日本臨床外科医学会雑誌
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虫垂切除後に大腸穿孔ならびに肝膿瘍の破裂を併発したアメーバ赤痢の1例
山崎 具基坂本 和宏谷藤 公紀中山 茂樹田中 迪夫枡岡 勇雄
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1989 年 50 巻 8 号 p. 1592-1599

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抄録

われわれは当初急性虫垂炎と診断し,その術後に大腸穿孔,肝膿瘍破裂をきたしたアメーバ赤痢の1例を経験したので報告する.
症例は,30歳パキスタン人の男性で,主訴は下痢,右側腹部痛であった.微熱,白血球増加,血沈値の亢進を伴うが,その他の血液生化学検査にて著変を認めず,また腹部エコーでも異常を認めず,その間に回盲部痛が顕著となったため,急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を施行した.その後,順調に経過したが,術後7日目頃より夜間に悪寒戦慄を伴う高熱を認めるようになり,患者の既往歴よりマラリア症の疑診で治療するも軽快せず,むしろ,腹膜炎症状が増悪したので緊急に再開腹術を行なった.開腹すると上行結腸の穿孔に加えて肝膿瘍破裂があり,アメーバ赤痢を疑った.切除大腸粘膜および肝膿瘍壊死物質より栄養型のアメーバ虫体が発見された.その後,残された感染腸管の再穿孔,縫合不全を合併し,再々開腹を余儀なくされたが,Metronidazole早期投与により徐々に状態は回復に向い,幸いにして救命しえた.
本症のように,虫垂切除術後に大腸アメーバの再燃を促し,マラリア症との鑑別診断がつかぬまま短期間のうちに大腸穿孔を生じ,肝膿瘍破裂を併発するというように激変した症例は数少なく,アメーバ赤痢の激症転化を考察する上で興味深い.

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