日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
肝性脳症に対する治療
とくに特殊組成アミノ酸輸液の予防的投与の意義について
中山 真一広瀬 定吉諸富 郁夫兼松 隆之小林 迪夫
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 43 巻 5 号 p. 514-525

詳細
抄録

慢性肝疾患,とくに肝硬変症例の合併症である肝性脳症の発現は,肝硬変症の予後に重大な影響を及ぼすものであり,肝性脳症の発症を抑制し,さらに予防することが可能であるならば,その意義は極めて深いと思われる.今回,その治療法として, Fischer液に準じた特殊組成アミノ酸輸液を慢性肝疾患16例に対し短期投与し,その各種肝機能検査,ならびに血中アミノ酸値に及ぼす影響を検討した.さらに3例の肝性脳症併発例に対し,長期間投与し,その臨床的有効性を検討し,肝性脳症に対する血漿交換療法の結果とも対比して,以下の結論を得た.
1) 血中BCAA/AAA値は肝性昏睡の有無に拘らず, ICG停滞率と負の相関を示し,肝疾患の重篤性を反映するものと思われた.また対象例の中で昏睡の既往歴を右するものは, ICG停滞率40%以上例で, BCAA/AAA値1.0以下の例に認められた. 2) 3例の術後肝不全発症例に血漿交換療法を計5回施行し, 3回に意識レベルの改善を認めたが,救命にはいたらなかった.また血中BCAA/AAA値の増加は,意識レベルの改善が得られているにも拘らず,認められなかった. 3) 特殊組成アミノ酸輸液(GO-80)を500ml/day連日投与することで, BCAA/AAA値は投与期間中増加し,高値に保たれた.この傾向はICG停滞率40%以上のHigh risk例で明らかであった.したがって, BCAA/AAA値の改善を得るには,血漿交換療法よりも,適正なアミノ酸輸液の投与が,日常診療上単純であり,かつ有利であると思われた. 4) 3例の肝性昏睡例に対し, GO-80を投与し,意識の改善を認めた.さらに,これらの例に対して,長期間のGO-80の予防的投与を試みたところ,患者の全身状態,病態が,前回肝性脳症発症時と同程度と思われるにも拘らず,予防投与中は脳症の発現を認めず. GO-80の肝性脳症に対する予防効果は認められるものと思われた.

著者関連情報
© 日本臨床外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top