抄録
慢性下肢動脈閉塞症に対する外科的治療法の決定にあたり,これの適確かつ簡便な臨床検査法を知るために,持続腰部硬膜外麻酔を行ない,趾尖反射式光電容積脈波の変動と血管造影の所見とを検討して得られた諸結果をあげると.
1. 慢性下肢動脈閉塞症の腰部硬膜外麻酔前後の脈波を連続的に観察し,本症を次の4群に分類する.
I群:麻酔前に脈波波形を認めるもの.
II群:麻酔後に脈波波形を認めるもの.
III群:麻酔の前後に波形を認めず麻酔後に脈波の基線の上昇を認めたもの.
IV群:終始波形および基線の変化を認めないもの.
2. 血管造影像の所見を群別に比較検討すると, I, IIではその閉塞部位は末梢性,限局性であり,副血行路の発達も良好であって,他の血管壁は平滑である. III, IVではその閉塞部位は膝窩動脈より中枢部であり,他にも血管の病的変化を認めるものが多い.
3. 局所血流量の変化と波高および基線の変動との関係を意味づけるため,大腿動脈の急性血行遮断およびその急性血行遮断解除に関する実験的研究を行ない,次の結果を得た.即ち,大腿動脈血流量波形と末梢容積脈波の変動を実験的研究により連続的に観察し,脈波の波高および基線の変動によっては,相対的血流量の変動を推測することができることを認める.
4. 大腿動脈血流量を群別に比較観察するに,腰部交感神経節切除の前後を通じて, Iが最多血流量を示し, IIがこれについで多量であり, IVが最少血流量を示した.
5. 腰部交感神経節切除術の臨床的効果を群別に比較観察すると, Iが最も良好で, IIがこれについで良く, IVでは効果がないばかりでなく有害となることがある.
6. 慢性下肢動脈閉塞症に対する腰部交感神経節切除術の適応について,術前に行なわれる腰部硬膜外麻酔時の容積脈波は極めて有力な参考資料となる.