日本臨床外科医学会雑誌
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食道・胃・肺の三重複癌の1例
食道と肺の一期的切除・再建例
宗像 周二川西 孝和麓 耕平藤田 敏夫真保 俊唐木 芳昭藤巻 雅夫広野 達彦山田 雅之
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1985 年 46 巻 7 号 p. 960-965

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抄録

食道癌を含む他臓器の三重複癌症例は稀であり,かつ治療においては,外科的治療を一期的に行うか,二期的に行うかが問題となるところである.私達は胃癌術後で,食道と肺は同時性の三重複癌に対し,一期的手術を施行し,切除し得た症例を経験したので報告する.
症例は61歳男性で,昭和54年に胃癌の診断で胃亜全摘術を受けた.切除標本の組織像では高分化型管状腺癌であった.術後の経過観察中,右下肺野の孤立性陰影を認め,入院,精査の際,上部消化管透視で食道癌を発見した.昭和58年8月に,胸部食道切除術と右下葉肺切除術を一期的に施行した.食道再建は胸骨後経路で,回盲部上行結腸間置術を行った.切除標本の組織像で,食道は高分化型扁平上皮癌,肺は中分化型乳頭状腺癌であり, Warren & Gatesらの定義に従い,三重複癌と診断した.患者は昭和59年5月食道癌の肝転移で死亡した.
第23回食道疾患研究会の報告では,食道癌を含む多重複癌は同時性,異時性を加えて14例,他に私達が調べ得た本邦報告例は11例であった.異時性多重複癌の予後は良好な症例もあったが,同時性の症例は悲観的であった.治療において,重複癌が胃癌の場合,食道再建臓器には,空腸,回結腸が多く使用され,胃管は早期胃癌症例に限られていた.食道と肺の同時性重複癌の場合,一期的切除再建は手術侵襲が大きく,二期的手術が行われる傾向にあったが,手術手技の向上,術後管理の進歩等により,一期的切除再建が可能な症例もあると考えられた.

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