日本臨床外科医学会雑誌
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横隔膜の外傷
とくに外傷性横隔膜ヘルニアの診断と治療について
益子 邦洋村上 昌安田 和弘小関 一英矢埜 正実黒川 顕山本 保博辺見 弘大塚 敏文
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1981 年 42 巻 6 号 p. 640-646

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抄録

横隔膜の外傷は比較的稀な外傷であるが,一度,外傷性横隔膜ヘルニアを来たすと,胸腔内へ脱出した腸管が横隔膜損傷部で絞扼されてイレウス症状を来たしたり,患側肺の虚脱や縦隔の偏位から重篤な呼吸循環系の障害を来たしたりすることがあるので危険である.更に鈍的外傷の場合には全身に種々の重篤な臓器損傷を合併することが多いために,横隔膜の外傷は時として見逃されてしまう場合もある.
われわれは男16例,女3例,計19例の横隔膜外傷を経験し,うち6例に外傷性横隔膜へルニアを認めたが,これらについて臨床的検討を加えた結果,診断と治療に関するいくつかの知見を得た.即ち,診断面では,横隔膜外傷の存在を疑うこと,胸部単純X線検査を経時的に行い,肋骨横隔膜角不鮮明・横隔膜挙上・縦隔偏位・胸腔内異常ガス像などの所見が得られたら造影検査などを積極的に行い,診断を確定すること,何らかの理由で開胸あるいは開腹を行う場合には横隔膜を末梢部まで良く精査し,損傷の有無を確かめること,などである.また,治療面では初期治療の主眼をショック対策に向けること,外傷性横隔膜ヘルニアの手術的アプローチを決定する際には腹腔内合併損傷があるかどうかを適確に把握することが極めて大切であること,そして腹腔内合併損傷が否定できれば,たとえ急性期であっても開胸法を選択すべきであること,また,開胸開腹を同時に行う場合の皮膚切開はなるべく別々にすべきであることなどを強調した.

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