日本臨床外科医学会雑誌
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結腸症候群の臨床的意義と外科的治療
杉沢 徹
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1970 年 31 巻 1 号 p. 19-56

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抄録

胃症状又は不定の腹部症状を訴えて外来を訪れた患者で,胃,十二指腸,膵,肝,胆道系に特別の疾患の発見出来ない場合に,更に詳細な問診を行なってみると,便通異常や腹部膨満感,もたれなど多彩な自覚症状を有しているものが多い。
著者はこのような患者に二重造影法によるバリウム注腸X線検査を行い,結腸各部位の異常所見と臨床症状との関係,治療方針などにつき検討し,更に外科的治療を行ったものについて術后合併症,遠隔成績を検討し,本症の外科臨症上の意義につき検討した。
不定の腹部症状や便通異常を訴える患者のなかには,結腸の間膜瘢痕又は走行,位置異常に病因を求め得るものがある。
本症の結腸所見が軽度で便通異常の改善により,場合によっては高圧浣腸により完全な排便を試みるだけで全く症状の消失するものから,左半結腸切除により根治するものまで種々の段階の症例があるが,いづれにしてもこれらは明かな器質的疾患と考えられるべきであり,その治療方針についてもある程度の方向が確立されたことは有意義なことと考える。
1) 不定の腹部症状や便通異常を訴える患者のなかに結腸の間膜瘢痕または走行,位置異常に病因を求め得るものがある。
2) 本症の臨床症状は便通異常,不定の腹痛,腹部膨満感,もたれ,食欲不振,腰痛,肩凝り,頭痛など極めて多彩,且つ頑固である。
3) 本症の診断には二重造影法によるバリウム注腸X線検査が簡便,且つ有意義であり,左結腸曲μ型屈曲および下行結腸異常屈曲が臨床症状と特に密接な関係を有する。
4) 腹部症状や便通異常を訴えるもので,結腸所見の軽度なものでは,精神身体医学的立場からの検討もあわせて行なう必要がある。
5) 163例に外科治療を行った結果,左半結腸切除端々斜吻合術が最も優れた手術術式といえる。
6) 全手術症例163例中,術后イレウスが21例12.9%の頻度にみられ, 10例6.7%が再手術を要した。イレウスの種類は空腸と結腸吻合部との癒着によるものが圧倒的に多い。
7) 結腸吻合部に大網膜被覆を行い,閉腹時生理食塩水にて腹腔内洗滌を行なうようにして以来,この種の術后合併症は減少した。
8) 結腸切除端々斜吻合術を行なった149例中アンケート調査をなし得た106例の遠隔成績は, 84.9%に術前症状の消失または改善がみられた。
9) 手術症例を検討した結果,手術適応決定規準は, X線検査にて左結腸曲μ型屈曲または下行結腸異常屈曲があり,便通異常を始め自覚症状が強く,且つ病悩期間の長いものとすることが妥当と考えられる。

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