1991 年 52 巻 12 号 p. 2925-2929
われわれは未治療のまま放置されていた気管原基迷入型先天性食道狭窄症の中年男性に,早期食道癌が合併した極めて稀な1手術例を経験したので報告する.
症例は56歳男性で幼少時より食後に頻繁に嘔吐を繰り返し,常に食道のつかえ感を自覚していた.今回,健康診断の内視鏡検査で下部食道の全周性狭窄と,口側食道の拡張,および拡張部に食道表在癌の存在を指摘された.食道癌根治手術が施行され,病理組織学所見では,高分化型扁平上皮癌で壁深達度はsmの早期食道癌であった.狭窄部には軟骨を含む大豆大の気管原基の迷入があり,このため食道筋層の構造が著しく乱れていた.また癌腫周囲の食道粘膜には慢性炎症を示唆する過形成変化が認められた.このことはアカラシアの場合と同様に,食物の停滞による慢性刺激が,食道癌の発癌に関与しているものと考えられた.なお,同様の報告は内外の文献に例がなかった.