −0.021 0.068 0.863
意見交換 0.022 0.028 0.130 −0.013 −0.002 0.015 0.047 0.082 0.722 0.002 0.008 0.007 −0.025 0.822
投稿への対応 0.016 0.021 −0.003 0.032 0.029 0.076 −0.030 0.002 0.751 0.049 0.008 −0.007 0.075 0.814
支援 −0.015 −0.047 0.100 0.054 0.023 0.033 0.017 0.026 0.778 −0.018 0.003 0.017 0.048 0.866
友人のよう 0.058 0.058 0.044 0.010 −0.056 0.684 0.011 0.076 0.115 0.016 0.028 −0.002 −0.011 0.825
生活の一部 0.033 0.096 −0.021 −0.017 0.001 0.815 −0.018 0.001 0.097 0.032 −0.003 0.023 −0.014 0.869
関係重要 −0.005 0.064 −0.012 0.042 0.014 0.816 −0.008 0.015 0.050 0.020 −0.021 0.012 0.028 0.874
損失 0.028 −0.039 0.025 0.011 0.062 0.816 0.045 0.031 −0.008 −0.018 0.019 0.003 0.037 0.843
長い時間 −0.018 −0.057 0.078 0.018 0.027 0.740 0.033 0.046 0.012 −0.012 −0.017 0.033 0.090 0.789

(出所)筆者作成。

表3 観測変数の探索的因子分析(EFA)の結果(続き)
因子1 因子2 因子3 因子4 因子5 因子6 因子7 因子8 因子9 因子10 因子11 因子12 因子13 共通性
話す 0.021 0.021 0.027 −0.003 −0.022 −0.032 −0.001 0.872 0.070 0.005 0.019 0.025 −0.013 0.854
勧める(他人) 0.015 −0.013 0.015 −0.030 −0.003 0.004 −0.023 0.884 0.051 0.047 0.005 −0.003 0.039 0.892
大事 0.034 0.016 −0.063 0.041 0.019 0.260 −0.012 0.648 −0.008 −0.024 −0.002 0.010 0.031 0.824
良い評判 0.009 0.010 0.019 0.042 0.047 0.154 0.027 0.735 −0.015 −0.003 0.004 −0.028 −0.013 0.837
勧める(友人) −0.040 0.013 0.048 0.032 0.045 0.094 0.019 0.752 −0.004 −0.009 −0.009 −0.008 0.033 0.821
苛立ち 0.013 0.007 −0.004 −0.065 0.002 0.057 0.043 0.056 0.019 0.780 0.057 0.048 0.020 0.860
魅力なし 0.010 −0.012 −0.011 −0.011 0.012 0.011 −0.035 −0.011 0.041 0.971 0.024 −0.003 −0.030 0.952
興味なし −0.025 0.005 0.037 0.020 0.000 0.013 0.021 −0.034 0.011 0.917 0.042 −0.031 −0.031 0.922
面倒 −0.017 −0.004 −0.002 0.022 −0.007 −0.082 0.163 0.016 −0.089 0.681 −0.138 0.180 0.048 0.663
投稿頻繁 0.008 0.051 −0.042 −0.013 −0.011 −0.011 0.800 0.048 0.061 0.002 0.013 0.088 −0.012 0.804
文字量多 0.011 0.040 −0.014 −0.032 −0.038 0.020 0.841 0.039 0.026 0.021 0.040 0.009 0.020 0.824
写真多 −0.015 0.005 0.009 −0.023 0.013 0.098 0.889 −0.040 0.013 −0.008 0.072 −0.034 0.001 0.882
動画多 −0.039 0.005 0.030 −0.032 0.021 0.092 0.904 −0.013 −0.021 0.002 0.029 −0.035 0.002 0.866
わかりにくい 0.015 −0.045 0.016 0.058 0.001 −0.032 0.791 −0.026 −0.010 0.090 0.012 0.033 −0.069 0.800
情報入手困難 0.010 −0.067 0.005 0.052 0.012 −0.078 0.851 0.005 −0.016 0.031 −0.061 0.081 0.017 0.769
プライバシー問題 0.012 0.010 0.032 −0.031 −0.003 0.006 0.100 0.045 0.034 0.002 0.116 0.732 −0.034 0.879
投稿心配 0.012 −0.029 −0.009 0.017 0.011 0.009 −0.030 −0.016 −0.020 0.042 0.024 0.930 0.007 0.895
個人情報 −0.043 0.014 0.010 −0.014 0.003 0.034 0.030 −0.029 0.012 0.007 0.018 0.881 0.003 0.880
残念 −0.018 0.028 0.002 −0.001 −0.016 −0.017 0.015 0.010 0.015 0.017 0.908 0.048 −0.008 0.946
後悔 0.002 −0.007 −0.016 −0.011 0.006 −0.003 0.021 0.011 0.003 0.017 0.944 0.015 0.019 0.968
他のページ 0.001 −0.032 0.015 0.025 0.017 0.008 0.029 −0.005 −0.013 0.028 0.892 0.031 −0.001 0.925
利点 0.023 0.138 −0.055 0.025 0.129 0.050 −0.009 0.001 0.088 0.040 −0.001 0.022 0.541 0.694
情報満足 0.018 0.089 −0.005 −0.003 −0.012 −0.014 −0.019 0.030 0.017 0.025 0.013 −0.006 0.823 0.839
全体満足 0.027 −0.006 0.027 0.023 −0.006 0.008 0.011 −0.003 −0.017 −0.036 −0.003 −0.009 0.896 0.879
良い判断 0.027 0.003 0.067 0.073 0.035 0.024 0.002 0.034 0.027 −0.021 −0.010 −0.015 0.711 0.816
固有値 21.137 12.800 2.709 1.608 1.133 0.909 0.858 0.772 0.709 0.676 0.614 0.565 0.517
因子名 HED INF SOC TRU ECO COM N_INF REC INT N_IRR N_REG N_PRI SAT

(出所)筆者作成。

具体的な分析の手順は、Anderson and Gerbing(1988)に依拠した。第1段階ではCFAによる測定尺度の信頼性と妥当性の検証、第2段階では、構造方程式モデル(Structural Equation Model; SEM)にて仮説検証のための分析を行う。

第1段階として、測定尺度の信頼性はクロンバックのαとComposite Reliability(以下、CR)により確認した。Hair et al.(2013)によればクロンバックのαは0.6~0.7が採択の下限であるのに対して、本研究における各潜在変数のαは最小値0.885であり(表4)、十分な値を示している。また、Bagozzi and Yi(1988)ではCR0.60以上を推奨しており、各潜在変数のCRはこの基準を満たしている。よって、設定した項目は、内的一貫性があると判断できる。

表4 測定尺度の信頼性、収束的妥当性と弁別的妥当性
α CR AVE HED INF SOC TRU ECO COM N_INF REC INT N_IRR N_REG N_PRI SAT
HED 0.933 0.934 0.858 0.858
INF 0.915 0.916 0.855 0.648 0.855
SOC 0.926 0.929 0.901 0.285 0.399 0.901
TRU 0.943 0.944 0.898 0.554 0.584 0.231 0.898
ECO 0.885 0.925 0.852 0.326 0.539 0.475 0.331 0.852
COM 0.962 0.962 0.914 0.331 0.358 0.551 0.312 0.359 0.914
N_INF 0.963 0.963 0.902 0.012 0.001 0.057 0.005 0.013 0.064 0.902
REC 0.963 0.963 0.916 0.407 0.428 0.523 0.408 0.365 0.762 0.035 0.916
INT 0.935 0.935 0.910 0.238 0.286 0.623 0.246 0.340 0.711 0.097 0.645 0.910
N_IRR 0.949 0.952 0.909 0.032 0.008 0.045 0.014 0.008 0.048 0.664 0.018 0.084 0.909
N_REG 0.981 0.981 0.972 0.029 0.009 0.049 0.021 0.005 0.064 0.646 0.028 0.095 0.650 0.972
N_PRI 0.955 0.955 0.936 0.011 0.000 0.055 0.012 0.016 0.062 0.671 0.032 0.090 0.567 0.677 0.936
SAT 0.939 0.940 0.892 0.686 0.774 0.392 0.650 0.501 0.456 0.002 0.527 0.367 0.011 0.009 0.001 0.892

(注)HED~SATの対角線上の数値(太字)はAVE、それ以外の数値は相関係数の平方である。

(出所)筆者作成。

収束的妥当性、弁別的妥当性についても確認した。因子負荷量の最小値0.765、最大値0.982となり、すべての項目で0.70を上回っていた(Bagozzi et al., 1988)。また、Fornell and Larcker(1981)に基づき、すべての項目でAverage Variance Extracted(以下、AVE)0.50以上であることも確認できた。

最後にCFAのモデル適合度を確認する。サンプル数N=2269、χ2=5545.631、自由度df=1196、χ2/df=4.64、CFI=0.954、TLI=0.949、RMSEA=0.040である。Hair et al.(2013)によれば、CFIとTLIは0.9以上、RMSEAは0.05以下、また、χ2/df値は2.0以下であれば適合度が高く、2.0~5.0であれば採択の範囲である。したがって、適合度指標は基準値をクリアしている。そこで第2段階としてSEMによる分析を進める。なお、分析にはIBM SPSS Statistics25.0とAMOS 25.0を使用した。

6.2  全体モデルの分析結果

全データをプールして分析したSEMの結果は図2に示す通りである。モデル適合度はGFI=0.846、AGFI=0.829、NFI=0.940、CFI=0.947、RMSEA=0.053である。以下に全体モデルから得られた知見についてまとめる。

図2 「ネガティブ効果の発生とリレーションシップ形成モデル」分析結果

(注)後悔→信頼、後悔→推奨のパス係数は有意ではなく、経済的→情報過負荷は10%水準、それ以外はいずれも5%水準で有意である。ここでは潜在変数のみを記載し、観測変数、誤差項、外生変数間の共分散については図が煩雑になるため、省略している。

(出所)筆者作成。

(1)  ネガティブ反応に影響を及ぼす要因

まず、Facebookページを閲覧する動機の影響を確認する。快楽的便益(楽しい、リラックスできる、好感を持っている)は、情報過負荷(−0.277、標準化推定値。以下、同様)、苛立ち(−0.085)にマイナスの影響を及ぼし、抑制効果がある。同様に、情報探索的便益(詳細情報入手、理解促進、知識向上)も情報過負荷(−0.149)に対して抑制効果が働く。

一方、社会的便益と経済的便益の場合、情報過負荷に対してプラス、つまり、促進効果が働く。具体的には、社会的便益(ネットワークづくり、関係強化に役立つ)は、投稿頻度、文字量や写真の多さに正の影響を与える(0.454)。また、経済的便益(お得な情報やキャンペーン情報、プレゼント応募についての情報が得られる)も、情報過負荷にプラスに影響する傾向がある(0.075、10%水準)。

4つの便益のうち、快楽的便益と情報探索的便益はマイナスの影響を及ぼし、ネガティブな反応を抑制する。一方、社会的便益と経済的便益がプラスの影響、すなわち、ネガティブな反応を促進する要因となっている。

(2)  ネガティブ反応間の因果関係

情報量の多さがネガティブ反応として起こり、それによって苛立ち(0.601)やプライバシーへの懸念(0.819)に大きな影響を及ぼす。また、プライバシーの問題が気になると興味や魅力を感じなくなったり、面倒に思ったりする、すなわち、苛立ちが発生する(0.251)。この3つのネガティブ反応が、当該Facebookページを選択したことに対する後悔、すなわち、他のページにすればよかったといった気持ちを起こさせる要因となる。さらに、後悔はFacebookページに対する全体的な満足が高ければ抑制され、満足からマイナスの影響を受ける(−0.044)。なお、満足→後悔に関しては、Liao et al.(2011)などで、逆の関係、つまり、後悔による満足へのマイナスの影響を仮定しているため、実証分析ではこの点も確認した。その結果、後悔→満足は有意ではなく、満足→後悔において負の影響があると認められた。

(3)  ネガティブ反応がもたらす影響

ネガティブ反応によるリレーションシップに対する悪影響が見られたのはプライバシーへの懸念のみである。信頼に対するマイナスの影響は小さい(−0.092)ものの、信頼を損なわないためにはプライバシーへの懸念に関して十分に配慮する必要がある。

後悔することによって、信頼への悪影響があると仮定したが、5%水準で有意とはならなかった。同様に、自分が後悔しているのに、他の人に推奨しようとは思わないため、推奨に対してマイナスの影響を仮定したが、有意ではない。全体モデルの結果のみで判断するのは拙速に過ぎるが、少なくともこの分析結果によれば、動機である4つの便益は満足を経由して、リレーションシップを形成する。これは4つの便益がもたらす満足によるポジティブ効果である。一方、情報過負荷、苛立ち、プライバシーへの懸念が引き起こす後悔というネガティブな感情はリレーションシップ形成に直接的な影響は及ぼさない。しかしながら、後悔→信頼、後悔→推奨のパス係数が有意ではなかった理由として、異なるグループ間でネガティブ効果が相殺されている可能性も考えられる。例えば、当該Facebookページへのエンゲージメントの強さを表す「いいね!」を押そうと思う意図の高低による多母集団の同時分析を行い、グループ間の違いを明らかにするなど、さらなる分析が必要である。この点については、いくつかのグループ間で多母集団の同時分析を行い、精査する(後述)。

(4)  リレーションシップ変数間の関係など

社会的便益による満足への影響は小さいものの(0.058)、相互作用に直接大きな影響(0.693)を与えている。この結果は、ネットワークづくり、関係強化といった動機を持っていれば、意見交換や投稿への対応に積極的になることを示唆している。

相互作用→コミットメント、信頼→コミットメント、相互作用→推奨、信頼→推奨、コミットメント→推奨は、竹内(2018)と同じ構造を持っており、しかも、パス係数についても似通った結果となった。したがって、これらリレーションシップ変数間の構造は再現性があり、頑健な結果といえる。

以上、全体モデルの結果に基づき、設定した仮説の検証結果を表5に記載する。

表5 仮説の検定結果
仮説内容 検定結果
H1-1 快楽的便益は情報過負荷に負の影響を与える。 支持
H1-2 快楽的便益は苛立ちに負の影響を与える。 支持
H2 情報探索的便益は情報過負荷に負の影響を与える。 支持
H3 社会的便益は情報過負荷に正の影響を与える。 支持
H4 経済的便益は情報過負荷に正の影響を与える。 支持(10%水準)
H5 情報過負荷は苛立ちに正の影響を与える。 支持
H6 情報過負荷はプライバシーへの懸念に正の影響を与える。 支持
H7 プライバシーへの懸念は苛立ちに正の影響を与える。 支持
H8 情報過負荷は後悔に正の影響を与える。 支持
H9 苛立ちは後悔に正の影響を与える。 支持
H10 プライバシーへの懸念は後悔に正の影響を与える。 支持
H11 満足は後悔に負の影響を与える。 支持
H12 プライバシーへの懸念は信頼に負の影響を与える。 支持
H13 後悔は信頼に負の影響を与える。 棄却
H14 後悔は推奨に負の影響を与える。 棄却

(出所)筆者作成。

6.3  多母集団の同時分析の結果

前述の通り、全体モデルの分析において、棄却された後悔→信頼、後悔→推奨について精査するために、性別、「いいね!」意図の高低などの基準を用いて2群に分け、多母集団の同時分析を行った。

(1)  性別による差異

男性と女性では日頃よく見ているFacebookページも異なる(表2)が、男女間の反応差については、必ずしも統一見解は得られておらず、Islam and Rahman(2017)は差なし、竹内(2018, 2020)では差ありという結果を提示している。また、ネガティブ反応がもたらす影響のうち、後悔→信頼、後悔→推奨のパス係数が有意ではなかったことの原因を探る意味でも、性別によるグループ間比較を行う意義があると考える。

多母集団の同時分析の結果、制約なしモデル5の適合度がGFI=0.820、AGFI=0.800、NFI=0.927、CFI=0.942、RMSEA=0.040となった。なお、モデルは、分散が負になる、あるいは、多重共線性があるといった不適解ではなく、収束した。

結果は表6に示す通りである。便益4要因による情報過負荷への影響や、快楽的便益による苛立ちへの影響に差異は見出せなかった。5%水準で有意差があったのは、ポジティブ効果としては、社会的便益→相互作用、満足→相互作用、満足→信頼の3ヵ所、ネガティブ効果としては、情報過負荷→苛立ち、情報過負荷→後悔、プライバシーへの懸念→後悔、後悔→推奨の4ヵ所である。要検討事項である後悔→推奨について、有意差が見出された。

表6 多母集団の同時分析:男女の反応の違い
男性(N=1,125) 女性(N=1,144) 差の検定量
非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値 非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値
快楽的→満足 0.343 0.030 0.359 0.335 0.028 0.352 −0.214
情報探索的→満足 0.478 0.040 0.494 0.447 0.037 0.465 −0.575
社会的→満足 0.026 0.017 0.037 0.038 0.014 0.061 0.536
経済的→満足 0.108 0.027 0.115 0.113 0.025 0.130 0.140
社会的→相互作用 0.640 0.032 0.619 0.735 0.030 0.731 2.200
快楽的→苛立ち −0.107 0.027 −0.067 −0.165 0.031 −0.104 −1.407
快楽的→情報過負荷 −0.319 0.080 −0.237 −0.428 0.068 −0.317 −1.036
情報探索的→情報過負荷 −0.149 0.106 −0.109 −0.212 0.087 −0.155 −0.461
社会的→情報過負荷 0.417 0.050 0.413 0.406 0.037 0.455 −0.172
経済的→情報過負荷 0.141 0.076 0.107 0.077 0.063 0.063 −0.643
苛立ち→後悔 0.336 0.033 0.323 0.345 0.029 0.340 0.212
情報過負荷→後悔 0.143 0.046 0.117 0.308 0.039 0.259 2.732
プライバシー→後悔 0.525 0.032 0.506 0.343 0.031 0.333 −4.068
プライバシー→苛立ち 0.226 0.034 0.227 0.282 0.035 0.278 1.151
情報過負荷→苛立ち 0.776 0.042 0.657 0.626 0.042 0.533 −2.535
情報過負荷→プライバシー 0.990 0.027 0.836 0.923 0.028 0.798 −1.715
満足→後悔 −0.097 0.026 −0.056 −0.052 0.028 −0.031 1.176
満足→信頼 0.822 0.027 0.858 0.692 0.026 0.776 −3.450
満足→相互作用 0.384 0.041 0.266 0.220 0.041 0.138 −2.822
後悔→信頼※ −0.004 0.021 −0.007 0.010 0.018 0.018 0.489
後悔→推奨※ 0.024 0.012 0.029 −0.028 0.014 −0.032 −2.886
プライバシー→信頼 −0.039 0.022 −0.068 −0.065 0.019 −0.119 −0.889
相互作用→コミットメント 0.747 0.026 0.735 0.734 0.023 0.769 −0.373
相互作用→推奨 0.199 0.030 0.206 0.257 0.030 0.282 1.339
信頼→コミットメント 0.319 0.034 0.208 0.315 0.034 0.184 −0.069
信頼→推奨 0.281 0.029 0.193 0.353 0.032 0.217 1.701
コミットメント→推奨 0.568 0.032 0.598 0.482 0.034 0.507 −1.827

(注)太字は統計的に有意差(5%水準)が認められた項目と非標準化推定値、差の検定量である。※は全体モデルで有意ではなかったパスである。以降の表でも同様である。

(出所)筆者作成。

① ポジティブ反応に関する違い

社会的便益→相互作用(直接効果)のパス係数は、男性(0.640、非標準化係数。以下、同様)に比べ女性(0.735)のほうが大きいことが判明した。一方、満足→相互作用は男性(0.384)のほうが女性(0.220)より有意に大きい。この満足→相互作用を間接効果として加味しても、社会的便益→相互作用の総合効果は、男性(0.650)よりも女性(0.744)のほうが大きい。また、満足→信頼は、女性(0.692)に比して男性(0.822)の場合、強く影響している。

② ネガティブ反応に関する違い

情報過負荷→苛立ちは女性(0.626)より男性(0.776)のほうが、一方、情報過負荷→後悔に関しては、男性(0.143)より女性(0.308)のほうが大きな影響がある。プライバシーへの懸念→後悔は、女性(0.343)より男性(0.525)のほうが強く影響している。後悔→推奨は、全体モデルでは有意にならなかったパスであるが、男女間で差が見出された。女性の場合、後悔すると推奨を行おうと思う気持ちが阻害される(−0.028)のに対して、男性の場合、後悔しても推奨する(0.024)ことが判明した。全体モデルで有意にならなかったのは、男女間で相殺されているためであると示唆される。

(2)  「いいね!」意図の高低による差異

「いいね!」を押したいという意図が強い場合、そうでない場合に比して、当該Facebookページに対して満足したり、信頼したり、他の人々に推奨したい(ポジティブ反応)と思い、逆に、苛立ちや情報過負荷、後悔など(ネガティブ反応)は抑制されると仮定できる。そこで、「いいね!」意図の高低によって2群に分割6して多母集団の同時分析を行った。その結果、制約なしモデルの適合度はGFI=0.826、AGFI=0.807、NFI=0.917、CFI=0.935、RMSEA=0.038と高く、また、モデルは不適解ではなく、収束した。

27ヵ所のパスのうち11ヵ所で有意差(5%水準)が認められた(表7)。このうち、原因、あるいは結果を問わず、いずれかのネガティブ反応を含む9ヵ所について詳しく見ていく。

表7 多母集団の同時分析:「いいね!」意図の高低による違い
「いいね!」意図・高(N=927) 「いいね!」意図・低(N=1,342) 差の検定量
非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値 非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値
快楽的→満足 0.284 0.036 0.317 0.313 0.026 0.341 0.642
情報探索的→満足 0.375 0.042 0.456 0.460 0.034 0.496 1.568
社会的→満足 0.041 0.016 0.088 0.025 0.014 0.038 −0.719
経済的→満足 0.095 0.028 0.133 0.109 0.025 0.118 0.360
社会的→相互作用 0.683 0.034 0.739 0.668 0.029 0.682 −0.319
快楽的→苛立ち 0.102 0.054 0.034 −0.322 0.027 −0.255 −7.041
快楽的→情報過負荷 −0.716 0.141 −0.279 −0.253 0.044 −0.248 3.140
情報探索的→情報過負荷 −0.206 0.157 −0.088 −0.226 0.057 −0.219 −0.116
社会的→情報過負荷 0.582 0.067 0.438 0.305 0.026 0.406 −3.863
経済的→情報過負荷 0.044 0.114 0.021 0.104 0.045 0.102 0.487
苛立ち→後悔 0.237 0.030 0.241 0.445 0.033 0.397 4.671
情報過負荷→後悔 0.234 0.044 0.204 0.244 0.042 0.176 0.175
プライバシー→後悔 0.524 0.034 0.513 0.351 0.030 0.324 −3.807
プライバシー→苛立ち 0.257 0.040 0.247 0.249 0.029 0.257 −0.166
情報過負荷→苛立ち 0.763 0.046 0.653 0.590 0.039 0.477 −2.856
情報過負荷→プライバシー 0.988 0.024 0.879 0.888 0.035 0.696 −2.354
満足→後悔 0.024 0.049 0.007 −0.122 0.028 −0.079 −2.583
満足→信頼 0.643 0.038 0.725 0.688 0.028 0.698 0.957
満足→相互作用 0.125 0.063 0.063 0.127 0.037 0.088 0.028
後悔→信頼※ 0.019 0.016 0.072 −0.049 0.020 −0.076 −2.634
後悔→推奨※ 0.011 0.010 0.024 0.000 0.016 0.000 −0.579
プライバシー→信頼 −0.044 0.017 −0.158 −0.071 0.022 −0.102 −0.980
相互作用→コミットメント 0.636 0.027 0.725 0.706 0.025 0.740 1.911
相互作用→推奨 0.160 0.032 0.209 0.243 0.028 0.267 1.939
信頼→コミットメント 0.451 0.051 0.229 0.141 0.030 0.100 −5.295
信頼→推奨 0.479 0.048 0.278 0.220 0.027 0.165 −4.724
コミットメント→推奨 0.437 0.040 0.499 0.514 0.030 0.541 1.541

(出所)筆者作成。

便益や満足によるネガティブ反応の抑制・促進効果の詳細は以下の通りである。

① 快楽的便益→苛立ちにおいて、「いいね!」意図・高の場合、快楽的便益は苛立つにプラスに働く(0.102、10%水準)、つまり苛立ちを促進している傾向がある。一方、意図・低では、快楽的便益はマイナスに働き(−0.322)、抑制効果がある。

② 快楽的便益→情報過負荷の場合、①とは異なり、「いいね!」意図・高(−0.716)のほうが意図・低(−0.253)より快楽的便益による情報過負荷に対する抑制効果が効いている。意図・高の場合、楽しければ、文字量や写真の多さ、投稿頻度の高さはより気にならないと解釈できる。

③ 社会的便益→情報過負荷では、「いいね!」意図・高(0.582)のほうが、意図・低(0.305)より情報過負荷への影響が強い。意図・高の場合、社会的便益を認めるほど、すなわち、ネットワークづくり、関係強化を求めているからこそ、文字数や写真の多さが気になるといえる。

④ 満足→後悔では、「いいね!」意図・低は、意図・高よりもパス係数が有意に小さく、満足していれば後悔を抑制する効果がある(−0.122)。意図・高はプラス(0.024)であるが、有意ではなく、満足は後悔に影響するとはいえない。

ネガティブ反応間では、次のパスで有意差が認められた。

⑤ 苛立ち→後悔では、「いいね!」意図・低のパス係数(0.455)は、意図・高(0.237)より有意に大きく、意図・低では苛立つほど後悔に強く影響する。

⑥ プライバシーへの懸念→後悔では⑤とは逆に、「いいね!」意図・高のパス係数(0.524)は、意図・低(0.351)より有意に大きく、意図・高の場合、プライバシーの問題が気になるほど、後悔への影響が大きい。

⑦ 情報過負荷→苛立ちでは、「いいね!」意図・高のパス係数(0.763)は、意図・低(0.590)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷が苛立ちを助長する。

⑧ 情報過負荷→プライバシーへの懸念では、⑦と同様に、「いいね!」意図・高のパス係数(0.988)が、意図・低(0.888)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷によってプライバシーへの懸念に対する影響が強くなる。

⑨ 後悔→信頼は、全体モデルでは有意にならなかったパスである。しかしながら、多母集団の同時分析では「いいね!」意図の高低で有意差が認められた。したがって、全体モデルでは効果が相殺されていると考えられる。意図・低の場合、後悔すると信頼への気持ちに悪影響がある(−0.049)。意図・高はプラス(0.019)であるが、有意ではない、すなわち、後悔は信頼に影響するとはいえない。「いいね!」を押そうと思う程度の好感を持っていれば、影響がなく、「いいね!」を押そうと思わない場合には、後悔の念が信頼を損なわせる方向に働くというのは興味深い結果である。

(3)  コメント意図の高低による差異

「いいね!」を押すよりもコメントを書くという行為のほうが当該Facebookページに対する関与が高く、コミットしているため、「いいね!」意図の場合よりも差異がさらに明確になると考えられる。そこで、コメント意図に関しても2群に分割し、分析を行った。その結果、制約なしモデルの適合度はGFI=0.810、AGFI=0.789、NFI=0.913、CFI=0.931、RMSEA=0.040、モデルは不適解ではなく、収束した。

13ヵ所で有意差が認められた(表8)。「いいね!」意図の場合と同様に、ネガティブ反応を含む8ヵ所のパスを中心に確認する。

表8 多母集団の同時分析:コメント意図の高低による違い
コメント意図・高(N=600) コメント意図・低(N=1,669) 差の検定量
非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値 非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値
快楽的→満足 0.298 0.047 0.371 0.314 0.022 0.352 0.299
情報探索的→満足 0.234 0.062 0.279 0.487 0.030 0.527 3.655
社会的→満足 0.092 0.035 0.149 0.016 0.012 0.022 −2.047
経済的→満足 0.125 0.036 0.171 0.086 0.021 0.093 −0.931
社会的→相互作用 0.381 0.051 0.457 0.653 0.026 0.659 4.724
快楽的→苛立ち 0.050 0.066 0.017 −0.326 0.023 −0.263 −5.339
快楽的→情報過負荷 −0.732 0.210 −0.294 −0.340 0.042 −0.326 1.831
情報探索的→情報過負荷 −0.397 0.285 −0.152 −0.251 0.055 −0.231 0.504
社会的→情報過負荷 0.672 0.166 0.351 0.275 0.025 0.335 −2.369
経済的→情報過負荷 0.106 0.164 0.047 0.083 0.042 0.077 −0.139
苛立ち→後悔 0.158 0.037 0.156 0.445 0.029 0.406 6.127
情報過負荷→後悔 0.218 0.060 0.186 0.203 0.035 0.156 −0.219
プライバシー→後悔 0.625 0.046 0.607 0.339 0.025 0.322 −5.458
プライバシー→苛立ち 0.192 0.054 0.189 0.244 0.025 0.254 0.874
情報過負荷→苛立ち 0.799 0.063 0.690 0.551 0.033 0.466 −3.496
情報過負荷→プライバシー 1.021 0.029 0.897 0.874 0.029 0.710 −3.593
満足→後悔 −0.022 0.068 −0.006 −0.141 0.025 −0.093 −1.634
満足→信頼 0.762 0.054 0.755 0.721 0.025 0.713 −0.685
満足→相互作用 0.363 0.080 0.268 0.173 0.032 0.122 −2.199
後悔→信頼※ 0.035 0.022 0.126 −0.067 0.018 −0.101 −3.653
後悔→推奨※ 0.008 0.009 0.023 −0.030 0.015 −0.033 −2.122
プライバシー→信頼 −0.055 0.022 −0.193 −0.067 0.018 −0.095 −0.404
相互作用→コミットメント 0.590 0.044 0.623 0.681 0.023 0.696 1.831
相互作用→推奨 0.217 0.048 0.221 0.223 0.026 0.231 0.113
信頼→コミットメント 0.387 0.049 0.305 0.247 0.026 0.180 −2.510
信頼→推奨 0.380 0.049 0.288 0.291 0.026 0.215 −1.600
コミットメント→推奨 0.509 0.059 0.490 0.525 0.028 0.532 0.256

(出所)筆者作成。

便益によるネガティブ効果の抑制・促進については2つのパスで有意差があった。

① 快楽的便益→苛立ちは、コメント意図・低の場合、意図・高よりも有意にパス係数が小さい。意図・低では快楽的便益は苛立ちにはマイナスに働き(−0.326)、抑制効果がある。高のパス係数(0.050)は有意ではない。

② 社会的便益→情報過負荷は、コメント意図・高(0.672)のほうが、意図・低(0.275)より情報過負荷への影響が強い。意図・高の場合、ネットワークづくり、関係強化ができると感じるほど、文字数や写真の多さが気になる、つまり、促進効果がある。

ネガティブ反応間に関しては、次の4つのパスで有意差が見出された。いずれも「いいね!」意図とパス係数の大きさは若干異なるが、同様の結果となった。

③ 苛立ち→後悔は、コメント意図・低のパス係数(0.445)は、意図・高(0.158)より有意に大きく、意図・低では苛立つほど後悔への影響が強くなる。

④ プライバシー→後悔は③とは逆に、コメント意図・高のパス係数(0.625)は、意図・低(0.339)より有意に大きく、意図・高の場合、プライバシーの問題が気になるほど、後悔に大きな影響を及ぼす。

③と④の結果より、コメント意図・低の場合、苛立ちという感情面から、一方、意図・高の場合、プライバシーへの懸念という理性的、あるいは認知的な側面から後悔に影響する。

⑤ 情報過負荷→苛立ちは、コメント意図・高のパス係数(0.799)は、意図・低(0.551)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷は苛立ちを助長する。

⑥ 情報過負荷→プライバシーへの懸念は、⑤同様、コメント意図・高のパス係数(1.021)は、意図・低(0.874)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷によるプライバシーへの懸念に対する影響が強い。

全体モデルでは有意にならなかったネガティブ反応による悪影響について、コメント意図の高低では2つのパスとも有意差が見出された。

⑦ 後悔→信頼は、コメント意図・低の場合、後悔すると信頼に悪影響を及ぼす(−0.067)。意図・高はプラス(0.035)であるが、有意ではなく、影響するとはいえない。これは、「いいね!」と同様の結果である。

⑧ 後悔→推奨は、「いいね!」意図では有意差がなかったが、コメント意図の高低では有意差が認められた。意図・低の場合、後悔によって推奨へ悪影響がある(−0.030、10%水準)。意図・高はプラス(0.008)であるが、有意ではない。

(4)  シェア意図の高低による差異

「いいね!」意図、コメント意図とシェア意図に影響する要因の差異を検討した竹内(2020)は、「いいね!」意図とコメント意図に影響を及ぼす要因には差異があり、また、シェア意図は「いいね!」意図とコメント意図の共通要因から影響を受けている、つまり、中間的指標であると主張している。本研究のポジティブ反応の質問項目は竹内(2020)と共通しているが、ネガティブ反応は新規に作成した質問内容である。そこで、シェア意図も2群に分割し、シェア意図が「いいね!」意図とコメント意図の中間的指標かどうかについてもあわせて検証した。分析の結果、制約なしモデルの適合度はGFI=0.825、AGFI=0.806、NFI=0.914、CFI=0.931、RMSEA=0.039、モデルは不適解ではなく、収束した。

分析の結果、13ヵ所で有意差が認められ、このうちネガティブ反応を含むパスは8ヵ所である(表9)。数としてはコメント意図の高低と同様であるが、同じパスに有意差があったわけではない。3項目で共通したパスは8ヵ所、「いいね!」意図と共通したパス2ヵ所、コメント意図と共通したパス2ヵ所という結果になった。

表9 多母集団の同時分析:シェア意図の高低による違い
シェア意図・高(N=626) シェア意図・低(N=1,583) 差の検定量
非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値 非標準化推定値 標準誤差 標準化推定値
快楽的→満足 0.296 0.046 0.338 0.322 0.024 0.354 0.500
情報探索的→満足 0.330 0.057 0.379 0.486 0.031 0.515 2.394
社会的→満足 0.077 0.027 0.139 0.012 0.012 0.017 −2.222
経済的→満足 0.081 0.041 0.111 0.102 0.021 0.109 0.439
社会的→相互作用 0.648 0.048 0.684 0.652 0.027 0.653 0.072
快楽的→苛立ち 0.047 0.068 0.015 −0.344 0.024 −0.272 −5.387
快楽的→情報過負荷 −0.737 0.187 −0.264 −0.328 0.044 −0.307 2.129
情報探索的→情報過負荷 −0.496 0.235 −0.178 −0.192 0.056 −0.174 1.256
社会的→情報過負荷 0.762 0.117 0.428 0.292 0.025 0.361 −3.925
経済的→情報過負荷 0.057 0.176 0.024 0.050 0.042 0.045 −0.038
苛立ち→後悔 0.162 0.035 0.162 0.467 0.030 0.423 6.618
情報過負荷→後悔 0.290 0.055 0.249 0.184 0.036 0.141 −1.605
プライバシー→後悔 0.558 0.042 0.540 0.353 0.026 0.336 −4.129
プライバシー→苛立ち 0.209 0.049 0.202 0.253 0.025 0.266 0.797
情報過負荷→苛立ち 0.803 0.057 0.690 0.545 0.034 0.459 −3.905
情報過負荷→プライバシー 1.010 0.026 0.897 0.882 0.031 0.707 −3.172
満足→後悔 −0.024 0.064 −0.007 −0.111 0.026 −0.072 −1.241
満足→信頼 0.734 0.047 0.748 0.693 0.026 0.698 −0.763
満足→相互作用 0.082 0.074 0.049 0.172 0.033 0.119 1.096
後悔→信頼※ 0.010 0.019 0.036 −0.058 0.019 −0.089 −2.512
後悔→推奨※ 0.010 0.010 0.026 −0.012 0.015 −0.014 −1.180
プライバシー→信頼 −0.033 0.020 −0.120 −0.072 0.019 −0.106 −1.399
相互作用→コミットメント 0.637 0.038 0.662 0.690 0.023 0.717 1.194
相互作用→推奨 0.117 0.036 0.147 0.222 0.026 0.239 2.326
信頼→コミットメント 0.407 0.056 0.244 0.219 0.027 0.157 −3.010
信頼→推奨 0.454 0.047 0.328 0.273 0.027 0.201 −3.357
コミットメント→推奨 0.442 0.043 0.531 0.514 0.029 0.532 1.393

(出所)筆者作成。

便益によるネガティブ効果の抑制・促進については3つのパスで有意差があった。

① 快楽的便益→苛立ちは、シェア意図・低の場合、意図・高よりも有意にパス係数が小さい。意図・低では快楽的便益が高いほど、苛立ちにはマイナスに働き(−0.344)、抑制効果がある。意図・高のパス係数(0.047)は有意ではない。

② 快楽的便益→情報過負荷は、①とは逆に、シェア意図・高(−0.737)では、意図・低(−0.328)よりも有意にパス係数が小さい。意図・高の場合、快楽的便益は情報過負荷にマイナスの影響を及ぼし、より抑制効果が働く。

③ 社会的便益→情報過負荷は、シェア意図・高(0.762)のほうが、意図・低(0.292)より情報量過負荷への影響が強い。意図・高の場合、ネットワークづくり、関係強化ができると感じているほど、文字数や写真の多さが気になるといえる。

ネガティブ反応間では、「いいね!」意図やコメント意図と同様に4つのパスで有意差が見出された。

④ 苛立ち→後悔では、シェア意図・低のパス係数(0.467)は、意図・高(0.162)より有意に大きく、意図・低では苛立ちは後悔に強く影響を及ぼす。

⑤ プライバシーへの懸念→後悔は④とは逆に、シェア意図・高のパス係数(0.558)は、意図・低(0.353)より有意に大きく、意図・高の場合、プライバシーの問題は後悔に強く影響する。

⑥ 情報過負荷→苛立ちでは、シェア意図・高のパス係数(0.803)は、意図・低(0.545)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷が苛立ちを助長する。

⑦ 情報過負荷→プライバシーへの懸念では、⑤同様、シェア意図・高のパス係数(1.010)は、意図・低(0.882)より有意に大きく、意図・高の場合、情報過負荷によってプライバシーへの懸念に対する影響が強くなる。

ネガティブ反応による悪影響については、後悔→推奨では「いいね!」意図と同様に有意差が見出せなかったが、後悔→信頼では他の2項目と同様の結果となった。

⑧ 後悔→信頼は、シェア意図・低の場合、後悔によって信頼に悪影響がある(−0.058)。

意図・高はプラス(0.010)であるが、有意ではない。

表10は、「いいね!」意図とコメント意図、シェア意図で有意差が認められたパスをまとめたものである。シェア意図は、「いいね!」意図とコメント意図の中間的指標であるという竹内(2020)の結果を踏まえて検証した結果、便益から満足への2つのパスではコメント意図と、また、快楽的便益→情報過負荷、信頼→推奨では「いいね!」意図と同様の傾向を示した。したがって、シェアは、より気軽に押せる「いいね!」とある種構えてしまうコメントを書くという行動との中間的な指標であることが再度確認された。前述の通り、竹内(2020)と本研究は異なる時点、異なる対象者から得たデータを用いて分析しているが、同様の結果が得られたという意味で意義深い。また、全体モデルでは有意ではなかった後悔→信頼は3項目とも、後悔→推奨はコメント意図の高低で有意差が見られたことを改めてここに明記しておく。

表10 「いいね!」、コメント、シェア意図で有意差が認められたパス
「いいね!」意図 コメント意図 シェア意図
情報探索的→満足
社会的→満足
社会的→相互作用
快楽的→苛立ち
快楽的→情報過負荷
社会的→情報過負荷
苛立ち→後悔
プライバシー→後悔
情報過負荷→苛立ち
情報過負荷→プライバシー
満足→後悔
満足→相互作用
後悔→信頼※
後悔→推奨※
相互作用→推奨
信頼→コミットメント
信頼→推奨

(注)有意差のあるパスのみ表示している。

(出所)筆者作成。

7.  まとめと今後の課題

Facebookページは、企業やブランドが主催し、多くの人が利用しているオンライン上のブランド・コミュニティである。ここに参加する人々は、自ら閲覧することを希望し、当該Facebookページに対して親しみを感じたり、役立つ情報を入手したり、意見交換の場所として楽しんだり、有効に活用している。しかしながら、情報量の多さやその内容に対して苛立ったり、プライバシーの問題が気になったり、必ずしも良い反応ばかりをしているとは限らない。今や企業のマーケティング・コミュニケーション手段として重要な位置を占めるようになったFacebookページのコミュニケーション活動を支援するためには、なぜネガティブ効果が発生するのか、その具体的な発生要因を解明すること、逆に、発生を抑制できるのであれば、その要因を明確にすること、また、ネガティブ効果が発生することによって、どのような悪影響が及ぼされるのかについても把握しておく必要がある。そこで、ネガティブ効果の発生要因およびリレーションシップへの影響に関する因果モデルを構築し、実証分析を行った。その結果、以下の知見が得られた。

・ネガティブ反応の抑制要因と促進要因

快楽的便益は、情報過負荷(−0.277)にも、苛立ち(−0.085)にもマイナスの影響を及ぼし、抑制効果が働く。同様に、情報探索的便益も情報過負荷を抑制する効果がある(−0.149)。一方、社会的便益と経済的便益の場合、情報過負荷にプラス、つまり、促進効果が働く。社会的便益による情報過負荷への影響は0.454と比較的大きな数値である。経済的便益は10%水準ではあるものの情報過負荷を促進する(0.075)。4つの便益のうち、快楽的便益と情報探索的便益はネガティブな反応を抑制し、社会的便益と経済的便益は促進する要因となっている。

・ネガティブ反応間の因果関係

情報過負荷によってネガティブ反応が発生し、苛立ち(0.601)やプライバシーへの懸念(0.819)に大きな影響を及ぼす。また、プライバシーの問題は苛立ちに正の影響がある(0.251)。この3つのネガティブ反応が、自身の選択に対する後悔を引き起こす。

・後悔と満足の関係

後悔は満足から負の影響(−0.044)を受ける。したがって、満足には後悔を抑制する効果がある。先行研究では、後悔による満足への影響があると指摘されており、この点についても検討したが、本研究では後悔→満足のパスは有意にはならず、先行研究とは異なる知見を得た。

・ネガティブ反応がもたらす影響

プライバシーへの懸念→信頼においてマイナスの影響(−0.092)が認められた。しかしながら、後悔→信頼、後悔→推奨への悪影響は有意ではなかった。この点を精査するために多母集団の同時分析を行った。その結果、男女の比較において、後悔→推奨は男女間で有意差があり、女性の場合、負の影響(非標準化推定値−0.028)があることが明らかになった。全体モデルで有意にならなかったのは、男女間で効果が相殺されているためであると示唆される。また、「いいね!」意図、コメント意図、シェア意図の高低による多母集団の同時分析も行った。その結果、後悔→信頼において、「いいね!」意図、コメント意図、シェア意図が低の場合、負の影響があること、また、後悔→推奨において、コメント意図のみではあるが、低の場合、負の影響があることが見出された。3つの意図とも低の場合、すなわち、Facebookページへのエンゲージメントが弱い場合、後悔による信頼や推奨への負の影響が強い。したがって、いかにエンゲージメントを強化するかが実務上の課題になるといえる。

・リレーションシップ変数間の関係など

社会的便益は相互作用に直接大きな影響(0.693)を与えており、ネットワークづくり、関係の強化という動機によって、意見交換や投稿への対応に積極的になることが示唆される。相互作用→コミットメント、信頼→コミットメント、相互作用→推奨、信頼→推奨、コミットメント→推奨は、竹内(2018)と同様の結果を得ており、頑健な結果と考える。

企業のマーケティング・コミュニケーション活動において、オウンドメディアに着目し、その効果測定を目的とした研究は、海外では多くの事例があるのに対して、日本国内では知見や成果の蓄積が不十分である。このような問題意識の下、2016年から4年にわたり、Facebookページを対象に、いかなるコンテンツに対して、どのような顧客がロイヤルティを高めるのか、また、どのようなコミュニケーションを行うことによって、顧客のコミットメントが高まり、長期的なリレーションシップが形成されるのかを検討した。具体的には、以下の4つの実証研究を行った。本研究は4番目のテーマについてまとめたものである。

① 消費者とブランドとのリレーションシップ形成モデルの構築とその実証分析

② ブランド間の異質性を取り込んだリレーションシップによるロイヤルティへの影響の検証

③ 消費者エンゲージメント行動(「いいね!」とコメント)の差異に関する実証分析

④ ネガティブ反応(情報過負荷や苛立ち等)によるリレーションシップへのネガティブ効果の検証

これら一連の研究により、一定の成果を収め、いくつかの知見を得ることができたが、残された課題もある。そこで最後に今後の課題について言及する。

本研究では、消費者が日ごろ閲覧している1つのFacebookページに限定して、データを収集している。しかしながら、実際の閲覧状況は、消費者一人ひとりによって異なるものの、複数のFacebookページに登録し、各社・各ブランドから情報が頻繁に送られてくる。その状況は、TV広告とまったく同じとまでは言わないが、まさに本研究で扱った情報過負荷の状況に陥っている。複数のFacebookページへのエントリーと情報受信、それによって発生する情報処理、その後の情報拡散がどのように行われているのか、そのダイナミックなメカニズムを解明する必要がある。

対象とするメディアの拡張も今後の検討課題である。Facebookページのみならず、Twitter、Instagram、LINE等のSNSを活用したマーケティング・コミュニケーション活動に関する研究は、日本ではそれほど活発には行われていない。それぞれ特徴や機能が異なるので、メディア間の比較を行い、コミュニケーション効果の差異を検証することが重要である。その際には、クロスメディアの観点から検討する必要があると考える。

付記

本研究は科学研究費補助金(課題番号16K03949)の助成を受けたものである。

1  竹内(2018)で定義された感情的態度、個人的ベネフィット、社会的ベネフィットは、それぞれ快楽的便益、情報探索的便益、社会的便益と内容的には同義である。

2  https://digital-dashboard.work/index.html(アクセス日2020年8月11日)。なお、このサイトは調査実施時には毎週データが更新・公開されていたが、2019年8月17日以降、更新されていない。

3  階層線形モデルによる分析においては、1グループ当たり5人以上という研究事例(竹内・竹内・外島, 2007)もあるが、本研究では竹内(2019)に依拠し、8名とした。

4  算出には清水裕士氏が提供するフリーの統計分析ソフトHADを用いている。詳細は清水(2016)を参照されたい。

5  モデルの比較検討は6つのモデル、すなわち、制約なしの配置不変モデル、制約あり(測定モデルのウェイト、構造モデルのウェイト、構造モデルの共分散、構造モデルの残差、測定モデルの残差)にて有意差検定を実施した。その結果、配置不変モデルと他の5つの制約ありモデル間で有意となった(1%水準)。そこで、配置不変モデルを用いて、パス係数の差の検定を行った。モデルの比較検討に関する詳細は、紙幅の関係で省略する。また、他の多母集団の同時分析でも同様の手続きにより、モデル間比較を実施している。

6  「いいね!」意図、コメント意図、シェア意図は7段階のリッカート尺度で測定し、トップ2ボックスを高、それ以外を低、高低2群に分割した。

参考文献
 
© 2021 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
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