1989 年 50 巻 5 号 p. 967-972
小腸腫瘍の発生頻度は極めて低く,また原発性小腸癌もさらにまれにしか遭遇しない疾患である.今回,空腸癌2例と回腸癌1例の計3例を報告した.部位は空腸起始部,回腸末端部に各々認め,症状は腹痛,嘔吐などの狭窄症状を全例に認めた.これらの症状により内視鏡,あるいはイレウス管造影などが施行され,術前診断が可能であった.摘出標本にていずれも輪状狭窄性の潰瘍型癌で,高分化腺癌の病理所見であった.手術時に3例のうち2例は腹膜播種を認め術後1年6ヵ月,10ヵ月で死亡し,他の1例が3年6ヵ月の現在生存中である.このように小腸癌としての明らかな症状が出現した時点では,既に進行した症例が多いことが伺われた.従って,腹痛,嘔吐などの不定愁訴を認める症例に対して積極的に小腸造影,内視鏡を行うことにより早期発見をすることが,本疾患の予後を改善する唯一の方策かと思われる.