日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
多発性神経鞘腫の1例
丹正 勝久佐藤 恵菅井 義久鈴木 時雄西村 五郎森田 建
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 43 巻 4 号 p. 456-461

詳細
抄録

神経鞘腫は末梢神経の腫瘍として身体各部に発生するが,その多くは単発性で,多発することは少ないものとされている.
今回,われわれは,約22年間にわたり,時期を異にして発育してきたと考えられる多発性神経鞘腫に対して15回の摘出手術を行い,計20個の腫瘤を摘出した興味ある1例について報告する.
症例は初診時年齢19歳の女性で,昭和31年5月,左側頚部に大豆大の腫瘤を認めたのをはじめとし,昭和41年には左側胸部,左上腕部,左内顆部,昭和42年には左手背部,脊髄硬膜腔内,昭和43年には右腋窩部,昭和45年には右側頚部,昭和49年には両鎖骨下,左腋窩部,左肩部および後縦隔に,昭和50年には後腹膜腔に,昭和52年には右上腕部,右前頚部および右前腕部に腫瘤を認め,それぞれに対し異時的に摘出術を行った.これらの腫瘤のうち,体表面より触知されるものはすべて患者によって気づかれており,そのほとんどのものに圧迫によりしびれ感に似た放散痛が認められた.脊髄硬膜腔内のものは右側腹部痛,,両下腿の知覚運動障害および排尿障害を認め,また縦隔のものは頚部圧迫感,後腹膜腔のものは腰痛をそれぞれ認め,いずれもレ線学的検査により確認された.摘出腫瘤は円形あるいは卵円形で,その大きさは小豆大から鵞卵大まで種々の大きさのものがみられた.肉眼的には灰白色ないしは青白色で,嚢胞を呈するものもみられ,神経あるいは神経幹より発生しており,病理組織学的にはいずれの腫瘤も良性神経鞘腫でAntoniA型, B型あるいは混合型を示した.
現在患者の一般状態は良好で,家事に専念しているが,新たな神経鞘腫の発生が十分考慮されるので経過を観察中である.

著者関連情報
© 日本臨床外科学会
前の記事
feedback
Top