日本臨床外科医学会雑誌
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総胆管壁に生じた断端神経腫の1例
奈良井 省吾大塚 為和佐藤 康行栗林 和敏佐藤 利渡辺 茂鬼島 宏
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1985 年 46 巻 8 号 p. 1137-1142

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抄録

私共は胆石症手術後に総胆管壁に断端神経腫の生じた症例を経験したので報告する.
症例は53歳女性. 17年前に胆石症にて胆嚢摘出術,総胆管切開術, T-チューブ外瘻術,乳頭切開術を受けた.今回,腹痛を主訴として入院.生化学的検査で血清・尿中アミラーゼ値と血清エラスターゼ1値の上昇が見られ,急性膵炎と診断された.膵炎に対する保存的治療を行った後に内視鏡的膵胆管造影法を施行した.その結果,遺残胆嚢管と総胆管狭窄,そして,狭窄部位に上端を接する辺縁平滑な総胆管内に隆起した腫瘤の存在が明らかとなった.経皮経肝胆道造影法でも同様の所見が得られた.
開腹し,総胆管切開を行ったところ,腫瘤は正常の胆管粘膜で被われていたので胆管癌ではないと判断した.遺残胆嚢管と狭窄部位を含めて腫瘤を切除し,総胆管空腸吻合術を施行した.切除標本を見ると,遺残胆嚢管の長さは17mm, 狭窄部位の幅は2mm,そして,腫瘤は弾性やや硬で12×7×8mmの大きさであった.病理学的には腫瘤の総胆管内腔側の上皮はほとんど脱落していたが,一部に固有腺が見られ,腫瘤は粘膜下腫瘍の形態をなしていた.腫瘤の中心部では,多数の神経線維束が密に増生した結合織の中に埋もれるように存在していた.免疫組織学的には神経組織特異蛋白であるS-100蛋白ならびにNeuron-specific enolaseが腫瘤中に陽性であった.以上より,断端神経腫と診断した.また,狭窄は瘢痕によるものであった.いずれにも悪性所見はなかった.

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