1988 年 49 巻 3 号 p. 508-514
78歳男性で重症心疾患を合併した巨大腹部大動脈瘤症例を経験した.症例は5歳時に心疾患を指摘されていた.今回入院時心エコーにより心室中隔欠損症,大動脈弁狭窄症および閉鎖不全症.僧帽弁閉鎖不全症と診断された.本症例は腹部大動脈から両側腸骨動脈にかけて動脈瘤があり,特に左腸骨動脈瘤は径が約8cmで被裂の危険性が高く,左側尿管を圧迫し,左腎は水腎症を呈していた.手術時の大動脈遮断および遮断解除による心負荷を軽減する目的にてTemporary Axillo Femoral bypassを作成し,腹部大動脈瘤をY-graft人工血管にて置換した.術中血圧は大動脈遮断時に一過性に40mmHg上昇したが10分後には大動脈遮断前と同じ血圧に戻り,大動脈遮断解除時には血圧低下はみられなかった.術後心不全症状の出現なく心機能の改善がみられ,満足すべき結果を得たので若干の考察を加え報告する.