日本臨床外科医学会雑誌
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腹腔内遺残ガーゼ
浅江 正純夏見 和完三木 保史江川 博尾野 光市岡 統三家田 勝幸谷口 勝俊河野 暢之勝見 正治
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1983 年 44 巻 3 号 p. 304-310

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抄録

手術中に誤まって腹腔内に残された“異物”に関する文献は,国の内外を問わず比較的少なく,またそのような個人の失敗行為に関し,議論を避けようとする傾向がみられる.一方,そのような現状下において,今なお腹腔内に残されたガーゼの症例に遭遇するので,過去10年間の当教室での経験例を検討し,特に我々が使用した診断方法について述べた.
腹腔内遺残ガーゼ症例は7例で,主訴は腹部腫瘤触知が多かった.前回手術よりの期間は最短8日,最長8年で,原手術に関しては婦人科的手術が多かった.
遺残ガーゼは,腹腔内異物として最も多いものとされ,その運命は,急性期には腸管に付着し,腹膜炎症状を呈する事もあるが,ほとんどはasepticなため,慢性に経過し,仮性嚢胞を形成するものが多いようである.今回我々が経験したような腹腔内から腸管内へと穿入した症例は少ないようである.
診断方法としては,腹部単純X線撮影,単純断層撮影,注腸透視,血管造影,超音波接触走査法(以下US),腹部CTスキャンなどがあるが,その中でもUSは,患者に与える肉体的負担の軽さや使用の簡便性および診断能などを考えあわせると,最も有力な方法であると思われる.
いずれにしても,ガーゼの腹腔内遺残防止のため,国の内外を問わず色々な工夫がなされている.我々の教室では,腹腔内操作時にはなるべくガーゼを使わず吸引器を利用し,かつ閉腹直前には腹腔内洗浄を励行し,その際異物有無の確認をすることにしており,また,大ガーゼは必ずカウントをすることにしている.そのため,過去10年間ガーゼ遺残症例は皆無であったと確信するが,やはり手術にたずさわる者個人個人の注意が最も大切である.

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© 日本臨床外科学会
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