Journal of Innovation Management
Online ISSN : 2433-6971
Print ISSN : 1349-2233
Articles
Factors for Realizing Sales to Overseas Companies in the Small and Medium-Sized Manufacturing Industry: Focusing on Transactions with Western Companies and Companies in Emerging Countries in the Textile Industry
Hideaki Tange
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 18 Pages 89-104

Details
要旨

本稿の目的は、中小製造業者が、海外企業への販路開拓を実現した要因を明らかにすることである。そのために、中小テキスタイル企業の分析を行う。

中小製造業の国際化が進むなか、中小製造業者は、海外において、日系だけでなく、欧米企業や新興国企業などの海外企業を販路開拓する必要に迫られている。だが、中小製造業による海外企業への販路開拓プロセスとその実現要因に焦点を当てた研究の蓄積は少ない。

そこで、本稿では、海外企業との取引を実現した中小テキスタイル企業3社の事例研究を行った。その結果、海外企業との取引実現要因として以下の3点が明らかになった。

第1に、企業家活動の変化である。経営者が率先して海外企業への販売先拡大に取り組むなど、企業家活動が国内から海外へと広がっている。

第2に、マーケティング戦略の変化である。①機能よりも顧客の感性に訴えることを重視した製品を投入、②顧客に対して、経営者らが直接、自社製品の良さを伝える、③現地に精通した人材を活用する、④欧米から中国への販売先国シフト、などがみられた。

第3に、生産・開発機能の変化である。事例企業は、製品競争力強化につながる生産体制を構築したり、企画機能を設置・強化したりしている。

海外企業と取引するためには、先行研究で示された企業家活動の変化だけでなく、マーケティング戦略や生産・開発機能の変化も重要といえる。

Abstract

The purpose of this paper is to clarify the factors that helped small and medium-sized manufacturers to develop sales channels to overseas companies. We conducted a case study of three small and medium-sized textile companies that realized sales to overseas companies.

As a result, the following three points were clarified as factors for realizing sales to overseas companies. The first is the change in entrepreneurial activity. The second is the change in marketing strategy. Third is the change in production and development functions.

In order to sell to overseas companies, it can be said that not only changes in entrepreneurial activities shown in previous research but also changes in marketing strategy, production, and development are important.

1.  問題意識

人口減少などによる国内市場の縮小が進むなか、日本の中小製造業者は、輸出や海外直接投資による国際化を進めている。一方で、国際化する中小企業の増加や、新興国企業の成長に伴い、近年は、海外においても、日系企業同士または新興国企業との間で、顧客獲得競争が激化している。そのため、海外から撤退する中小企業も多くみられる(丹下, 2016)。

そうしたなか、国際化に取り組む中小企業は、海外において、日系企業だけでなく、欧米系企業や新興国企業などの海外企業を販売先として開拓する必要に迫られている。海外企業と取引する過程において、中小企業は、商習慣の違いなど、日系企業との取引とは異なる多くの困難に直面する。海外企業を販路開拓する際に、中小企業が直面するさまざまな課題にどのように対応すればよいのか、明らかにすることが求められている。

こうした状況を反映して、近年、中小製造業者による海外企業への販売先拡大に焦点を当てた研究が進み始めている(山本・名取, 2014a弘中, 2019丹下, 2015など)。しかしながら、後述するように、その蓄積は少なく、さらなる研究が求められているのが現状である。

以上を踏まえて、本稿では、中小製造業者が、欧米企業や新興国企業といった海外企業との取引を実現できた要因を探索的に明らかにする1。そのために、中小テキスタイル企業による海外企業への販路開拓をとりあげ、事例研究をもとに分析を行う。

本稿でテキスタイル企業をとりあげる理由は、以下の3つである。

第1に、海外企業への販売先拡大プロセスを分析するうえで、テキスタイル企業が適切な対象と考えるためである。弘中(2019)が示すように、自動車部品や電機機械部品を生産する中小製造業者の場合、海外に進出した日系企業への販売を足掛かりとして実績を積み、その後、日系以外の海外企業に対して、販路開拓に取り組むプロセスが多くみられる。

一方、中小テキスタイル企業の場合、国内の主力販売先である日系アパレル企業のほとんどは、海外に進出していない。そのため、中小テキスタイル企業が海外市場を開拓しようとすると、他業種のような海外に進出した日系企業を足掛かりとした販路開拓プロセスが通用しない。必然的に欧米アパレル企業など、日系以外の企業を当初から販売ターゲットとせざるをえない。

海外に進出した日系企業を足掛かりとした販路開拓プロセスが通用しないテキスタイル企業を分析対象とすることは、海外企業への販路拡大プロセスを純粋に分析するうえで、有意義と考える。本研究によって、テキスタイル産業のような、国内での主力販売先(日系アパレル企業)の海外進出が進んでいない産業において、どのような海外市場開拓戦略が有効なのか、示唆をえることができると考える。

第2に、テキスタイル企業による海外企業への販売先拡大を分析することが、今後、国内他産業の参考になる可能性があるためである。後述するように、日本のテキスタイル企業は、国内生産の減少に直面しており、新たな投資や資金調達を行ったり、人材を確保したりする余地が限られている。今後、多くの中小企業が国内需要の減少に直面することが想定されるなか、他産業に比べて、より早くさまざまな制約に直面するテキスタイル企業を分析することは、他産業にとっても、大きな示唆となりうる。

第3に、テキスタイル企業による海外企業への販売先拡大プロセスを分析することは、先行研究の検証や拡張につながる。先行研究では、自動車部品や電気機械、金属製品などを製造する中小企業が主な分析対象となっており、テキスタイル産業を対象としている研究は少ない。海外企業への販売先拡大プロセスは、業種により異なることも想定される。本稿では、テキスタイル産業に焦点を当てることで、先行研究で提示された仮説の検証と拡張を探索的に目指すことを目的とする。

本稿の構成は、以下の通りである。2.では、先行研究のレビューを行う。3.では海外企業との取引を実現した中小テキスタイル企業の事例研究を行う。4.では、事例研究を踏まえて、中小企業が海外企業への販売先拡大を実現するためには、どのような要因が重要なのかを明らかにする。5.では、結論と今後の課題を指摘する。

なお、本稿においては、織物およびニット2をまとめて「テキスタイル」と称する。

2.  先行研究

2.1  テキスタイル産業の現状

日本国内におけるテキスタイルの生産をみると、減少傾向にある。日本繊維科学協会(2019)によると、織物の生産量は、2006年の約23億平方メートルから、17年には約14億平方メートルへと約39%減少している3。ニット生地についても、07年の84,701トンから、17年には54,863トンへと約35%減少している。

国内におけるテキスタイルの生産は、さらに長期的にみても減少傾向にある。加藤(2018)は、「織物に代表される『生地生産』は、1985年のプラザ合意を境にした欧米生地輸出の決定的な落ち込み、さらには90年代中頃から海外製生地調達に転じていく国内向け衣料品の海外生産の進展などを背景に縮小基調から脱せずにいる。今日では、一定の生産量を維持している国内生地産地は数えるほど」になっていると指摘する。

一方で、テキスタイルの輸出は、増減を繰り返しながらも、安定的に推移している。テキスタイル輸出額をみると、13年の6,842百万ドルから、15年に6,164百万ドルにまで減少したものの、17年は6,522百万ドルにまで増加している(日本繊維科学協会, 2019)。

こうした背景として、日本製テキスタイルに注目が集まっていることが指摘できる。実際、日本製テキスタイルは近年、海外で様々な賞を受賞するなど、海外でも注目されつつある(首藤, 2015)。こうした点からも、テキスタイル産業における海外企業への販売先拡大を分析することは、重要と考える。

2.2  中小テキスタイル企業による海外企業への販売先拡大

中小テキスタイル企業による海外企業への販売先拡大に関する近年の研究は少なく、大田による一連の研究がある程度である。

大田(2012)は、先発工業国の中小企業が後発工業国製品に対する差別化を実現するためには、ネットワークと制度的条件の主体的な変革が有効と主張する。トレンド発信志向とトレンド適応志向という二つのネットワークの存在を指摘したうえで、欧米のようなトレンド発信志向のネットワークに対しては、「トレンド発信志向の企画・開発やプロモーションを効果的に行うには、それに相応しい制度的条件を基盤とするネットワークを形成しなければならない」とする。そして、「欧米の展示会組織による出展資格の拡張や、国際マーケティングに意欲的な中小企業への支援強化が、欧米の高級ブランドへのマーケティングにともなう中小繊維企業の負担を軽減した。そして欧米の高級ブランドや展示会組織から高い評価を受け、収益面でも良好な成果をあげる中小繊維企業が徐々に増えている」と述べており、国際展示会の出展資格の拡張や支援強化が海外アパレルとの取引成功要因であることを指摘している。

大田(2018)では、展示会への出展に着目し、日本中小繊維企業の国際化過程における出展行動と学習を明らかにしている。

大田(2019)は、中小企業は、さまざまな展示会のなかから自社の課題解決に必要なものを選択し、そこで効果的な活動を行う必要があることを指摘している。

2.3  中小製造業による海外企業への販売先拡大

では、テキスタイル企業に限らず、中小製造業全体の海外企業への販売先拡大プロセスとその実現要因について、どのような議論がなされてきたのだろうか。

弘中(2019)は、日本の中小企業は、日本企業だけでなく、海外の優良企業を顧客として開拓する必要性を指摘する。

山本・名取(2014a)では、主に経営者の企業家活動に着目し、中小製造業がどのように国際化を実現したのか、そのプロセスを分析している。国際化を果たした中小製造業の経営者は、「過去の意思決定の経験」「ネットワーク」「組織構築」によって高めた企業家志向性(EO:Entrepreneurial Orientation)を「国際的企業家志向性(IEO:International Entrepreneurial Orientation)」に転化することで、国際化を実現していることを明らかにしている。そして、転化の要因として外部環境の変化を指摘する。これは、国際化プロセスにおける経営者の行動を説明した点に貢献がある。

山本・名取(2014b)では、「市場志向性」と「輸出市場志向性」、「学習志向性」の概念を活用することで、経営者の企業家活動=企業家要因の観点から、山本・名取(2014a)で提示された分析視点を拡張している。

3.  事例研究

3.1  分析枠組みと事例研究の概要

以上、先行研究のレビューを行った。2.2でみた中小テキスタイル企業による海外企業への販売先拡大への取り組みに関する先行研究では、国際展示会への出展に着目した大田による一連の研究が参考になる。2.3でみた経営者の企業家活動に着目した山本・名取の研究は、本稿の分析枠組みを構築するうえで、参考となる。

一方で、先行研究では、企業の戦略や、開発、生産といった機能が、海外企業への販売先拡大にどのように作用したのかについては十分には分析していない。中小テキスタイル企業がなぜ海外企業への販売先拡大を実現できたのか、その要因を明らかにするためには、経営者の企業家活動だけでなく、企業の戦略や機能についても分析する必要があるだろう。

丹下(2015)は、中小自動車部品メーカーを対象として、中国自動車メーカーに対する販路開拓戦略を分析している。その結果、海外企業のもつ経営資源を活用することや、高い製品品質を維持することが重要であることを明らかにしている。こうした主張は、自動車部品産業を対象にしたものであり、テキスタイル産業ではどうかについては、明らかにされていない。

以上を踏まえて、本稿では、中小テキスタイル企業による海外企業との取引実現プロセスについて、分析を行う。特に、先行研究で示された経営者の企業家活動だけでなく、企業の戦略や機能(開発、生産など)にも着目する。

本稿では、海外企業との取引を実現した中小テキスタイル企業3社の事例研究を行う。事例研究については、事例企業へのインタビュー調査を実施するとともに、新聞記事などの2次データも活用し、研究を行った。

事例研究を選択した理由は、事例研究がサーベイよりも深く豊富な情報を提供するためである。また、海外企業開拓を実現した中小テキスタイル企業の事例は少なく、ユニークな事例であるため、サーベイよりも事例研究が適切な方法である(イン、ロバート K., 2014)と判断し、採用した。

表1 事例企業の概要
会社名 事業概要 資本金(万円) 従業員(名) 海外販売開始年 主な販売先国 海外販売比率
A社 織物(綿など) 3,600 150
(グループ計)
2005年 欧米
中国
20%
B社 織物(合繊) 2,000 59 1996年 欧米
中国
70%
C社 ニット生地 1,000 31 2001年 欧米 50%

(出所)筆者作成。

3.2  事例研究結果

A社4

A社は、1951年に設立された織物製造業者である。染色・加工を除くすべての工程を自社で手掛けられることや、多様な織機を有していること、衣服などのアパレル製品を製造販売する企業もグループ内に有することなどを強みとしている。

A社グループの海外販売比率は、約20%(欧米10%、中国10%)である。A社は、アメリカとフランス、中国、タイに海外拠点を有している。

設立以来、A社は、輸出を中心に事業を拡大してきた。しかしながら、1985年のプラザ合意による円高の進展を契機に、輸出が難しくなったため、輸出型企業から、国内アパレルへの販売を中心とした内需型企業に転換する。

その後、2000年代に入り、A社は再度、海外市場開拓を進めはじめる。先代経営者が中心となって、05年にパリの国際見本市「プルミエール・ヴィジョン」に出展した。その後も、現在まで継続的に出展してきたことで、欧米大手アパレル企業との取引を実現している。

A社は、中国向け販売にも積極的に取り組んでいる。08年に中国上海市に販売子会社を設立。同子会社では、日本製生地を評価してくれる中国地場アパレル企業に対して、生地を販売している。A社では、現在、中国企業向け売り上げが全体の10%になっている。

A社中国拠点のトップには、日本の大手商社に勤務経験のある中国人女性を登用した。同人が中国現地アパレルに営業を行うことで、販売先を拡大している。

中国以外の国に対しては、現在、商社経由で販売を行っている。ただし、商社に営業を任せきりにするのではなく、A社従業員が商社従業員に同行し、直接製品を売り込んでいる。

A社の主力製品は「S」である。生地はあたたかみがあり、豊かな風合いをもつ。このことが、当社生地の高い評価につながっている。

A社は、自社工場で生産を行っている。織機は約100台有しており、最新のエアジェット織機だけでなく、シャトル織機やレピア織機なども有する。さまざまな種類の織機を有することで、多様な生地を生産できる体制を構築している。

特に、シャトル織機は、約20台を有している。コンピューター制御により空気などを使って織る最新の織機と比べると、シャトル織機は極めて非効率な織機であるが、丁寧に織ることができる。このことが、当社生地の高い評価につながっている。

A社は、社内に生地およびアパレル製品の企画機能を持ち、強化に努めている。東京都に企画部門を設置しており、そこでは、6名の従業員が生地企画や製品企画、パタンナーとして勤務している。1990年には、オリジナルデザインでの生地開発を始め、99年からはオリジナル紡績糸の開発も始めている。市場分析や研究開発を行うことで、毎年新たなコレクションを提案している。

なお、A社では、2010年前後より、アパレル製品のOEM(受託生産)を開始しているものの、その販売先は日本国内がほとんどとなっている。

B社5

B社は、1948年に設立された織物製造業者である。超高密度の合繊織物製造に強みを有している。海外販売比率は、約70%(欧米40%、アジア30%)となっており、韓国と中国、イタリアに海外拠点を有している。

B社は、設立以降、ヨットセールクロスなどの資材織物製造を中心に事業を営んできた。この過程で、高密度織物の技術やノウハウを蓄積していく。当時、B社は、大手合繊メーカーが企画した生地を賃織りしていた。

B社は、93年から衣料向け織物に参入し、96年には、テキスタイル製品「D」を発売する。「D」は、超高密度のポリエステル織物である。加工による撥水性の高さに加え、型崩れしにくく、きめ細かな肌触りなどのファッション性が評価され、現在は、B社のフラッグシップブランドとなっている。

しかしながら、テキスタイル製品「D」は、当初、国内では全く評価されなかった。他社の合繊織物に比べて価格が高いことや、合繊を用いたアウターが、当時はなかったこともあり、B社が国内アパレルに売り込みに行っても「これは何に使うのか」という反応だったという。

そのころ、B社は、取引先から、「韓国やイタリアなら受け入れてくれるのでは」とのアドバイスを受ける。そこで、B社社長は、韓国などの海外企業への販路開拓にみずから取り組みはじめる。韓国では、以前、展示会で出会った韓国人を訪ね、代理店契約を結び、一緒に販路開拓に取り組む。その結果、98年ごろからは、商社経由で、韓国向けに輸出を開始する。2000年からは、欧米向けの輸出も開始する。欧米企業は、他にはない独自の素材を常に求めており、そうしたニーズにB社の生地が合致した。

これら海外企業との取引開拓は、経営者がみずから韓国や欧州に渡り、現地のアパレル企業などと直接交渉して、進めていった。実際、B社社長は、1年の半分近くは海外出張しているという。また、みずから海外企業に売り込むなかで、海外企業のニーズを把握し、手触りや肌触りなどの改良をすすめたことも、高く評価されている。

07年には、素材にナイロンを使用した高密度織物を新たに発売。同製品は、ヨーロッパの高級ダウンメーカーに採用され、現在まで取引を継続している。

B社は、01年頃より、中国企業への販売先拡大に取り組んでいる。中国向けには、経営者が直接、販路開拓に取り組んだほか、国際展示会である「インターテキスタイル上海」に年1回出展している。それらによって、現地での知名度を高めた結果、中国企業の開拓を実現している。

また、06年には、中国販売強化のため、B社に研修生として来ていた中国人が社長を務める現地企業と代理店契約を締結。10年には、B社は現地法人を中国上海市に設立している。現地法人には、日本本社の製品専門の販売員を1名配置し、中国企業に対して営業を行っている。現在、B社の中国を含むアジア向け売り上げは、全体の30%に達している。

B社は、10年から、中国でも衣料用生地の生産を開始している。中国の現地企業を協力工場として、生産を委託している。これは、低価格品を求める顧客へのニーズに対応したものである。協力工場では、当社と同じ織機を約280台導入し、生産開始前の05年ごろから、B社従業員が技術指導を行うことで、製品品質の確保に努めている。協力工場に対して出資は行っていない。協力工場の製品は、ブランド「E」として販売し、日本国内で生産する「D」とは異なるブランドで販売している。ブランド「E」は、B社経由で、欧米企業などに販売している。

B社は、現在、輸出の95%が直接輸出である。当初は商社経由で輸出していたが、商社経由ではB社のこだわりが伝わらないため、直接輸出に切り替えていった。現在、B社は、現地エージェントを活用した販路開拓に取り組む一方、韓国、中国、イタリアには、自社拠点を設置して、自社でも販路開拓に取り組んでいる。

B社は、最新鋭の織機であるウォータージェット織機を約100台保有している。世界中のメーカーから適した原糸を選定して組み合わせ、撚糸の有無や回数、組織、経緯の密度、張力やクリンプ率までも考慮し、テストにテストを重ねている。そして、自社にある最新鋭の織機を使いつつ、ゆっくりと織る。織機と織機の間を広くとり、織機を地下にしっかり埋める、固定することで、織機の揺れを少なくしている。これらの工夫の結果、高密度かつ柔らかな独自の風合いを実現しており、そのことが、海外企業から高い評価を得た。

B社は、社内に生地の企画機能を持ち、強化に努めている。また、生地企画だけでなく、アパレル製品の企画機能も新たに設置している。ただし、B社では、あくまでも生地をPRする一環として開始したものと位置付けており、アパレル製品の海外企業販売にはそれほど積極的ではない。

C社6

C社は、現会長が1972年に設立したニット生地製造業者である。高級感のある丸編みニット生地の製造に強みを有している。海外販売比率は、約50%となっている。海外拠点は有していない。

C社は、70年代後半から、会長が中心となって、プルミエール・ヴィジョンなど国際展示会の視察を行ってきた。そのなかで、日本の技術はいいものの、提案力やデザイン力は先進国企業に劣ることを痛感する。

そこで、C社は、89年にフランスの同業F社と業務提携契約を締結する。提携先の探索は、会長みずからが行った。F社との契約条件には、「F社がプルミエール・ヴィジョンに出展する際には、C社会長もブースに立つことを許可すること」「C社従業員をF社工場に1か月間派遣する」といった項目を入れることで、企画力の向上を目指した。これらの取り組みよって、C社は、企画力や提案力を獲得していく。

C社は、2001年ごろから、本格的に海外市場開拓への取り組みを開始する。パリやニューヨークでの国際展示会に出展を重ね、04年からは、プルミエール・ヴィジョンへの出展を開始する。同展示会では、02年に日本企業の出展が可能となったばかりであり、C社は早くから同展示会に出展している。

展示会出展は、赤字が続くなど、当初はうまくいかなかった、しかしながら、継続的に出店することで、徐々に認知度があがっていく。そして、欧米の高級ブランドとの取引を実現していく。17年には、表と裏に異なる素材を使ったニット生地が、プルミエール・ヴィジョン「PVアワード」のグランプリを受賞。日本企業としては、2社目の快挙である。

C社の主力製品は、ニット生地「L」であり、それが海外売上の多くを占めている。インドの超長綿スビン綿を使ったオリジナル素材であり、カシミヤのようなタッチのインド綿に別の綿をブレンドして特殊な紡績方法で仕上げている。また、編みのスピードをゆっくりしたり、染色と仕上げにこだわったりすることで、高級感ある風合いと柔らかな着心地を実現している。そうした点が好評で、長年たくさんの顧客がリピートしている。

C社は、自社で工場は持たず、グループ企業や、地元の協力企業に生産を委託している。特に、グループ企業は、C社会長の弟が社長を務めていることから、協力関係が強く、短納期対応も可能となっている。

C社は、グループ会社にある100年以上前の機械など、古い織機を使ってゆっくり織ることで、他社にはできないニット生地を生産している。糸をピンと張った状態で織る最新鋭の高速織機と違い、ふんわりとした手触りに生地を仕上げている。「世界全体が効率化にまい進するなか、当社がこれについていったら大変なことになる」とC社会長は話す。

C社は、生地やアパレル製品の企画機能を有している。企画チームは4名おり、年間500~600点ほどのテキスタイルを開発している。C社のデザイナーは、16年には、プルミエール・ヴィジョンで、「最も影響力のある6人のテキスタイルデザイナー」の1人に選出されている。

4.  考察

中小テキスタイル企業は、どのようにして海外企業への販売先拡大を実現できたのだろうか。本章では、そのメカニズム、実現要因について、事例を分析・解釈する。

4.1  経営者による企業家活動の変化

まず、各事例をみると、経営者が率先して海外企業への販売先拡大に取り組むなど、経営者による企業家活動が、国内中心から海外へと広がっていることがわかる。

A社では、先代経営者が中心となって、2005年にパリの国際展示会「プルミエール・ヴィジョン」に出展するなど、海外企業との取引実現に取り組んでいる。

B社は、1996年ごろから、経営者みずからが韓国や欧州に渡り、現地のアパレル企業などと直接交渉して、海外企業との取引を進めていった。

C社も現会長がみずから提携先の海外企業を開拓したり、「プルミエール・ヴィジョン」に出展したりするなど、海外企業との取引に取り組んでいる。

このように、事例企業では、経営者がみずから率先して海外企業との取引実現に取り組んでいることがわかる。これらは、山本・名取(2014a)が示した国際的企業家志向性(IEO)の発現プロセスと合致する。

4.2  マーケティング戦略の変化

事例企業について、海外企業に対するマーケティング戦略をみると、以下の3点が変化として指摘できる。

(1)  感性を重視した製品を投入

第1に、製品について、「強度」「難燃性」といった機能よりも、「きめ細かい肌触り」「高級感」といった顧客の感性に訴えることを重視した製品を開発・投入している。このことが、海外企業との取引実現に寄与している。

A社の主力製品は「S」である。生地にはあたたかみがあり、豊かな風合いをもつ。1990年には、オリジナルデザインでの生地開発を始め、99年からはオリジナル紡績糸の開発も始めるなど、感性に訴えるような新製品を常に投入している。

B社では、96年に、テキスタイル製品「D」を発売している。「D」は、超高密度のポリエステル織物である。加工による撥水性の高さに加え、型崩れしにくく、きめ細かな肌触りなどのファッション性が評価されている。経営者がみずから海外企業に売り込むなかで、海外企業のニーズを把握し、手触りや肌触りなどの改良をすすめたことが、こうした評価につながっている。

C社の主力製品は、ニット生地「L」であり、それが海外売上の多くを占めている。インドの超長綿スビン綿を使ったオリジナル素材であり、カシミヤのようなタッチのインド綿に別の綿をブレンドして特殊な紡績方法で仕上げている。また、編みのスピードをゆっくりしたり、染色と仕上げにこだわったりすることで、高級感ある風合いと柔らかな着心地を実現している。そうした点が好評で、長年たくさんの顧客がリピートしている。

こうした背景として、欧米企業が独自の生地を求めていることが指摘できる。一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構JFWテキスタイル事務局(2015)では、欧米企業が日本製素材に求めるニーズとして、「加工によるクリエイティビティとイノベーション力」、「特殊技術によるクラフトマンシップ」、「日本ならではの風合い、色彩、柄」などを指摘している。こうした欧米企業のニーズに対して、対応したことが、事例企業による欧米企業との取引につながっている。

このように、事例企業は、生地の機能ではなく、顧客の感性に訴えることを重視した製品を開発・投入している。こうした製品力の高さが、独自生地へのニーズが強い海外企業から評価され、取引につながっている。

なお、このような顧客の感性に訴えるような製品を生産するうえでは、生地企画機能の設置と、生産体制の構築が重要な役割を果たしている。この点については、4.3で後述する。

(2)  経営者らがみずから自社製品の良さを伝える

第2に、プロモーションについて、経営者などが顧客に対して、直接、自社製品の良さを伝えている。特に、国際展示会への継続的な出展が、海外企業との取引実現につながっている企業が多い。

A社は、先代経営者が中心となって、2005年にパリの国際見本市「プルミエール・ヴィジョン」に出展している。その後も、現在まで継続的に出展してきたことで、欧米大手アパレル企業との取引を実現している。

C社は、2001年ごろから、本格的に海外市場開拓への取り組みを開始する。パリやニューヨークでの国際展示会に出展を重ね、04年からは、プルミエール・ヴィジョンへの出展を開始する。展示会出展は、赤字が続くなど、当初はうまくいかなかった、しかしながら、継続的に出店することで、徐々に認知度があがっていく。そして、欧米の高級ブランドとの取引を実現していった。

このように、A社、C社は、国際展示会という場を通じて、経営者が顧客に対して、直接、自社製品の良さを伝えてきたことが、海外企業との取引実現につながっている。

ここで重要なのは、「継続的な」出展である。C社が示すように、展示会出展は、赤字が続くなど、当初はうまくいかなかった、しかしながら、継続的に出店することで、徐々に認知度があがり、C社はプルミエール・ヴィョンで賞を受賞するまでになっている。中小テキスタイル企業による海外企業開拓には、国際展示会への出展、特に継続的な出展が有効といえる7

一方、B社の取り組みは、A社、C社とは異なる。中国向けには、「インターテキスタイル上海」に出展することで、中国企業の開拓を実現しているものの、当初の海外販売先の開拓では、社長が直接、顧客候補を訪問し、開拓に取り組んでいる。B社経営者は、1996年ごろから、韓国などの海外企業への販路開拓に取り組みはじめる。また、2000年からは、欧米企業を直接訪問し、販路拡大に取り組んでいる。

以上、3社の事例を踏まえると、国際展示会への継続的な出展は、大田(2012)が指摘したように、海外企業の販路開拓において、有効と考える。しかしながら、より重要なのは、国際展示会への出展あるいは顧客企業への訪問といった手段にかかわらず、経営者が直接、自社製品の良さを伝えることであると考える。経営者が直接、自社製品の良さを伝えることができる点こそ、大企業とは異なる、中小企業ならではの特徴といえるだろう。

(3)  現地に精通した人材を活用

第3に、販売チャネルについて、現地に精通した人材を活用している。

A社では、中国上海拠点のトップには、中国人女性を登用し、同人が中国現地アパレルに営業を行っている。

B社は、現地エージェントを活用した販路開拓に取り組む一方、韓国、中国、イタリアには、自社拠点を設置して、自社でも販路開拓に取り組んでいる。

C社は、海外販売については、現地エージェントを活用している。

これらの事例からは、現地に精通した人材の活用が海外企業との取引実現に貢献しているといえる。

なお、事例企業3社の取り組みをみると、①当初は経営者が率先し、その後、現地に精通した人材の活用へ徐々にシフト(A社、C社)、②経営者が現地に精通した人材とともに海外企業を販路開拓(B社)といったパターンがみられる。いずれのパターンにおいても、当初は、経営者が海外企業の販路開拓に強く関与している点は、共通している。

(4)  販売先国のシフト

事例企業をみると、国際化から年数がたつにつれて、販売先国を欧米から中国へと拡大しているケースが3社中2社でみられた。

事例企業3社のうち、A社とB社は、中国向け販売にも積極的に取り組んでいる。A社は、現在、中国企業向け売り上げが全体の10%になっている。B社も中国で開催される国際展示会に積極出展しており、中国を含むアジア向けが売り上げ全体の30%に達している。中小テキスタイル企業による海外企業開拓は、欧米から中国へと広がりを見せ始めている。

一方、C社は、現時点では中国企業との取引開拓は行っていないが、将来的には検討している状況にある。

4.3  生産・開発機能の変化

事例企業における機能の変化をみると、以下の2点が指摘できる。

(1)  製品競争力強化に向けた生産体制の構築

第1に、製品競争力強化に向けた生産体制の構築である。

A社は、最新のエアジェット織機などを導入する一方で、旧型のシャトル織機やレピア織機なども残すことで、多様な生地を生産できる体制を構築している。特に、シャトル織機は、最新の織機と比べると生産効率は劣るものの、丁寧に織ることができるため、あたたかみがあり、豊かな風合いをもつ生地を織ることができる。こうした生地が海外で高い評価を得ている。

C社は、グループ会社にある100年以上前の機械など、古い織機を使ってゆっくり織ることで、他社にはできないニット生地を生産している。糸をピンと張った状態で織る最新鋭の高速織機と違い、ふんわりとした手触りに生地を仕上げている。

A社やC社の取り組みは、国内生産が減少するなか、新たな投資が難しいテキスタイル企業にとって、参考となる取り組みといえる。

一方、B社は、A社やC社とは異なり、最新鋭の織機を使っている。ウォータージェット織機を約100台保有している。世界中のメーカーから適した原糸を選定して組み合わせ、撚糸の有無や回数、組織、経緯の密度、張力やクリンプ率までも考慮し、テストにテストを重ねている。そして、自社にある最新鋭の織機を使いつつ、ゆっくりと織る。織機と織機の間を広くとり、織機を地下にしっかり埋める、固定することで、織機の揺れを少なくしている。これらの工夫の結果、高密度かつ柔らかな独自の風合いを実現しており、そのことが、海外企業から高い評価を得た

事例企業3社の生産体制をみると、用いる織機に違いはあるものの、いずれも生産効率を重視するのではなく、「ゆっくり織る」ことで、顧客の感性に訴えるような製品を生産している点が共通している。

こうした背景として、中国などの、海外テキスタイル企業との差別化を図らざるをえないことが指摘できる。中国を中心に、海外のテキスタイル企業は、日本のテキスタイル企業と比べて豊富な資金力を有している先が多い。そのため、最新鋭の織機を多数導入し、生産効率化を積極的に進めている。一方、国内生産が減少している日本のテキスタイル企業は、中国企業のように、最新鋭織機を多数導入し、コスト競争を進めることは困難である。中国企業には、製品の機能や生産性勝負では勝てないのが現状である。

海外のテキスタイル企業との製品差別化を図るうえでは、事例企業のような取り組みは、他社にとっても参考となるだろう。

なお、事例企業3社のうち、B社は、中国協力工場を活用して、低価格品を投入している点が興味深い。B社は、2010年から、中国の現地企業を協力工場として、現地生産を開始している。これは、低価格品を求める顧客へのニーズに対応したものである。協力工場の製品は、ブランド「E」として販売し、日本国内で生産する「D」とは異なるブランドで販売しており、「D」よりも安い価格で販売している。

こうした動きは、自動車部品産業でもみられる。丹下(2015)では、中国企業に対して、設計や仕様を変更し、先進国向けよりも品質を若干下げた製品を投入した動きを指摘している。こうした動きが、今後、他の企業でも進むのか、注視する必要があるだろう。

(2)  企画機能の設置・強化

第2に、企画機能の設置・強化である。A社、B社、C社とも社内に生地の企画機能を持ち、強化に努めている。

A社は、社内に生地およびアパレル製品の企画機能を持ち、強化に努めている。東京都に企画部門を設置しており、そこでは、6名の従業員が生地企画や製品企画、パタンナーとして勤務している。1990年には、オリジナルデザインでの生地開発を始め、99年からはオリジナル紡績糸の開発も始めている。市場分析や研究開発を行うことで、毎年新たなコレクションを提案している。

B社およびC社も、社内に生地よびアパレル製品の企画機能を持ち、強化に努めている。特に、C社は、生地やアパレル製品の企画機能を有している。企画チームは4名おり、年間500~600点ほどのテキスタイルを開発している。

日本国内での取引とは異なり、海外企業との取引を実現するためには、テキスタイルの企画機能の設置が必要である。日本国内取引では、商社など8が生地を企画し9、テキスタイル企業は、その企画したものを賃加工で製造するケースが多い。アパレル企業に対し、テキスタイル企業が直接、テキスタイル企画を提案するケースは少ない。こうした取引では、テキスタイル企業が生地企画機能をもつ必要はない。

一方、海外企業との取引では、海外アパレルのデザイナーやバイヤーとテキスタイル企業が直接やりとりすることが多い。そのため、テキスタイル企業には、生地を企画し、提案することが求められる。自社で生地企画機能を持たないテキスタイル企業も多いなか、海外企業を開拓するためには、顧客ニーズに柔軟に対応可能な生地企画機能をもつことが重要と考える。

一方、A社、B社、C社とも、生地企画だけでなく、アパレル製品の企画機能も新たに設置している。しかしながら、製品企画機能については、海外企業開拓の実現には、それほど寄与していない。例えば、B社では、あくまでも生地をPRする一環として開始したものと位置付けており、アパレル製品の海外企業開拓には消極的である。A社も2010年前後より製品OEMを開始しているものの、販売先は日本国内のアパレル企業がほとんどとなっている。

日本のアパレル企業は、テキスタイルの企画提案よりも、アパレル製品そのものの企画提案を求めている。日本アパレル企業は、厳しい経営環境に置かれる中で、アパレル製品の企画そのものを外部に委託する傾向にある。そのため、日本アパレル企業は、取引先に対して、アパレル製品そのものの提案・納品を求める。

一方で、海外企業は、アパレル製品を企画デザインするのは、自社であり、そのための素材をテキスタイル企業に求めている。製品企画機能の設置が、海外企業開拓の実現にそれほど寄与していないのは、そうした違いが反映されているものと考える。

これらを踏まえると、海外企業との取引を実現するうえでは、生地企画機能の設置・強化が重要と考える。

4.4  考察のまとめ

以上、事例企業3社による海外企業への販路開拓プロセスとその実現要因をみてきた。

本章で指摘した各要因の関係性をまとめると、図1のとおりである。海外企業との取引を実現した重要な要因の1つが「感性を重視した製品の投入」である。それを支えたのが「製品競争力強化に向けた生産体制の構築」と「企画機能の設置・強化」と考える。これらの点が、海外のテキスタイル企業との差別化につながり、独自のテキスタイルをもとめる欧米企業との取引実現につながっている。

図1 海外企業への販路開拓を実現した要因

(出所)筆者作成。

一方で、いくら製品がよくても、それを海外顧客に伝えていかなければ、製品の良さは伝わらない。そうした点からは、「経営者らがみずから自社製品の良さを伝える」ことも重要な要因である。それを支えたのが、「経営者による企業家活動の変化」であり、「現地に精通した人材を活用」であるといえるだろう。

5.  結論

本稿では、「中小テキスタイル企業は、どのようにして海外企業開拓を実現できたのか」について、事例研究によって分析を行った。その結果、中小テキスタイル企業は、①企業家活動、②マーケティング戦略、③生産・開発機能を変化させることで、海外企業との取引を実現していることが明らかとなった。

本稿の意義として、第1に、先行研究で指摘されていた企業家活動の変化や国際展示会への出展だけでなく、海外企業開拓プロセスにおけるマーケティング戦略全般や機能の変化も重要であることを示した点が指摘できる。

第2に、自動車部品や電気機械、金属製品などを製造する中小企業が主な分析対象であった中小製造業の海外市場開拓研究に対して、本稿では、テキスタイル産業の海外市場開拓プロセスを明らかにした点である。

一方で、課題も存在する。第1に、本稿の結論は、少数の事例研究から探索的に示されたものにすぎない。より多くの事例を蓄積し、定量分析による精緻化が必要である。

第2に、海外企業開拓における中小テキスタイル企業による多様な方向性を分析する必要がある。本稿では、アパレル向けのテキスタイル販売に焦点を当てて、分析を行ったが、テキスタイルの販売先は、産業用などの非アパレル向けも存在する。そうした点も視野に入れる必要がある。

第3に、海外企業との取引において直面するさまざまな課題への対応についても、分析する必要がある。一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構JFWテキスタイル事務局(2015)によると、日本テキスタイルについて、海外バイヤーは、「生地幅が小さい」「大量発注に対応できない」「発注後の生産リードタイムが異常に長い」といった点に課題を感じていることを指摘する。本稿では、こうした課題に対して、事例企業がどのように対応したかについてまでは、踏み込んで分析をおこなっていない。これらへの対応についても、明らかにすることが必要と考える。

以上の点について、今後も研究を進めていきたい。

1  本稿では、B to Bでの取引かつ中間財取引を強く意識している。そのため、B to Cの取引や、消費財取引については、分析の対象外である。なお、中小消費財メーカーの海外市場開拓戦略については、丹下(2012)丹下(2013)を参照。

2  織物とは、織機にかけ、縦糸と横糸とを組み合わせて平たく作った布地(小学館『デジタル大辞泉』)。ニットとは、編み物、編んだ服や布地(小学館『デジタル大辞泉』)。

3  ちなみに、1970年の織物生産量(約77億平方メートル)と比較すると、17年の織物生産量は約82%減と大幅な減少となっている。

4  A社代表取締役社長に対し、2018年11月30日にインタビュー調査を実施。

5  B社専務取締役に対し、2018年11月16日にインタビュー調査を実施。

6  C社取締役会長に対し、2018年10月4日、12月6日にインタビュー調査を実施。

7  国際展示会への継続的な出展と学習プロセスについては、大田(2018)が有益である。

8  業界内では、「繊維専門商社」「産元商社」「コンバーター」などと称される。

9  加藤・奥山(2020)は、商社などの生地事業について、「アパレルメーカーの企画デザインに基づく生地を供給(ときには、企画提案を含めて)することが生地事業の一つの柱」としている。

参考文献
  • 一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構JFWテキスタイル事務局(2015)『平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(日本製テキスタイルの巨大市場である欧州バイヤーニーズ調査)報告書』。
  • イン、ロバート K.(2014)『新装版ケース・スタディの方法第2版.』千倉書房。
  • 大田康博(2012)「日本中小繊維企業の国際マーケティング」『ネットワークの再編とイノベーション:新たなつながりが生むものづくりと地域の可能性』同友館。
  • 大田康博(2018)「日本中小繊維企業の国際化過程における学習:海外出展を通じた輸出を中心に」『商工金融 68(2)』pp.47–67。
  • 大田康博(2019)「繊維産業における「一時的な組織化」:展示会の時間的・空間的条件の分析」『日本政策金融公庫論集(43)』pp.59–80。
  • 加藤秀雄・奥山雅之(2020)『繊維・アパレルの構造変化と地域産業:海外生産と国内産地の行方』文眞堂。
  • 加藤秀雄(2018)「繊維・アパレル産業をめぐる生産・流通構造変化の特質と分析視角」『埼玉学園大学紀要.経済経営学部篇(18)』pp.57–70。
  • 首藤和彦(2015)「東レ株式会社・株式会社東レ経営研究所 共催 繊維産業シンポジウム講演抄録 東レのテキスタイル事業戦略」『繊維トレンド(112)』pp.4–12。
  • 丹下英明(2012)「新興国市場を開拓する中小企業のマーケティング戦略―中国アジア市場を開拓する消費財メーカーを中心に―」『中小企業のイノベーション 日本中小企業学会論集31』pp.133–144。
  • 丹下英明(2013)「消費財中小企業の海外市場開拓:欧州流通業者のニーズと中小企業のマーケティング戦略」『日本政策金融公庫論集第21号』pp.27–47。
  • 丹下英明(2015)「中小企業の新興国メーカー開拓戦略:中国自動車メーカーとの取引を実現した日系中小自動車部品メーカーの戦略と課題」『日本政策金融公庫論集(27)』pp.21–42。
  • 丹下英明(2016)『中小企業の国際経営:市場開拓と撤退にみる海外事業の変革』同友館。
  • 丹下英明(2018)「中小企業における海外拠点の存続要因」『経営情報研究:多摩大学研究紀要(22)』pp.67–82。
  • 日本化学繊維協会(2019)『繊維ハンドブック』繊維総合研究所。
  • 弘中史子(2019)「人手不足下での企業成長:中小製造業の海外生産を軸として」『商工金融 69(7)』pp.6–20。
  • 山本聡・名取隆(2014a)「国内中小製造業の国際化プロセスにおける国際的企業家志向性(IEO)の形成と役割:海外企業との取引を志向・実現した中小製造業を事例として」『日本政策金融公庫論集(23)』pp.61–81。
  • 山本聡・名取隆(2014b)「中小製造業の国際化プロセスと国際的企業家志向性、輸出市場志向性、学習志向性:探索的検討と仮説提示」『日本ベンチャー学会誌 24』pp.43–58。
  • 事例企業各社のホームページおよび新聞記事、インターネット記事。
 
© 2021 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
feedback
Top