日本臨床外科医学会雑誌
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小児腸重積症の単純X線所見
大矢 裕庸
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1972 年 33 巻 6 号 p. 555-564

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抄録

最近では小児腸重積症による死亡率は極く低いものであろう.適確な診断のもとにおいては非観血的に整復されたものでも,また手術的に解除された場合でも,一般に予後に不安はない.しかし死亡例は今日でも皆無ではない.また幸い救命し得たとしても重篤な経過を辿つた症例も散見している.
死亡例,重篤例はイレウス状態の増悪したものであるが,臨床経過をみると発症から来院までに時間を費したものと,仮性整復によるものとに2大別できるようである.発症から初診までの経過時間の長短は家族の観察力にたよる以外にないが,初診時の本症の診断は一般に容易である.初診時に腹痛,腫瘤触知,嘔吐,粘血便などについて本症の疑診を抱けば重大な誤りを招く事は先ずないと考えられる.問題はむしろ治療方法の選択にある.
非観血的に高圧注腸法によつて解除しうるものを確実に予測し得れば治療はさらに安全なものとなろう.若し選択を誤つて,高圧注腸法により解除し難いような症例に敢て注腸法を行えば, X線曝射線量の増大,壊死腸管の穿破など患児を危険にさらすことになる.
筆者はいかにして治療方法を適確に選択しうるか自験例について調査を重ねた結果,来院時の腹部単純X線像を一読するのみで,極めて容易に適応を決定しうることを知つたのでこれについて詳細を述べたいと思う.また重積解除後,短時間の単純撮影所見から仮性整復-重積遺残の有無も明瞭に確診し得たのでこれについても言及する.
治療方法の選択について 小児腸重積150自験例の来院時の腹部単純X線像を調査した結果,腸管内ガスの増減によつて症例を(1) 腸管ガス像欠除群(2) 減少群(3) 膨満腸像のない群(4) 膨満腸のある群(5) イレウス像をみる群の5群に分けて臨床経過を比較した.
これらの5群について発症-来院までの経過時間を精査すると,第1群, 8.3時間,第2群9.3時間,第3群15.6時間,第4群, 23.5時間,第5群43.5時間である.すなわち第1,第2,第3群は発症後早期例とみてよい.つぎにこの5群について高圧注腸法による整復率をみると,第1群, 88.9%,第2群89.7%,第3群86.7%,第4群57.1%,第5群16.0%であつた.すなわち第1,第2,第3群は,ともに高率に非観血的整復が成功していることになる.他方第4,第5群では整復率は低く,とくにイレウス像をみる第5群では僅か整復成功率は16.0%に過ぎない.
以上の結果から小児腸重積症では来院時の腹部単純X線像の腸管内ガス像の状態から非観血的療法の適応を明確に識別しうると思われる.すなわち第1,第2,第3群に属するものは早期例でかつ高圧注腸による整復率も高い.これに対し第4,第5群は発症後の経過も長く,とくに第5群の非観血的整復はまず困難とみてよい.またこれに従えば高圧注腸法の欠点とされてきた壊死腸管穿破, X線曝射量の過大などは容易に回避されうるであろう.
仮性整復について 仮性整復-重積遺残の看過も重篤な経過を辿らせる原因となり易い.重積腸管整復の診断は,回盲弁周辺の浮腫などによつて,ときには明確でないこともあろう.疑問が残れば慎重な吟味を必要とする.腸重積は腸管攣縮を前提とした疾病であるため腸管内容の移動は迅速である.これに注目して筆者は重積解除後約30分の腹部単純撮影像から得た腸管内容の移動状況を重積解除前のものと比較して確診を得ている.
重積腸管が整復されたものでは腸管内容の移動は短時間であつても著しく, X線所見には大きな差異が認められ,仮性整復は明らかに識別しうると考えられる.

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